"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

15 / 172
会話

 

朝:アビドス近郊/ルイのセーフハウス

 

────目が覚めた。

壁に掛けた時計は、朝7時を指している。

 

ずいぶんしっかり睡眠を取ってしまった。

とはいえ、適度な休息は重要だ。

 

ベッドから起き上がり、伸びをして身体を動かす。

 

顔を洗ってから携帯を開き、メッセージを確認する。

通知は一件、差出人は不明。

 

添付された写真を見て、すぐに気付いた。

そこは昨日、榴弾砲の配達先に指定した廃墟だ。

 

すぐに上着を着て、現地へと赴くと……廃墟の内部には、巨大なコンテナが隠されていた。

 

コンテナの扉を開け、中身を確認する。

そこにはトリニティモデルの榴弾砲4門が複数のパーツに分解され、綺麗に収められていた。

 

(……本当に即日送り付けてくるとは。余程この"呪い"を捨てられるのが嬉しかったらしい)

 

あまりの仕事の速さに驚嘆しつつ、箱に収められていた砲弾を車両に積み込む。

 

(……とりあえず、砲の回収は後日に回そう)

 

今日は他に優先すべき用事がある。砲弾のみを回収して、私は一度拠点へと戻った。

 

朝のトレーニングをしながら、今日の予定を確認する。

 

まずは"業者"に注文した迫撃砲の回収……これは4、5時間もあれば終わる。

迫撃砲と榴弾砲をゲヘナ領内へ輸送するのは後日でいいだろう。

 

榴弾砲の一部パーツは牽引するしかない以上、昼は発見されるリスクが高い……夜間に何度かに分けて、少しずつやるしかない。

 

とりあえず、今日は迫撃砲の回収を済ませよう。

 

……つまり、時間には余裕がある。都合がいい。

 

私はともかく、セイアの栄養状態や体調が気になる。

ただ放っておくよりは、直接話した方がいいだろう。

 

そう思い立ち、私はキッチンへと向かった。

 

 


 

 

ポークの缶詰と冷蔵庫に入っていた野菜を適当に細かくして鍋に放り込み、煮込んで出汁を取る。

 

スープの出汁を取っている間に、パンと卵、ポーク缶詰の余りを焼いておく。

卵にはすこしだけ塩を混ぜて、油と少量のマヨネーズで焼くのが好みだ。

 

焼き上がったパンに、卵とポーク、レタスを挟む。

これで、サンドイッチの完成だ。

 

その間に煮立っていたスープからさっと灰汁を取り、コンソメをメインにしてだしつゆで味を調整。

味が整ったら、少量の胡椒と調味料を入れ……完成だ。

 

味見を──……よし、美味い。

 

自分で言うのもどうかと思うが、これで栄養も十二分に取れるなら満点だろう。

 

(……よし、セイアを起こそう)

 

監禁部屋のロックを外して中に入ると、セイアは椅子に腰かけ、本を読んでいた。

 

「……起きていたか」

 

「やあ、おはよう……ノックくらいはしたらどうだい?」

 

こちらを一瞥し、本を置いたセイアは、ぶっきらぼうにそう言った。

 

「簡単なものだが、朝食を用意した。……いま食べるか?」

 

「……君、料理も出来るのか?」

 

セイアはどこか呆れたような様子でそう言った。

 

どうやら、私は料理が出来ないと思われていたらしい。

確かに、人に食べさせたことはなかったが。

 

「……拙いものだが。少なくとも、不味くはないものは作れる」

 

「……まあ、ここの蔵書を見れば納得もするよ、是非いただこう」

 

そう言ってセイアは立ち上がり、読んでいた本を本棚に戻した。

 

「わかった、今用意する。……そこのテーブルに椅子を用意しておいてくれ」

 

食欲はきちんとあるようだ、ひとまずは安心できた。

食事を皿に盛り付け、部屋に持って行くと、セイアは椅子に座って待っていた。

 

「……ゆっくり食べてくれ、食べ終わった皿はシンクに置いてくれればいい」

 

そう告げ、トレイをテーブルに置いて部屋を出ようとすると

 

「待ってくれ」

背後から止められた。

 

「まさか、私にひとり寂しく食べろ……と言うんじゃないだろう?」

 

セイアはそう言って、対面に置かれた椅子を指し示す。

 

「……そうだが」

 

「君も一緒に食べないか?」

 

「…………」

 

(……あまりセイアに……人質に入れ込まないようにしたいが……)

 

体調確認も含め、話はしておくべきか。

 

「……わかった」

 

一度部屋を出て、自分が食べる分の食事を盛り付ける。

 

(そういえば……紅茶を除けば、自分の料理を人に食べさせるのは初めてか、口に合うと良いが)

 

とはいえ、相手はティーパーティーのトップだ。多少の不評は覚悟しておこう。

そんなことを考えながら、トレーを持ってセイアの部屋へ戻り……テーブルに着いた。

 

料理を差し出して、数秒。

 

……手が進んでいないようだ。

なにか不都合でも…と目を向けると、セイアは手を胸の前に持ってきて

 

「いただきます」

 

手元で十字を切りながら、そう言った。

 

……なるほど。

 

「……いただきます」

 

礼節を欠いていた、と自省しつつ私も続ける。

 

サンドイッチを一口かじる。

我ながら悪くない出来だ、と内心で自賛する。

 

……そうだ、セイアは……。

 

ちらりと目をやると、セイアはサンドイッチをその小さな口でもぐもぐと咀嚼していた。

 

「……うん、おいしいよ」

 

私からの視線に気付いたのか、こくりと飲み込んだ後にセイアは感想を伝えた。

 

「……そうか」

 

照れ隠しにもならない返事をすると、セイアはくすりと笑った。

 

「世辞ではなく、本当に美味しいよ」

 

このスープもね、とスプーンを口に運ぶ。

 

……話題を変えよう、料理を褒めてくれたのは嬉しいが……。

このままだと、"人質と誘拐犯"という関係が崩れそうだ。

 

「……体調に異常はないか?」

 

露骨な話題転換に、セイアはふふ、と笑う。

 

「君は変わらず、心配性のようだ」

「……今の所は問題ないよ。逆にゆっくり休めて好調なくらいさ、寝具も良い物を揃えてくれたようだからね」

 

スープを一口飲んで、セイアはふぅ、と息を吐きだした。

 

「不満があるとすれば……流石に暇を持て余すかな」

「ここの蔵書は技術書と実用書ばかりで、どうも私には合わなくてね……」

 

と、セイアは不満そうに伝えてきた。

 

「ふむ……わかった。今日は外に出る用事があるから、なにか買ってこよう……希望はあるか?」

 

しばらくここに監禁する都合上、メンタルのケアはしておくべきだ。

そう結論付けて、希望を問う。すると、セイアは"ふむ"と唸った。

 

「……なら、君に任せ……るのはやめておこう」

「私が言えたことではないかもしれないが……君は、世間一般的な娯楽を知らなさそうだ」

 

否定はできない。

そうだな……と口に出しながらわざとらしくセイアは悩んでいる。

 

「資金には困っていない。暇つぶしの道具を買ったところで全く問題はないさ……なにか、興味のある娯楽物はないのか?」

 

「そうかい。なら、遠慮なく……そうだな、テレビゲームを買ってきてくれ」

 

"いい案が思い付いた" とでも言いたげな顔で、セイアはそう言った。

 

「……ふむ、意外だな」

 

思ったことをそのまま口から出すと、セイアはすこし笑った。

 

「そう思うかい? まあ、寮や学校では護衛や使用人の目があるからね……サンクトゥスのトップが、ゲームなんかしていてはイメージが崩れてしまうだろう?」

 

「……私だって、やってみたいことは色々あるのさ」

 

自嘲気味にそう言ったセイアは、溢れかけた愚痴を飲み下すようにスープを飲み終えて、トレーに戻した。

 

「苦労しているな……わかった、用意しよう」

 

 

あまりゲームには詳しくないが、ミレニアムに駐在していた時にゲーム開発部の部員と少し遊んだ経験がある。

 

たしか、身体を動かすO-フィットなるゲームがあったはずだ。

あれなら、運動不足の解消にもなって丁度いいだろう。

 

「ああ……期待して待っているよ」

 

その言葉に首肯を返して私も残ったスープを飲み干し、トレーに戻す。

 

そのままお互いの飲み終わった食器をまとめ、席を立った。

ちらりと時計を見ると、まだまだ時間はあるようだ。

 

────そうだ。

 

「────紅茶を淹れようと思うんだが、飲むか?」

 

そう聞いてみると、セイアは大きな耳をぴん、と一瞬震わせた。

 

「……君が淹れるのか?」

 

と意外そうに聞いてきた。

 

「……ああ、飲まないのなら──」

「いや、いただくよ」

 

私の言葉を遮るように、セイアは言った。

 

「……わかった、すぐに用意する」

 

それだけ告げ、キッチンへと向かう。

 

(…………)

 

セイアと話していると、なんとなく。紅茶が飲みたくなった。

……トリニティを出てからまだ2日しか経っていないが、私の身体は紅茶を……あの "お茶会" を求めている。

 

少しだけ軽くなった気分に気付かないふりをして、やかんに火をかけた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。