"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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咆哮

早朝:アビドス自治区北東部/廃墟

 

「…………」

 

遠方に走る装甲車の車列を遠目に、点検を終えた装備をケースへと片付ける。

 

ここは作戦エリア外縁部。すなわち、通信が阻害されるエリアのギリギリ外側に位置している。

いくら作戦に参加するとはいえ、連合部隊の指揮所へ顔を見せる訳にもいかない私は……こうして、目に付かない廃墟での待機となったのだ。

 

「……ふぅ」

 

吹き付ける砂塵を遮る簡易的なカーテンを張って、折り畳み式チェアに腰を落とす。

 

……住めば都とはよくいったもので、悪環境の中とはいえなんだかんだと落ち着く空間ができあがった。

 

"とぽぽ" と気の抜ける音と共に水筒から紅茶を注ぎ、口に運んで一つ息を吐くと……吐息は白く染まり、やがて消えていった。

 

……時期は冬。砂漠とはいえ、早朝は冷える。

紅茶でじんわりと体が温まったところで、私はホルダーから通信機を取り出した。

 

「……私だ、こちらは用意できた。作戦開始時刻まで待機するが、問題ないか?」

 

そう問いかけて数秒後、"ぷつ" と小さな音と共にヒマリの声が聞こえてきた。

 

[ええ、もちろん構いませんよ。作戦開始時刻まではまだありますし……ゆっくり休んでください]

 

そう語った彼女の語調はいつもより僅かに早く、作戦を前に忙しくしているのであろうと察させる。

 

「わかった。……では、少し仮眠を取る。何かあったらアラームを鳴らしてくれ」

 

[では、ブリーフィングが始まる頃に、この私手ずからモーニングコールをしてさしあげましょう。……ふふ、感謝してくださいね?]

 

「ははは……それなら安心して眠れるな。ありがとう」

 

小気味のいいやり取りに笑ってそう答えると、ヒマリは一瞬黙って……重苦しく口を開いた。

 

[その感謝は帰ってきてから、直接お願いします。……そのためにも、ゆっくり休んでくださいね]

 

その言葉には強い感情が乗っていて、私に決意にも似た覚悟を抱かせる。

"必ず成功させて、無事に帰る"……と。

 

「……わかった、約束しよう。……セイアにもよろしく伝えてくれ」

 

そう伝えるとヒマリは満足げに"ふふ"、と笑った。

 

[……ええ、もちろん伝えておきます。それでは……おやすみなさい]

 

「ああ、おやすみ」

 

それを最後に通信は終わり……私はゆっくりと、椅子の背もたれを後ろに倒した。

 

 


 

 

12:53 : 作戦エリア外縁部/指揮所

 

side:ナギサ

 

 

「……ナギサ様、全員揃いました。車両や機材、自走砲の配備も滞りなく」

 

指揮所内の仮設テントに入ってきた連絡員は恭しくそう言って、ナギサの返答を待つ。

その言葉を聞き、作戦エリアの地図と睨み合っていたナギサはゆっくりと顔を上げた。

 

「時間通りですね。……では、こちらも定刻通り、13時に演説を始めましょう」

「マコト議長にもその旨を伝えてください、よろしくお願いします」

 

「了解致しました」

 

連絡員は言葉少なに一礼し、テントを去った。

 

「…………」

 

ナギサはひとり無言で地図に目を戻し、数分の思考を経て、ふうと息を吐き出す。

想うは、この作戦の最重要ユニットであり……その存在を秘匿された者。

 

この後の演説はきっと、彼女も聞くのだろう。

ならば……私の言葉が彼女の胸にも届くように、心を尽くさなければ。

 

思考の中、気付けば固く握られていた拳を解いて、大きく深呼吸をする。

 

「はぁ……」

 

澱のように溜まった感情を吐息と共に押し出し……ナギサはゆっくりと立ち上がった。

用意した台本は置き去りに、テントの外へと足を向ける。

 

灰色のタープを除けて外に顔を出すと、日に焼かれた砂と機械油の匂いが一段と強まり……強い日差しがナギサに照りつけた。

 

眼に映るは綺麗に並べられた何十台ものバイクに、視界の端に映る自走砲の車列。

 

出口付近に控える救急医学部の救急車と、ヘリポートに鎮座するミレニアム校章の刻まれたドクターヘリ。

 

その周囲の医療テントには救護騎士団の面々も揃い、神妙な面持ちでナギサの登場を待っている。

 

「……台車通りまーす!!」

 

そんな中、"がらがら"と砂を蹴って運ばれていく砲弾の耳障りな音が、ナギサを現実に引き戻した。

 

「……ふう」

 

ひとつ、息を整える。

 

プレッシャーがないわけがない。……文字通り、命懸けの作戦だ。

自分の判断ひとつひとつに、人の命が懸かっている。

 

その重責が、ナギサの全身を押し潰さんと圧し掛かっていた。

 

────それでも、ナギサには確かな覚悟があった。

この作戦が無事に終わりさえすれば……真の意味での"日常"が戻る。

 

それは求め続けた"救い"であり、ナギサがその身を賭すには十二分な理由だった。

 

ふと、腕時計に視線を送る。

滑らかに回り続ける時針は1に重なって、刻の訪れを告げている。

 

「…………」

 

ナギサは僅かに口角を上げ────演説台へと確かな一歩を踏み出した。

 

「「「…………!!」」」

 

百を優に超える生徒達が、姿を見せたナギサを前に整列した。

 

ゆっくりと演説台へと登り、周りを一瞥する。

 

指揮所内で慌ただしくしていたメカニックやオペレーターたちもみな足を止め、ナギサの姿が見える場所へと集まってきた。

精悍な顔つきを浮かべた生徒たちは、じっとナギサの言葉を待っている。

 

ナギサは一歩踏み出し、マイクを握った。

 

 

「────時は来ました。」

 

 

はっきりと、力強く。

しかし耳通りの良い声でナギサは告げる。

 

そのたった一言が空を裂き、百を超える生徒たちの胸に響いた。

 

「……今日この日は、キヴォトスの歴史に新たな頁を刻む日となるでしょう」

 

「皆さんがここに集ってくれたこと。この数週間に渡り、時間を削り、知恵を絞り、恐れと向き合いながらも、準備を重ねてきてくれたこと……」

 

「そのすべてに────私は、最大限の敬意と、感謝を表します」

 

ナギサは拳を胸に掲げ、一拍を置いて、この場に集った者達を一瞥する。

 

「皆さん、これはいわば生存競争です。……脅威は未知数。命の保証も、ありません」

「それでも、我々は立ち上がったのです。────それは、何故(なにゆえ)か?」

 

「────理由はただ一つ。悪徒を滅し、我々の後に続く全ての者達の未来を守るためです!!」

 

張り上げたその声に、拳を握る者、歯を食いしばる者。張りつめた空気が鼓動をひとつにする。

 

「……束ねられた意思は、何よりも強い力となります。それは不壊の盾、無窮の剣となり────我々に勝利を齎すでしょう!!」

 

力強い宣言に、歓声や拍手はない。

しかし……その場の"意思"は、高まり続けている。

 

それを確かに肌で感じ、ナギサは一度視線を外し、カメラへと向き直った。

 

「ここに揃った皆さんを始め、物資の輸送を請け負ってくれたハイランダーの生徒達。

危険を覚悟で各校より集ってくれた医療スタッフ。

車両や機材のメンテナンスを夜通し行ってくれた各校の生徒たち……。

列挙するには時間が足りないほど、多くの方たちがこの作戦に心血を注いでくれました」

 

今この場におらずとも、耳を傾けている者達へと語りかける。

ナギサはカメラに対して一礼し、ゆっくりと顔を上げ……目の前で整列する生徒達へと目を戻した。

 

「……皆さん、どうか誇りをもって臨んでください」

「貴方達は、明日を願う全ての生徒達の意思そのもの!!」

 

「それを胸に誓っている限り────我々の勝利は、確実なのです!!」

 

そう締めくくられた言葉に、聴衆は沈黙する。

そして────誰かが、ゆっくりと、しかし力強く拳を天に突き上げた。

 

瞬間、誰もがその意図を理解した。────"これは勝利宣言だ"、と。

 

「「「────ッッッ!!」」」

 

歓声と共に、一瞬にして無数の拳が上がる。

重なり合った叫びは、ひとつの咆哮となって大地を揺らした。

 

それはまるで────"キヴォトス"という巨大な怪物が叫んでいるかのようだった。

 

 


 

 

13:27 : アビドス自治区北東部/作戦エリア外縁

 

side:ルイ

 

「はは……流石だな、ナギサ」

 

中継されたナギサの演説を聞きながら、私は遠方の指揮所へと視線を送る。

ここから数百メートルは離れているだろうに、現場の熱狂が伝わってくるようだ。

 

……これなら、士気の心配は不要だろう。

参加する隊員の練度も、たった2週間の訓練とは思えない程に仕上がっている。

 

私の方も、スーパーノヴァは随分手になじんだ。

体調は万全。久方ぶりの実戦なれど、一切の不足はない。

 

……ゆっくりと腕時計に目を落とす。

作戦開始時刻まで、あと半刻を切った。

 

────もうじきに、作戦が始まる。

もはや、私にできる事はただ全力を尽くすのみ。

 

バイザーを下ろし、防毒マスクを装着する。

僅かに暗くなった視界は、しかし曇りない。

 

「…………行くか」

 

スーパーノヴァを背負い……私は一歩踏み出した。

 

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