"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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窮状

同時刻:ミレニアム自治区/第四区画上空

 

 

────風を突き抜け、夜空を渡る。

 

「…………」

 

目下の都市はまるで生気を失ったかのように、沈黙している。

その中にぽつぽつと灯る橙色の光が、人の営みに取って代わったかのように瞬いていた。

 

「……君は、平気なのか?」

 

「……何がです?」

 

私の背にしがみついている彼女にふと問うてみると、彼女は意図がわからないとばかりに答えた。

 

「いや……"酔っていないのか"、とね」

「あえて語らなかったが、この移動方法は中々評判が悪くてな」

 

「……まあ、あまり気分の良いものではないですが、今の所は平気です」

 

「そうか……なら、今のうちに少し聞きたいことがある、いいか?」

 

「……まだ貴方を信用したわけではありませんので、今は、答えられることだけ」

 

「構わない。これはただ……個人的な質問だ」

「なぜ、あの場で私を信じた?」

 

その問いに、彼女は僅かに沈黙して……ゆっくりと、答えた。

 

「……いえ、先に言った通り……信じた訳ではありませんよ」

「ただの……そうですね、アコ行政官の言葉を借りるのなら……独善的な自己犠牲です。……私はもう、戦えませんから」

 

重苦しく吐き出された言葉に私が返す間もなく、彼女は小声で続ける。

 

「あなたが去ろうとした時……"これだ"、って思ったんです」

「今の私にできるのは、あなたという可能性に賭けることだけだって」

 

「もし、貴方が敵だったとしても……私という荷物が一つ減るなら、それはそれでいいかなって」

 

彼女の答えは、あまりに哀しいもので……しかし、目を背けることは許されない、私の罪。

この状況を招き、その選択を強いた────私の。

 

「……そうか。君のそれは、確かに褒められるべき行いではないが……」

「結果論的な、あるいは全体的主義的な極論を用いて評価するのであれば、悪くない選択だ」

 

「……君の勇気と選択に、私は心よりの感謝と、謝罪を贈ろう」

 

「…………」

 

無言が返って、会話はそこで途切れた。

これ以上を聞いても、答えてはくれないだろう。

 

……今はただ、目の前に集中すべきか。

罪悪感を噛み潰しながら、私は翼に力を込めるのだった。

 


 

夜:ミレニアム自治区/外縁

 

 

"────ガシャァンッ!!ギャリギャリギャリッ……!!"

火花を散らして、地上へと降り立つ。

 

「……ふう」

 

着地に際して乱れた息を整えるため、小さく息を吐く。

ここからはジップラインを撃ち込めるような建造物もない、ただ広い道路が続く。

 

周囲に敵がいないことを確認して、私はゆっくりと地に膝を着いた。

 

「……ここからは歩きだ。立てるか?」

 

「ええ、なんとか……」

 

そっと地に足を付け、立ち上がった彼女は、言葉とは裏腹にふらふらと歩き始めた。

 

「無理はしなくていい。もう少し背負っておくか?」

 

「……いえ、自分で歩けます」

 

「そうか。では、急ごう」

 

そうして、私達は走りだし────少しして、目的地へ到着した。

暗闇に紛れるように鎮座するヘリは荒らされた様子もなく、眠るように回転翼を垂らしている。

 

「……見えたぞ、あれが私達の通信拠点……もとい、無人ヘリだ」

「もともと人が乗る想定はされていないゆえ、少し狭苦しいだろうが……乗ってくれ」

 

そう言いながらレバーを引き、バックドアを押し上げて、彼女をヘリの中へと招き入れる。

彼女は身をかがめて中へと入り、ドローン収納用のスペースへと背を預けた。

 

「よし、少し待っていろ……」

 

フラッシュライトの明かりを頼りにビーコンの電源を点けると、いくつものランプが点灯し……頭上に固定されたスピーカーから、ザラついたノイズが響きはじめた。

 

「……リオ、私だ。応答してくれ」

 

スピーカーから伸びる小型のマイクを口元に当て、何度か声をかける。

それから何度かコールしていると、"ぶつり"という音が響いた。

 

[……ごめんなさい、少し離れていたわ ]

[ それで、状況はどうかしら ]

 

少し走ったのか、僅かに息を乱れさせながら彼女は答える。

当然ながら、あちらも立て込んでいるようだ。

 

「少なくとも、楽観視できる状況にはなさそうだ」

「まとめて説明しておきたい、先生には繋げるか?」

 

[ ええ、彼には既に連絡済みよ、もう少ししたら……]

 

"……もしもし、リオ?"

 

リオが言葉を終える前に、もはや聞き慣れた声がマイクから響く。

 

「ああ先生、私だ。……本隊の位置と、ある程度の状況がわかった」

「今から伝えるから、救援部隊に共有してほしい……用意いいか?」

 

そう尋ねると、先生は "ちょっと待っててね" と言って、マイクの元を離れたのか僅かに声が遠くなり……少しして、マイクの元へと戻ってきた。

 

"……お待たせ、みんなすぐ動けるように準備してくれてるから、こっちは大丈夫だよ"

 

その言葉を裏付けるように、彼の背後からは何人もの生徒の慌ただしい声が聞こえてくる。

この短時間でそれだけの人数を集められているのは、流石というべきか。

 

「よし。では……詳細な状況は本隊の者に直接話してもらおう」

 

そう言って、隣で黙りこくっている彼女の元へと視線を向ける。

 

「……信じてくれるな?」

そう小声で尋ねると、彼女はゆっくりと頷いて……マイクの方へと体を寄せた。

 

「……その……皆さん、初めまして」

 

彼女はおずおずと、マイクに声をかける。

そんな彼女に二人は口々に挨拶を返して、続く言葉を待つ。

 

「えっと、何から話せば……」

 

そう言って、彼女は困ったようにこちらに視線を向けた。

 

「……ならまず、襲撃が発生してから何があったのか、どう動いたのかを話してくれ」

「我々はまだ、当時なにが起きたのかを把握できていないからな」

 

そう伝えると、彼女はこくりと頷いて、"では……"と続ける。

 

「まず……最初に地震というか、大きな地響きと爆発音が聞こえたんです。それと同時に……全ての電源、通信が落ちました」

「それからすぐに、待機していた部隊全員に調査の命令が下って……私はヒナ委員長たちと一緒に、震源地と思われるミレニアムの中心地に向かって……"それ"を見たんです」

 

"……それ、って?"

 

先生が聞き返すと、彼女は僅かに瞳を伏せた。

ふるふると震える拳から、彼女の恐怖が伝わってくる。

 

「それは巨大な……"機械のタコ"のような見た目をした兵器で……何本もある触腕を振り回しながら、あちこちにロケットのような、兵器というか……機械の柱?……を撃ち込んでいました」

 

「私達はそれとの交戦を試みましたが……乗っ取られた対空砲や防衛用の兵器がこちらに向けて攻撃を仕掛けてきて、"タコ"の元へは近付くこともできず……」

 

「数分ほどでヒナ委員長が撤退を決断して、いちど拠点に戻ってから対応を練り直すことにしたんですが……正直、その時にはもう手遅れでした」

 

「撤退の最中、あちこちからオートマタの軍勢が現れて、戻った時には拠点も制圧されてて……それからなんとか逃げ込んだのが、第七区画の地下浄水場なんです」

 

彼女がそう説明を終え、皆が重苦しい沈黙に包まれる中……私は"ふむ"と思案する。

 

(……地下から現れた"タコ"……)

 

「……ひとつ聞きたい、その"タコ"とやらは……頭上に天輪(ヘイロー)があったか?」

 

「はい。事前に共有されていた機体とも違う、間違いなく未知の機体でした」

 

「そうか……」

 

……天輪を戴く巨大兵器。それは間違いなく、ビナーやケテルに連なるものだろう。

地下から現れたとなると……地盤もろともミレニアム自治区が破壊される可能性もある。

 

("タコ"の対処優先度は、ほぼ最優先と考えるべきか)

 

そう結論付けて思考を一旦断ち切り、次の質問へと移る。

 

「……わかった。それでは、もうひとつ聞かせてくれ」

「先ほど赴いた際には姿が見えなかったが……ヒナやツルギ達が今、何をしているかわかるか?」

 

尋ねると、彼女はそっとスマホを取り出して画面を確認し、すぐにポケットへと戻した。

 

「えっと……ヒナ委員長やツルギさん達はオートマタの出現経路調査のため、2時間ほど前に出て行きました」

「長くとも3時間ほどで一旦戻る、という話でしたので……もう少しすれば、本隊の方に戻って来られると思います」

 

"ツルギとヒナたちは一緒に行動していて、もう少しすれば返ってくる"。

つまりそれは、戻ってきた主力級の生徒とまとめて話せるということ。

 

彼女達と連携できるのなら、ヒマリやセイア達を救出できる確率は大きく上がるだろう。

じわりと胸に沁む僥倖を音もなく吐き出して、私は口を開いた。

 

「……了解した、私からは以上だ。あとは……先生?」

 

そう話を振ると、先生は"じゃあまずは"、と前置きして話し始めた。

 

" 不足している物はある? 救援に向かう子たちに持って行ってもらうから、何でも言ってね "

 

優しく伝えられた先生の言葉に、彼女は僅かに思案する。

 

「医療品……特に包帯と鎮痛剤、消毒薬、ガーゼや生理用品が足りていないと救急医療部の方が仰っていましたが……」

 

たどたどしく絞り出された答えを遮るように、彼女の肩を優しく叩く。

 

「"特に"、でなくていい。プレッシャーをかけるようで悪いが、今は君の言葉が全てだ」

「僅かにでも、"心もとない" "行き渡っていない" "余裕がない" ものがあれば、それは全て不足と呼ぶ。ここは皆のためにも、思いつく物を列挙した方がいい」

 

私がそう補足すると、彼女はハッとしたように顔を上げて……こくりと頷いた。

 

「……いえ、実際の所、なにもかもが足りていません」

「元々の拠点は制圧されてしまいましたので、食料や飲料、弾薬に防寒具も……見た限りですが、このままでは一日二日持たせるのが限界だと思います」

 

はっきりと伝えられた窮状に、先生が苦しげに息を呑む音が聞こえた。

 

"……わかった。ありったけ持って行ってもらうようにお願いするから、安心して待っててね"

"教えてくれて、ありがとう"

 

彼は沈痛を言葉に滲ませつつも、努めて優和に言葉を返す。

 

「……いえ、こちらこそ……ありがとうございます。先生」

 

そう答えた彼女の顔には、確かな安堵が浮かんでいた。

 

 

「……よし。では先生、救援部隊はあとどれぐらいで来れそうだ?」

「1時間以上かかるようであれば、その間に本隊に話を通し、物資の護衛を行うよう伝えておくが」

 

話を進めるついでにそう提案すると、先生は考えるように小さく唸って、"そうだね……"と続けた。

 

"そちらに到着するまで、早くて2、遅くて3時間くらいかかると思う"

"参加してくれる子たちの編成は済んでるけど……移動手段が車両しかないから、物資の調達と合わせて、それぐらいかかるはず"

 

「……了解した。では、その間に話を通しておく」

「ちょうど主力部隊も戻ってくるだろう。そのついでに、代表者奪還についての話も進めておく」

 

" わかった。大変だろうけど……お願いするね "

 

「……ああ、任せておけ」

 

 

「……それで、リオ。そちらはどうだ?」

 

先生との話もひと段落終え、リオの状況を伺う。

すると、リオは"ええ"と相槌を打って話し始めた。

 

[ こちらはまだ準備段階だけれど、人は集まったわ ]

[ 一時避難していたヴェリタスにエンジニア部……それに、アビドス現地に残っている対ビナー部隊の協力も得て、現在回収部隊を編成している所よ ]

[ あとは機材と車両が届いて、防護措置が整い次第、機体の回収を始めるわ ]

 

「了解した。……では、私は再びここを離れるが……およそ2時間ほど後に一度報告に戻る予定だ。よって、通信には応答できるようにしておいてくれ」

 

「私からは以上だが……君からは、何かあるか?」

 

隣で縮こまっている彼女に目を遣り、肩を叩く。

すると、彼女は驚いたように身体をびくりと振るわせて、どもりながら答えた。

 

「……あっ……いえ、特には……」

「……なんと言えばいいかはわかりませんが……その、よろしくお願いします」

 

そう言って彼女は深く、深く頭を下げた。

通信越しにその誠意が伝わったかのように、先生は答える。

 

"もちろん! ……みんな絶対に助けるから、安心して待っててね"

 

「っ……はいっ!」

 

小さく息を吸って、口元を押さえながらそう答えた彼女の目尻には、ひとつ小さな雫が伝った。

 

……恐怖、絶望。

言葉にせずとも、内心に渦巻いていたそれが、確かに融けたのだろう。

 

言葉で誰かを絶望より救い上げることなど、私にはできない。

"これが人徳か"、と内心で思いながら、私はここで話を区切ることにした。

 

「……では、今回はここまで、ということでいいか?」

 

"うん、大丈夫だよ"

[ ええ、問題ないわ ]

 

「……よし。ではまた2時間ほど後に連絡する。以上」

 

そう言葉を終え、通信は切れた。

ふうと息を吐き、隣で俯いている彼女の背をぽんと叩く。

 

「……さて、早速で悪いが、本隊の元へ戻ろう」

「君が今の会話を説明してくれれば、アコも多少は聞く耳を持ってくれるはずだ」

 

そう伝えた私に、彼女はぽつりと尋ねた。

 

「……あなたの目的は、何なんですか?」

「あれだけめちゃくちゃなことをしておいて、急に味方面して……」

「先生も、リオさんも……どうしてあなたを信じているのか。正直……理解できないんです」

 

困惑を隠さない揺れる瞳が、私へと向けられる。

 

「……君と同じく、信じるに足るだけの証拠を提示した……というだけの話だ」

 

通信機材の電源を落としながら、端的に告げる。

 

「……それについて、今ここで長々と説明する気はない。さっさと行くぞ」

 

「……わかりました」

 

彼女の手を引いて、ヘリの外へと出る。

機内の生暖かい空気は一瞬で霧散し、冷たい夜風が私達を撫でた。

 

「……少し急ごう。私が走るから、君は背に掴まっていると良い」

 

そう言って地面に膝を着くと、彼女は驚いたように小さく息を漏らした。

ビルの影も無い月明りの下で、私の欠けた翼に気が付いたのだろう。

 

「……あの、その翼、大丈夫なんですか……?」

「その、すごく痛々しいというか、新しい傷に見えるんですが……」

 

「大丈夫だ、処置は済んでいる。心配しなくていい」

「だが、傷口を動かしている都合上どうしても体液は滲んでしまう。気になるかもしれないが、我慢してくれ」

 

「……そういう訳では……いえ、その、無理はしないでくださいね」

 

彼女はおずおずと言葉を終えて、そっとランチャーに足をかけ……私の背にしがみついた。

 

「……よし、いくぞ。揺れるだろうから、口を開くなよ」

 

"ガシャン"、と大地を踏みしめ────強く、蹴り出した。

 


 

 

同時刻:ミレニアムタワー/管制室

 

 

非常灯の薄明りの中、代表者たち5人は無言で思案を続けていた。

 

「……現状を纏めるとしよう」

 

手を組み、重苦しく言葉を紡いだマコトは、淡々と続けた。

 

「まず……我々はここからは出られない」

「隔壁を破壊するだけの火力もなければ、コントロールシステムへの干渉も不可能らしい」

 

「他方、その隔壁のおかげで我々は今もこうして呑気に話せている訳だが……」

 

嫌味っぽく言ったマコトは背もたれに寄りかかって……背後のエイミへと視線を向けた。

 

「それで……露出狂。食料はどれほど持つんだったか?」

 

「……5人で分けるとして、切り詰めても2日持たないと思うよ。……あと、エイミ」

 

「キキッ、悪かったな……して、どうする?」

 

投げかけられた言葉に、ヒマリはくるりと車椅子を転回させた。

 

「おや……マコト議長。"不可能"と言った覚えはありませんよ?」

 

不敵な笑みを浮かべたヒマリは、手元のパネルを操作しながら続けた。

 

「出来る範囲で解析を進めた限り……隔壁を開けるだけなら、恐らくは可能です」

「正確に言うと、ここのシステムは破壊されたわけではなく……管理権限を奪取したAIにより、"強制的に眠らされている"というべき状態です」

 

「この私にかかれば、AIから管理権限を取り返すこと自体は不可能ではありません」

「幸いにも。隔壁のコントロールシステムは個々に独立していますので……私の持つIDパスの権限を復旧させることができれば、問題なく動かせるでしょう」

 

「……黙ってそうしない辺り、何か問題があるようだな?」

 

ヒマリの話を遮り、マコトがぎろりと視線を向ける。

その問いは予想できていたとばかりに"ふふ"と笑って、ヒマリは続けた。

 

「その通りです。先ほど、管理権限の奪還に成功しましたが……十秒もしない内に、再び権限を奪われました。たとえ取り返したとしてもまた数秒で管理権限を奪われ、IDの権限は失効させられるでしょう」

 

「ですが……扉を開ける程度なら、その数秒もあれば充分です」

 

「……しかし、現在管理システムには先ほどより強固なプロテクトがかかっています」

「おそらく、AIは権限の取り合いを繰り返すことで成長していき……最後には、突破に何十時間もかかる強固なプロテクトを作り上げるでしょう」

 

「……言い換えるのなら……"動かせる扉の数には限りがある"、ということです」

「つまり、ここから出ることは可能ですが……ここに逃げ戻り、再び隔壁を降ろす事はできないでしょう」

 

ヒマリがそう説明を終えると、セイアが"ふむ"と声を漏らした。

 

「……"今すぐにここを出るか、救援を信じて籠城を続けるか"、か」

「難しい問題だ。私も含め、ここには非戦闘員が多いからね……」

 

セイアは裾のホルスターから抜いた自分のハンドガンを眺めて、小さくため息を吐く。

 

「……ここを出ると仮定して、安全なルートは無いんですか?」

 

そう尋ねたユウカに、ヒマリはふるふると首を振った。

 

「緊急避難用の通路自体は存在しますが……地下を通って外部に抜けるルートなのです」

「先ほどの地響きとセイアさんの直感から判断するに、おそらく地下は……」

 

そう言葉を濁したヒマリの言葉を肯定するように、セイアはこくりと頷く。

 

「……ああ、直感に依るのなら、今回の襲撃は地下から現れた"なにか"が原因だと思ったほうがいい」

「根源が地下から現れている以上、地下から抜けようとするのは無謀だろうね」

 

「なら屋上に向かって緊急用の無人ヘリを起動するのは……無理ですよね……」

 

ハッとしたように発言されたユウカの言葉は、現状を思い出したかのようにしりすぼみになっていった。

 

「はい……恐らく、現在ミレニアム全域にアビドス砂漠のものと同一の通信阻害がかかっているはずです。それらを除かない限り、あの手の移動手段は全く機能しないと思った方がよいでしょう」

 

「……なら、オートバイか戦車は無いのか?」

 

ぶっきらぼうに言ったマコトに、ヒマリは"残念ながら"……と首を振る。

 

「……チッ」

 

管制室内にマコトの舌打ちが響いて数秒。エイミが小さく手を上げて、口を開いた。

 

「……私の意見だけど、もう少し様子を見るべきだと思う」

「そもそもまだ夜中だし……こっちから動くのは危なすぎるかも」

 

「動くにしても、夜明けまでは待つべきなんじゃない?」

 

「……私もエイミの意見に賛成だ、今動き出すのは尚早だろう」

 

エイミの言葉を肯定するように、セイアが続ける。

 

「安易に隔壁を開いた結果、デカグラマトンの軍勢が雪崩れ込んでくるようなことになれば、私達はひとたまりもない」

 

セイアの言葉にマコトは"ふん"と鼻を鳴らして、背もたれへと体を倒す。

 

「……まともに戦えるのはそこの露出きょ……エイミと早瀬ユウカ、それとこの私の三人のみ」

「流石の私と言えど、車椅子の面倒までは見切れん。……ここは大人しく待つとしよう」

 

そう言い終えて、マコトは下ろした帽子で顔を隠した。

 

「……決まりですね。では、夜明けまで待つとしましょう」

 

ヒマリが告げた結論に皆が黙肯を返し、管制室には再び重苦しい雰囲気が漂うのだった。

 

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