"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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前日

────それから、長い時間が過ぎた。時間にして126時間。日にちにして5日。

明日に作戦の決行を控えた今日、ミレニアムには各校の生徒達が集う。

 


 

昼:ミレニアム自治区/ハイランダー鉄道ミレニアム駅

 

 

今日の駅は、いつにもまして人が多い。

 

ホームは所狭しと人が行き交い、スーツケースの車輪が床を擦る音が鳴り止まない。

列車のドアが開くたび、重たい足取りの生徒たちが足音を交わす。

 

……とはいえ、それも当然だろう。

ミレニアムから避難しようとする者に、ミレニアムを守護せんと他校より集う者……果ては、物見遊山に来た者まで……あらゆる目的が交差し、混沌を生み出す。

 

「ミレニアム外行きは逆のホームでーす!!こちらは臨時の到着専用ホームとなっていますので、反対側へ行って下さぁーい!!!」

 

駅員の悲鳴にも似た案内が、雑踏の騒めきに呑まれて消える程に……駅は人で溢れていた。

 

そんな中……がたんごとんと重厚な音を立て、ホームに一本の列車が到着する。

 

その列車は先頭の数両のみが人員輸送用の車両となっており、その後ろに連なる十を超える貨物輸送用の車両には、いくつもの兵器、機材が積載されている。

 

……"物々しい"という言葉は、この空間の為にあるのだろう。

日常とはかけ離れた、明らかに異質な雰囲気がホームの緊張感を更に煽り立てた。

 

そんな空気を意にも介さず、ぞろぞろと列車から降りてきた生徒達に混ざる二つの人影に……その場にいた生徒達はどよめいた。

 

 

「────ええ、ちょうど今到着したわ……そうよ、ミカも一緒」

「一緒だよーっ!」

 

────空崎ヒナ。聖園ミカ。

音に聞こえた暴力の化身が肩を並べ、人混みを避けるように改札へと歩き出す。

 

「……とりあえず、マコトたちと合流して指示を受けるわ。先生はどう?」

 

"うん。ミヤコ達はさっき合流した。FOX小隊の子達も来てくれてるから、心配いらないよ"

 

「……そう、よかった。……なら、こっちは任せて」

 

「うんうん☆私達がいれば大丈夫だから、先生は安心していいよ!」

 

"ありがとう。じゃあ、お願いするね"

 

「……ええ、先生も気を付けて」

 

先生のその言葉を最後に、スマホはヒナの外套へと消える。

二人は携帯から視線を上げ、取り囲むようにして集まっていた周囲の生徒達を一瞥した。

 

「……ミレニアム外へのホームは逆よ」

 

ヒナはぽつりとそう呟いて、ホームを去っていった。

 

 


 

 

同時刻:ミレニアム本校:セミナーの部室

 

 

「……ゲヘナの空崎ヒナ委員長と、トリニティの聖園ミカさんが到着しました」

「今は客間でお待ち頂いていますが……どうしましょう、先に会議室にお通ししましょうか?」

 

「いえ……二人には悪いけど、もう少しだけ客間での待機をお願いしてもらえる?」

 

「了解しました!」

 

 

「……トリニティから避難誘導専門の部隊が到着しました!」

 

「こちらも時間通りですね……ですが、説明会の用意にはもう少しかかりそうです……」

 

「……こちらの都合でただ待たせるのも恐縮ですので、第四会議室を待機所として開放し、人数分のお飲み物と軽食をご用意してください」

 

「わかりました!」

 

「連邦生徒会からリン会長代理が────」

 

矢継ぎ早に、何人もの連絡員が訪れては指示を受けて去る。

セミナーとしてまともに動けるユウカとノアの二人は、多忙を極めていた。

 

「……はあ、こんな時にリオ会長が居れば……」

 

ユウカが小さくぼやいた言葉は忙殺され、消えていった。

 


 

 

同時刻:ミレニアム本校/旧特異現象捜査部

 

「…………」

 

一人ぼっちの部屋に、無言が満ちる。

 

……ヒマリは説明会のため不在。セイアも来賓として呼ばれたため不在。

エイミもヒマリの付き添いで居ないし、当然トキも居ない。

 

そんなこんなで特異現象捜査部の部室には私一人が残る事となり……こうして暇を持て余す事となった。

 

……という訳でもなく、実は話し相手は一人いる。

とはいえ、彼女と話したい事は既に話し終えているし……なんとなく通話を切っていないだけだ。

 

 

「……君が相手をしてくれるのなら退屈はしないが……忙しいんじゃないか?」

 

沈黙をたたえた携帯に向けてそう言葉をかけると、小さな呼吸音の後、"いいえ"と言葉が返った。

 

[……忙しいのは否定しないけれど……私は別に、一人でないと作業が捗らないタイプではないわ]

 

通話相手……調月リオは、ぶっきらぼうにそう返事をした。

 

ぎこちない会話を交わすうち、私は内心"これはいい機会なのではないか"と思い始めていた。

……こうして、彼女とあてもなく会話をすることは初めてだ。

 

「……そうか、なら……もう少し話そう。君に聞きたい事は数多ある」

 

[……いいわ。作業の邪魔にならない程度の質問なら答えてあげる]

 

「ありがとう。……なら、遠慮なく聞かせてもらおう」

 

そう言って、私は話し始める。

 

「……ではまず、トキが操縦しているアビ・エシュフについてだが……あれは、君が造った物だと聞いた」

 

[……そうよ。あれは私が造ったわ]

 

「リオのそっけない返答に対し、私は静かに目を閉じる。そこには、抑えきれない熱意がこもっていた。

 

……私は覚えている。あの兵器(アビ・エシュフ)の力を。

 

「……あれは、常識を超えていた。空中での機動力も、あの威力のレーザー砲も……私の知る限り、現行の技術では実現不可能な物だろう」

「……デカグラマトン然り、オーバーテクノロジーの存在は当然認知している。だが、その技術を自らの物とした君には尊敬を禁じ得ない」

 

言葉には情熱が籠り、私は捲し立てるように発言を続ける。

好奇心。知識欲。浅ましくも崇高な欲望が、私の言葉の背を押した。

 

「……あの日、アビ・エシュフに救われた日の情景は、今も目に焼き付いている」

 

────想起するはかの日の記憶。

 

ケテルの奇襲を受け、死を覚悟した瞬間……それは私の眼前に現れた。

機関砲とミサイルの弾幕を潜り抜け────天を焼く蒼光を以って、ケテルの装甲を貫いた。

 

あの瞬間はきっと、永遠に忘れる事は無いだろう。

 

 

「……私も技術者の端くれだ。眼前に未知の技術を見せつけられては、黙ってはいられない」

 

「正直な話をするのなら、あれに使われた技術の全てが知りたい」

「……だがまあ、無理にとは言えない。技術を不用意に広めることの危うさは理解している」

 

「とはいえ、聞くくらいは良いだろう?」

 

そう言葉を終えると、リオは"ふう"と小さく息を吐いて……口を開いた。

 

[…………そうね。貴方とはもう隠し事をするような関係でもないし、教えてもいいわ]

 

[……その前に、ひとつ訂正させてちょうだい。元々あれは陸戦用の機体よ。エネルギー補助なしでの空中機動ができるように改修したのはヒマリで、私じゃないわ]

 

「……そうなのか?ヒマリからは何も……」

 

そう言いかけると、リオは小さく"そう"と呟いて、ゆっくりと続けた。

 

[これは推測だけれど……改修したとはいえ、自分の物ではない成果を誇るのは彼女のプライドが許さなかったんじゃないかしら]

 

「……ああ、なるほどな……納得したよ」

 

[……それで、話を戻しましょうか。アビ・エシュフは元々、私がミレニアムの地下に建設した要塞都市・エリドゥの防衛システムの一部として造った物で────]

 

────それから、私はリオからアビ・エシュフの設計思想、仕様などを全て教わった。

 

「……都市全体のエネルギーリソースと演算処理能力を集中させる事で、事実上無敵の兵器とするとは……実に面白い発想だ」

 

「……私が見たあれが、"設計上の最大出力ではなかった"というのも恐ろしい話だな……!」

 

感嘆をもって言葉を返すと、リオは少し黙って……複雑そうに口を開いた。

 

[……そうね。けれど……アビ・エシュフ自体のエネルギー処理能力と、それに応じたエネルギー容量は変わっていないはずよ]

 

[……演算処理による絶対回避は使えないにせよ、あのレーザー砲はエリドゥのエネルギー支援が前提で搭載された兵器だから──貴方が見たアビ・エシュフは、最大出力とも遜色なかったんじゃないかしら]

 

[……ヒマリの事よ。きっと、あの状態のアビ・エシュフを使うために、事前に膨大なエネルギーをため込んでいたはず。……特異現象捜査部にとって、あれは正真正銘の切り札よ]

 

[……私が言うべき事ではないかもしれないけれど、貴方はヒマリに感謝するべきね]

 

リオから伝えられた、かの日の真相。

それは私の胸に落ちて────じわりとした熱と、決意を与えた。

 

「……そうだな。今度、改めて感謝を伝えるよ」

 

────そんな事を話しているうち、気付けば30分ほどが過ぎていた。

 

[……そろそろいい時間ね。私は少し出る用事があるから、ここで失礼するわ]

 

「……そうか、話せてよかったよ、リオ。行ってらっしゃい」

 

[……私も、話せてよかったわ。作戦後は、話した通りに]

 

[ああ。万が一の時は……頼んだ]

 

私の言葉に"ええ"とだけ返答し、リオは通話を切断した。

数時間ぶりに訪れた孤独に、小さく息を吐く。

 

時計の音、空調の唸り声。

先ほどまでは認識すらしていなかったそれらが、いやに耳に響きだす。

 

(はあ……暇だな。とはいえ、持て余す訳でもないが)

 

足元に転がるダンベルへ目を遣り、そっと持ち上げる。

ずしり、と骨身に沁みる重みと、金属の冷感が手のひらに伝わった。

 

 


 

 

同時刻:ミレニアム本校/来賓用の部屋

 

「……こんな事なら充電機持ってくるんだった~~~~っ!!」

 

真っ黒な板へと変貌した携帯を恨めしそうに見つめながら、ミカは声を上げた。

 

「……確かに、思ったより待機時間が長いわね……何かあったのかしら」

 

そう言ってヒナが訝し気に目を開いた直後、"コンコン"と扉が叩かれる。

"失礼します"と淑やかに入室したのは……トリニティの代表者・桐藤ナギサ。

 

「……あっ! ナギちゃん! 久しぶり~っ!!」

 

「ちょっ、ミカさ──きゃぁっ!!……はあ……」

 

ナギサは勢いよく飛び着いてきたミカを受け止め……その背を撫でながら、ヒナへと向き直った。

 

「その……お久しぶりですね、ヒナさん」

 

「……直接会うのはエデン条約の時以来かしら、久しぶりね」

 

気まずそうな表情を浮かべるナギサの心中を察し、ヒナは何気なく返答する。

 

……すると、一呼吸おいてナギサは深々と頭を下げた。

 

「……その節は、ご迷惑をおかけしました。……そして、ミカさんを庇って頂いたことも……」

「ヒナさん。トリニティ代表として、桐藤ナギサ個人として……改めて謝罪と、お礼を申し上げます」

 

「……感謝も謝罪も必要ないわ。私はただ、仕事を増やしたくなかっただけよ」

 

ヒナはゆっくりと、ナギサに気負わせないようにそう伝えて、"それより"と話を区切る。

 

「……貴方が立ち直れたようでよかった。ミカがずっと心配していたから」

「ほんと! ナギちゃんのこと、すっごく心配したんだよ?」

 

ヒナは心からの安堵を。ミカは確かな友愛を。その言葉と表情に滲ませた。

 

「……本当に、ありがとうございます……」

 

ナギサは嬉しいやら情けないやら、眉を下げて複雑な表情を浮かべ……微かに声を震わせた。

 

ヒナはそんなナギサの様子を一瞥し、"ふう"と息を吐いて……ゆっくりと口を開く。

 

「それで……」

「ミカを迎えに来たの? それとも──何か、別の用かしら」

 

「っ……ええ。ゲヘナ側の責任者であるヒナさんもご一緒だと聞いたので……少しお話をしようかと」

 

ヒナの鋭い問いにそう答えたナギサは、入室した時に纏っていた真剣な雰囲気を取り戻しており……それを察したミカは、黙って椅子へと座り直す。

 

「えっと……何かあったの?」

 

不安げに尋ねたミカに、ナギサはゆっくりと頷く。

その瞳には強い意思が宿り、しっかりと二人を見据えていた。

 

「……はい」

「内々の話にはなりますが……万が一のことを考えるのなら、お二人には伝えておくべきかと思いまして」

 

「────天城ルイの……魔王の、目的について」

 

 

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