"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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興味

 

翌日 早朝:特異現象捜査部/ヒマリの部屋

 

 

早朝、目覚めた私が軽い柔軟をしていると、ベッドで眠っていたヒマリが目を覚ました。

 

「……起きたか。おはよう」

 

「んぅ、おはよう……ございます……」

 

ヒマリは微睡に舌をもつれさせ、眠たげにうっすらと開かれた瞳をこちらに向ける。

 

「……まだ早い、もう少し寝ていた方が良いぞ」

 

……昨日は共に遅くまで起きていた。まだ寝かせておく方が良いだろう。

ぽやぽやと眠たげな瞳を向けるヒマリに小声でそう言って、めくられた毛布をそっとかけ直す。

 

「……はぁぃ……」

 

小さく答えたヒマリはそのまま毛布の端を抱いて丸まり……再び瞼を閉じた。

 

「……おやすみ」

 

安らかに眠る彼女の髪を優しく撫でて、そっと立ち上がる。

 

(……場所を変えようか)

 

当然ながら音を立てないよう注意はしているが……万一邪魔しては悪い。

 

そっと部屋を出て……向かうのは医務室。

 

どうせ部屋を出るのなら、早いうちに日課を済ませておくべきだろう。

 

 

……少し肌寒い廊下の突き当たり、エレベーターを呼んで……到着を待つ。

 

 

(何事も無ければいいが……)

 

……外表の傷は癒えたものの、内部の損傷はそう簡単に癒えるものではない。

 

昨日のように、急激に血圧を上げるような真似をすれば、出血の再発……下手をすれば、縫合部が破れて再び倒れかねない。

 

当時はミネが治療してくれたから良かったものの……ここには私しかいないのだ。

 

自分の腹を切ってドレーン*1を差し込んだり、内蔵を縫合したりなんて芸当は……いくら何でも不可能だ。

 

つまり……ここで私が倒れたら、その時点で計画も失敗に終わる。

 

……そんな訳で、体内に異常がない確認するため毎朝の血液検査は欠かせないのだ。

 

(……全く、昨日はとんだ醜態を晒してしまったな……)

 

 

────そんな事を考えているうち、エレベーターが目的の階に到着し……医務室へ着いた。

 

 

「……点灯」

 

扉を開けてそう呟くと、私の声に応えて電気が灯り、寒色の光が部屋を照らす。

 

「さて……」

 

機材の電源を入れ、消毒液の匂いが充満する棚を漁り……手早く採血用の道具を揃える。

 

「……シリンジ、よし、駆血帯……よし。」

 

用意した道具を机に並べ、椅子に座って一つ一つ確認する。

 

(よし……揃っているな。)

 

一つ深呼吸をして、血圧を測り……異常がない事を確認する。

昨日の件もあり不安はあったが、血圧計が表示した数値に問題は無い。

 

(良かった……)

 

安堵を抱きつつ、駆血帯を巻いて採血用のシリンジの封を切る。

 

慣れた手つきで"ぷつ"、と静脈に針を差し込み……十数秒ほどで採血は終了した。

 

駆血帯を外して止血し、採血管を分析機にかけて……"ふう"と息を吐く。

 

……あとは結果待ちだ。それまで、5.60分ばかり時間がある。

 

さて日課を再開しよう、と考えた所で……ふと手を止める。

 

(保存的治療の期間は終え、ようやく点滴無しで動けるようになったが……とはいえ、昨日の無理が祟っている可能性もある)

 

……大事を取って、せめて今日は大人しくしているべきか。

 

そう判断して、再び椅子に座る。

 

(……とはいえ、時間があるというのは僥倖だ)

 

ポケットから携帯を取り出し、電子書籍の入ったアプリを開く。

 

さて何を読もうと選んでいると、ぱっと表示された画面が切り替わり、着信を知らせた。

 

表示された名は、[白石ウタハ]。

 

迷いなく応答ボタンに触れ、携帯を耳に当てる。

 

「……もしもし、ウタハか?」

 

[やあ、おはよう。朝早くにごめん、少し話したくてね]

 

返ってきたのは、いつも通りのウタハの声だった。

その声色からして深刻な事態ではないと察し、力を緩める。

 

「構わない、丁度暇をしていた所だ」

 

[君が暇を?珍しいね]

 

「傷の都合でな、トレーニング等は暫く休んでいるんだ」

 

[ああー……お大事にね。それで、用件なんだけど……ビナー討滅作戦で使う他の兵器を選定したくてね]

 

[それにはやっぱり、実際に戦った事のある君の意見を聞きながら考えたいんだ]

 

[今日はお昼にその件でセミナーや先生と話すから、ある程度具体的な案を用意する必要があってね。]

 

ウタハはそう言って、電話越しに"よいしょ"と小さい声を漏らした。腰を据えて話すつもりのようだ。

 

(以前話したように、あれは"戦った"と言えるほどの物ではないが……とはいえ、意見は交えておくべきだろう)

 

「いい機会だ。こちらも聞きたい事があった、話が逸れるかもしれないが……少し話し込んでもいいか?」

 

[勿論さ、答えられる事なら答えるよ]

 

何とも頼もしい返事に、気分が躍る。

 

……この機会に、話を聞いておこう。とそう考えて、話したい事を頭の中で整理し、吐き出す。

 

「では……エンジニア部が作り上げ、現在は天童アリスは私用している"スーパーノヴァ"……あれの論文と仕様書を以前、読ませてもらった。」

 

[おお、読んでくれたんだね……ふふふ、良い物だろう?]

 

ウタハは嬉しそうに声をはずませ、笑う。

 

「ああ、あれは素晴らしい発明だ。何より、とても面白い。」

 

「本来、設置あるいは大型の兵器を用いなければ撃てないレールガンを個人用の兵器に落とし込み……射手の特異な膂力に依ってはいるものの、実用ラインまで持っていく事に成功した事例はあれが初だ」

 

「関連する物は全て読ませてもらったが……ぜひ、開発者である君に話を聞きたくてな」

 

 

"光の剣・スーパーノヴァ"。何と面白い兵器だろうか。

 

……本来、個人でレールガンを携行し、扱うなど正気の沙汰ではない。

しかしその狂気を、現実に至らしめた奇跡の産物。

 

否。奇跡などと呼んでは失礼であろう。

 

エンジニア部の粋を結集し作り上げられた、現代技術の到達点とも言えるそれは……私を大いに興奮させた。

 

トリニティへ帰還した後、その存在を知った時は、開発に携わる事が出来なかった事を悔いたものだ。

 

 

[……ふふふ、そこまで褒められると、なんだかむずがゆいね……]

[でも、実を言うと……あれは人が扱うつもりで作った訳じゃないんだ。]

 

そう言って、ウタハは思い返すように続けた。

 

[経緯を説明すると……元々は私達の夢見る"宇宙戦艦"に搭載される、大気圏外で使用可能な兵器……って事で作った物でね。]

 

[私達にとってはとても意義深い、ある意味ではお守りみたいな物だったんだけど……まあ、持て余してたんだよね、誰も使えないから。]

 

[それを、たまたま部室に来たアリスが見て気に入ってね。折角だから"データ収集"って事にして提供したんだ]

 

「……なるほど……天童アリスが使用しているのは、そういう経緯があったのか」

 

[うん。当然、アリスが扱うに合わせて、いくつか性能を調整したけどね。]

 

「ふむ……元は搭載予定の兵器だったとするなら、反作用を殺す為の小型ブースター等が搭載されていたのがそれか?」

 

[お、気付いた?そうなんだよね!君の言う通り、本来は搭載する物だから反動抑制装置は要らないんだけど……折角アリスが使ってくれるなら、って事で付けたんだ]

 

[それに、アリスが"勇者の盾としても使えます!"って喜んでたから、片面の装甲圧を弄ったり……携行用の特性ケースから何からリデザインしたんだよね]

 

嬉々として話してくれるウタハにつられ、私の気分も高揚していく。

 

「なるほど……装甲圧に偏りがあったのは内部仕様のせいではなく、盾としての運用も視野に入れていたからなのか。そもそも、あれほどの機構を備えながらも装甲圧すら両立するその仕様には感嘆していた。」

 

「更にはあれだけの出力を備えながらも内部電源を極限まで小型化し、発射機構もコンパクトにしつつも高貫通かつ長射程。レールガンとしての本懐を損なうことなく実現している……全く敬服するばかりだ。」

 

「あれだけの小型化を達成するまでには相当な努力があっただろう。その苦労を推察すると、頭が下がるよ」

 

[そうそう!いやあ、小型化には本当に苦労したんだよ……!みんなで徹夜で机にかじりついて、"もう無理!"ってサイズを4回も更新したんだ……!完成した時は、感極まりすぎて皆で大泣きしたあと……気付いたら仲良く医務室のベッドで寝てたよ。]

 

「おお、4回も……!その時の話は是非時間のある時にでも聞かせてくれ、非常に興味がある」

 

[勿論さ!……それなら、またいつかエンジニア部の部室に来てくれ。その時に実物を見ながら話そう]

 

[もっと面白い話がいくつもあるから、全部話してあげるよ!]

 

[コトリとヒビキも喜ぶだろう。二人は君にこの話をするのを楽しみにしていたからね。もちろん、私もさ。]

 

開発者たち自ら話してくれる秘話など、興味が無い訳がない。

彼女の言葉に胸を躍らせながら、返答する。

 

「わかった、必ず伺おう。心からの楽しみにしておく」

 

[うん。二人にもそう伝えておくよ……]

 

と、ウタハはそう言って……"あっ"と何か思い出したように声を漏らした。

 

[……ごめん、話が大きく逸れちゃったけど……スーパーノヴァがどうかしたのかい?]

 

(……しまった。少しだけ聞く予定が……かなり長く話し込んでしまった。)

 

「……すまない、私も熱くなってしまった」

 

「……話を戻そう。結論から言うと、作戦にスーパーノヴァを使用したいと考えている。」

 

「私の知る兵器の中で、最も長射程であり、かつ貫徹能力が高い物がレールガンだからな。」

「それゆえ、並みの兵器が使い物にならないビナーとの戦いでも、活躍するかもしれないと考えている。」

 

「酸化フッ素による攻撃で倒し切れなかった場合、劣化した装甲を撃ち抜き……決着を付けられる兵器が必要だからな。」

 

そう伝えると、ウタハは"ふむ"と興味深げに声を漏らした。

その声を聴いて、私は補足を続ける。

 

「……知っての通り、一言にレールガンを用いると言っても、此度の作戦には大きな問題がある。」

 

「そもそもビナーが何処に出現するか予測するのは困難であり、容易にレーザーによる狙撃を受けてしまう設置型は、設置のための工事も鑑みて全くリスクに見合っていない」

 

「それに、車両等に乗せるのも、通信障害による妨害を鑑みれば避けたい。」

 

「しかし、携行できるスーパーノヴァならばあるいは……と考えてな。」

 

「……もちろん、アリスや君達が許すならで構わない。今君が語ってくれたように、あれは君達に……アリスにとって、失い難い宝のようなものであることは理解している。」

 

私がそう説明すると、ウタハは"うーん"と唸って、言った。

 

[……スーパーノヴァを持ち込むこと自体に反対はしないけど……射手であるアリスを現地に向かわせる事には反対かな]

 

[現地付近にアリスを近寄らせるのは、私としては避けたい。アリスをデカグラマトンに接触させる事は、予期しない問題を引き起こすかもしれないから。]

 

ウタハは真剣に語り、懸念を伝えた。

 

「……たしかに、アリスの出自についてはヒマリから聞いている。」

 

「それに付随する事件についてもある程度は耳にしている。……君の言う通り、確かにアリスをデカグラマトンと接触させるのは危険かもしれない」

 

ウタハの懸念に対し、どうしたものかと思考していると……スーパーノヴァの仕様書を思い出した。

 

"重量およそ140kg。反作用による衝撃は200kg相当"

 

……かつて空想した事がある。スーパーノヴァを人の身で撃つにはどれだけの力が必要か、と。

 

(……私の突撃剣はおよそ85kg。これが私が余裕を持って振り回せる限界だが……)

 

脚部装甲による重量負荷の軽減。ジップラインランチャーの耐荷重。

振り回す訳でなく、撃つだけならどうか。反作用には耐えうるか。

 

素早く計算して……解に行き当たる。

 

「……では、私が撃とう。これならばどうだ?」

 

[……君が、かい?]

 

私の答えに、ウタハは怪訝な声を返す。

 

「ああ。脚部装甲の重量負荷軽減を考えるのなら、私にも十分撃てるはずだ。」

「それに、義手ならば発射の衝撃をもろに受けても肉体的な損傷には繋がらない。」

 

「それに加え、ジップラインランチャーによる機動性も確保出来る。奴を安全圏から射線内に収める事も容易だろう。」

 

「……そう考えると、私が適役と言える。一応、実戦経験もあるしな。」

 

そう説明すると、ウタハは愉快そうに笑った。

 

[……あははっ!確かに、あの剣を振り回せる君なら、撃てるだろうね。]

 

[反作用で腕が壊れるから、どうやっても人には撃てないって思ってたけど……君の言う通り、義手で衝撃を受け止めるなら問題ないね。]

 

「……つまり、スーパーノヴァを貸してくれるという事でいいか?」

 

[うん、いいよ。まあ、後はアリスが良いって言うかどうかだけど……ちゃんと返すって約束するなら、貸してくれると思う。]

 

「勿論約束するさ。ありがとう。では……楽しみにしている。」

 

私が感謝を述べると、ウタハは含み笑いを湛えて尋ねた。

 

[ふふ、"楽しみ"って……もしかして、撃ってみたかったのかい?]

 

「当然だろう。スーパーノヴァ関連の文書を読んだエンジニアは皆、あれを一度撃ってみたいと考えたはずだ」

 

ウタハの問いに即答して、"もしかして、自分は今まずい事を言ったのではないか"と思い至る。

 

「……待て、補足しておくが、断じて私欲ではないぞ。あくまで最適だと判断したから────」

 

[あはは、もちろんわかってるよ。まあ……楽しみにしててね]

 

慌てて訂正する私を、ウタハは笑って諫めた。

 

「……ああ、楽しみにしておく。」

 

私の答えに"ふふ"と笑いを返し、"よし"とウタハは話を区切る。

 

[……じゃあ、スーパーノヴァの件はこっちで段取っておくよ]

 

[さて……他に何かある?スーパーノヴァだけじゃ、万が一には足りないかもしれないからね。]

 

「他に、か……そうだな……ミサイルを撃つ時、欺瞞用のミサイルを混ぜておくことも有効かもしれない」

 

[……ふむ、理由を聞いてもいいかい?]

 

「あくまで推測になるが……奴が対空手段を持っていると仮定した場合、奴は赤外線式でミサイルを認知、迎撃しようとするはずだ。」

 

語った内容でウタハは察したようで、"ああ"と声を漏らした。

 

[……なるほど。本命の前にフレアを撒き散らすミサイルを先発させて、認知を妨害しよう、って事でいいかい?]

 

「そうだ。奴に載っている兵器を見る限り……ロックオンさえ避けてしまえば、ミサイルの全てを迎撃しきる事は出来ないだろうからな。」

 

[わかった、それも含めて報告しておくよ。]

 

「……現状、私に思い付くのはこんな所か。とにかく……通信やドローンが使えない以上、有効な手段は限られる」

 

「つまるところ、ビナーに対しては物量こそが勝利に直結するだろう」

「容易は可能な限り周到かつ、余裕を持って行ってくれ。」

 

[わかってる、私も同じ考えだよ。……じゃあ、一旦ここまでにしようか、思ったより話しこんじゃったしね]

 

「わかった。有意義な時間だった、ありがとう。ウタハ」

 

[うん。じゃあ、またね]

 

「ああ、また」

 

────そうして、通話は終了した。

 

「……ふう」

 

(……やったぞ!)

 

まさか、自分にスーパーノヴァを撃つ機会が来るとは思っていなかった。

 

運搬や取り回しには脚部装甲があるとはいえ、撃つとなるとどうしても衝撃はもろに体で受ける事になる。

そうなれば肩か腕が壊れる事になると思って諦めていたが……まさか、腕を失った事が功を奏すると────

 

と、そう思った所で、"これをウタハに聞かれたら絶対に貸して貰えなくなるだろう"と考え、不謹慎な思考を打ち止める。

 

……とはいえ、嬉しいものは嬉しいのだ。

それが喜ばしい事は事実であるし、それに備えて訓練を積む必要もあるだろう。

 

期待に胸を躍らせながら、久しぶりに読み直そうとスーパーノヴァ関連のデータが載っているページを開こうとしたところで、そういえば採取した血液を分析機にかけたままだった事を思い出した。

 

(……先にそちらを終わらせねばな……)

 

渋々と立ち上がり、私は分析器のある部屋にかって歩き出した。

 

 

*1
体液が溜まらないよう、体内に差し込む管の事

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