"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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悔悟

深夜:ミレニアム第六区画/メインロード

 

 

あれから数十分ほどの移動を終えた私たちは、大通り沿いにある大型商業施設の前へ到達した。

周辺を巡回しているオートマタを警戒しつつ商業施設外にあるテラスを進んでいると、従業員用の入り口に辿り着く。

 

「……よし。ここから内部に侵入する」

「中は暗いだろうから、はぐれないように気を付けてくれ」

 

ドアノブを破壊しつつそう伝えると、サオリがふと尋ねた。

 

「……地下浄水場と言っていたが、ここから入れるのか?」

 

「ああ。地下駐車場から下水道を伝って行く。地上から直接向かって位置を露見させる訳にも行かないからな」

 

そう言いつつ、捻り取ったドアノブをそっと地面に置いて、私達は施設内へと足を踏み入れた。

その内部には想像通りの闇が広がっており、吹き抜けに差し込む薄い月明かりと、非常灯の蛍光のみが空間の輪郭を告げている。

 

「……うわ、真っ暗……はぁ」

 

暗闇を前に、嫌そうに溜息を吐き出したミサキは、列の中心へ隠れるように位置を変える。

そんなミサキを安心させるように、アツコが優しくその背を叩いた。

 

「みんないるから大丈夫。いこ?」

 

「……わかってる。大丈夫だから」

 

そんな会話をしているアリウスの面々がはぐれないよう気を配りつつ、私は周囲の警戒を続ける。

妙に静かな建物内には、なにかが侵入した痕跡すら見当たらない。

“荒らされていない”という事実が、逆に不気味に思える程だ。

 

私一人なら気にせず走り抜けていいような状況だったが、現状、暗視装置持ちは私だけ。

人数が増えた今、暗闇の中で隊列を維持するのは容易ではない。

神経を尖らせつつ、ネオングリーンに照らされた視界を頼りに歩みを進める中……壁に大きく"施設案内図"と掲げられたパネルが、私の気を引いた。

 

(……ガンショップか)

 

「どうした?」

 

足を止めた私を訝しむように、サオリが私の視線の先へ目を向ける。

 

「よく見えないが……建物の案内図か」

「気になる物でもあったか?」

 

「……ああ。このフロアにガンショップがあるようだ」

「寄り道にはなるが、暗視機能付きの照準器があるかもしれん。それを拝借し、暗視装置代わりにするのも悪くないかと思ってな」

 

そう言いつつ、シャッターの降りた店々の続く道を見遣る。

廊下の突き当りを右に行けばすぐそこ。調達に行ったとして、時間もそう掛からないだろう。

 

「……迷っている時間も惜しい、行こう」

 

そう伝えて、私達は歩き始めた。

 

 


 

 

同時刻:アビドス砂漠/指揮所

side:ナギサ

 

 

「オーライ!オーライ!!」

 

誘導灯と掛け声に導かれ、キュラキュラと砂を踏みながらクレーン車が進入する。

砂漠に確保された巨大な駐車スペースには、既に二十を超える特殊車両が集結していた。

 

「まさか、連邦生徒会が協力してくれるとは思いませんでしたね……」

 

ナギサはぽつりと呟きながら、手元のチェックリストに線を引いていく。

 

────先ほど、先生から一本の電話があった。

"連邦生徒会の防衛局が、全面的な支援を申し出てくれた"という彼の言葉に偽りなく、連邦はすぐに所有している特殊車両や輸送手段を駆使し、ものの数十分で各所に必要な物資・車両を確保、輸送まで担ってくれた。

 

連邦からの予想外の救援に驚く間も無く、アビドス自治区には連邦の保有する何両もの作業車と、先生の紹介でその操縦技能を持つドライバーが集まった。

 

チェックリストに記された30近くの項目に全て線が引かれた所で、ナギサは"ぱたり"とクリップボードを机に置いて、"ふう"と息を吐き出す。

 

「これで、手配された車両は全て到着しましたね……あとは、車両の防護措置ですが……」

 

ナギサはそう言って、隣でタブレットとにらめっこしているウタハに目を向けた。

ウタハは話を振られたことに気付いたのか、すぐに顔を上げて答える。

 

「……悪いけど、そこはもう少しかかっちゃうかな。物資があるとはいえ、抗酸化コーティングはちょっと手がかかるからね」

「今作ってる手順書ができ次第、私も作業に加わるから……大体あと1、2時間もあれば第一陣が出発できると思うよ」

 

そう言ったウタハは、ナギサの顔をじっと見つめて、ふと口を開いた。

 

「……ナギサさん。それまで休んでいたらどうだい?」

「もうじきに日付も変わる。今日は早朝からずっとかかりきりだって聞くし……休める内に休んでおいた方が、みんなの為になると思う」

 

どこか心配げに言ったウタハに、ナギサは僅かに逡巡する。

その逡巡の理由を察したかのように、ウタハはゆっくりと首を振った。

 

「休まない理由を探すのはやめた方がいい。リオ会長ももうじき到着するし、こっちは私達に任せて、ね?」

 

「ですが……」

「いえ、そうですね」

 

ナギサは観念したといった様子で手に持っていた書類を机の上に置く。

軽くなったはずの手先が途端にずしりと重く感じて、ナギサは深く息を吐いた。

 

「……では、お言葉に甘えて、少し仮眠を取らせていただきます」

「なにかあれば、お気遣いなく起こしてください」

 

ナギサはそう言って、膝にかかっていたブランケットを肩までかけ、ゆっくりと目を瞑る。

 

「おやすみ、ナギサさん」

 

「……ええ、おやすみなさい」

 

その言葉が張り詰めた糸を切ったように、ナギサの意識を闇に沈めていった。

 

 


 

 

同時刻:アビドス砂漠/通信トラック車内

side:チヒロ

 

 

吊られた白熱電球の寒灯が照らす狭い車内で、チヒロは一人、頭を抱えていた。

 

「……会長、ミレニアムを放棄するって本気?」

 

チヒロは机に突っ伏したまま、声色低くそう尋ねる。

怒りと困惑を帯びたその問いに、電話口は僅かな沈黙の後、声を発した。

 

[……先にも言った通り、"一時的に"よ ]

[ 現状の優先順位を考えても、今ミレニアムの奪還に挑むのはリスクが高すぎるわ ]

 

淡々と、しかしどこか悲壮を滲ませたリオの言葉に、チヒロは怯まずに言葉を返す。

 

「それは理解してる。私が聞きたいのは、そうすることで発生する全ての責任をどうする気、ってこと」

「天城ルイから名前が出た挙句、ミレニアムの放棄なんて事態にもつれ込んだら、内外からの責任追及は避けられない」

「下手をしたら、ミレニアム自体にキヴォトス中の敵意が────」

 

[ こうなった責任は、私一人で取るわ ]

 

捲し立てるようなチヒロの言葉を遮り、リオがはっきりと答えを口にした。

 

[ "行方不明だったミレニアムの会長が独断で天城ルイと共謀し、今回の作戦を計画、実行するように誘導した" ]

 

[……そういうことにするわ。その責任を取って、私はミレニアムを離れる ]

[ ミレニアム校としての義理立てはそれで十分のはず───]

 

「……ふざけないで!!」

 

リオの言葉は、怒りに満ちたチヒロの叫びに断ち切られた。

激流の如く溢れる怒りが、電話口へ叩き付けられる。

 

「そう言って、結局また逃げるつもり!?」

「アリスの件の後、会長が逃げたせいでどれだけの問題が残ったと思ってるの!?」

 

[ 逃げるつもりはないわ。私が会長でなくなったとしても、なんらかの形でミレニアムの立て直しに協力していくつもりよ ]

[……アリスの件は、ごめんなさい ]

 

リオは小さく謝罪を口にして、"けれど"、と声色を切り替える。

 

[……事は既に起きてしまった ]

[ 諸校への面子建ても含めて、この状況を収めるには私が退くのが合理的。わかるでしょう ]

 

「だからって……」

 

そこに続く言葉はなく、チヒロは声を濁らせる。

今回ばかりは、彼女の合理を止められるだけの言葉が見つからなかった。

 

"魔王" 天城ルイとの共謀。その挙句、諸校の最高権力者や何人もの生徒たちを危険に晒した。

そこにどんな大義があったとしても、罪は罪、責任は責任だ。追及は熾烈を極めるだろう。

 

……下手を打てば、ミレニアムの存亡にまで関わってくるかもしれない。

最早、リオに全ての責任を被せるのが今後のミレニアムを守る最善策であることは疑いようがなかった。

 

(……こんなことなら、あの時に天城ルイを突き出しておくべきだった……!!)

 

後悔と苦黙を湛えたチヒロがまるで見えているかのように、リオはぽつりと呟く。

 

["会長"の名も……もともと、捨てたつもりだった立場よ。それと引き換えに出来るなら、安いものね ]

[ ……この話は終わり。今は、そんなことよりも対処するべき事があるわ ]

 

そう話を無理やりに終わらせて、リオは言葉を続ける。

 

[……私も今から現場に向かう。貴方達は機材の準備を進めておいてちょうだい ]

[ なにかあれば都度連絡するわ。……苦労を掛けて、ごめんなさい ]

 

そう言って通話を切ろうとしたリオを、チヒロは "会長"、と引き留めた。

 

[……なにかしら]

 

「……絶対に、逃さないから」

 

[…………]

 

チヒロの言葉には無言が返り……気付いた時には、通話は終わっていた。

ファンの低い駆動音だけが狭い車内に響く中、チヒロは額を押さえながらゆっくりと深呼吸する。

 

冷静さを取り戻そうと、数度繰り返されたそれは、ついに途絶え────。

 

「……ああ、もうッ!!」

 

叫びと共に、机に拳が振り下ろされる。

発露した感情の衝撃に、エナジードリンクの缶がからからと音を立て、床を転がっていった。

 

 

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