"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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着弾

深夜:ミレニアム第六区画/ショッピングモール

side:ルイ

 

 

限界まで光量を落とした薄明りの中、私たちはガンショップの商品を物色していた。

想像よりも広い店内には、ショーケースやアタッチメント、弾薬パックが所狭しと並んでいる。

 

「うわぁ……!!これ全部貰っていっていいんですかね……!?」

 

うきうきと声を上擦らせ、弾薬やアタッチメントを袋に詰め込み始めたヒヨリを横目に、私はレジ裏に置かれていた在庫管理用の手帳に目を通す。

 

(……暗視機能付き照準器の在庫は……あるな。よし)

 

軽く目星をつけ、"ぱたん"と手帳を閉じると、ヒヨリが胸に雑誌を抱えて走り寄ってきた。

 

「あのっ!! この雑誌も貰っていいですかね……!?」

 

ヒヨリは興奮気味に、"ねっ?!"と駄目押しで尋ねる。

 

「駄目だ。必要な物だけにしてくれ」

 

「そんな……じゃあ、一冊だけでも……」

 

きっぱりと断ったのに食い下がってきたヒヨリに困惑を隠せず、"はあ"と小さくため息を吐いた。

 

「今は余計な荷物を増やすな。……そんなに欲しいのなら、後で同じものを用意する。名前を覚えておけ」

 

それを聞いたヒヨリは"ぱあっ"と表情を明るくし、持っていた雑誌のタイトルを暗唱し始めた。

 

(……そこまで貴重な物なのか? ……まあ、今考える事ではないか)

 

ヒヨリから視線を外し、売り場の棚を漁っているサオリ達に声をかける。

 

「バックヤードを探してくる。君達はそこで必要な物を揃えておいてくれ」

「特に弾薬は持てるだけ。7.5.9を中心に、高貫徹のものを優先的にだ」

 

それだけ伝えてレジ裏に向かおうとすると、"ねえ"とミサキが私を呼び止めた。

 

「銃も取っていい? これとピストルだけじゃ、弾切れが怖いんだけど」

 

ミサキは肩にかけた対空ミサイルを持ち上げて見せる。

 

……彼女の言う通り、オートマタ相手にピストルでは威嚇にもならないだろう。

彼女達を全面的に信頼したわけではないが、これからを考えるのなら、銃の一丁程度渡しても問題ないはずだ。

 

「なら、取った銃とアタッチメントの種類は覚えておいてくれ。事後処理で責任が取れなくなる」

 

「わかった、覚えとく」

 

その答えに頷きを返して、私はバックヤードへ続く扉を開いた。

 

 

────数分後。

 

 

「…………」

 

目当ての品を探しているうち、私は無意識に壁へともたれかかっていた。

 

……先の連戦からある程度落ち着き、時刻も深夜を迎えた。

わずかに気が緩んだことで免疫反応が活性化し、夜間増悪が始まったのだろう。

 

幸い、今は一人だ。取り繕う必要はない。

壁に体重を預け、大きく呼吸する。

 

(……体が熱い、翼が痛む……まずいな)

 

「…………っ」

 

自覚した途端、思考は急速にかすみ、呼気は荒く熱を帯びる。

 

(薬はまだ効いているはずだが……限界が近いか……)

冷静な思考に反し、体はどんどんと重くなっていく。

 

(……まずは、しっかり立たなければ)

 

もたれかかった壁を手で押し、なんとか立ち直る。

ホルダーから取り出した水筒を口に運び、冷たい水をごくごくと飲み干して、何度か深呼吸を繰り返す。

 

「……ふーっ……」

 

「……まだ動ける。意識を保て。」

 

言い聞かせるように呟いて、私は探し物を再開した。

 

 


 

 

同時刻:ミレニアム第六区画/ショッピングモール

side:サオリ

 

 

暗がりにルイの背が消えていくのを見送って、"ふう" と小さく息をつく。

視線で合図を交わし、自然な動きで店の隅へと移動する。

 

「……どう思う」

 

物資調達に集中して合図に気付かなかったヒヨリは置いて、私たちは話し始めた。

議題は当然、天城ルイ──かの"魔王"について。

 

私の問いに、アツコは顎に手を当て、"うーん"と唸った。

 

「……今の所、味方なのは本当みたい」

「でも彼女、相当焦ってるよ。私たちを簡単に信じたり、武器を渡したり……」

 

そこまで言って、アツコはふと思い出したように尋ねた。

 

「あ、聞いてなかった。サッちゃん、ルイさんと何があったの?」

「知り合いみたいだし……感謝されてたけど」

 

「……"知り合い" は語弊がある。ただ、以前彼女を助けた事があってな」

「その時に、事情をある程度察するだけの材料があった。それだけだ」

 

「……ふうん。サッちゃんが彼女を信じたのも、その"事情"が関係してるの?」

「サッちゃんが簡単に信じるの、けっこう意外だったから」

 

アツコはそう尋ね、私の答えを待つ。

ミサキも無関心を装って武器を手に取っているが、こちらの会話に耳をそばだてている。

 

(安易に口外できるようなものではないが……認識の擦り合わせも含め、ここで軽く話しておく方がいいか)

 

「……これは私の想像だ。誰にも言わないでくれ」

 

そう小声で前置きすると、二人はこくりと小さく頷いた。

 

「……恐らく、今回の作戦はトリニティとミレニアムが共謀して計画されたものだ」

「"魔王"は、そのために各校の敵意を集め、三校連合締結のために動く傀儡だと考えている」

 

「それを踏まえて、天城ルイが味方である確率は極めて高いと判断した」

 

そう伝えた私の言葉にアツコは瞑目し、ミサキは呆れたようにため息を吐いた。

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

アツコが投げかけた当然の疑問に、私は一瞬の逡巡の後……"いや"と首を振った。

 

「ここで全てを話すには複雑な話だ。落ち着いた時に説明させて欲しい」

「……特に、彼女に聞かれたらまずい」

 

そう言って、顎で店の隅を示す。

そこでは風紀委員会の制服を着た少女が、黙々と弾薬パックを詰め込んでいた。

 

「……なるほどね」

 

私の意図を理解したようにアツコは頷き、私も小さく頷きを返す。

 

「……なんにせよ、今の天城ルイの行動から察する限り、少なくとも状況を投げるつもりはないようだ。なら、彼女に力を貸すのが最も勝率が高い」

 

そう伝えると、アツコは"ふうん"と呟いた。

 

「サッちゃんがそう言うなら、私もそれでいいよ」

 

「……ま、裏切ったら撃てばいいでしょ。数はこっちが多いし」

 

アツコの言葉に続き、ぶっきらぼうに呟いたミサキはこれ以上議論の必要はないとばかりに手に取ったサブマシンガンの調整を進め始めた。

 

「……ああ。万が一敵に回るようなら対処すればいいだろう」

 

「うん、警戒はしとくね」

 

そう結論付けて、私たちは各々の作業に戻るのだった。

 

 


 

 

────数分後。

side:ルイ

 

 

「目的の物は見つけ……」

 

戻ってきた私の目に映ったのは、ゴテゴテにカスタムされたライフルを首からかけたヒヨリに、サブマシンガンやらショットガンやらを各々持ったアリウスの面々。

 

「見てください!高出力レーザーサイトにUBGL、大容量のマガジンに缶切り内蔵グリップとおやつ収納スペース付きストックまで……!!」

 

興奮気味に言うヒヨリは、胸に抱えたライフルを他のメンバーに見せて、苦笑を買っていた。

 

「……ちゃんと扱えるんだろうな」

 

そう言いながら近くに寄ると、こちらに気付いたヒヨリは照れくさそうに笑った。

 

「えへへ、これでも基礎教練の成績は優秀でしたから……まあ、ちょっと重いですけど……」

 

それはそうだろう、と倍以上の太さになったマウントレールを見つつ、本人がそれでいいならもうそれでいいかと他の面々へと目を向ける。

 

「……まあいい、目的の照準器は見つかった。一人ひとつ取って、動作確認をしてくれ」

 

そう伝え、"ごとん"とレジカウンターに持ってきた照準器の箱を乗せる。

皆がそれを手に取り、動作確認をしている間に────それは起きた。

 

"……シュゴォォォォォォォ────ズゥゥゥゥン……!!!!"

 

突如響いた地鳴りのような音と共に地面が揺れ、外からはガラガラと建物が崩れる音が聞こえる。

砕け落ちるガラスの甲高い音と共に、外からは車両のアラートの合唱が響き始めた。

 

そして何より、異常だったのは────。

 

"ジジ……バチッ"

数秒、電力が復旧した。

天井のLEDライトは、ピカピカと何度か瞬いて、再びその光を失う。

 

なにかが起きた。それを理解するのには1秒もかからなかった。

 

衝撃と同時にお互いを見合わせ、無言で銃に手を掛ける。

少しして揺れが収まると、皆が立ち上がる。

 

「……無事か?」

 

私の問いに皆が頷きを返し、ハンドサインに従ってそっと店の出口付近に移動する。

皆の表情は硬く、動揺が見て取れる。

 

「……どうする。確認に行くか?」

 

外の通路に敵が居ない事を確認したサオリが尋ねる。

 

(…………)

 

「いや、すぐにここから離れよう」

「相手が大型兵器だった場合、勝ち目は薄い。見つからない内に移動するべきだ」

 

「……了解した。荷物は持てる範囲で構わないか?」

 

「ああ。邪魔になるようなら捨てていい」

 

「じゃ、じゃあ私が持ちます……!」

「私も持つよ。リーダーとアツコ……あと、"魔王様"は前に出て」

 

どこか嫌味に言ったミサキは、ヒヨリと共に弾薬が詰まった袋を担いだ。

 

「……わかった。ではこの陣形を維持しつつ移動する。いくぞ」

 

その言葉を合図に私は外へと駆けだし────すぐに、足を止めた。

 

「……どうした?」

 

背後からサオリの困惑したような声が聞こえる。

私はただ、無言で窓の外を指差すことしかできなかった。

 

 

目に映るのは、ここから数十メートルほど前方の地面に深々と突き刺さった巨大な構造物。

 

 

……そして、周囲の建物から湧き出るように現れるオートマタの軍勢。

空には群れをなしたドローンが星々の如く輝きながら、どこかへと移動していく。

 

「……何が起きている?」

 

「……わからん。だが、不利な事態であることは間違いない」

 

「……あっ、あの……あれです……!! あれが、あの"タコ"が撃ち込んでいた、"機械の柱"……」

 

そんな中、背後の少女が小声でそう告げた。

その指先には、地面に突き刺さった機械の柱が聳え立っている。

 

……あの構造物が"タコ"が撃ち込んでいたものだとするのなら……いくつかの仮説が成り立つ。

 

「……なるほど。あれを起点にオートマタやドローンの制御を奪取しているのか」

「あるいは指揮統制を分散、代行する演算機か……読めてきたぞ」

 

ぶつぶつと思考していると、サオリが私の肩を叩いた。

 

「……考えるのは後だ、今は移動を優先した方がいい」

「その仮説が正しければ、この建物の中にあるドローンやオートマタも動き出しかねない」

 

「……そうだな、連中が中に入ってくる前に抜けてしまおう。……行くぞ!!」

 

号令と共に、私たちは姿勢低く駆け出した。

 

 

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