"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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代表

午後:トリニティ本校/ナギサの執務室

 

 

"────だから、もうすぐミレニアムの子が協力を要請してくると思う"

 

先生はナギサに先ほどの会議の内容を簡潔に説明した。

 

「なるほど……"ビナーの討伐を計画している"という話は耳にしていましたが……ついに動きますか」

 

ナギサの言葉に先生は「うん」と相槌を返し、補足するように答える。

 

"とりあえずは両校の確認が取れ次第、説明会を兼ねた代表者会議を行うつもりみたいだから……時間を取ってあげてほしいな"

 

「……わかりました。では、先んじてこちらからミレニアムへ連絡いたしましょう。早い方がお互いのためでしょうから」

 

「それに、ルイを……魔王を討つのは我々トリニティの責任でもあります。今回の要請に対し、トリニティは助力を惜しまないと約束いたしましょう」

 

ナギサは決意をもって答えを返す。

彼女の言葉からかつてのような激しい感情は感じられず……どこか諦観の滲む、冷静な言葉だった。

 

"……ありがとう。じゃあ、次はゲヘナの子と話してくるから……ここで一旦失礼するね"

 

"……またね、ナギサ"

 

大切な生徒が滲ませた諦観に、先生は胸を痛めながらもそう告げる。

 

「……はい。また」

 

お互いにたった一言、別れを告げて……通話は終了した。

 

ナギサは電話を机に置いて、ティーカップを口に運ぶ。

 

(……ゲヘナを交えた合同作戦……果たして、どうなることやら……)

 

魔王事案での連携実績や、協定による拘束力、更にはミレニアムと先生が間に挟まってくれるとはいえ……末端同氏が絡み合う"合同作戦"となると、何が起きるか予想がつかない。

 

ゲヘナとトリニティの関係は依然変わらず、敵対的な物であることに間違いはない。

 

ナギサにとって、両校にとって……今回の"合同作戦"があまりにハイリスクな提案であることは承知していた。

しかし……リターンもまた、相応に大きな物であることも理解している。

 

今回の作戦が問題なく成功すれば、天城ルイの拘束はもとより……両校の距離は大きく縮まる事になるだろう。

 

そうなれば……夢物語とすら揶揄された講和の道が、開けるかもしれない。

 

(……あの議長がどのような姿勢で来るかにはよりますが……願わくば、協力的であってほしいものですね……)

 

思い至って、空になったティーカップをソーサーに戻す。

これ以上は考えていても仕方がない。

 

何より、天城ルイが起こした事件の責任の一端は、トリニティにあるのだ。

 

……多少折れてでも、協力していくべきだろう。

 

(────それが私の、責務なのですから)

 

そう思考を打ち切り、ナギサは連絡員を呼び出すのだった。

 

 


 

 

午後:ゲヘナ本校/万魔殿本部

 

 

「────ほう。つまり……万魔殿の力が必要だと? キキキッ……」

 

先生から事情の説明を受けたマコトは、愉快そうに笑う。

 

"……うん。ミレニアムの計画する作戦には、マコトの力が必要なんだ。ぜひ、力を貸してあげてほしい"

 

先生がそう願うと、マコトは更に口角を上げる。

 

「……ハッ!! 良いだろう!!」

 

「トリニティの連中が混ざるのは気に食わんが────まあいい!」

 

「連中に格の違いを見せつけ、このマコト様の力を知らしめるいい機会だ……全力をもって当たってやろう!キキキキッ!!」

 

上機嫌なのか、存外に頼もしい返事を返したマコトに先生は内心で安堵しつつ「ありがとう」と返す。

 

"じゃあ、もうすぐミレニアムの子から連絡が来ると思うから、お願いね"

 

「ハッ! 待ってなどいられるか! こちらから連絡し、主導権を握るのだ!! サツキ!! 今すぐミレニアムに……おい!! 寝てないで起きろ!!!」

 

電話の裏で響く怒鳴り声に苦笑しつつ、先生は「じゃあ、また会議でね」とマコトに告げ、電話を切った。

 

 


 

 

同時刻:ミレニアム本校/部室棟

 

 

「……失礼するわ」

 

こんこん、がらり。と引き戸を開けると、ユウカの目に──否、耳に飛び込んできたのは、「ピピ! ピ! ピピ!!」とやかましい電子音の洪水だった。

 

(うるさ……!!)

 

「……!」

 

小さな機械をカチカチと打ち込んでいた生徒はユウカに気付くと……ばっと右の掌を向け、素早く顎の下に指を置いた。

 

「はぁ────普通に話しなさい!!」

 

ユウカは「ぱしん!」とそれなりの力で彼女の背を叩いた。

 

「うわっ!! ちょっと!やめてくださいよユウカ先輩!!」

 

背を叩かれた生徒はそう抗議しつつ、手元の入力機のようなものから手を離した。

 

「はいはい、邪魔したことは謝るわ。悪いけど急ぎの用件よ……部長はどこ?」

 

「あ、え……っとそれは……」

 

ユウカの詰問に歯切れ悪く答えた彼女は、何か後ろめたいものを感じさせる。

 

(……また何か良からぬことをやっていないでしょうね……)

 

「……今、あなたたちが何をしていても大目に見るわ。だから早く言いなさい」

 

鬼気迫るユウカの態度に何かを察したのか、彼女は"ごくり"と息を呑み……頷いた。

 

「……第三運動場で研究してます」

 

「わかったわ。連絡は取れる?」

 

「はい、すぐに……」

 

そう答えた彼女は自然な動きで窓際に歩いていき……壁に掛けてあったフレアガンに手を伸ばす。

 

「あっ!ちょっ、待ちなさ────」

 

"パァァン!!"

 

窓の外に向けて発射された信号弾は、赤の尾を引いて……運動場の方へと飛んでいった。

 

「よし……これで、すぐに戻ってきますよ!」

 

「普通に連絡しなさいよ!!」

 

どこかすっきりしたような表情でサムズアップした彼女に、ユウカは怒号をぶつける。

 

「えー、この方がかっこいいじゃないですか」

 

「かっこいいって……はあ……まあいいわ……大目に見るって言ったのは私だし……」

 

呆れたように眉間を抑えてそう言って、ユウカは部長が戻ってくるまで待つことにした。

 

 


 

 

────5分ほどして。

 

 

「……ただいま!!何かあっ……うげっ」

 

元気な挨拶と共にがらりとドアを挙げた部長はユウカを視界に収め……何かを察したように声を発した。

 

「……うげっ、じゃないわよ!!」

 

「……はんっ!今回はちゃんと使用許可取ってるし、怒られる筋合いはないねっ!」

 

「そうなの?偉いわね……じゃなくて!!」

 

ユウカのツッコみに、部長は"ふんっ!"と鼻を鳴らす。

 

「ユウカさんも落ち着いて……あの、部長。多分別の用件だと思います……」

 

二人の間に部員が割って入ると、部長はきょとんとした表情を浮かべた。

 

「別の?まさか……あ、いや、何でもない」

 

そう言って白々しく目を逸らした部長に、ユウカは大きくため息を吐く。

 

「……はあ、今回は追及しないでおくわ……そうよ、私が来たのは別の用件」

 

そう言って、ユウカはひとつ息を吸い込み……真剣な雰囲気を纏った。

 

「……セミナーから貴方たちに正式な依頼があるわ」

「内容は今から説明するけど……協力の可否に関わらず、極秘という事を念頭においてちょうだい」

 

重く語られたユウカの言葉に、部長は眉をぴくりと震わせる。

 

「ふむ……聞こうか」

 

先ほどまでのどこか緩んだ雰囲気は霧散し、部長は素早いジェスチャーで部員に退室を促す。

 

小さく会釈をして部員が退室したのを見送り……部長はユウカとしっかりと目を合わせた。

 

ユウカはこくりと小さく頷き、"では"と話し始める。

 

「……近いうちに、ミレニアムは大きな作戦を実行するわ。その作戦立案に、貴方達情報伝達研究部の力が必要なの」

 

「……私達の?」

 

「……ええ。現場はアビドス砂漠で……目的は"ビナーの討伐"よ」

 

「ビナーを!?」

 

部長は大きな声を上げ、しまったとばかりに手で口を覆った。

 

「ええ……詳細な事情は後で説明するから、まずは簡単に説明するわね」

 

「まず、現状はアビドス砂漠のほぼ全域でビナーによると思われる通信阻害が発生している状況だから……」

 

ユウカがそこまで言った時点で、部長は察したように"そうか"と呟いた。

 

「通信を依らない連携を組むために、私達の監修が……技術が必要だという事だね?」

 

「……その通りよ」

 

「……ハッハッハ!!」

 

ユウカの答えを聞き、部長は豪快に笑う。

 

「見る目があるな!!それは私の専門だ!!ぜひ、ぜひ力を貸させて欲しい!」

 

そう言って、部長はくるりと背を向け……ごそごそと自身の机を漁り出した。

 

「ゾンビ・アポカリプスが起きた時の為に考案した物がここに来て役に立つとは……!!」

 

そんな事をぶつぶつと呟きながら、ばさ、ばさと机に書類が一束、二束と乗っていく。

 

「……よいしょ!」

 

最後に"だん!"と勢いよくファイルを机に置いて、部長はユウカと再び目を合わせた。

 

「これだけあれば十分だろう。プレゼンも任せてくれ!ハッハッハ!!」

 

興奮した様子でそう伝えた部長は、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「……ありがとう。じゃあ、会議の日時は追って────」

 

そう言いかけた所で、ユウカのポケットに入っていた携帯がぶるぶると震える。

 

「……ごめん、ちょっと待ってね……」

 

ユウカはそう言って、携帯を耳に当てる。

 

「もしもし……ノア?どうかした?うん……え……もう?さすがね……えっ?今日!?」

 

「ま、まあ確かに早い方が良いけど……」

 

そう言って、ユウカはちらりと部長に視線を送る。

部長はその視線で事情を察したのか、右手でOKサインを作り、笑顔と共に見せつけた。

 

「……こっちも許可は取れたわ。……じゃあ、その時間にやりましょう」

 

「ええ、じゃあ、また……」

 

そう言って、ユウカは携帯を下ろした。

 

「……早速、今日の18時から会議が入ったわ。急で悪いけど、準備して」

 

「了解した!」

 

「ありがとう、じゃあ私は手続きをしてくるから……17時半までに8番会議室に来て」

 

「おっけーい!」

 

ハイテンションにそう返した彼女にぺこりと会釈をして、ユウカは退室した。

 

(……ここまで快く協力してもらえるとは思ってなかったけど……嬉しい誤算ね。)

 

そんな事を考えつつ、早歩きで廊下を進みながら、ユウカは一度セミナーの部室へと向かうのだった。

 

 


 

 

夕方:ミレニアム本校/会議室

 

 

「さて、失礼するよ!」

 

その言葉と共に、元気よく部長は入室する。

わきには何枚もの資料を抱えており、彼女の熱意を感じさせた。

 

「時間通りね」

 

「時間くらい守るさ。君は私を何だと思っているんだ?」

 

ユウカの言葉にそう返しながら、部長は着席した。

 

「それで、私はどうすればいいのかな?」

 

机に肘を着き、そう尋ねた部長にユウカはこくりと頷く。

 

「……今から、私と先生、トリニティとゲヘナの代表が協力に向けて、意見をすり合わせるんだけど……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ゲヘナとトリニティ?それに先生も!?」

 

ユウカの言葉を片手で制止して部長が聞き返すと、事も無さげにユウカは頷いた。

 

「そうよ。協力を取り付けられるかどうかは、貴方の説明にかかっているわ」

 

「……それを先に言ってくれ!!責任が重すぎるだろう!!」

 

そう叫んで頭を抱え、机に突っ伏した部長は、もごもごと言葉を机に反射させる。

 

「もう少しまとめる時間をくれ……せめて、せめてあと1日は欲しい……」

 

「……安心しなさい。私も貴方と同じ事を思ってるわ」

 

先ほどまでのやる気に満ちた態度から一転、脱力している彼女に、ユウカは慰めるように言葉をかける。

 

「今日の昼に出た提言を、先生がゲヘナとトリニティに通して……そのまま即日開催の運びになったの。……私も、もう少し調整に時間がかかると思ってたし……もう少し話を練りたかったのが本音よ」

 

「……でも、"ゲヘナの議長の機嫌がいいうちに話を進めた方が良い"って。ごめんなさい」

 

ユウカは重苦し気に答え、大きくため息を吐く。

 

「それに、会議の進行は私が勤めるから……緊張するなら、合図するまで喋らなくてもいいわよ」

 

「……今回はあくまで"ミレニアムの用意した計画はビナーを倒すに足る"と相手方を納得させるのが目的。貴方は専門家らしく……出来る事を説明すればいいわ」

 

「……最悪、それっぽい事を言って誤魔化してもいい。もちろん、本番までにはきちんとした物を用意して貰うけど……」

 

ユウカの補足に、部長は"ううむ"と唸る。

 

「……誤魔化す事はしない。それだけは出来ない……研究者として」

「とはいえ……私に出来る事は全力でやるよ。その為に呼ばれたのだからね」

 

ため息交じりにそう言って、部長は机に書類を広げる。

 

「綺麗にまとめる時間は全くなかったが……ある程度の構想はある。……それを、信頼してもらえるかどうかだね」

 

「……ありがとう」

 

ユウカの礼に"ああ"と空返事をして、部長は会議が始まるギリギリまで書類と睨み合うのだった。

 

 

 


 

 

午後18時:ミレニアム本校/会議室

 

 

「……皆さん、音声に問題はないでしょうか」

 "セミナー・臨時代表" 早瀬ユウカ。

 

[ キキッ、こちらは問題ないぞ ]

 "万魔殿・議長" 羽沼マコト。

 

"うん、こっちも問題ないよ"

"連邦捜査部S.C.H.A.L.E 顧問" 先生。

 

[ こちらも、問題ありません ]

"ティーパーティ・ホスト代理" 桐藤ナギサ。

 

「はい、こちらも確認取れました────では、始めましょうか」

 

定刻通りに始まった会議には錚々たる面子が揃い、カメラ越しに顔を突き合わせていた。

 

────ひとりを除いて。

 

「は、初めまして……ミレニアム三年・情報伝達研究部の部長です……」

 

ほんの数分前まで書類を読み込んでいた部長は、始まったとたんに顎を震わせ……ガチガチに緊張していた。

プレッシャーに抗い、なんとか言葉を紡ぐ彼女を助けるように、ユウカが補足する。

 

「……先生からある程度は伺っていると思いますが……今回協力を依頼する作戦は、現地での通信が使用できません」

 

「それにあたって、非通信式の伝達手段を研究している彼女達に作戦立案の協力を依頼しました」

 

「彼女はこのような場に不慣れですが……彼女の技術は、私と先生が保証します」

 

「……その前にまずは、我々がビナーを"倒せる"と判断した理由をお聞きいただければと思います」

 

そう言って、ユウカは"さて"と話を区切った。

 

「……前提を共有しましょう。我々ミレニアムは一度、デカグラマトンに属すると目される機体"ケテル"と交戦、撃退し……それが撤退する際に破断した脚部を入手しています」

 

「それを解析し、何度も実験した結果……デカグラマトンに対しての攻撃では、化学兵器を用いる事が最も安全で効果的だと結論付けられました」

 

そう言ってユウカは手元のラップトップを操作し、書類を共有する。

その書類には、ビナーの外見から推測される内部構造の予想図と、実験の内容から導き出された有効策が詳細にリストアップされていた。

 

「こちらの内容は今からご説明いたしますので、必要に応じてご確認いただければと思います」

 

そう前置きして、ユウカは説明を続ける。

 

「共有した書類に記載の通り、今回我々が想定しているのは "酸素ガスとフッ化水素を載せたミサイルを撃ち込み、着弾したその場でフッ素ガスを生成。反応により発生した高温環境によりビナー外装及び内部の急激な酸化を引き起こし、最終的には内部機構の崩壊を狙う" ……といった物です」

 

「……先ほどご説明した通り、現場では通信が使用できず、それに付随してFAFミサイル*1も同様に使用できません」

 

「INS式*2も選択肢の一つではありますが……それには事前にビナーの位置を特定する必要があり、ロックオンや運搬の都合で不適格だと判断しています。」

 

「よって……我々は "バイク等の機動性の高い車両に有線ミサイルを搭載し、多数の部隊でターゲットを現地捜索。発見次第ミサイルを撃ち込み撤退。それを繰り返す" ……と言った形の作戦を想定しています」

 

ユウカが説明を終えると、マコトが口を開く。

 

[……ああ、理解したぞ。私の力を欲した理由をな ]

 

[……有線ミサイルですか……なるほど。我々トリニティの砲術科の力を借りたいとはそういう事でしたか ]

 

マコトとナギサは納得したようにそう呟いて、ユウカが"はい"と答える。

 

「……お恥ずかしながら、今回の作戦を実行するには我々ミレニアムの単力では限界があると判断しました」

 

「我々の扱う兵器はドローンや遠隔操作の兵器、FAFのような誘導式の兵器がその8割以上を占めており……今回のような作戦に対しては、扱える人材やノウハウ自体が不足していると言わざるを得ません」

 

そう言ってユウカは椅子から立ち上がり、カメラに向かって深く頭を下げる。

 

「……どうか、力を貸してください」

 

ユウカの言葉を、"はんっ!"と笑い飛ばし、マコトが答えた。

 

[ 先に言ったように、力を貸すことに異存はない。このマコト様に二言は無いからな ]

 

[ 頭を上げてください……マコト議長と同じく、こちらも協力に異存はありません。もとより、協定がありますしね 」

 

マコトに同調するようにナギサはそう言って、"しかし"と続ける。

 

[ 一つ伺いたいのですが……なぜ、討伐対象がビナーなのですか?ミレニアム視点で最も喫緊した脅威として考えるのなら、それこそケテルの討伐でもいいはずです ]

 

[ それとも……ビナーでなければならない理由があるのですか? ]

 

ナギサの鋭い問いにユウカは"それは……"と困ったように口ごもって、意を決したように口を開いた。

 

「……いえ、正直にお伝えするのならば……"データ収集"と言った方が近いでしょう」

 

[ ふむ、データ収集……ですか。詳細な意図を伺っても? ]

 

ナギサの言葉にこくりとうなずいて、ユウカは説明を始めた。

 

「……はい。まず背景から説明いたしますと……ミレニアムとしては、魔王との関連性を含め、デカグラマトンは可及的速やかに対処すべき脅威と認識しています」

 

「しかし、通常兵器がほぼ通用しないそれらを確実に撃破するためには、情報が不足し過ぎているのが現状です」

 

「先のケテルとの戦闘では、"構造上脆い部位にとにかく全力の攻撃を叩き込み続けて、ようやく撃退できた"……というおよそ"対抗策"と呼ぶには浅薄な物でした」

 

「しかし……その後の解析と研究の中で、有効策の一つとして化学兵器による攻撃が提起された今……それが、真に有効か試す必要があります」

 

「……そこで、"なぜビナーか"、という問いに回帰すると……"戦うのならば、現状確認されている三機の中で最も危険度が低い物がビナーだと判断されたから"です」

 

そう説明して、ユウカは補足するように続ける。

 

「三機のうち、ミレニアム禁足地内のケテルと、地下兵器工場の"球体"は意思を共有している可能性がその行動から示唆されており……更に、ケテルは複数機存在する可能性があります」

 

「その上、"球体"は現状その外見のみが判明している状態で……何を仕掛けてくるのか、どのような力があるのかすら不明という状態です。その不確定要素の多い状況で作戦を行うのは、可能な限り避けたい……というのがセミナーとして、ミレニアムとしての本音です」

 

「……更に、禁足地内は通信が妨害されている事に加え、崩落したビル等の瓦礫で足場が完全に崩壊しており、バイクや戦車のような踏破能力の高い車両を用いたとしても、動きに大きな制限を受け……言葉を選ばずに申し上げるなら、全く役に立たないでしょう」

 

「……その点で、ビナーは現状ただ一機のみが確認されている状態であり、アビドス砂漠は崩壊した建造物こそ数あれど、砂漠という性質上最低限の足場が担保されています」

 

「砂嵐さえ起きなければ視界も良好であり、遠距離からの攻撃を障害物に阻まれる心配も少なく……不測の事態が起きた際、撤退する事も容易です」

 

「それらを複合的に計算した結果、今回の作戦が計画された……という経緯です」

 

ユウカが説明を終えると、ナギサは得心したように深く頷いた。

 

[ なるほど……納得しました ]

 

[ ユウカさんの仰る通り……ビナーが最も安全である、という事に疑う余地はありませんね ]

[ そして、作戦を行うに至った理由も、十分に協定の適用内であると認識致しました ]

 

「……ありがとうございます、ナギサ代表」

 

ナギサの言葉にユウカが感謝を述べると……続き、マコトが尋ねる。

 

[ では、私からも一つ尋ねよう。化学兵器を用いるそうだが……実戦に赴く者達に悪影響は無いんだろうな? ]

 

「……少しお待ちください」

 

マコトの問いにユウカはそう伝えて、カタカタとラップトップを操作する。

 

数秒ほどすると、共有されたデータが切り替わり、使用するフッ素ガスや酸素ガス、フッ化酸素の毒性及びその対処、必要な機材等が掛かれた書類が表示された。

 

「……結論から申し上げますと……フッ素ガスによる悪影響が100%無い、とは保証できません」

 

「しかし、今共有した書類の通り……味方に被害を齎さないよう、攻撃を行う距離には一定の安全基準を設け、その上で十二分な防護装備をこちらで用意すると約束します」

 

「これらは作戦の立案者であるエンジニア部の部長と特異現象捜査部の部長の両名が協議して策定された物であり、防護措置としては十二分な物である、とされています」

 

「詳細な説明も、書類がございますので……お時間のある時にでもご確認ください」

 

ユウカの真摯な説明を聞き、マコトは溜飲を下げたかのように頷いた。

 

[……まあいいだろう、それは話の分かる奴を呼んで、後日再び議論する ]

 

「わかりました」

 

ユウカのその言葉を最後に、十数秒ほどの沈黙が起きる。

説明がひと段落し、ある程度の納得を得られたと判断したユウカは意を決したように口を開く。

 

「……それで……実は、もう一つ皆さんにお願いがあります」

 

「作戦の実行中とその後しばらく、両校の戦力をミレニアムに駐在させて欲しいのです」

 

[ ふむ……理由をお聞かせください ]

 

ナギサがそう問いを返すと、ユウカは続ける。

 

「……先に述べた通り、"球体"とケテルは意思を共有している事が示唆されています」

 

「それと同じく……ビナーへの攻撃がケテルや"球体"に伝わり、その事を知った魔王やデカグラマトンが報復に出る可能性を考慮し、対策しておく必要があります」

 

「……身勝手な内容である事は承知ですが……多面的かつ効率的に襲撃に対処するため、作戦開始から終了後2日ほど、ミレニアムに駐在して警備に当たって欲しい……と言うお願いです」

 

"……これは私からもお願いしたいな。万が一の可能性は考慮しておくべきだし……デカグラマトンの全貌が把握できていない以上、何が起きるかは誰にも分からないから"

 

ユウカの言葉に続き、先生がカメラ越しに頭を下げる。

それを受けた二人は、数秒の思案を経て……答える。

 

[ 承知しました……この場での確約は出来かねますが……出来るだけの協力はすると約束しましょう ]

 

ナギサはそう言って、その言葉にマコトが笑う。

 

[ キキッ……我々は構わんぞ。風紀委員の連中にでもやらせればいいだろう ]

 

「……ありがとうございます。」

 

"ありがとう、二人とも"

 

ユウカは先生と共に感謝を述べて……"では"と話を区切った。

 

「……一度話を戻しまして……我々が構想している作戦の草案をお聞きください」

 

ユウカがそう言うと、アビドス自治区内の地図が共有される。

 

[ アビドス自治区の地図ですか、こちら確認できています ]

 

[ 私も確認できている、続けろ ]

 

「はい……まず、作戦開始時刻は砂嵐の起きていない快晴、かつ太陽の位置で方角を把握できる14時を想定しています」

 

「共有した地図に赤く示されている通り、砂漠エリア直近の西、南西、北西の廃墟を前線指揮所として使用する予定です」

 

「ゲヘナ機動部隊の二名、ミレニアムの観測手兼、通信手を一名、トリニティ砲術科の生徒を一名の四人一班を指揮所に各四班。計十二班を予定しています」

 

「そして各部隊に二両ずつ、砂漠用にチューンしたバイクを配備します。これによる捜索を行い、発見次第周囲の部隊に伝達。連携しつつバイクに積載した有線ミサイルにより攻撃を行う。……これを繰り返す事が、今回我々が提案する作戦となります」

 

「それで、連携に使用する方法なのですが……」

 

そう説明して、ユウカは今まで黙っていた部長の肩をとんとんと優しく叩く。

いまだ緊張している様子の彼女はその合図を受けて目を見開き……"うえっ!?"と驚声を漏らした。

 

「えっ、ええっと……こ、んかい想定される状況で有効な伝達方法は……」

 

「……大丈夫よ、普通に説明するだけでいいわ」

 

"うん。焦らず、ゆっくりでいいよ。落ち着くまで待ってるから"

 

ユウカと先生が優しく言うと、部長は深く息を吸い……吐き出した。

数秒ほどして、ゆっくりと、しかしはっきりとした声色で語り始める。

 

「……まず前提条件として、今回の作戦では通信が使用不可能ということですので……当然、非通信式の情報伝達方法を採択せざるを得ません」

 

「そして、砂漠という自軍の位置を把握するのが極めて困難なエリアで散開する過程を経る以上、遠方まで確実に届く方法が必須です」

 

「……よって、フレアガンや、銃声による信号をメインの伝達方法として提言します」

 

「色や発射パターンによって"接敵"や"救援求む"のように使い分けられますし……何より、きちんと性質を把握し、適切な位置取りを行い続ければ通信が無くとも部隊間の連携が取れます」

 

「加えて、発煙筒やホイッスル等の近中距離で有効な装備も加える事で、近くの部隊とより細かな意思疎通を行う事が可能です。……ただし、講習……というか、訓練が必要になるとは申し添えさせて頂きますが」

 

部長が語り終えると、ナギサは"なるほど"と得心したように続ける。

 

[……訓練期間が必要ということですが、元よりこの作戦は我々三校の生徒が一体とならなくてはなりません ]

[ この案を採択するにせよ、しないにせよ……合同訓練は必須でしょう ]

 

[ さて、あくまで草案としてですが……私はこの作戦は十分に現実的だと判断しました ]

 

[ よって、我々トリニティは三校合同訓練の実施を条件に、本作戦の参加を表明しましょう ]

 

[ お互いに、万が一の事態は避けたいでしょうから ]

 

"うん。ナギサの言う通り、作戦内容を踏まえると合同訓練は必要だと思う。連携が重要なら、まずお互いを知って、信頼する事から始めるべきだしね"

 

"それと……訓練を開催する場所はミレニアムが良いと思うな。……万が一デカグラマトンの報復が起きた時、駐在してくれる子たちがミレニアム内に慣れていれば、より効率的に動けるだろうから"

 

ナギサの言葉を先生がそう補足すると、ユウカは少し考えて"わかりました"と答えた。

 

「……この件、マコト議長はいかがお考えでしょうか。何かご意見があるのなら────」

 

[────フン、良いだろう ]

 

ユウカの問いを遮り、マコトは続ける。

 

[ 万魔殿の圧倒的な力を思い知らせてやる。刮目して見るがいい……キキキッ ]

 

「承知しました……では、ミレニアムで合同訓練を行うという事は確定として、こちらで準備を進めます」

 

そう言って、ユウカは手元のカレンダーにちらりと目を遣る。

 

「……皆さんがよろしければ、この場で開催する日付と期間も決めてしまいたいのですが、ご都合よろしい日などあるでしょうか」

 

ユウカがそう尋ねると、ナギサとマコトは両者"ふむ"と漏らした。

 

「ミレニアムとしては、会場も含めある程度調整が効きますので……いつでも問題ありません」

 

[ キキッ、ゲヘナ内は私の望むままに動かせるからな……いつでも構わんぞ ]

 

ユウカとマコトに続き、ナギサが答える。

 

[……今この場で決定する事はできませんが……]

 

そこまで語って、意を決したようにナギサは口を開く。

 

[……いえ、帳尻は合わせればよいでしょう。我々も、いつでも構いません]

 

「ありがとうございます。……でしたら、なるべく早い方が良いと考えますが……」

 

存外、迅速に纏まった話に内心驚きつつも、ユウカがそう尋ねると……ナギサが口を開く。

 

[ 早く、という事でしたら……トリニティとしては、明後日が最速でしょう ]

 

[ 我々は明日でも構わんぞ?キキッ、先に始めておくのも悪くない ]

 

ナギサに被せるように告げたマコトを諫めるように、先生が"いや"と続けた。

 

"足並みは揃えるべきかな、ゲヘナの子たちもあんまり急だと驚いちゃうだろうし……明後日にした方がいいと思う"

 

先生の言葉に、マコトは"ふむ"と呟く。

 

[……まあ、先生がそう言うのならば、そうしてやろう ]

 

「では……明後日、という事でいいでしょうか」

 

[ ああ、構わん ]

 

[ ええ、それで問題ありません ]

 

"よし、決まりだね……じゃあ、開催に向けて……少しだけ話し合いたい事があるんだけど、いいかな?"

 

[ もちろん構いませんよ ]

 

[ わかった ]

 

「わかりました」

 

 

────こうして、三校合同訓練の開催が決定し……この場の5人は打ち合わせのため、長い夜を過ごすのだった。

 

 

*1
Fire And Forgetの略称。ロックオンして発射した後はミサイルが自動で追尾し、その後の操作が必要ないミサイル全般の事を指す。FAFはあくまで大まかな区分のため、そのミサイルの特性に応じてフレアやジャミング等で対策できたりできなかったりする。

*2
(Inertial Navigation System)慣性誘導式。先に述べたFAFの一種だが、外部の信号を必要とせず、GPSやレーダーがジャミングされても自律的な誘導が可能なミサイル。高性能だが一発一発にとんでもない額のお金がかかる。

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