"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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捜査

 

早朝:特異現象捜査部/1F

 

 

「……ったくよお、なんでこんな朝から……」

 

ネルは一つあくびをして、C&Cの車両から降りた。

それに続き、ビルの前に集まった十数台の車両から何十人という数のC&Cメンバーたちが降車する。

 

彼女たちは全員重装備かつ大掛かりな道具を持っており、一目でただ事ではない雰囲気を感じさせた。

 

「ねえリーダー、何時からだっけ?」

 

「あ?何時からとかじゃねえよ」

 

「……準備完了後、許可が下り次第即座に開始。だよ」

 

幾つかの機材を抱えたチヒロがネルの代わりに回答した。

 

「そっかー!じゃ、今から始めていい?」

 

「待てよ。まだシャーレの"許可"が下りてねえ」

 

今すぐに飛び出しそうな様子のアスナを制止し、ネルはスマホを取り出す。

慣れた手つきで何度か指を動かすと、ネルはスマホを耳に当てた。

 

「……よう、先生!いい朝だな……こっちはもう準備出来てるぜ」

 

「────おう、おう……了解……じゃ」

 

何度か返事をすると、ネルは勢いよくスマホをポケットに突っ込んで、"バシン!"と拳と平手を合わせた。

 

「うっし……許可下りたぜ、んじゃ行くかあ!!」

 

鬨の声にも似たネルの叫びに呼応し、整列していたC&Cメンバー達は続々と特異現象捜査部に雪崩れ込んでいった。

 

 


 

 

特異現象捜査部/サーバールーム

 

 

「ふあぁ……おはようございます……皆さん、随分大所帯ですね……」

 

いかにも寝起きといった様子のヒマリは、目を擦りながらC&Cのメイド達の"モーニングコール"に応対していた。

 

「一応、ここの場所は機密扱いなのですが……なるほど、シャーレの指示で……」

 

「はあ、仕方ありません……機材を壊さないように気を付けて下さるのなら、お好きに調べてくださって構いませんよ」

 

やれやれと言ったような声色で、ヒマリは車椅子に深く腰掛ける。

 

「……悪いけど、捜査が終わるまで別室に居てもらう事になってる……付いて来て」

 

「はいはい……」

 

カリンが先導し、ヒマリは別室に連れていかれた。

 

その様子を見ていたチヒロの隣に、騒がしい影が二つ。

 

「……んじゃ、コイツも連れて来たし……そっちは頼むぜ」

 

「うん、任せて」

 

「……う゛ぅ~~~……眠いぃぃぃ……」

 

パジャマ姿のままネルに引きずられてきたコユキが、チヒロの隣に放り出される。

 

「早朝だし、眠いのはわかるけど……こればっかりはしょうがないよ。ほら、頑張ろう?」

 

チヒロはコユキの被っていたパジャマのフードを上げ、管理端末のアクセスコード入力画面を見せた。

 

「……うぅ……反省室から出してくれるって言うから協力するんですからね!!」

 

渋々といった様子でコユキはスツールに座り、たかたかとキーボードを叩いて適当な文字列を打ち込んだ。

 

────すると、次の入力画面が出現する。

再び入力、更に入力。現れた認証用のパネルに手をかざす。

 

……そして端末はあっさりと管理者のログインを認めた。

 

あの明星ヒマリの作ったセキュリティが、正面から正々堂々と突破されるところを間近で見ていたチヒロは、コユキに聞こえないよう、小さくため息を吐く。

 

(……こんな事されたら、いっそのこと物理的な保護の方がセキュリティとして一番良いんじゃないか、って思えちゃうな……)

 

そんな事を考えながら眉間を抑えていると、コユキが誇らしげに"終わりましたよ!!"と声を上げた。

 

「早いね……うん、前回のログイン記録は5日前……これなら、記録が改竄されてる心配もない」

 

「じゃ……コユキ、ちょっとこっちに来てもらっていい?」

 

「えっ?何するんですか?」

 

「証拠の保存。"今日この日の調査で確認したよ"っていう証拠が必要だから……私とコユキ、この管理画面のログイン記録を同時に映す。これなら、この後に出てきたデータは確固たる証拠になるでしょ?」

 

「なるほど!じゃあここで立ってればいいんですね!」

 

「うん。ちょっと待っててね……」

 

C&Cより渡された端末のタイマーをオンにし、私とコユキが映るように画角を整える。

 

「じゃ、映すよ……3.2.1」 "カシャッ!!"

 

「……よし」

 

撮影されたデータを確認すると、細部までくっきりと映っていた。

 

「じゃ、後はこっちでデータを総ざらいして抽出するから……また必要になったら呼ぶよ」

 

「それまでは何しててもいいけど……私の目の届く範囲に居てね」

 

「じゃあ……出番まで寝てますっ!」

 

元気よくそう返事をしたコユキはソファに横になって、フードを深く被った。

 

(ま、変に動かれるよりは良いか……)

 

コユキの貸し出しに当たって、セミナーの書記に言われた言葉を思いだす。

 

"何があっても、コユキちゃんから目を離さないでくださいね?"

 

その言葉の意味も懸念も、間近でその力を見た今ならわかる。

黒崎コユキ、ある意味彼女はミレニアムで最も危険な存在と言っても過言ではない。

 

"神"という存在が居るのなら……超が付くほどのトラブルメーカーにこのように超常的な才能を持たせるあたり、相当に良い性格をしている。

 

……少なくとも、それが享楽主義者であることは間違いない。

 

(変な事しなきゃ可愛い後輩なんだけどなぁ……)

 

(……私にコユキの情報倫理教育をやらせてもらえないか、帰ったらユウカに聞いてみよう)

 

そんな事を考えながら、チヒロはデータの抽出作業を始めた。

 


 

特異現象捜査部/2F

 

 

"ドガァン‼︎"

天井が破られ、パラパラと音を立てて残骸の礫が落ちる。

 

「よっ、と……」

 

ネルは空いた穴の間に体を滑り込ませ、持ってきた機材とフラッシュライトで中階を照らす。

目に映るのは埃と骨組みばかりで、特に怪しいものは見当たらない。

 

エコーを利用した空間探査装置にも反応はなく、隠し部屋のようなものは存在しないようだ。

 

「……中3階、異常なしだ!次行くぞ!」

叫ぶようにして下に居る生徒に告げて、ネルは潜ってきた穴から飛び降りる。

 

「よッ、と……おし、次は4階だな」

 

ネルは瓦礫を片付けていたアスナにそう言って、機材を背負いなおした。

 

「は~い。いつも思うけど、部長ちっちゃいからこういう時便利で羨ましいな~」

 

「んなっ‼︎ケンカ売ってんのか!?」

 

「あはははっ!!ごめーん!!」

 

「まあまあ、落ち着いてください……」

 

アカネが仲裁に入り、ネルを諫める。

 

「次に行きますよ、やる事は沢山ありますから」

 

「……そうだな。行くぞ!」

 

そうして、C&Cの面々は次の現場へと向かった。

 

 


 

 

特異現象捜査部/1F

 

「────────」

 

"全知"と大きく書かれたアイマスクを被った明星ヒマリは、車椅子の背もたれを後ろに倒してすやすやと眠っている。

 

「部長、最近睡眠不足っぽかったから……そっとしてあげて」

 

「……ああ、こちらとしても大人しくしていてくれる方が助かる」

 

明星ヒマリと和泉元エイミ。二人の監視の任を受けているカリンは……正直暇だった。

 

片や爆睡、もう片方はと言えば黙々と銃器や装備のメンテナンスを行っており、当然妙な事をする様子はない。

弾薬は預かっているし、身体検査でも妙なものは見つからなかった。

 

彼女が妙な真似をする危険はないだろう。

 

"ドォン……"

 

十数分おきに上階から響く爆発音と振動が、なおさら退屈を加速させる。

 

(…………)

 

「……はあ」

 

壁に寄り掛かり、カリンは小さくため息を吐いた。

 

 


 

 

特異現象捜査部/サーバールーム

 

 

(……あった、収支記録……!)

 

数時間を要して膨大なデータの海から見つけ出したるは、"特異現象捜査部"の収支が記録されたデータ。

 

……取引先のデータは"なぜか"消失しているため、この記録が唯一正確な特異現象捜査部の支出記録。

これが見つかってしまえば……明星ヒマリの関与は確実に露見する。

 

隣で眠っているコユキを起こさないよう、冷静にデータを展開すると────

 

(うーわ……)

 

────飛び込んできたのは、桁のおかしい支出の数々。

今までの緊張感が吹き飛び、感情の殆どが呆れと驚愕に支配される。

 

(ハイエンドの大型3Dプリンターが7000万、マシニングセンタが1億2000万……!?)

 

頭が痛くなってきて、チヒロは一度眼鏡を外して、眉間を強く圧した。

 

「ふぅ~……」

 

困惑を息に乗せて小さく吐き出し、画面に向き直る。

 

(本校でも渋られるような機材をいっぱい買ってる……どこからそんなお金が出てくるんだか……)

 

呆れながらもセルに纏められた金額の合計を弾きだすと……今月だけで17億円もの支出があったようだ。

 

(……これ、私が支出誤魔化すまでもなく置いてある機械だけでバレちゃうんじゃ……)

 

そう思ったが……部長は

"特異現象捜査部は予算の使い途を含めて私が全ての裁量を握っていますし、使途や収支報告の義務もありませんから……記録が無ければ、いくらでも言い訳できます。"

と微笑みながら戯けた事を言っていた。

 

……まあ、部長がそう言うのならそうなのかもしれない。

 

思考を放棄し、半ばヤケになりながらも……チヒロは記録の改竄を始めた。

 

 


 

特異現象捜査部/4F

 

 

「よッと……中5階も異常なしだ、他のメンバー達からは何か上がってきたか?」

 

中階から戻ってきたネルはそう尋ねて、ウエストポーチから水を取り出す。

 

「一応、カリンからは二人とも妙な行動を起こす様子はない、と」

 

「居住区画を担当している方からは、"髪の毛一本落ちていない"、と……お掃除ドローンが十数機体制で動いていますから、その方面の証拠集めにはあまり期待できなさそうですね」

 

「浴場の排水パイプもミレニアム生の自浄パイプですし……弁を見ても何も無かったそうです」

 

「最上階のマシンルームを確認しているチームからも、"問題なかった"と……彼女たちは駐車場の確認に向かうそうです」

 

アカネの報告を受け、ネルは飲み終わったペットボトルを握り潰す。

 

「そうかよ……まあ身内の潔白が証明できたならそれ以上の事もねえだろ。ま……あたし等はあたし等で気張って調べんぞ」

 

「はーい!」

 

アスナの返事を号令に、C&Cのメンバー達は次の改装に向かった。

 

 


 

特異現象捜査部:1F

 

「────ん……ふあぁ……」

 

「おはよう、部長」

 

「おはようございます……」

 

「おはよう」

 

「ル……ああ、そうでしたね……」

 

ヒマリは背もたれを起こす。

 

(おや……危なかったですね……)

 

寝ぼけ眼のせいで、背格好の似ているカリンをルイと見間違え、危うくルイの名を口にする所だった。

 

「……ふう、どの程度経ちました?」

 

軽く伸びをして尋ねると、エイミが時計を見て答える。

 

「大体4時間くらいかな……」

 

「ヒマリ先輩、悪いけどまだ調査は終わってない。もう少し大人しくしてて」

 

カリンがそう告げると、ヒマリはもじもじとした様子で口を開いた。

 

「そうですか……その、少しお手洗いに行かせて頂いても?」

 

「……構わない。だけど、人を伴ってね。」

 

カリンがそう回答すると、カリンと同じく監視に就いていたC&Cの生徒が"私が着いていきます"と小さく手を挙げた。

 

「わかった。じゃあ連れて行ってあげて」

 

────ヒマリが部屋を出た後、エイミは所在なさげに部屋を見回す。

 

「どうかした?」

 

「いや……何でもないよ、この後の片付けとかどうしようって考えてた、機材の修理とかも。」

 

「……それは私達が責任を持って片付ける事になってるから安心して。それに、ちゃんと機械は壊さないようにしてる……と思う、多分。」

 

"多分"という言葉と共に、カリンの目が逸らされた。

 

「ならいいんだけど……」

 

そして、"ズゥン"と響く振動が再びの爆発を知らせる。

 

「…………機械、壊れてないといいね」

 

「……そうだね。」

 

エイミはどこか祈るような表情を浮かべたカリンを慰めるように声をかけ……部屋には気まずい雰囲気が流れるのだった。

 


 

 

特異現象捜査部/サーバールーム

 

 

チヒロが記録の改竄に着手して1時間ほど。

 

(……これでOKかな)

 

改竄した記録を流し見して、不自然な点が無い所を確認し……作業は完了した。

 

(次は……これだ)

 

3-4日前の監視カメラの記録を抽出し、持ってきたSSDに転送してソフトに読み込ませる。

 

抽出した改竄前のデータをヒマリの用意したソフトに読ませれば、内部の映像データをスキャン、判定し……日付の完全な改竄を行ってくれる。

 

部長が言うには、"天城ルイは一昨日帰ってきた"

ならば、それ以前のデータの日付を改竄し、昨日一昨日のデータとして渡せば……特異現象捜査部の不関与を示す材料になる。

 

映像の証拠としては、これで十分だろう。

 

「……ふう」

 

後は適当に証拠になりそうでならないようなデータを引っ張ってきて、セミナーに引き渡せばいい。

 

ようやく作業の終わりが見えたチヒロは、缶コーヒーを呷った。

 

 


 

 

特異現象捜査部/屋上

 

1Fから5Fまで、全階層の中階から収納スペースまでを捜索し終わり、ついに屋上の捜索も終えたネルとアカネは、しばし小休憩を取っていた。

 

「ふぅ……他の連中からの報告もねえし、空振りか……」

 

「駐車場も調べ終わったそうですし、人の入れそうなスペースはほとんど終わりましたね」

 

「……じゃ、これで終わりか?」

 

「いえ……まだエレベーターが残っています」

 

「あーー……」

 

「……しょうがねえ、あたしがやる。」

 

そう言って、ネルは立ち上がった。

 

「他のメンバーに"エレベータには近付くな"って言っといてくれ、危ねえからな」

 

「ええ、通達しておきます」

 

「うし……じゃあ始めっか!これが最後だし……気張っていくぞ!」

 

そう言ってネルとアカネは屋上を後にし、非常階段を下りる。

 

そしてすぐに、エレベーターの扉の前に到着した。

 

「通達は出来たか?」

 

「ええ、全グループからの了解を得ました」

 

「よし……じゃあ始めっぞ!」

 

"ガリ……ガガガガガ!!!"

 

威勢よく言って、ネルは扉の隙間に手を食い込ませ……こじ開けた。

 

「チッ……真っ暗で何も見えやしねえ」

 

遥か下にあるエレベーターのかごを見遣り、小さく呟く。

 

「じゃ、お前は一旦戻って他のメンバーに報告しててくれ!」

 

ネルはそう言ったと同時に、暗いエレベーターの中へと飛び込んでいった。

 

「…………」

 

飛び出していったネルにアカネは少しだけ驚いたが、"ネルなら大丈夫だろう"と即座に判じて、指示通りに他のメンバーへと報告へ向かった。

 


 

 

特異現象捜査部/エレベーター

 

 

「ふっ!」 「らあっ!!」

"ガガガガッ!" "ガアンッ!!"

 

ガイドレールに掴まって減速し、エレベーターの上に着地する。

 

「……ふう、リオんとこでトキのやつと戦った時を思い出すな……」

 

ぽつりと呟きながら、緩衝器のある最下部まで飛び降りる。

 

持ってきたライトで内部を照らすと……エレベーターの底に、落とし戸状の扉を見つけた。

 

「……これは、当たりかもしれねえな……!」

 

その落とし戸を開くと、はるか地下へ続く梯子が現れる。

 

「一応、連絡しとくか……」

 

C&Cのグループ当てに、"エレベーター最下部の緩衝器エリアに梯子を見つけた。調査する"と送信する。

 

一斉に既読が付いたのを確認し、ネルはポケットにスマホをしまった。

 

「よし、行くか……!」

 

ネルはフラッシュライトを片手に、その梯子を下りていった。

 


 

特異現象捜査部/1F

 

7時間に及ぶ調査を終え、ヒマリの元には数人のエージェント達が説明のために集まっていた。

 

「ふむ……天井といくつかの壁に穴を開けた、と。……まあ、それは構いませんが……」

 

ヒマリが説明を受けていると、エージェント達の携帯が一斉に音を鳴らす。

 

「すみません、リーダーからの連絡です。」

 

エージェントの一人がスマホを開き、その内容を読み上げる。

 

「"エレベーター最下部の緩衝器エリアに梯子を見つけた。調査する"……だそうです」

 

読み上げるにつれ、周囲の生徒が放つ雰囲気が強張っていくのが伝わる。

 

「……ヒマリさん、心当たりは?」

 

確かな敵意を持って尋ねられたヒマリは、首を小さく捻って"さあ……"と返した。

その様子を見たエージェント達は、"これは当たりだ"と判断したのか、一斉に頷きあう。

 

「……応援に向かいましょう、目標は地下です」

 

「はーい!」

 

そうしてエージェント達は一斉に部屋を去り、再びカリン、ヒマリ、エイミの三人が部屋に残された。

 

「……ヒマリ先輩、本当に心当たりはないのか?」

 

「ありませんね……ここは元々有ったビルを居抜きで再利用した拠点ですから。それに搬入用としては十二分なスペースと積載荷重でしたので……エレベーターには特に手を付けていません」

 

先ほど去ったエージェントが淹れてくれた緑茶を啜りながら、ヒマリはあっけらかんと言った。

 

「つまり、何があるかはわかりませんので……安全には注意してくださいね」

 

「ああ、そう伝えておく」

 

カリンはヒマリから聞いた内容をグループに向かって送信し、携帯をしまった。

 


 

特異現象捜査部/地下

 

「……」

 

梯子を下り、続く地下通路の先に広がっていたのはミレニアム地下に広がる下水道。

 

(……こっから逃げたか?いや……)

 

ライトで周囲を照らしても、足跡のようなものは見当たらない。

 

試しに自分が歩いても、はっきりとした足跡が残る。

 

……そこで、ネルの携帯が通知を知らせた。

 

内容は"ヒマリ先輩は本当にそこの存在を知らないみたい。どこに繋がっているかわからないから気を付けて、と言っていた"というカリンからの通知。

 

「……あぁ……?」

 

ヒマリが本当に知らないとしたら、ここは一体何だ。

何故ここに繋がる通路が存在していたのかはわからないが……一応、調査はしておくべきか。

 

そんな事を考えているうち、背後からバタバタと足音が聞こえる。

 

「ッ!?」

 

「リーダー!私達です!」

 

咄嗟に銃を向けると、そこに居たのはC&Cのエージェント達。

 

「あんだよお前らか……ちょうどいい、見ての通り下水道に繋がってたから、一応調査すんぞ」

 

「はっ!!」

 

……そうして、ネルとC&Cのエージェント達はこれから数時間、ミレニアム地下下水道を走り回る事になるのだった。

 


 

 

「……ネルさん、戻ってきませんね……」

 

「ああ……梯子は下水道に繋がっていたらしい。念のためリーダー……ネル先輩が皆で調査するみたいだよ、だから時間がかかるって」

 

「なるほど……では、もう少し時間はかかると見ても?」

 

「……多分。」

 

「はあ……ようやく作業に戻れると思ったのですが……とはいえ、先ほどの説明を聞いている限り、このビルの調査は終わったのでしょう?」

 

「ネルさんが許可してくださるのであれば……戻ってくるまでの間、機材の動作確認を行っておきたいのですが……」

 

「悪いけどまだ駄目だ。チヒロ先輩がデータの収集を────」

 

そう言ったところで、背後の扉が開かれる。

 

「……ちょうどデータがまとめ終わったから、渡しに来たけど……皆は?」

 

「失礼しまーす!」

 

怪訝そうな表情を浮かべたチヒロに続いて、コユキが入室する。

 

「ああ、実は────」

 


 

「────そういう訳で、私以外は皆、下水道に行った」

 

「え゛ぇーーー!!!って事はまだ帰れないんですかぁ!?!」

 

カリンの説明を聞いて、コユキが大声を上げる。

 

「……コユキは殆ど寝てたでしょ……とはいえ、この調子だとかなり時間かかっちゃいそうかな……」

 

チヒロはソファに座って、コーヒーを一口飲む。

 

「チーちゃんの作業が終わったのなら、もう私たちを解放しても問題ないのではありませんか?」

「出来る限り早く復旧作業を行いたいので、可能ならネルさんに確認を取ってほしいのですが……」

 

ヒマリがそう尋ねると、カリンは"わかった"と小さく返答して、スマホを取り出す。

 

「聞いてみた、リーダーたちは忙しいだろうし……返事が来るまで少しかかるかも」

 

……それから1分ほどして、カリンの携帯が鳴った。

 

「……問題ないらしい、ただ……一応、私とチヒロ先輩の目の届く範囲で作業は行う。って条件付き。」

 

カリンの説明に、ヒマリはにこやかに頷いた。

 

「ええ、勿論構いませんよ」

 

「じゃ、早速始める?」

 

「ええ……では復旧作業を始めますので、お手数ですがご同行をお願いします」

 

「わかった。手伝える事があったら言ってね」

 

「復旧作業は私も手伝うよ、結構大規模にやっちゃったから……結構時間かかるだろうし」

 

「おや……助かります。いくら天才といえど病弱なこの私とエイミの二人だけでは辛い作業になると思っていた所です」

 

ヒマリは微笑んで感謝を伝え、車椅子のパネルを操作した。

 

すると、特異現象捜査部内の通信状況を表すホログラフが投影される。

 

「……まずは、サーバーの復旧からするべきですね、行きましょうか。」

 

────そうして、ヒマリ達は機材の復旧作業に取り掛かった。

 


 

 

ミレニアム地下/下水道

 

────2時間後。

 

「チッ……なんもねえな……」

 

ネルは一人下水道内を進行しながら、一人呟く。

 

あれから下水道内を散開し、C&C総出で手当たり次第に調査しても……痕跡どころか、気配さえなかった。

 

(これ以上うちの連中をこんなとこに居させるのも良くねえな……)

 

ネルは携帯を取り出し、C&Cのグループに向かってメッセージを送る。

 

"もう十分だ、お前ら一旦戻んぞ"

"報告が終わったらさっさと帰って風呂だ"

 

すると、即座に"了解"や"おっけー"などと各班長からの返信が滝のように押し寄せる。

その様子からは、メンバー達がこの突発的な下水道調査に辟易としていた事が察せられた。

 

(……ま、流石に急に下水道の調査を数時間もやるのはキツいよな)

 

メンバーの為にもさっさと終わらせる事を決め、ネルは来た道を駆け戻った。

 

 


 

特異現象捜査部/サーバールーム

 

 

サーバールームで復旧作業を行っていた面々の前に、ネルは戻ってきた。

 

「おう、戻ったぜ……長引かせて悪かったな」

 

「おかえり、リーダー」

 

カリンはそう言ってネルの傍に行き、彼女の頬に付いていた泥を拭いた。

 

「ん……すまねえ、汚れは出来る限り落としたつもりだったけどよ」

 

小さく詫びたネルに、ヒマリは"お気になさらず"、と返す。

 

「ありがとよ……じゃ、報告に入るぜ」

「わりいがあたしとカリンだけで報告は済ませる。他の連中は一足早く帰らせたかったからよ」

 

「いえいえ……お疲れ様です。何かわかりましたか?」

 

そう尋ねたヒマリに、ぽりぽりと頭を掻きながら申し訳なさそうにネルは答える。

 

「あー……こんだけやって悪いんだが、完全な空振りだ。地下からは何も出てこなかった……エレベーター下に地下通路がある意味もよくわかんなかったしな……ま、ありゃあ今回の件には無関係ってこったな」

 

「物的証拠っつーか、そういうのも見つかんなかったしよ……」

 

「強いて言うなら、エレベーターが完全に停止した際の緊急脱出路、と言ったところでしょうか……」

 

「確かに、その辺が丁度いい落としどころだな……ま、関係なさそうだし深く調べてもしょうがねえけど」

 

そして、ネルは視界の端で作業しているチヒロを見遣る。

 

「一応データ関連はチヒロの報告待ちだけどよ……こうしてるとこを見るに、問題なかったんだろ?」

 

「うん、収支記録と監視カメラの記録を纏めたデータを後でセミナーに提出するけど……一応今説明しようか?」

 

そう尋ねたチヒロを、ネルは掌で制する。

 

「いや、あたしはいい……じゃ、結果の報告はこんなもんでいいか?」

 

ネルの言葉に、ヒマリはこくりと頷く。

 

「ええ、この明星ヒマリの潔白が証明されたのなら十分です」

 

「んじゃ、あたし等は帰るぜ……あと、中階の調査で滅茶苦茶しちまったし、後で清掃と修理の人員を送るから────」

 

「ああ、その必要はありませんよ……」

 

ネルの言葉を遮り、ヒマリはにこりと微笑んだ。

 

「このビルは私とエイミ、トキの三人しかいませんから、管理・清掃用のドローンが大量にありますので……それらを動かせば、後は勝手に片付きます。お構いなく」

 

「いや、天井とか大穴あいてんぞ?修理とか必要なんじゃねえか?」

 

「それも問題ありません。この私の手にかかれば大抵の事は解決できますから」

 

「キヴォトスが荒れているこの現状でC&Cの皆さんのお手を煩わせるのも恐縮ですので、どうかお構いなく」

 

ニコニコと拒否したヒマリにネルは若干困惑した様子を浮かべつつも、"わかった"と返した。

 

「……うし、じゃあ帰っぞ!」

 

「だってさ、起きてコユキ、帰るよ」

 

「ん……帰るんですね……?」

 

眠たげな眼を擦りながらソファから身を起こしたコユキは、とてとてとチヒロの隣に歩いていく。

 

「じゃ、セミナーに報告に行かなきゃいけないから……そろそろ失礼するよ」

 

「え゛っ……その、チヒロ先輩……もしかしてなんですけど……私も行くんですか……?」

 

「勿論。」

 

「や゛だーーー!!!」

 

「ちょっ……!!暴れないで……!」

 

「はぁ……」

 

ネルは逃げ出そうとしたコユキの襟首を掴み、担ぎ上げた。

 

「最後まで騒がしくして悪かったな。……んじゃ、またな!」

 

"にかっ"と笑ったネルは、エレベーターに乗り込む。

 

流石のコユキも分が悪いと踏んだのか、ぐったりと担がれたまま、小さく唸っていた。

 

「じゃあね」

 

カリンが小さく手を振ると、来客たちの乗ったエレベーターの扉が閉まった。

 

 

 

「……ふう」

 

階層の表示がどんどんと下っていくのを見て、ヒマリは安堵の息を吐き出す。

 

「はあ……無事に済んでよかったね……」

 

エイミも少し気疲れした様子で、どかりと椅子に座って、ハンディファンを体に当てる。

 

「もう少ししたらルイさんを迎えに行ってあげてください、あそこにずっといるのは堪えるでしょう」

 

「それに……予定外に時間が伸びたせいで、そろそろ点滴も切れる頃でしょうから」

 

「おっけー……」

 

そうして、C&Cの立ち入り捜査は無事に終了した。

 


 

 

特異現象捜査部/エレベーター

 

 

無音で下っていくエレベーターの中では、これまた無言の面々が1Fへの到着を待っていた。

 

「……」

 

(地下通路……ありゃ本当に何だったんだ?)

 

あんなものが見つかったお陰で、余計な時間を使わされ……メンバーの体力を大幅に消耗させられた。

……今頃、C&Cの浴場や洗濯場は大混雑しているだろう。

 

"混んでる中に入っていくのも癪だし、帰りに銭湯にでも寄っていこうか"、とそんな事を考えているうち、エレベーターは1Fで停止した。

 

エレベーターを降りてメインゲートを抜けると、C&Cの車両が1台だけ残されていた。

 

本来はこれで帰るつもりだったが……そこそこ広い車両とはいえ、チヒロの荷物と人数を考えると流石に狭いだろう。

 

それに、下水道に長時間居た自分が乗るのも忍びない。とそう考えて、ネルは少し寄り道をすることに決めた。

 

「よし、あたしはちょっくら銭湯寄って帰る。」

 

「カリン、わりいがこいつらを送ってやってくれ……それと、コユキから目を離さないでくれよ」

 

そう言って、担ぎ上げたコユキをカリンに差し出す。

 

「わかった、じゃあリーダー、また後で」

 

「おう」

 

コユキを受け取ったカリンは、空いた手を小さく振って、車に乗り込んだ。

 

カリンに続いて車に乗り込んだ面々を見送り、今度こそ解散の運びとなったのだった。

 


 

 

特異現象捜査部/エレベーター制御室

 

 

(……暑い)

 

ここはエレベーターの最上部、制御室……の直下。

 

"建物を破壊するくらいの勢いで捜しにくるだろうから、隠れる場所はよく考えた方がいい"

 

そう結論付け、私とチヒロ、ヒマリの三人が頭を捻った結果……"3Dプリンターで制御室直下に二重底めいた空間を作り、その中に隠れる"……という事になった。

 

制御室直下は当然ながら空間になるため、エコーで空間が見つかっても不自然ではなく、

直下から調べるにはかなり面倒で、

完全に破壊して調べるには危険が伴うためやりづらい。

 

……かつ、緩衝器のある底部にはかなり前に使った地下通路への入り口がある。

捜索の手が入ったとしても明らかに怪しいそちらに目を引かれ、盲点となるここに隠れたのだが……。

 

真っ暗で狭いこの空間で寝ているだけ、というのは正直堪えるし……とにかく暑い。

水分補給用のペットボトルから伸びたストローを吸っても、既に飲み終わっていて入ってくるのは蒸した空気だけ。

 

……操作は想定外に長引いているのか、点滴もそろそろ切れる頃だ。

 

汗でぐっしょりと濡れた服が気持ち悪い。

心なしか息が荒く、心拍数が上がっている。

 

(このままでは脱水と熱中症になりかねん……早く出してくれ……)

 

"なりかねない"というよりはもう既になっているのだが、朦朧とした意識ではそれに気が付けない。

縋るような心情で荒い呼吸を繰り返すうち……"バゴン!!"と背に強い衝撃を受ける。

 

「お待たせ……迎えに来たよ」

 

隣に空いた穴から、エイミの声がする。

 

「……早く、出してくれ────」

 

掠れた声を絞り出して……安心感からか、私の意識はそこで途絶えた。

 

 

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