"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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訓練

 

午前:ミレニアム自治区/第二運動場

 

 

「────以上、かかれ!!」

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 

サキの号令と同時に、三人一班に分かれた三校の生徒たちは、各々の持ち場へ駆けていく。

 

 

「よい……っしょっ!!三脚よし!」

 

二人がかりでバイクに載せたパーツを外し、ゲヘナ生が三脚を展開する。

 

二両目のバイクから砲塔を運んできたトリニティ生がそれを三脚の上に乗せミレニアム生が固定具を持ち出す。

 

「砲塔固定します!!……ん?ええっと……ここは……」

 

「ふむ……ああ、ここの順番が間違っていますよ」

 

「……なるほど」

 

「……おい!!急げ!!」

 

「あっすみません!!」

 

「……今やっています!!急かさないでください!!」

 

二人は焦りながらもキリキリと固定具を嵌め、しっかりと砲塔を固定した。

 

「……固定できました!!」

 

「よぉし!!バッテリー接続完了!!」

 

ゲヘナ生がバイク後方のバッテリーからコードを引き込み、素早く砲塔に接続する。

 

「了解!コントロールパネル、照準器固定できました!!」

 

そこへミレニアム生がパチパチと手際よくコードを接続し、パネルを固定。

 

「弾体、接続完了!トラッカー、照準器オンライン!動作確認!発射準備よし!!」

 

「了解!3、2、1……発射!!」

 

カウントダウンの後、発射ボタンを押したその瞬間、"カチ"と時計が止まった。

 

「第7チーム……3分24秒。少しかかりすぎですが……まあ、初対面のチームにしては十分でしょう」

 

結果をさらさらとクリップボードに記しながら、ミヤコは続ける。

 

「手間取っていた通り、砲塔固定の手順は複雑ですから、反復練習を欠かさず行ってください」

「実戦では、バイクを停止してから発射可能までの時間が成否を大きく分けます。迅速かつ正確に、一分一秒に人の命が懸かっていると思うように」

 

「……では、30分後に同じ訓練を行います。それまでに各自、休憩と練習を済ませておいてください」

 

淡々と言って、ミヤコは別のチームの方へと去っていった。

 

……それを見送った三人は、気が抜けたようにその場にへたり込む。

 

「はあ……!!」

「くそっ……まあ、こんなもんか……」

「目標1分以内って……無理言ってくれますよね……」

 

「全くですね……はあ、とりあえず、お水でも飲みましょう……」

 

疲れを吐き出しつつ、二人はトリニティ生から差し出されたペットボトルを受け取る。

 

「ありがと……」

 

「助かります……」

 

ごくごくと水を嚥下して……ペットボトルを地面に置き、三人は立ち上がった。

 

「……まあ、こうして休んでいても仕方ありませんし、練習しましょう!」

 

「そうだな……!!」

 

「そうですね……」

 

そうして三人は、先ほど組み立てたミサイルを分解し始めるのだった。

 

 


 

 

午前:ミレニアム第二運動場/準備室

 

 

教官のサキとミヤコは、一度控室に戻って今後の方針を話し合っていた。

 

 

「……16チーム中、最速が1分57秒、最遅が5分32秒……そのうち、喧嘩になって脱落したのが2チームです」

 

「そうか……まあ、悪くないな。流石に各校の精鋭というだけはある」

「脱落チームも、構成メンバーを考えるなら2チームだけだった方が意外だな。初日はもっと滅茶苦茶な事になると思っていた」

 

「そうですね……まあ、それだけ現況が切迫しているということでしょう」

 

「あの羽沼マコトと桐藤ナギサが手を取り合うさまを見せられて、危機感を覚えない物などいませんから」

 

ミヤコは手帳に記録をつけながらサキの言葉にそう答えて、ちらりとスケジュール表を見る。

 

「とりあえず、今日は午後も含めて反復訓練という事で問題なさそうですね」

 

「そうだな。暴動鎮圧の手間がかからないのなら、もう少し詰め込んでもいいだろう」

 

「わかりました。脱落チームについての対処は……当初の予定通りという事で……」

 

話し合っているうち、時計は進み……予定時刻の5分前を指していた。

 

「……さて、そろそろ行きますか」

 

「ああ、行くか」

 

ぱたと手帳を閉じ、二人は訓練室を後にした。

 

 


 

 

同時刻:ミレニアム本校/旧特異現状捜査部

 

 

「やあ。こんなに早く校内で会う機会が来るとは思わなかったよ」

 

「はは……同感だ」

 

訪ねて来たウタハに苦笑いを返しながら、ルイは立ち上がる。

 

「ああ、座っていていいよ。傷の具合は大丈夫?」

 

「いや、心配しなくていい。余程の無理をしなければ大丈夫だ」

 

そう言って、ルイはティーカップに紅茶を注ぎ、ソーサーに乗せて差し出した。

 

「オレンジアールグレイだ。さっぱりしていて飲みやすいぞ。砂糖はそこの瓶だ」

 

「おっ、ありがとう。頂くよ……よいしょ」

 

ウタハは促されるままソファに座り、ルイと対面する。

彼女は差し出された紅茶を一口飲んで、小さく息を吐き出した。

 

「ふぅ……久しぶり。見たところ、義手の扱いにもずいぶん慣れたみたいだね」

 

「はは、おかげさまでな。この義手には助けられているよ」

 

ルイはそう言って義手を掲げ、軽く握って見せた。

 

「それはさておき、そちらの近況はどうだ?」

「……無理を押し付けてしまっている自覚はある。私にできることがあれば協力したいが」

 

「うーん、予算はミレニアムから十分もらってるし……作戦に使う装備の設計も殆ど形ができてるからね……特に手伝って欲しい事は無いよ」

 

「ルイさんは無理せず、スーパーノヴァの訓練に集中していてほしいかな」

 

「……わかった。他に何か必要になったら私を頼ってくれ、力になれるだろう」

 

ルイの言葉に頷き、ウタハは"じゃあ"と続ける。

 

「本題に入ろうか。スーパーノヴァの件なんだけど……どうする?君がここ本校に残るなら、どうにか場所を用意するけど」

 

「……それは私も決めあぐねている。ここに残って皆と共に動くのも良いが……特異現象捜査部にある設備の保全をトキ一人に任せるのも気が引けるからな」

 

「……そっか。一応、私達としてはここに残ってくれた方が嬉しいかな。細かく調整したいしね」

 

「……確かに、都度あそこまで来てもらうのも、君達に悪いか……」

 

そこまで言って、ルイは困ったように顎に手を当てる。

 

「いや……今この場で決めるのは難しいな。後でトキとヒマリに相談する。回答は少し待ってくれ」

 

「わかった、じゃあ一旦連絡待ちって事にしようか」

 

「すまないな……ありがとう」

 

そこで一旦会話が終わり、お互いに紅茶を一口飲んで……小さく息を吐き出す。

 

「……ああ、そうだ。一応聞きたいんだが……今日の予定は?」

「ヒマリに聞けばよかったんだが……聞いておくのを忘れてしまった」

 

ルイの問いに対し、ウタハは白衣の胸ポケットから手帳を取り出した。

 

「ちょっと待ってね。ええっと、13時から各校代表との会議、その後はSRTの子達と打ち合わせして……15時から連邦生徒会の人に使用する兵器についての説明会と……」

 

そこまで言ったところで、ルイが"待て"と表情険しく言葉を遮った。

 

「……連邦がか?話は付けたはずだが。担当者は誰だ、理由は?」

 

「うん。化学兵器の使用に際して、安全性や取り扱いを監査したいって……確か、防衛室長さんだったかな」

 

「……防衛室長が直々に監査か……ふむ、なるほど……」

 

ルイは思案し、ふと顔を上げる。

 

「……ウタハ、今からする話は、コトリたちを含めて、誰にも話さないでくれ」

 

「……約束するよ。何かまずい事でもあるのかい?」

 

物々しい言葉にウタハは僅かに眉を下げ、険しい表情で答える。

その回答に頷き、ルイは口を開いた。

 

「……連邦生徒会は、カイザーグループと癒着している可能性が高い」

 

「先日、アビドス砂漠の権利返還についての交渉でカイザーは"連邦を黙らせる"と鼻高々に言っていた」

「それに加え、先日のヴァルキューレ局長の汚職事件もある」

 

「個人か、部門規模か……そこまでは定かではないが、カイザーが連邦内部に影響力を持っている事は確かだ」

 

「……それは……恐ろしい話だね」

 

「……全くだ、仮にも全ての学校の総意たる機関が外部勢力の干渉を許すなど……」

 

ルイはそう語って、大きくため息を吐いた。

 

「……話を戻そう。権力や金に目がない連中のことだ。こうして干渉してきた辺り、この機に乗じて余計な真似を企てていないとも限らない」

 

「その防衛室長がカイザーの手指かまではわからないが……連中がこの件にかこつけて何かしらの条件を呑ませようとしてきた場合はいったん留保して、ヒマリか私に相談してくれ」

 

「情報も、重要な物は渡さないように立ち回ってくれると助かる」

 

「……わかった。とりあえずその場は濁して、回答は後日に……って事にしようか」

 

「ああ、それで頼む。終わったら議事録かレコーダーをヒマリに渡してくれ。必要なら……それなりの対処をする」

 

「……おっけー。それで……予定を聞いた辺り、何か用があったんでしょ?」

 

その言葉に、ルイははっと顔を上げた。

 

「そうだ……作戦で使う装備について相談したい事があるんだが、忙しいのなら後日で構わない」

 

「いいよ。20時以降なら空いてるから、夜になったらまた来るよ」

 

「……感謝する。重ね重ね、君達には苦労を掛けてばかりだ」

 

「ふふ、気にしなくていいよ。君の意図は知ってるし、協力すると決めたのは私さ」

 

「……ありがとう。本当に、感謝している」

 

それから少しの雑談を挟み……ウタハとの話は終わった。

 

 


 

 

夕方:ミレニアム自治区/第二運動場

 

 

「弾頭よし!!照準、トラッカー動作確認!発射準備完了!!」

 

「了解!……3.2.1……発射!!」

 

"カチッ"

 

「……2分28秒。順調に早くなっていますね」

 

「よっしゃ!!来たぁ……!!」

「やった……!!」

「はぁ……!!」

 

ミヤコの前にも関わらず、三人は地面に倒れ込み、気の抜けた声を上げた。

今日の目標だった二分台前半を達成し、嬉しそうに称え合う三人。

 

(……"訓練中に寝転がるなんて、たるんでいる"なんて指摘するのは、さすがに無粋でしょう)

 

「……今日の訓練はここまでです。明日もありますので、今日はゆっくり休んでください。お疲れ様でした」

 

喉まで出かけた言葉を飲み込んで、ミヤコはそっとその場を去った。

 

「はあ……疲れた……!!」

 

「全くですね……今日はもう動ける気がしません……」

 

「……早くお風呂に入りたいです……」

 

三人は愚痴を言い合いながらも、表情に笑みが浮かぶ。

その姿はあまりに眩しく、"青春"という言葉を体現していた。

 

 


 

同時刻:第二運動場最上階/テラス

 

 

「……順調のようですね」

 

「フッ、そのようだな……」

 

「ええ、問題なく進んでいるようで何よりです」

 

ナギサ・マコト・ヒマリの三人は、運動場内を一望できるテラスで会合を行っていた。

 

議題は……"起こった問題をどうするか"。

 

これは "初日はどうせ喧嘩や暴動で滅茶苦茶になるだろう" と踏んで、あらかじめ組まれていた会合だったが……目立った問題は起きず、それどころかかなり順調に進んだおかげで、この会合は代表者三人が穏やかにお茶を啜る謎の集まりと化していた。

 

「……って、一体何なんだこの会合は!!全然問題など起きないではないか!!私は貴様らとただお茶をするために来たのではないぞ!?」

 

「まあまあマコト議長。先の演説が胸に強く響いたからこそ、皆このように摩擦なく協力出来ているのです。ここは誇ろうではありませんか」

 

しびれを切らしたように大声を上げたマコトに、ナギサはティーカップをソーサーに置き、穏やかな声で告げた。

 

「ふふふっ、その通りですよマコト議長。マコトさんがあの時に皆をまとめてくれなければ、このように順調に訓練が進む事は無かったでしょう」

 

「むぅ……まあ、その通りだが……」

 

二人に窘められ、視線を逸らしたマコトの視界に……片付けを終え、解散する生徒たちが映る。

 

「……ふん、まあいい。私はここで失礼しよう」

「イブキとの時間まで無為に使う気はない。それではな」

 

そう言って椅子から立ち上がり、マコトはすたすたと去っていった。

 

「……ふふ、こうして接してみると……愉快な方ですね」

 

小さく笑ったナギサの言葉に、ヒマリはこくりと頷く。

 

「確かに、彼女と直接話す機会は殆どありませんでしたしね」

 

「ええ……耳に聞こえるのは、お互い悪く誇張された部分だけでしょうから」

「今回の件で、直接顔を突き合わせてお話する……という事の重要性について再認識しました────」

 

談笑する二人の間を、"ピロン"と小さな電子音が遮った。

 

「……おや、すみません……少し失礼します」

 

そう言って携帯を取り出し、画面と向き合ったヒマリは、僅かに眉を下げた。

 

「……すみません、重要な要件が入りましたので、私はここで失礼いたします」

「お紅茶、ご馳走様でした……次回は私おすすめの茶葉をお持ちしますので、楽しみにしていてくださいね?」

 

ヒマリはそう言って、どこか急ぐようにお辞儀をし、車椅子を後退させた。

 

「ええ、楽しみにしておきます……それでは、ヒマリさん」

 

ヒマリが部屋を去り、ナギサは部屋に一人残された。

 

「……ふう」

 

吐息と共にすくと立ち上がり、テラスの端に立つ。

目に映るのは、片付けを終えて尚、残って談笑する三校の生徒達。

 

確執や諍いなど、どこにもない。

 

「……ふふっ」

 

ナギサはゆっくりとテラスに背を向け、その場を去った。

 

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