"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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幕引

深夜:D.U区画/子ウサギ公園

 

シャーレの前にある公園には、深夜にも関わらず何両もの車両や生徒たちが集まっており、

各校から集積された物資が装甲車へと積み込まれていた。

 

「先生、レッドウィンターの機械化部隊が到着しました。"出撃可能、指示を待つ"とのことです」

「現在ヴァルキューレ及び、連邦生徒会の装甲車も即応体制に就いています」

 

「あとは物資の積み込みが終わり次第、輸送隊は出発できます」

「ですので……先生」

 

そう言って、ミヤコは広場で先生の指示を待つ生徒たちへと視線を向ける。

 

"…………うん、わかった"

 

先生は小さく頷いたが、それは傍目にもわかるほど重苦しいものだった。

しかし、そのわずか数秒の躊躇すらも生徒たちの命に関わるということも、彼は理解している。

 

"すぅ……はぁ"

 

先生は大きく深呼吸をして……全力で、自分の頬を打った。

 

深夜の公園に、乾いた音が響く。

 

周囲にいた生徒たちは、ぴし、と一瞬固まった。

誰かが心配の声を上げようとしたその時、先生がゆっくりと視線を上げる。

 

先生はまっすぐに、集まった生徒たちを見据えていた。

 

「「「…………」」」

 

彼が発する言葉を聞き逃さないため、誰もが沈黙を選んだ。

 

そして────

 

"──みんな。ごめん!"

 

先生は深く、深く頭を下げた。

はっきりと謝罪を伝えた先生は頭を下げたまま、言葉を続ける。

 

"……ミレニアムで何が起きているのか、まだ完全にはわからない"

"だから、決して()()だなんて言ってあげられない。"

 

"……それでもいま。助けを待っている子たちがいるんだ"

 

"私は先生として、ひとりの大人として……その子たちを助けたい"

"……これは、この事態を予想できなかった。止められなかった、私の責任だから"

 

"でも、私ひとりじゃ、助けられない"

"だから……みんなの力を、貸してほしい"

 

"……私のために、みんなのために、キヴォトスのために、戦ってほしい!!"

 

その言葉は、沈黙に迎えられ────数秒。雄叫びのような返答が場に満ちた。

 

「もちろんです!」 「いつでも行けますよーっ!!」

「ご指示をください!先生!」

 

"……みんな、ありがとう"

 

心からの感謝を告げて、先生は続ける。

 

"……まずは、ミレニアムに居る子たちに物資を届けて……可能なら、通信を確立したい"

"そのためには、物資の護衛と、ルート周辺の掃討。そして、ケーブルの敷設が必要なんだ"

 

先生がそう伝えると、先生の隣で控えていた者が前へ出る。

その堂々とした立ち姿からは、彼女たちが歴戦であることを示していた。

 

「……SRT特殊学園3年。FOX小隊の隊長・七戸ユキノだ」

「先生に代わり、今回の作戦を端的に説明しよう」

 

「我々は二個小隊に別れ、相互に支援を行いながら、第6区画にある地下浄水場へと向かう」

「そこで籠城している本隊に物資を供給し、負傷者および非戦闘員の退避支援を目標としている」

 

淡々と、冷静に伝えられるユキノの説明に、集まった生徒たちは耳を傾けている。

 

「……では、詳細に作戦内容を説明する前に、状況の共有を行う」

 

ユキノがそう言うと、FOX小隊の者たちがホワイトボードを持ってきて、そこにミレニアムの地図を広げた。

 

「……見ての通り、通信網はEMPによって完全にダウンし、衛星通信すら使えない状況だ」

「そして、地下ケーブルは恐らく断線している。復旧は厳しいだろう」

 

「……そのうえ、自動制御が可能な電子機器は制御を奪われるとの報告もある」

「よって、ヘリやドローンなどによる航空支援は不可能。当然、自動射撃機能のある車両も使えない」

 

そう告げたユキノの言葉に、生徒たちはざわめく。

 

「……現行の戦車や装甲車も使えないってことですか?」

 

そう手を上げた者に対し、ユキノは"そうだ"と頷いた。

 

「……安心しろ、やりようはある」

「そういった状況を乗り越えるために、我々は教練を積んできているからな」

 

そう言って、ユキノはSRTの腕章を掲げて見せる。

既に失われた校章ではあるが、その腕章が意味するものは生徒たちの信頼を勝ち取るには十分だった。

 

場が静まって、信頼を勝ち得たと確信したユキノは、言葉を続ける。

 

「……では、詳細な作戦内容の説明に移ろう──」

 

 

 

「…………」

 

ユキノが作戦の内容を説明している間。先生の背後に黒い影が迫る。

迫る影に振り返らず、先生は小さく呟いた。

 

"……来てくれたんだね、ワカモ"

 

「っ!?……あっ……あなた様の求めとあれば、このワカモは、いつ何時、どこへでも……!!」

 

不意打ちを受け、軽くパニックを起こした"災厄の狐"……

狐坂ワカモは、仮面の下に赤面を隠し、"おほん"と小さく咳払いをした。

 

「……お命じくだされば、このワカモ。命に替えてもあなた様の望みを叶えて差し上げましょう」

 

"あはは……嬉しいけど、危ないことはやめてほしいかな。もっと自分を大切にしてね"

"……でも、ひとつお願いがあるんだ。いいかな?"

 

「もちろんです。なんなりと、お申し付けください」

 

ずしりと重い答えを返したワカモに対し、

先生は意を決するように深呼吸をして……そっと、口を開いた。

 

"……今からミレニアムに向かう子たちを、助けてあげてほしい"

"戦車、ドローン、オートマタ。……数えきれないほどの敵が周辺から集まってくるだろうから、ワカモにはそれを倒してほしいんだ"

 

先生の危険な願いを聞き届け、ワカモはただ忠を……愛を返した。

 

「……このワカモ、承知いたしました。」

 

ワカモに察されないよう、先生は強く歯を食い縛る。

その内心では、彼女(ワカモ)の愛を利用した己に、堪えきれない怒りが湧き上がっていた。

 

"……ごめんね。ありがとう"

 

「……謝らないでください」

「あなた様のお役に立てるのならば、このワカモ。それがなによりの至悦でございます」

 

彼の内心を知ってか知らずか。

ワカモはただそう告げて、そっと先生の背後から離れる。

 

「……それでは、行ってまいります」

 

返答を待たず、ワカモは夜闇へと消えていった。

 

(…………)

 

「……以上だ!では通告の通り、第1班の者は我々FOX小隊の元へ集まってくれ!」

「第2班は、RABBIT小隊の元へ!」

 

大きな声でそう告げたユキノの言葉で、先生は思案より引き上げられた。

生徒たちは、ユキノとミヤコの元に集まって詳細なブリーフィングを受けている。

 

(……悔しい。)

 

通信の使えない現地では、自身が直接指揮を執ることはできない。

"自分も行く"とどれだけ強硬に言っても、ミヤコとユキノは頑として首を盾には振らなかった。

 

それどころか、

"全ての責任者であり、意思決定者である先生が前線に出ることなど、ありえない"。

"貴方になにかあったら全てが瓦解するから、大人しくしていてください"。

 

二人に懇々と怒られ、この場を任される形になってしまった。

 

……今の自分にできるのは、生徒たちの背を押すことだけ。

それがなによりも歯がゆく、悔しかった。

 

 


 

 

同時刻:D.U区画/シャーレのオフィス

side:カヤ

 

「…………」

 

ポケットの中の携帯が、"ぶるる、ぶる"と、特徴的なリズムで震える。

この震え方は、"カイザー"からの連絡だ。

 

……周囲には誰も居ない。

そっとポケットに手を伸ばし、携帯を取り出した。

 

「……なんの要件でしょうか。今は立て込んでおりますので────」

 

[……我々の基地が連合部隊から不法な攻撃を受けた!!]

[攻撃はまだ続いている!すぐに奴等を拘束してくれ!!]

 

電話口から聞こえるがなり声に、眉を顰める。

叫びたてるその声色は、焦燥と動揺に満ちていた。

 

(………………)

 

状況は、読めた。

 

[……おい!聞こえているのか!?]

 

「……わかりました。すぐに動きます」

 

ただそれだけ告げて、通話を切った。

 

「……はあ」

 

誰も居ないオフィスに、ため息が消える。

ここでの生活にも、慣れてきたばかり。

 

しかし……決別の時が来てしまった。

握ったままの携帯に、力が籠もる。

 

(……わかっていたつもり、だったのですが……)

 

震える手でそっと携帯を操作し……耳に当てた。

 

 


 

 

深夜:アビドス砂漠/車内

side:プレジデント

 

「……連邦はまだか!?」

 

"ガン"、とシートを蹴り飛ばす。

装甲車を運転していたジェネラルが小さく呻くが、その声さえも苛立たしい。

 

 

……不知火カヤに連絡して、数分が経った。

砲声は止んだ。しかし、基地の方向からは銃声が鳴り響いている。

 

……相手は、全力で我々を潰しに来ている。

もし、まだあの場に居たら……そんなことを考えるだけで、ぞくと背が痺れた。

 

「…………」

 

しかし、これは最大のチャンスでもある。

たまたま、運よく。私はあの場に居なかった。

 

連中にカイザー自治区内の活動停止を突き付けるため、移動していたのだ。

 

……これで、私は連中による不法かつ残虐的な攻撃の証人になれる。

 

"三大校による企業への侵略的かつ意図的な攻撃"。

これはあらゆる意味で、我々に有利な情報だ。

 

それを利用すれば、三大校から莫大な慰謝料や土地、権利をせしめ……。

上手くやれば、キヴォトスの支配者となることも夢ではない。

 

「クク、ククク…………」

 

怒りと喜びが混じり合い、奇妙な笑い声が漏れる。

 

────その時、遠方からヘリの駆動音が聞こえた。

 

咄嗟に、窓の外へと目を向ける。

サーチライトを照らし、編隊を組んで飛んでいる機体の側面には、連邦の────。

 

「……ジェネラル!!」

 

怒鳴りつけると、ジェネラルは発煙筒を片手に車外へと飛び出ていく。

ジェネラルの合図を受けたヘリの編隊は我々の上空で停止し、ゆっくりと、着陸した。

 

それを確認し、私も車外に降りる。

 

噴出音と共にヘリのバックドアが開き、降りてきたのは────。

 

「カイザーPMC取締役・"プレジデント"と、カイザーPMC司令官・"ジェネラル"ですね?」

「連邦生徒会長代行。七神リンと申します」

 

現れた相手は、名乗らずともわかるほどの大物。

 

"勝った"。

その言葉が脳裏をよぎり、口を開こうとした瞬間。

 

「連邦生徒会防衛室長・不知火カヤとの内通、汚職および転覆計画。その他多数の容疑で拘束させていただきます」

「それに伴い、カイザーグループの所有するアビドス内の土地を、我々連邦生徒会が収容します」

 

「は……なん、だと……!?」

 

「既に訴追の手続きは済んでおりますので、抵抗はなさらぬよう」

 

「……ふざけるなッ!!何の道理があって────」

 

目の前の女は私の言葉に答えず、ただ「拘束してください」と。

瞬間、何人もの武装した生徒が我々へと銃を向けた。

 

「……繰り返しますが、既に訴追の手続きは済んでおります。抵抗はなさらぬよう」

 

「チィ……ッ!」

 

逃げ場はない。しかし……拘束を受ければ終わりだ。

一か八か。賭けるしかない。

 

ホルスターから拳銃を抜こうと手を動かした瞬間。

乾いた銃声が響き、伸ばした手は空を切った。

 

「……!?」

 

私の腕が、吹き飛ばされていた。

隣にいたジェネラルも、砂へと倒れ込む。

 

「……では、ご同行願います」

 

その言葉と共に、私の意識は途切れた。

 

 


 

 

同時刻:D.U区画/シャーレのオフィス

side:カヤ

 

[プレジデントとジェネラルは拘束しました]

[これよりシャーレに向かいますので、貴方も同行してください]

 

「…………わかりました」

 

渦巻く感情を押し込め、小さな言葉を返す。

私の返答に、電話口のリンは少しだけ間を開けて、

 

[……感謝します、カヤ]

 

そう言った。

ずくん。内心が揺れる。

 

「っ……貴方に、感謝される謂れはありません」

 

嫌味な声色で返すと、リンは"そうですね"と呟いた。

 

[……確かに、貴方のしたことは許されるべきではありませんが……]

 

[しかし、貴方は誤りを認め、カイザーによる暗躍を終わらせたのです]

[内部に蔓延る腐敗を取り除いたのは、貴方ですよ。カヤ]

 

[……少なくとも、私は感謝しています]

 

[……では、もう間もなく到着しますので、用意をしておいてください]

 

リンはそう言葉を終えて……通話は終わった。

 

「………………」

 

"ぎり"、と携帯を握る力を強める。

そのままゆっくりと歩み、窓際に立つ。

 

目下の公園では慌ただしく動いている生徒たち、そして、先生が目に映る。

 

「……別れを告げることは、できなさそうですね」

 

小さく呟いて、窓に背を向けた。

 

遠くでヘリの音が聞こえ始める。

 

……そろそろ、行かなければならない。

 

「……お世話になりました。先生」

 

小さく呟いて、そっと、オフィスの電気を消した。

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