"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

145 / 171
狂気

早朝:ミレニアム本校/旧特異現象捜査部

 

 

「…………」

 

朝日の前兆たる青白い光がカーテンの隙間から差し込み、夜の終わりを告げている。

 

……結局、あれから一睡もできなかった。

すっかり冷えてしまった紅茶を口に運んで、小さく息を吐く。

 

(……そろそろ、セイアが起きてくる頃か……)

 

昨日の事は、当然ながらセイアにも話さなくてはならない。

変化した状況、知られた情報。そして……私とナギサの会話も。

 

……きっと、叱られるのだろう。

 

「……ふっ」

 

ふと自分を客観視してみると、あまりに子供じみた考えに乾いた笑いが漏れる。

 

(……少し、頭を冷やすべきだな)

 

重い腰を上げて、私は洗面台に向かった。

 


 

朝:ミレニアム部室棟/仮眠室

side:セイア

 

「────んぅ……?」

 

ぎし、と揺れるような感覚で、私は覚醒する。

ゆっくりと瞼を開くと────ベッドサイドに腰掛けたルイが、こちらを見下ろしていた。

 

……薄明かりに照らされたその表情は、どこか儚げで。

未だ夢の余韻にある私は、現実との接続を確かめるように、彼女を見つめ返した。

 

すると、彼女はぱちりと瞬きをしたかと思うと……そっと私の頬を撫でた。

 

「……すまない、起こしてしまったか」

 

「……いいさ……ふあぁ。今、何時だい……?」

 

「6時半だ。眠いのなら、もう少し眠っていてもいい」

 

朝日に目を細めながら目元にかかった髪を払うと、もやのかかった思考が段々とクリアになり、一日の始まりを自覚していく。

 

「いや……いい時間だ……起きるとしよう……」

 

そう言ってお腹に力を入れ、ゆっくりと身を起こそうとすると、ルイは私の背を支えてくれた。

 

「……体調はどうだ?」

 

「特に問題はないよ……むしろ、寝起きにしては好調に感じるくらいさ」

 

「それはよかった……では、少し尻尾に触るぞ」

 

いつも通りの会話を交わしつつ、ルイはてきぱきと私の身支度を進めてくれる。

私の尾毛をリボンでまとめ、寝癖を櫛で直し……体温を測る。

 

されるがまま、心地よい感覚に揺られていると……ルイはふと口を開いた。

 

「なあ、セイア……」

 

「……ん……なんだい?」

 

「……いや、何でもない」

 

「ああそうだ、朝食に希望はあるか?今日は私が作る日だからな。君の要望を聞いておこう」

 

ルイは何かを言いかけて、はぐらかした。

尋ね返してもよかったが……彼女の事だ。きっと、寝起きにする話ではないと考えたのだろう。

 

それなら、今は朝食の話を進めるとしよう。

 

「……そうだね……うん。君に任せるとしようか」

「私は食事に疎いからね、メニューは君に任せた方が……きっと、良い体験ができるはずさ」

 

そう伝えると、私の髪を梳いてくれている彼女は "はは"、と笑った。

 

「わかった……それなら、君が喜んでくれるようなものを用意しよう。楽しみにしておいてくれ」

 

「ふふ、ありがとう。楽しみにしておくよ……」

 


 

朝:旧特異現象捜査部/キッチン

 

────それから、心地よい時間はあっという間に過ぎ……。

私はテーブルに座って、朝食の完成を待っていた。

 

頬杖をつきながら、料理をしているルイの背をぼうっと見ていると……"ピピ"という電子音と共に、背後の扉が開いた。

 

「……おや、おはようございます……今日は朝早いんですね?」

 

そう言いながら、車椅子の僅かな駆動音と共に、ヒマリが私の傍へと着いた。

 

「ああ。今日はルイが起こしに来てくれたからね」

 

そう説明すると、"なるほど"と呟いて、ヒマリはルイの方へと目を向ける。

 

「いい匂いですね……焼き魚ですか?」

 

「ああ、気付かなかった。おはよう、ヒマリ」

「今日は和食にしようかと思ってな。サンマと卵焼きに味噌汁、白菜の漬物だ。好みだろう?」

 

ルイがそう答えると、ヒマリは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ……大好物です、嬉しいものですね」

「それでは、できあがるのを大いに楽しみにしておきましょう……」

 

そう言って、ヒマリはそっと私の隣へと車椅子を寄せた。

 

「……セイアさん。ルイさんから昨日の件について聞きましたか?」

 

小声で伝えられたそれに、私は小さく首を振る。

 

「いいや……だが、後で話すような素振りはしていたよ。何かあったのかい?」

 

返答を聞いて、ヒマリは"ふむ"と小さく唸った。

 

「……そうですか。それでしたらルイの口から聞くべきでしょうし、私からは申し控えます」

 

「そうか……わかった」

 

そう答えると同時に、調理を終えたのだろうルイがこちらに振り返る。

 

「よし、できたぞ……さあ、テーブルを開けてくれ」

 

私達が言われた通りにテーブルを片付けると、ルイはそこに三人分の食膳を置いた。

 

「おかずの種類が多いから味噌汁と米の量は少なめに盛った。おかわりしたいときは言ってくれ」

 

ルイの言葉に"わかった"と答えつつ、並べられた朝食に目を向ける。

 

艶やかな白黄のコントラストを魅せる卵焼きに、丁度よく焼かれたサンマ。

シンプルな味噌汁に添えられた、白金のように美しい白菜の漬物。

 

……そして、ほくほくと湯気立ち昇る白米。

 

「おお……これは美味しそうだ」

 

「……なんとも食欲をそそる一膳ですね……ふふ、もう待ちきれません」

 

完成された一膳を前に、揃って感嘆の息を漏らすと、ルイは嬉しそうに微笑む。

 

「はは……ありがとう。さあ、冷めないうちに食べてくれ」

 

その言葉にヒマリと共に頷いて、私達は共に手を合わせた。

 

「「「いただきます」」」

 

 


 

────20分後。

 

朝食を食べ終えた私は、ルイとふたり、キッチンに残っていた。

 

「……さて、ヒマリは出た事だし……そろそろ、話してくれないかい?」

 

洗い終わった食器を拭いているルイの背にそう尋ねると、彼女は小さく息を吐いた。

 

「……君に隠し事はできないな」

 

そう肩を落とし、ルイは皿を食器棚に戻して、私の対面に座った。

 

「……まあ、どうせ話すつもりだったからな」

 

そう言って、ルイは話し始めた。

 

「端的に説明すると……私が作戦に関与している事が先生とナギサに感付かれてな」

「昨日の夜、ナギサがここに訪ねてきた。"目的を教えろ"……とね」

 

「ナギサがか……とりあえず、大まかな内容を聞いてもいいかい?」

 

「ああ、わかった────────」

 

 

……それから、ルイは昨日ナギサと話した内容を語ってくれた。

 

その内容に驚きはあったものの……どちらかと尋ねられれば、安心が勝った。

ルイの目的、朧気ながらも伝えられたそれは……ナギサに幾分かの救いを齎しただろう。

 

しかし────。

 

「……結局、君はナギサを突き放したんだね」

 

「……そうだ。……そうするのが、互いの為だと」

 

私の言葉に、ルイは固く瞑目し、苦しそうに答える。

"それでも、貴方を諦められない"……そう言ったナギサを突き放したのは、流石に堪えたようだ。

 

「"互いの為"、か。……まあ、君の考えはよくわかるよ。……だけどね、私はそれ以上に、ナギサの気持ちもわかってしまうんだ」

 

噛んで含めるように、優しく伝えて……ルイの肩に手を乗せる。

 

「いいかい。もう、君は魔王ではないんだ。……少なくとも、ナギサの中ではね」

「彼女はトリニティの代表者だが、所詮は一人の少女だ……あまり、傷付けないであげてくれ」

 

「…………」

 

ルイは黙し、何も言い返さない。

謝罪も、言い訳も……この場で語るそれらは、欺瞞に過ぎないと理解している故なのだろう。

それこそが、彼女なりの誠意であり──覚悟だった。

 

「……まあ、いいさ。……私はまだ、ナギサの元に戻る事ができるからね」

 

私がそう言った途端、ルイは少し驚いたように顔を上げた。

表情は変わらないが、瞳に揺らぎが見える。

 

(ああ……なるほど)

 

「……言い方が悪かったね。別に、君の元から離反する訳ではないよ……」

「少し話してくるだけさ。傷付いたナギサを一人ぼっちにするほど、私は酷い女ではないからね」

 

そう伝えると、ルイは僅かに目を泳がせ……"すまない"と頭を下げた。

 

「……君には後始末を任せてばかりだ。……ナギサを、頼む」

 

「……ああ、頼まれたよ」

 

そう答えて、私はそっと席を立った。

 


 

午前/ミレニアム寮区画/トリニティ代表者の部屋

side:ナギサ

 

 

訓練へと向かう生徒達を見送り、ナギサは部屋に戻ってきた。

 

「……?」

 

誰もいないはずの部屋の玄関には、見覚えのある小さな靴がひとつ。

 

(…………まさか)

 

ゆっくりと視線を廊下の奥へとやると────そこには、大きな耳を揺らす少女が居た。

 

「やあ……しばらくぶりだね、ナギサ」

 

視線が重なると同時にかけられた声に、ナギサは動揺を隠しながら返答する。

 

「……こんにちは、セイアさん。……いらっしゃっているとは思いませんでした」

 

「……連絡も無しにすまないね。それでも……君と話しておくべきだと思ってね」

「昨日、ルイと話した内容は聞いたよ。……私の立場も、知られてしまったようだ……」

 

「……帰ってください」

 

口を衝いて出た言葉に、セイアはぴんと耳を立てて……ゆっくりと首を振る。

そうして再び重ねられた瞳からは、確かな意思が感じ取れた。

 

「……いいや。君と話さないと帰れない。ルイから、"ナギサを頼む"と言われていてね」

 

「……ルイさんが、ですか?」

 

「ああ。……"君を傷付けてしまった"、と落ち込んでいたよ」

 

「…………」

 

(……ルイさんが落ち込んでいた。私の事で……?)

 

揺れる思考から滲み出たナギサの僅かな動揺を見逃さないように、セイアは続ける。

 

「……私は、君に話さないといけない事がある。だから、少しだけ話を聞いてくれないかい」

 

重く、しっかりと伝えられたそれに……ナギサは根負けしたかのように"ふう"と息を吐き出した。

 

「……わかりました」

 

そう答えてそっと席に着いたナギサに、セイアは小さく"ありがとう"と伝え、話し始めた。

 

「早速だが……ひとつ聞かせてくれ。君は、ルイをどう思う?」

 

急な問いかけに、ナギサは言葉を詰まらせた。

 

「…………どう思う、ですか」

 

「好きに言ってくれて構わない。彼女の目的の一部を……"デカグラマトンの撃破、および先生の排除"という計画を聞いたうえで、いま君がルイをどう思っているか……それが知りたくてね」

 

(……────)

 

それは既に、何度も何度も自問した。

しかし……ついぞ、答えは出なかったもの。

 

「……正直、よくわかりません……」

 

惑いを正直に言葉へと乗せて、ナギサは続ける。

 

「彼女が"よりよい未来"と形容したそれが、おそらく善であると理解してしまった今……私は彼女をどう認識し、どのような立場に立つべきか……一夜を経てなお、混乱しています」

 

「申し訳ありませんが、逆に問わせてください。セイアさんから見て、天城ルイという人間は……どのように見えているのですか?」

 

縋るようなその問いにセイアは"ふむ"と息を漏らし、少し考えこむように黙って……ゆっくりと口を開いた。

 

「……私にとって、か……そうだね。少し長くなるが、いいかい」

 

「はい……聞かせてください」

 

そして、セイアは重苦しく頷いた。

 

「私にとって、ルイはあまりに眩しい人だ……」

「かつて、私を絶望と諦観に沈めた"未来"を……彼女は打ち倒さんと立ち上がったのだからね」

 

「……未来、ですか」

 

"未来"。どこか遠くを見据えるように語ったセイアの言葉には、複雑な感情が籠っていた。

 

「ああ、そうだ。……すこし、今に至るまでの話をさせてくれ」

 

「……最初に私が攫われた時、彼女との対話を経て……私は、天城ルイという人間の歪みを知った」

 

「ルイは一見、完璧な人間だが……ひとつ、大きな欠点がある」

 

「彼女は "他者を一方的に庇護対象と見做し、助けようとする" 所がある。それはルイ自身の高潔さ、優しさと言えるかもしれないが────他方で、それはある種の傲慢とも言えるだろう」

 

「……とはいえ、それも当然だ」

「あれだけの能力、知識、理性を持った人間が、他者と自らを同列に考える訳がない」

 

「"優れた能力を持つ自分は、他者の役に立ち、護り、意義ある事を為さねばならない"。彼女はそう考えて……実際、そうして生きてきたんだろう。私達が知るようにね……」

 

(……確かに、その片鱗はあった)

 

彼女は他者の助けになる事に強い執着を見せていた。

"相談室"。かつて存在したそれは、彼女がトリニティの生徒全体に奉仕するための部局。

 

今になって思えば……それこそが、天城ルイという人間の本質を象徴していたのだろう。

 

────逡巡するナギサに十数秒の時間を与えて、セイアは"さて"と続ける。

 

「ここからが本題だ……そんな彼女は、ある日ひとつの可能性に気が付いてしまった」

「それは誰にでもある空想、妄想だ。例えば────"明日、世界が滅ぶとしたら?"」

 

「……それは正答のない思考実験だ。考えたとて、意味なんかない」

 

「……しかし、ルイは違った。……その問いに、彼女は一つの答えを見出してしまった」

「"明日世界が滅びるかもしれないのなら──今すぐに、できる最善を尽くすべきだ"、とね」

 

そこまで語って、セイアは一つ深呼吸をして、諦観の滲んだ息を吐き出した。

 

「……まあ、その答え自体は平凡と言える。明日を生きるための危機意識の再確認。それは防災であったり、環境の見直しだったり……そういった、普遍的な行動に結実するものだ」

 

「しかし……天城ルイという個人にとって、"できる事"という範囲は常人や私達のそれを遥かに凌ぐ。知っての通り、ルイは何でもできてしまうし、できてしまっていたからね」

 

「……それが、ルイがああなってしまった理由なんですか……?」

 

ナギサが投げかけた問いにゆっくりと頷き、セイアは声を震わせた。

 

「……思うに、私達は彼女に頼り過ぎたんだ。その結果として、ルイは"知り過ぎて"しまった」

 

「エデン条約で露見した超常的存在(ゲマトリア)の暗躍に、私の視た予知夢。更にはデカグラマトンやカイザー……秘匿されながらも、このキヴォトスにおいて脅威と目される存在は枚挙に暇がない」

 

「……心配性な彼女の事だ。それらを知っていく内に、ルイは "現状は薄氷の上の均衡に過ぎず、キヴォトスは今にも崩壊してもおかしくない" ……と、そう考え至ったんだろう」

 

「それらを排して、破滅の未来を回避するため……ルイは自らを"魔王"とし、あらゆる手段を用いる覚悟を決めたんだ。……キヴォトスを、私達を護るためにね」

 

「つまり────ルイの敵はトリニティでもなければ、ゲヘナでも、先生でもない。それは"現状"であり、"未来"そのものだ」

 

セイアの語った言葉に、ナギサはぞくりと背筋が冷える。

天城ルイの抱えていたものは、自分の考えより遥かに大きく……重いものだった。

 

「……よりよい未来。その意味する所は……そういう事だったんですね」

 

「……しかし……それは、時に"狂気"と呼ばれるものではないのでしょうか」

 

……"未来"を敵視し、"現状"に挑む。それはあまりに無謀で、途方のないもの。

そのために彼女が出した結論が、こうして皆を裏切り、自らを犠牲にする事だったというのなら……なんと、空しいのだろう。

 

ずき、と痛んだ胸を無意識に抑えると、セイアは声色低く、悲しげに口を開いた。

 

「……君の言う通りだ。それはもはや、無謀を超えた"狂気"。……ルイはそれに呑まれ、その身と引き換えにしてでも、よりよい未来という目的を果たそうとしていた」

 

沈痛な心境を言葉に滲ませたセイアは、絞り出すように"だから"と続けた。

 

「……ルイには枷が必要だった。彼女を縛り、その身を投げうつ事を抑止する枷が……」

 

「……枷、ですか?」

 

「……そうだ。……ルイは私に"命を賭す覚悟がある"と語った」

「誇張でもなんでもなく、さも当然かのように。……そんな事を、許す訳にはいかない」

 

「……だから、私は彼女の傍に居る事にした。想ってくれる者が居ると、忘れさせないために」

 

そう語ったセイアの言葉は重く、彼女の確かな意思が伝わる。

……"ルイと共にトリニティを裏切る"。その選択が、どれだけ苦しいものだっただろう。

 

「……そう、だったんですね……」

 

ナギサの返答に、セイアは所在なさげに瞳を揺らし……言葉を探すように視線を彷徨わせ、しばし口を閉ざした。

 

……だが、すぐに小さく息を吐いて、セイアは口を開く。

 

「……いいや、これは浅ましい言い訳だね。実際の所、私にとってもルイの計画は魅力的だった」

「ナギサ……昨日、ルイは、"(セイア)は利用されただけ"……と君に説明したそうだね」

 

「……はい」

 

「……それは一面において正しいが、ある側面では……むしろ逆だ」

「私は自らに刻まれた恐怖を打ち払うため、未来に抗おうとするルイの背を押してしまった……」

 

「……その結果が、今の私達を取り巻く現状だ。……すまない」

 

セイアは視線を落とし、悲痛な後悔を吐き出すように言葉を終えた。

 

「…………」

 

そんな彼女に掛ける言葉なく、ナギサは困ったように浮いた手を揺らす。

 

ナギサにはセイアを責める事も、まして断ずる事などできなかった。

 

 ────"未来"。 それは時に、希望の象徴ともされる言葉。

それを恐れる二人の気持ちは……理解しようとしても、到底、理解できない物なのだろう。

 

"ぎり"と固く歯を食いしばり、思案に耽る。

セイアの恐怖と、ルイの狂気を終わらせるためには、どうすればいいのか────。

 

「…………セイアさん。ルイに未来を、私達を信じてもらうために……どうすればいいんですか」

「デカグラマトンを倒せば、先生が不要なキヴォトスへと至れば……ルイは、狂気から醒めるんですか……!?」

 

思索の末、震え出た悲痛な問いに、セイアはそっと首を振った。

 

「…………わからない。ルイが恐れる"未来"は……そもそも、存在すらもあやふやな物だ」

 

「それ自体に対して打てる手がほぼ無いからこそ、ルイは万全の状況を実現するために動いている。デカグラマトンの排除や、先生という危険因子への対処も、それが理由だ」

 

「……たとえ、デカグラマトンを倒して、先生を排除しても……彼女が満足する事はないだろう」

 

「……だが、ルイの計画に終わりがない訳じゃない」

「彼女が私に語った、計画の終幕。……それは、彼女自身が、"魔王"が討たれる事だ」

 

「どれだけ強引な経緯を経たとしても、最後は元凶たる魔王が討たれる事で禍根なく終わらせられる。それを最後に脅威は一つ残らず消え去り、万全なキヴォトスが残る。というわけさ」

 

「……"ルイを倒せ"、と何度か君に願ったのは……私がルイの視点に立っているからではない」

「魔王を倒す事でしか、この計画は終わらないのだよ、ナギサ」

 

そう言い終えて……"しかし"とセイアは続ける。

 

「……今はその時ではない。ルイはこの作戦で、最重要兵器を運用する立場にある」

「矛盾しているかもしれないが……あらゆる観点から見て、今回の作戦の成功は必須だ。だから、今はこの作戦の完遂に注力してほしい」

 

語り終えたセイアは深く腰を折って、深々と頭を下げる。

ナギサは、"はあ"と微かな吐息と共に頷いた。

 

「…………わかりました」

 

その回答を聞いて、セイアは安心したようにゆっくりと頭を上げた。

 

「……ありがとう、ナギサ」

 

「……今更卑怯な物言いである事は承知しているが……私もルイも、君に負担をかけ過ぎている事をずっと、申し訳なく思っていた。本当に……すまない」

 

「……いいんです。理由を知れただけで、私は十分に報われました」

 

懺悔するように語ったセイアの肩に手を乗せ、ナギサは優しく答えた。

その言葉にセイアは目をきゅっと細め、再び頭を下げる。

 

「……私も、君に打ち明けられてよかった。本当に、感謝している」

「全てが終わったら……また皆で集まって、お茶会をしよう」

 

セイアの言葉に、ナギサは無意識に息を呑んだ。

時間にして1秒に満たないほどの沈黙。しかし、彼女にはそれだけで十分だった。

 

「……もちろんです」

「そのためにも……我々は役割を遂げなければなりませんね」

 

「……そうだね」

 

ちょうどそう言ったところで、正午を告げるメロディが鳴り響いた。

お互いに時計を見上げ、"ふう"と息を吐く。

 

「……もうこんな時間ですか。もう少しお話していたいですが……15分後に会議がありますので、私はこれで失礼させて頂きます」

 

「わかった。……では、またね、ナギサ」

 

「ええ。……ルイにも、よろしくお伝えください」

 

「ああ……伝えておくよ」

 

セイアさんに手を振り返し、私は部屋を後にする。

その足取りは、今までよりとても軽いものだった。

 

(ルイさん……必ず、貴方を救ってみせます)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。