"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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電話

 

夕:特異現象捜査部/サーバールーム

 

 

あれから十数分ほどして。

私はヒマリの準備が完了するのを待っていた。

 

手元のパネルを操作し、暗号化処理の設定を入力していたヒマリは、ゆっくりとこちらに向き直る。

 

「さて……これで逆探知は問題ありません。もう掛けても問題ありませんよ」

 

そう言って、ヒマリは携帯を差し出す。

それを受け取り、手元に置いた。

 

「わかった。では……始めよう。」

 

ヒマリに頷きを送り、通話ボタンを押下する。

2度のコールの後、元気な声が聞こえて来た。

 

 

"お電話ありがとうございます!!こちらカイザーグループ企業お問い合わせ────"

 

「"ヒポクラテス"だ。"プレジデント"と話がしたい。繋いでくれ」

 

"……失礼ですが、電話相手をお間違えになられているのでは?"

 

「いや、間違っていない。繋げ。」

 

私がそう繰り返すと、相手はしばしの沈黙の後、口を開いた。

 

"……ヒポクラテス様ですね。お繋ぎできるか確認します。しばしお待ちください。"

 

音声が保留中に代わり、カイザー社歌のオルゴールアレンジが流れ始める。

確認には暫くかかると判断し、"ふう"と息を吐いて、椅子によりかかると……想定より早く、保留は終了した。

 

"……久しぶりだな、ヒポクラテス"

 

聞こえた声は、確かに記憶の中の"プレジデント"の物。

 

「ああ、久しぶりだな。プレジデント」

「私と貴様の関係だ。単刀直入に言おう」

 

"……聞かせろ。"

 

「お前達が持っているアビドス砂漠の土地。それをアビドスに返還してもらう」

 

私の言葉を聞いて、通話越しにも相手が身構えたのがわかる。

数秒の沈黙を経て、プレジデントは口を開いた。

 

"……本来なら電話を切る所だが……貴様には我が社に多大な利益を齎した実績がある、事情だけは聴いてやろうか。"

 

暗に"説明しろ"と促したプレジデントに、私は内心安堵する。

奴が言ったように、ここで電話を切られてもおかしくなかった。

 

交渉のテーブルには着かせた。

ここからが本番だ。

 

「……では、詳細を離そう。」

 

「まず……貴様等がアビドス砂漠の登記書き換えを意図的に行っていなかったせいで、我々のビナー討滅作戦に多大な遅れが生じている。」

 

"ほう、ビナー討滅だと?"

 

「ああ。我々は本腰を入れ、あれの排除に乗り出すつもりだ。」

 

「だが……困った事に、連邦やアビドスの代表は、アビドスが所有している土地内での作戦しか認めないと来た。」

 

「アビドス所有だと思って計画を進めて来たというのに、実態はカイザーが権利を有するエリアであり……アビドス所有ではなかったのだから、我々は足踏みを余儀なくされたというわけだ。」

 

「さてカイザー。貴様等がアビドス砂漠で行っている"事業"について、我々は関知する気はない」

「しかし、作戦の障害になる事が予想される現状で、我々は貴様らに直接的な手段を用いる事も視野に入れている。」

 

「……私個人としては、それは避けたい。貴様等より齎される資金は失うには惜しい。」

「だが、貴様らと同じく我々は群体だ。群の為ならば個の意思を殺す事を、我々は厭わない」

 

「……相互利益の為、ここは手を引け。という事だ。」

 

私の言葉を黙って聞いていたプレジデントは、ゆっくりと答える。

 

"……忠告とこうして対話の機会を設けて頂いた事に感謝してやるが……我々は現状、アビドス砂漠を手放す訳にはいかない"

 

"とはいえ、貴様らが我々の不手際で損害を受けた事は理解した"

"必要ならば、我々が連邦とアビドスを黙らせよう。それならば問題ないだろう?"

 

(……アビドスはともかく、連邦を黙らせる?)

 

妙な事を言い出したプレジデントに思考が逸れるが────駄目だ。

それは本筋ではない。そう思考を正し……冷静に言葉を吐き出す。

 

「駄目だ。連邦に手出しするのは避けろ。代用血液製剤は何故、今日の利益を上げているか知っているはずだ」

 

「それに、代用血液製剤の製造販売委託に際して……"公益に資する"。その目的に反する事は許さんと言ったはずだ。忘れるなよ。」

 

私が否定すると、プレジデントは少しだけ思考して……言葉を返した。

 

"……確かに、あれが連邦によって義務化された事で、我々は大きな利益を上げている事は疑いようがない。"

 

"お互い、それらによって齎される利益は手放し難い、という事だな?"

 

「その通りだ。そこで折衷案だが……どうしても土地は手放してもらう。しかし"採掘権"はお前達に残そう」

 

「アビドスと連邦から"アビドスに土地の権利がある場合にのみ作戦実行を許可する"と、そう言質は取っている。これならお互いの利益を損なわず、連中を黙らせられる。」

 

……本当は連邦から言質など取っていないが、まあいいだろう。

この件に関しては、いくらでも事後承認が効く。

 

"………………ふむ。"

"我々にとってもビナーは大きな脅威であり、障害だ"

 

憂鬱そうに言葉を吐き、溜め息紛れにプレジデントは続けた。

 

"腹立たしいが……以前行った二度の作戦で、我々の力であれを倒すのは不可能だと判断した。"

"そのビナーの討滅を貴様等が勝手にやってくれるのなら……悪くない取引だ。"

 

「ご理解頂けて何よりだ、プレジデント。」

 

そう言って、声色を数段落とし"内密"と言った雰囲気を作り出す。

相手は理解を示した。ならば……もう一押し。

 

「……作戦が終了すれば、後の事は関知しない。」

「採掘権は私が保証する。その上で土地の権利が欲しいのであれば……好きにすればいい。」

 

"……良いだろう。"

 

そう言って、相手は一つ間を置いた。

 

"さて……ひとつ質問なんだが"

 

(────来た)

カイザーは利益と自社の拡大の追及に暇がない。

 

……どうせ、私から何らかの譲歩を引き出すつもりだろう。

 

「いいだろう」

 

そう返事をして、相手の言葉を待つ。

 

"ただ手放すだけだと我々に利益が無い。それに……ビナーの排除はあくまで副次的な物だ、そうだろう?。"

 

「そうだな。お前達は利益と野望で動いている」

「その点は好ましく思っている。無駄な腹の探り合いをする必要が無いからな。」

 

「……それで、何が望みだ?」

 

そう尋ねると、プレジデントは待っていたと言わんばかりに返答した。

 

"貴様等が持っているビナーに関する知識、情報。それらを全て渡せ。"

"あの惨憺たる戦いを知っている貴様が、"あれを倒せる"……とそう判断したのには、何かしらの判断材料があったはずだ"

 

"その判断材料を対価にするのなら……我々はアビドスに権利を返還すると約束しよう"

 

(……ふむ。カイザーの手に渡ったとしても、あの情報は大した意味を為さない。)

 

レーザー出力。潜行速度。装甲厚。装甲の調査報告書。

それら全てはあくまで数字に過ぎない。

 

それらを利用した兵器を作り出そうにも、あれだけでは何の役にも立たないはずだ。

 

「……いいだろう。明日にでも書類に纏めて送る。」

 

"いい判断だ。ではこちらも、なるべく早く手続きを行おう。"

"そうだな……明後日までには終わらせるよう、手配する"

 

「了解した。では……ここで失礼する。」

 

"ああ。カイザーはお互いの発展を祈っている。相互利益の追求の為、必要ならばいつでも連絡しろ。"

 

"お前には利用価値がある。私が今こうして利用されてやったようにな"

 

「良くわかっているじゃないか。では、また。」

 

"ああ。"

 

────そうして、通話は切れた。

 


 

 

「……随分、とんとん拍子に進みましたね?」

 

「全くだ。私も驚いている」

 

多少は難航するかと思われた交渉は、僅か20分ほどで纏まった。

 

「……とはいえ、カイザーの行動は注視しておかなければならない」

 

「奴の口ぶりから察するに、恐らく連邦生徒会内部にカイザーと内通している者が居る」

「その者を炙り出しておく必要もあるだろう」

 

ふうと息を吐いて、ペットボトルを一口飲む。

 

「……それに、対外的にどう言い訳するかを考えなければな」

 

"カイザーに売った土地を取り戻す"

しかも、当のカイザーはその土地に執心していた。

 

それを昨日の今日……というか当日に解決してしまったのだから、どのような手段を用いたのか疑問を持たれるのは間違いない。

 

「……ヒマリ、今こそ君の人望、威光。あるいは力を見せるべきじゃないか?」

 

投げやりに放った言葉を受け、ヒマリは"ふふん"と鼻を鳴らした。

 

「ええ、ええ。仰る通りこの私の力を、事績を以てすれば……このような事を為したと言って疑う者はいないでしょう。」

 

「ははっ。頼りになるな……」

 

「当然です、超天才美少女ハッカーですから。ふふふっ。」

 

……しばらく談笑していると、背後でサーバールームの扉が電子音と共に開いた。

 

「ただいま~……」

 

「エイミか、おかえり」

 

「おかえりなさい。苦労を掛けましたね」

 

「はあ、ほんとにね……」

 

気だるげに入室したエイミは、クーラーの下で上着をばさばさと動かし、そこに椅子を引いた。

 

「本校に行った、とは聞いていたが……何をしていたんだ?」

 

そう尋ねると、エイミはクーラーの下で肌を晒しつつ、伸びた声で答える。

 

「ん~?ルイさんと部長がお金使い過ぎたから、帳尻合わせの言い訳してた……」

 

……エイミの説明を聞いて、ヒマリが申し訳なさそうに補足する。

 

「……先日の捜査で収支管理表をセミナーの皆さんに知られてしまいまして……」

 

「で、説明してって言われちゃったから、私が代わりに行ってきた。」

 

「ああ……なるほど。」

 

特異現象捜査部は私の義手作成や装備の整備のため、過剰なまでの機材を購入していた。

そのせいで出費額が嵩みに嵩み……その実態を知ったセミナーは説明を要求したのだろう。

 

「……何と言うか、すまない。」

 

「別にいいよ。ビナーの件で使った……って言い訳できたし。」

 

「そもそも、特異現象捜査部に使途や収支報告の義務はありませんから……本来は何か言われる筋合いはありません」

 

「とはいえ……あまりに有能かつ天上に輝く星の如き存在感を放つこの私を気に掛け、疑ってしまう事を誰が責められましょう」

 

"ふふふ"と笑い、誇らしげに語ったヒマリを横目に……私は小さく伸びをした。

 

「んぅ……はぁ。さて……私は書類を用意してくる」

 

「ヒマリ、君は対外的な説明を考えておいてくれ。」

 

「それで、エイミ……疲れているところ悪いが、点滴の交換を手伝って欲しい。」

 

横目で見た点滴は殆どなくなっており、そろそろ交換時だ。

エイミ不在の間はヒマリに手伝ってもらっていたが、脚の悪い彼女を頼るのはやはり忍びない。

 

「うん、いいよ……じゃ、それが終わったら私はお夕飯でも作ろうかな。」

 

「ありがとう。では……医務室に行こうか」

 

「おっけー。」

 

私とエイミは立ち上がり、ヒマリは私達へ淑やかに手を振る。

 

「では、また後で。」

 

「ああ。」

 

「ご飯できたら連絡するね、じゃ。」

 

そうして、私達は解散し……個々の仕事へと向かった。

 

 

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