"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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地下

深夜:ミレニアム自治区/ショッピングモール1F

 

 

ガンショップを飛び出した私たちは、モール中央部の広々とした廊下を前にして身を潜めていた。

 

「……やはり、この先を見つからずに抜けるのは難しそうだ」

 

視線の先では、店を抜け出した配膳ロボや品出しロボがぎこちない動きでタイルの上を移動している。

サオリの予想通り、モール内では制御を奪われたロボットたちがデカグラマトンの尖兵となって徘徊を始めていた。

 

「わかった……こちらはいつでも行ける。タイミングはお前に任せよう」

 

そう言って銃を構えるサオリに"了解"とばかりに頷きを送って、視線を廊下へ戻す。

廊下沿いの店舗群からは、ロボットたちが次々と現れはじめている。

 

(……どうせ見つかるのなら、突っ切る方が早いか)

 

従業員用の非常階段を迂回する予定だったが、裏方のロボットも徘徊を始めている以上……見つからずに移動するのはもはや不可能。

 

ならば、取るべきは最短ルート。

目的地はこの中央廊下を進んだ先、地下駐車場行きのエスカレーター。

そこまで真っ直ぐに突っ切るルートなら、少し遅めに見積もっても15秒あれば階段まで着ける。

 

地下駐車場を抜ける時も、止まらずに走れば囲まれる事もないだろう。

 

「……よし。このままエスカレーターまで突っ切る」

「サオリは先頭、アツコが右、ミサキが左。ヒヨリは上方を警戒してくれ」

 

「私と彼女は後方を警戒しつつ、君達の前進を支援する」

「そして、君達がエスカレーターに到達次第、私達も移動を開始する。いいな?」

 

そう告げた途端、背に"ゴスッ"とそれなりの衝撃が走る。

後ろにいたミサキが私の背に肘を入れた事を理解した時には、むすっとした表情を浮かべた彼女は口を開いていた。

 

「……いいわけないでしょ、盾持ってるのになんで後ろにいるの。背中から撃つ気?」

 

「……誤解するな。私が最も安全かつ迅速にあの地点まで移動できる」

「後方からの挟撃が想定される以上、移動に時間がかかる君達を先行させた方が安全性に勝っているというだけの話だ」

 

「……なにより、私は証人である彼女を護らなければならない。そのための安全策だ」

 

説明を終えて、口論する私たちを不安げに見つめる少女に目を向ける。

急に話が自分に向いたことに気付いた彼女は、びくりと身体を震わせた。

 

「とはいえ、議論する時間も惜しい。納得がいかないのなら────」

 

そう言いかけたところで、サオリが割って入るように"了解した"と告げた。

 

「理には適っている。ミサキの言う通り、リスクはあるが……そうなった場合は、こちらもそれなりの抵抗をさせてもらう。それでいいな?」

 

「……リーダーが言うなら」

 

ミサキは渋々といった様子でサブマシンガンを構えて、サオリの元へと向かう。

口論を静観していたアツコとヒヨリも無言で廊下の端に移動し、準備は整ったと目線が告げた。

 

「感謝する。……では、この擲弾が爆発したと同時に移動を開始してくれ」

 

そう伝えて義手を変形させ、照星を廊下の奥へと向ける。

 

"────ガシュッ!"

 

小さな駆動音と共に、カタパルトが廊下の奥へと擲弾を投げ飛ばした。

彼方へ飛んでいく擲弾を見守るサオリ達は徐々に姿勢を前に倒し、疾駆の準備を整え──"ドガァァァン!!!!"

 

爆発音と共に、けたたましい非常ベルが鳴り響く。

 

「……行くぞッ!!」

 

サオリの号令と共に、スクワッド達は走り出した。

 

"────!!"

突如響いた爆発音に気を取られたオートマタ達は、数瞬遅れて振り返る。

"────ズダダダダダッ!!"

その時には既に、サオリの放った弾丸がその体を貫いていた。

 

「……正面は空いた!! 止まらずに行くぞ!!」

 

「右、来るよ!!」「……左も!!」

"ズダァンッ!! ダララララッ!!"

 

店の隅から飛び出してきた警備ロボたちはミサキとアツコによって脚部を破壊され、つんのめるように崩れる。

 

「いいよ、このまま!!」

 

「上、ドローンですっ!!」

"ダダダッ!!"

吹き抜けから現れたドローンは、ヒヨリの正確な射撃によって墜落した。

 

────ひとつ、またひとつと鉄屑が積み重なっていく。

 

"息の合った" と表現するにも足りない、まさに一心同体とも言える連携でスクワッド達は前進していく。

彼女達は5秒にも満たない時間で、目的地までの道のりの半分を走り抜け──その後方では、無数の金擦れが響き始めた。

 

「……来たか」

 

ガシャガシャと装甲を軋ませ、外から無数のオートマタが押し寄せる。

ずいぶん早い到着ではあるが……想定内だ。

 

「……後方は任せろと言った手前、弾を惜しむのはなしだ」

 

音の方向、モールの入り口に狙いを定め、指を引く。

"ガガガシュッ!!──ドドドガァァァンッ!!!"

高速で前後したカタパルトはいくつもの擲弾を放ち、迫る軍勢と共に、入り口を瓦礫で塞いだ。

 

振り返ると、スクワッド達は既に目的地に到達しており、こちらの進行を支援する態勢に入っていた。

 

「……いいぞ!来い!!」

 

そう叫ぶサオリにサムズアップを返し、目の前で屈んでいる少女に手を伸ばす。

 

「行くぞ、掴まれ」

 

彼女はこくりと頷いて、手を引かれるまま私の胸に抱き着いた。

その体を右腕で支えて、盾との間に挟み込む。

 

「目を瞑っているといい。その方が楽だろう」

 

答えは待たず、ジップラインの引き金を引いた。

空気を裂くような発射音と共に放たれたジップラインは2階のブリッジに突き刺さり……私を空中へと引き寄せる。

 

その力に体を委ねて跳躍すると、瞬く間にスクワッド達との距離は縮み────。

 

"ガキンッ!!ギャリギャリギャリギャリ……!!"

着地ブレードが床を切りつけ、火花を散らす。

 

「よし、このまま抜ける。ついてこい!!」

 

「了解した!!」

 

無事に目的地に到達した私は、そのままエスカレーター用のスペースに飛び込んだ。

着地を済ませ、方向を確認する。

 

「……目的地はここから4時方向の壁沿いだ!! 突っ切るぞ!!」

 

後ろでエスカレーターを駆け下りているスクワッドの面々にそう告げて、地下駐車場へと繋がる自動ドアを殴り割る。

 

……目的地は排水システム管理室。

そこの点検用通路から下水へ降りれば、追跡は振り切れる。

 

目的地に向けて、全速力で走る。

 

────そんな中、左方から "ガシャアンッ!!"と金属が裂けるような音が響いた。

咄嗟に銃を向ける。そこには"出口"と書かれた看板と、歪んだシャッター。

 

"ガシャァンッ!!!"

再び響いた轟音と同時にシャッターがバリ、メキメキと裂けはじめ、その隙間から強い光が差し込んで──。

 

「……戦車だ!! 散れッ!!」

 

サオリが叫ぶ。

同時に、巨大な砲口がこちらを向いた。

 

"ズドォンッ!!!!"

 

爆発音と共に砲弾が放たれ、私たちとの間にあった車両を吹き飛ばす。

主砲の直撃を受けた車両は一瞬にして鉄屑と化して、遥か彼方まで吹き飛ばされた。

 

「……隠れろッ!!!」

 

"────ドドドドドド!!!!"

散り散りに逃げる私達を、機銃による制圧射撃が襲う。

 

「……くそッ……!!」

 

なんとか飛び込んだ柱の裏。一瞬だけ頭を出し、戦車の動向を伺う。

戦車は出口のスロープ付近から動かず、こちらを牽制するように砲塔を動かしていた。

 

(……出口を塞ぎ、降りてきたオートマタと共に挟撃する気か……!!)

 

動向から推察するに、下水道からの脱出は想定していないように思える。

しかし面倒な事に、下水への入り口はスロープの対面……つまり、戦車の射線上。

 

ここから入り口まで、それなりに距離がある。

被弾を割り切って撤退するにしても、気絶者が出れば一気に状況が傾く。

 

(……しかし、今すぐ動かなければ擦り潰されて終わりだ)

 

状況を鑑みるのなら交戦は避けたい。だが……。

 

(……仕方ない)

 

抱きかかえていた少女を下ろして、視線を交わす。

 

「私が時間を稼ぐ。合図をしたら全力で走ってくれ」

「スクワッドたちなら、君を護りきってくれるだろう」

 

「えっ、でも……」

「君の無事が最優先だ、わかるな?」

 

紡がれかけた言葉を遮ってそう告げると、彼女は動揺に瞳を揺らして……力なく頷いた。

 

「ありがとう。……これを本隊に届けてくれ」

 

腰のポーチを外して、彼女の首にかける。

 

「……あとは頼んだ」

 

そして、ひとつ大きく息を吸って────。

 

「────走れ!! 私が引き付ける!!」

 

「待っ──!!」

 

少女の声が届く前に、遮蔽から飛び出す。

真っ先に射線上へ出た私に、戦車はその砲口を向ける。

 

「──ッ!!」

 

反射で盾を構えた途端、視界が一瞬眩み────。

 

"ガァァァンッ!!!"

盾が軋み、義手越しに体を衝撃が貫く。

右方で炸裂する砲弾が鼓膜を揺らし──劈く(つんざく)ような耳鳴りと共に、私の世界から音が消え去った。

 

(──主砲は止めた!! 次弾が来るまで、およそ2秒)

 

崩れた姿勢を制し、グレネードのピンを抜いて戦車へ投げつける。

そんなものは無意味とばかりに微動だにしない戦車は、機銃の砲口を向けた。

 

"────!!"

 

機銃は絶えず火を噴き、盾を貫砕せんと無数の衝撃をもたらす。

疲労に塗れた体はとっくに限界を迎え……段々と感覚が遠くなっていく。

 

……それでも、せめて今だけは止まる訳にはいかない。

眼前で炸裂するグレネードに合わせて、再び一歩を踏み出す。

 

"その一歩が、相手の射角を狭め、背後の仲間を護る。"

ミネに教わった、盾を掲げる者としての矜持が……私の背を支えてくれた。

 

(……2秒!!)

 

再び放たれた砲弾が盾に弾かれ、上方で炸裂する。

盾を支える義手ごと吹き飛ばされそうな衝撃に体が軋み──それでも、さらなる一歩を踏みしめた。

 

(……10秒だ。10秒稼げればいい)

それだけあれば、皆は逃げ延びられる。

 

コンクリートの破片を踏み砕き、ただ前だけを見据える。

 

「────!!」

 

咆哮。意識を繋ぐためのそれが、力を与えた。

前傾する重心に身を任せ、突進する。

 

(……私を、見ろ……!!)

 

機銃の嵐を押し返し、戦車の元へ進み続ける。

私を"脅威"だと、"最優先目標"だと、認識させ続けるために。

 

"────"

 

立ち込める硝煙の中、戦車は微動だにせずただ射撃を続ける。

まるで、物分かりの悪い子供をあしらうように。

 

(──来る!!) "────!!"

「……!?」

 

三発目の主砲が放たれ──視界を灼く閃光と共に、私は吹き飛ばされる。

足元が爆発したのだと気付いた時には、機銃が私に向けられていた。

 

(……ッ!!!)

フックで地に転がった盾を引き寄せ、盾の下で機銃から身を守る。

 

(……まだだ……!!)

 

降り注ぐ衝撃に手を震わせながら、グレネードのピンを抜いた。

 

反撃の一矢。

投げ込んだのは────閃光弾。

 

サーマル式なら、飽和させれば一瞬は目を潰せる。

(ただ一瞬の隙でも、立て直すには充分だ……!!)

 

閃光が走った瞬間、地面を殴りつけて立ち上がる。

 

────狙いが狂ったのだろう。

同時に放たれた四発目の主砲は、私の隣をすり抜けていった。

 

立ち込める硝煙と空気の振動が、勝敗を告げる。

 

 

……10秒経った。

きっと、皆は無事に逃げ切っただろう。

 

 

────これで、背後を気にする必要もない。

ここからは、私の時間だ。

 

燃える車両の残骸が揺らめく中、戦車と私だけが向かい合っていた。

 

 

 

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