"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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前回までのあらすじ

ビナー討滅作戦が成功し、白蛇は砂漠に沈んだ。

人と機械の争いにひとつの節目が撃ち込まれたかと思ったその時、突如としてミレニアムタワーの制御が奪われる。
同時に現れた無数のオートマタや巨大兵器によって、眠りに落ちた都市は牢獄と変貌し、配膳用のロボットから最新鋭の戦車に至るまで、その全てが人類の敵へと変わった。

陥落したミレニアムタワー。
その内部に閉じ込められた各校の代表者達と、未だ自治区内に残る連合部隊を救出するため、天城ルイや先生と始めとした各勢力は、ミレニアムの攻略へと乗り出す。





突入

03:27 :ミレニアム外縁部/メインロード

side:ユキノ(FOX-1小隊)

 

────作戦開始予定時刻、3分前。

D.U区画より出発した第一次輸送隊は、都市を前にして一時停止した。

 

「……0327、現着。休んでいる者達を起こしてくれ」

 

[はーい]

[了解しました]

 

部隊の返事を確認し、無線用の端末を置いたユキノは、眼前に広がる都市へ目を向ける。

 

都市に覆いかぶさるように広がる煙雲と、重く響く爆発音。

風に乗って、ゴムの焼けたような臭いが辺りを漂う。

 

遠方に見える光はめらめらと揺らめいて、都市の惨状を物語っていた。

 

……これから突入する先は、まさに闇の中。

なにが起きるかは未知数、生還の保証もない。

 

集まったのは元SRTやヴァルキューレを始めとした精鋭とはいえ、寄せ集めの部隊。

その上、使えるのは時代遅れの兵器のみ。

 

不安要素は無数にある。

 

……それでも、厭うことはない。

 

私たちは、一本の剣だ。

どのような状況にあれ、柄を握り、剣を振るう者の意思を……"正義"を、果たす。

 

そう、誓ったのだから。

 

 

「──……はぁ」

 

 

ユキノは大きく深呼吸をして、雑念を払った。

戦場の臭いが肺を満たし、身体が臨戦態勢へと近付いていく。

 

部隊の状況確認も含めて、装甲車の機銃席から周囲を見渡す。

 

前方で待機する戦車1両。その後方にはユキノとクルミの乗る機動装甲車2両、さらに後方に自走対空砲が1両。

機械化部隊として、戦地に突入するには十分な編成だ。

 

しかし後方には、この作戦の心臓とも言える輸送車を護衛するRABBIT小隊が控えている。

それらを守り、相互に支援しながら進まなければならない。

 

……かつてないほどに困難かつ、危険な作戦だ。

 

 

[────こちらRABBIT1。行動可能]

 

[FOX2。こっちも動けるよー]

 

隊員たちから通信が入り、思案は切れた。

ふうと息を吐き出して、通信用の端末を持ち上げる。

 

「……FOX1、了解した。およそ40秒後、定刻より作戦を開始する」

 

[FOX2 了解] [RABBIT1 了解]

 

隊員たちの了解を聞いて、ユキノは端末を降ろした。

 

「…………」

 

黙し、精神を整える。

その間にも腕時計の秒針は淡々と回り、頂点へと近付いていく。

 

……そして、その時は訪れた。

秒針は頂点を越して、小さな電子音を鳴らす。

 

「────行動開始!進め!」

 

ユキノの号令が、全隊へと伝わる。

 

前衛の戦車が目覚めたかのようにヘッドライトを点灯させ、キュラキュラと移動を始めた。

それに続くように、ユキノやクルミの乗った装甲車も移動を始める。

 

ヘッドライトに照らし出された、昏く燃える都市へと、部隊は進んでいく────。

 

 


 

 

────自治区内の道路を300メートルほど進んだだろうか。

無線機が突如、ザリザリとけたたましいノイズを発し……最後には、沈黙した。

 

「チッ……この距離でも駄目か」

 

短距離間の通信ならもしや、と持ち込んだ無線機は、完全なガラクタに変わった。

舌打ちと共に、背負っていた無線機の本体を下ろす。

 

「……無線機は外せ!必要なら捨てても構わん!荷物になるよりはマシだ!」

 

「FOX2!後方部隊に第二陣形へ移行するよう伝えてくれ!」

「移行完了後、有線接続へ切り替える!」

 

「はーい!」

 

ユキノの指示に応じて、オートバイで車列に随伴していたニコがRABBIT小隊の元へと向かった。

 

────そして、ニコが後方へ向かって十数秒。

私の耳が、遠方より接近する甲高い駆動音を捉えた。

 

「……5時よりドローン接近!!総員対空配置!」

 

ユキノがそう叫ぶと同時に装甲車のバックドアが開け放たれ、小銃を携えた戦闘員たちが降車、車両の周囲を囲むように展開する。

 

「射撃開始!!」

 

"ズダダダダダダダダダ!!!!"

 

幾重にも重なる銃声と共に、無数の弾丸が空に放たれ───迫るドローンの群れを撃ち落としていく。

戦闘員が対空射撃をしている間、路地からこちらを見つめる橙光が──

 

「──10時敵影!路地!機銃掃射!!」

 

号令と同時に、機銃の引き金を引く。

マズルフラッシュの閃光が夜を裂き、唸るような重低音と共にビルの外装が砕かれ──こちらを狙っていた敵は、路地ごと瓦礫に変わった。

 

からんからんと落ちる薬莢。夜闇に立ち込める硝煙。

訪れた静寂に、戦闘の余韻が漂うなか……ユキノは周囲を警戒する。

 

「……敵影無し!展開したまま進行する!陣形を崩さず進め!」

 

展開した戦闘員たちにそう伝え、後方の自走砲にライトで指示を送る。

"戦闘終了。進行再開、後方へ連絡"。

 

そう信号を送ると、"了解"と自走砲のライトが伝えた。

 

連携を確認して数秒。鋼鉄の車列は前進を再開する。

 


 

 

03:37

side: RABBIT小隊

 

先行するFOX小隊の車列から、一台のバイクがこちらへ走ってくる。

乗っているのは、ニコ先輩。

 

私と目が合うと、先輩は片手で合図を送りながら、口を開く。

 

「無線機不能につき、第二陣形に移行するよ!!」

「陣形移行後、有線通信に切り替え!用意しといて!!」

 

「了解しました!!」

 

ミヤコの返事を聞いたニコは手で合図を返し、後続の輸送車に指示を伝えにいった。

その時、前方の自走砲が一時停止し、赤いライトを点灯する。

 

「……停止!」

 

それは"交戦開始"を意味しており、応じて私の乗る装甲車も一時停止した。

こちらもライトを点灯し、後方へそれを伝える。

 

数秒。無数の小銃の銃声が鳴り始め、続くように機銃の重い銃声が響いた。

ドローンが撃墜されたのか、銃声に混じって小さな爆発音も聞こえてくる。

 

戦闘が迫り……グリップを握る指に、力が籠る。

そんな時、背後からサキの声が響いた。

 

「後続も含め、第二陣形への移行は完了した!交戦終了次第、接続作業を開始してくれ!」

 

彼女は装甲車の機銃席から工作隊に指示を出しつつ、私へ手を振った。

 

「RABBIT-1!既に位置を把握されたなら、こちらも即応体制に移行するべきじゃないか?」

「ここは潜伏できる場所が多すぎる、完璧に索敵するのは無理だぞ!」

 

そう言いながら、サキは周囲を一瞥して見せる。

 

……彼女の言う通り、この都市はあまりに危険な地形だ。

 

進んでいるのは、高層ビルに囲まれた大通り。

月明かりすらも遮る摩天楼が、道路に深い影を落としている。

 

このような地形では完璧な索敵は不可能。

上方からの強襲は避けられないリスクとなる。

 

サキの懸念も、当然だった。

 

「……同意しますが、FOXの指示を待ちましょう。今は陣形の移行を急いでください」

 

そう答えると、サキはこくりと頷きを返す。

 

「……了解した。では、通信の確立を急ぐとしよう」

「RABBIT3と4も準備はできているはずだ」

 

「了解。交戦終了次第、接続作業を開始します」

 

と、会話を終えたところで、前方で鳴っていた銃声が止んだ。

それから少しして、前方の自走砲が"交戦終了"のサインを送り……緩やかに移動を再開する。

 

「……交戦終了!接続を開始してください!」

 

声を張り上げると、装甲車から工作隊が外に出て、ケーブルの束を片手に接続作業を始めた。

彼女たちは手際よく、車両間の有線通信システムを作り上げていく。

 

1分ほどすれば、車列の間に太いケーブルが敷かれて……通信機が"ザザ"と小さなノイズを発し始めた。

 

「……こちらRABBIT1、応答してください」

 

マイクを口元に当て、通信を送る。

小さなノイズが何度か鳴って、数秒。応答が返ってきた。

 

[RABBIT2、接続を完了した。そちらの音声は明瞭だ]

[RABBIT3、音声明瞭だよ~]

[RABBIT4、同じく音声明瞭です……]

 

「RABBIT1、音声明瞭。通信を保持してください」

 

そう伝え、通信機のチャンネルを切り替える。

 


 

03:47

side: FOX-1小隊

 

[……こちらRABBIT1、FOX小隊、応答してください]

 

「こちらFOX1、音声明瞭。こちらの音声に異常ないか?」

 

[RABBIT1、音声明瞭。問題ありません]

 

[FOX2、音声明瞭。問題ないよー]

 

RABBIT1とFOX2に続き、各車両に乗った隊員たちが返事を返した。

部隊間の通信確立は問題なく完了したようだ。

 

「了解。前告通り、第二陣形で進行する」

「こちらの進行に合わせつつ、輸送車の防衛に専念してくれ、以上」

 

そう伝え終わると、車列は中速での移動を再開した。

移動を再開して数秒。通信機からオトギの声が響く。

 

[……ねえ、この先はビルだらけだよ。上方への警戒が緩すぎるんじゃない?]

[真上から対戦車兵器で撃たれたらひとたまりもないよ]

 

「……わかっている。だが今はとにかく前へ進むぞ」

「私たちの最優先目標はあくまで物資の輸送であって、戦力を残存させることではない」

 

「最低限、輸送車さえ守り切り、目的地に辿り着けばいい。それを忘れるな」

 

[はーい……]

 

[こちらRABBIT4~。有線でドローン飛ばしてみたけど、今の所はちゃんと動いてるよ~]

[ま、建物内の偵察はほぼ無理。飛んでるヘリとかドローンが精々だけどね]

 

「了解した。異常あれば、逐次報告してくれ」

 

極限の警戒を維持しながら、部隊は緩やかな進行を続ける。

エンジンの駆動音に交じり、装甲車に随伴する戦闘員たちが靴の音を鳴らす。

 

「隊長!ちょっといいっすか?」

 

「……どうした?」

 

唐突に声を掛けたのは、ヴァルキューレの制帽を被った者。

彼女はユキノのぶっきらぼうな返事を聞いて、その帽子を脱いで見せた。

 

「……へへ。あたし、前はSRTに居たんすよ。ほら」

 

そう言って、彼女は制帽の裏が見えるようにユキノへ向ける。

制帽の裏。ヴァルキューレ校章の裏側には、SRT特殊学園の校章が刺繍されていた。

 

「…………」

 

無言を返すユキノに、彼女は言葉を続ける。

 

「いやあ、FOX小隊と言えば。あの"災厄の狐"を倒した伝説の部隊っすから……」

「うちら2年の間でも、憧れだったんすよねえ。はは、一緒に戦えて光栄っす」

 

制帽を指先でくるくると回しながら、彼女は昔を懐かしむように語った。

 

そして、ぴたりと制帽を回すのを止めたかと思うと、

彼女は小さくため息を吐いて、その制帽を深く被ってみせた。

 

「……どうしてこうなっちゃったんすかねえ」

 

「急に『要らない』って言われて放り出されて、帰る場所を失って……」

「誘われてここ(ヴァルキューレ)に入ってみれば、大した仕事もやらせてもらえないし」

「かと思えば、有事にはこうして危険な任務に駆り出される……都合いいっすよね。ま、召集に手を挙げたのはあたしなんですけど」

 

「こうなって思うのは、やっぱり、SRTは必要だったんじゃないっすかねえ~……」

 

「はあ……あの野暮ったい寮に、帰りたいっす」

 

ぽつぽつとした語りを、彼女はそう締めくくった。

 

「……SRT出身なら、作戦中の私語は慎むように教わったはずだ」

「集中を欠くな。お前ひとりの油断が、チーム全員を殺すことになる」

 

ユキノは冷たく、少女を突き放す。

 

「……はは、そうっすよね……すいません」

 

そして、少女はただ、寂しそうに笑った。

 

しかし、そこに失望も、怒りもない。

かつて憧れた英雄は、未だSRTの名を掲げ、正義のために行動している。

 

安易な同意や共感ではない、古巣を思わせるそれこそが、彼女にとってある種の救いでもあり……区切りとなった。

 

「…………」

 

無言で配置に戻った少女を、ユキノは黙視で見送る。

それこそが、ユキノにできる後輩への最大の気遣いだった。

 

────そのとき、誰かが声をあげる。

 

「……接敵(コンタクト)!! 11時、ビル2階!」

 

[4時、1時方向よりドローン接近中。]

[4時、タレット型。1時、自爆型!]

 

間髪を入れず、RABBITの通信手からの報告が入った。

戦車は指示を待たず、11時のビルへと主砲を撃ち込む。

 

"ズドォォン────!!"

 

ビルを砕く爆風が体を揺らすなかで、ユキノは冷静に指示を下す。

 

「4時、1時よりドローン飛来!!歩兵は4時の対空を優先しろ!!」

「FOX3、1時方向へ!」

 

[了解!]

 

"キュィィ──ドドドドドドド!!!"

 

指示通りに自走砲はその砲塔を向け、迫るドローンの群れへと無数の弾丸が放たれる。

分間数千発を誇るその弾幕により、ドローン群は瞬く間に夜空の塵と消えた。

 

"キュゥゥゥゥゥ────……"

 

自走砲の対空射撃が停止すると同時に、周囲には静寂が漂う。

 

[……11時、クリア]

[1時、全機撃墜]

 

「4時方向、全機撃墜した。損害無し」

 

[RABBIT、こちらも損害なーし]

 

報告が飛び交う。……無事、襲撃を退けたようだ。

ユキノは小さく息を吐くが、そこに安堵はない。

 

(妙だ……秩序だった攻撃でもない、突発的な戦闘が繰り返されている)

 

まるで斥候、あるいは時間稼ぎのような攻撃に、じっとりとした違和感を感じる。

 

……だとしても、動きを止める訳にはいかない。

 

「了解。進行を再開す────」

 

 

────瞬間。地が揺らいだ。

叩き付けられるような衝撃波の中、ユキノは天を見上げる。

 

 

「……なん、だ────ッ!?」

 

直上には、豪炎を噴く摩天楼。

空に拡がる爆炎が、車列を照らす。

 

あまりの衝撃に、時がゆっくりと動いたように感じられた。

ビルより崩れ落ちた瓦礫が、ガラガラと音を立てて降ってくる。

 

動揺に止まった意識は、一瞬で引き戻される。

 

大きく息を吸い、後退命令を出そうとしたその時────崩落の轟音に重なり、"ヒュウ"という笛の音が夜空に響いた。

 

(崩落は罠────後退した先を狙う気か!!)

 

「ッ────全隊へ!!即時散開、遮蔽物へ退避しろ!!」

「爆撃が来る!!」

 

誰よりも早く状況を理解したユキノは、喉が張り裂けんばかりの大声を上げた。

 

「────!!!」

 

ユキノの言葉を聴いた隊員たちは即座に装甲車へ飛び込み、車列は即座に散開を始める。

その直後、天空より笛の音が降り注ぎ──閃光が奔った。

 

"────ドガァァァァァン!!!"

 

爆発、炸裂。

降り注ぐ砲弾が道路を焼き、砕く。

 

「下がれ!!下がれーーーッ!!!」

 

ユキノの叫びに呼応するように装甲車のエンジンが唸りを上げるなか。

"ミシ、ギシ" と鋼の軋む音が辺りに満ちたとき────空が、動いた。

 

「ッ……!!崩落が来るぞ!!衝撃に備えろ────ッ!!」

 

ぐらりと傾き、折れた摩天楼が、堕ちてくる。

ユキノは車内へと飛び込んで、降臨する天災に備え────。

 

 

"────────!!!!!"

 

 

地を割るような衝撃と共に、瓦礫を纏って吹き荒ぶ暴風。

巻き上げられた瓦礫が装甲車の車体に叩き付けられ、ガリガリとけたたましい音を立てる。

 

今にも車体が押し潰されそうな暴圧が車内を襲い───十数秒。

 

 

……ついに地鳴りが止まり────"シン"、と静寂が訪れた。

耳鳴りに頭を痛めながら、ユキノは機銃席のハッチを押し開け────周囲を伺う。

 

 

「……クソ……」

 

視界に入ったのは、辺りに立ち込める砂埃と、瓦礫の山。

ライトの光を砂埃が吸収し、10メートル先すら見えない中で認識できるのは……炎の海と瓦礫の輪郭のみ。

 

私たちが先ほどまで進んできた都市の姿は……とうに消え失せていた。

 

「……各部隊、応答せよ」

 

通信機に声を掛けてみるが、当然応答はない。

ケーブルは切断されたようだ。

 

「……チッ」

 

ユキノは機銃席から飛び降りて、装甲車のバックドアを開け放つ。

その中では、乗っていた搭乗員たちが折り重なるようにして伏せていた。

 

「……起きろ……寝転がっている時間はないぞ」

 

伏せている者たちを起こしながら、ユキノは次の一手を告げる。 

 

「いいか……おそらく、先ほどの爆撃はミレニアムの都市防衛システムによるものだ」

 

「ミレニアム側の話では、"あれは物理プロテクトがあるから、ハッキングされたところで動かない"とのことだったが……どうやら、当てが外れたらしい」

 

「連中の目的が分断と各個撃破なのは明確だが……とはいえ、あれの射程内で車両を運用するのは現実的じゃない」

「作戦目標の達成を目指すのなら、あれの破壊は必須条件と言える」

 

ユキノがそこまで説明を終えたところで、隊員たちは自分達のチームが何をするべきかは理解したようだった。

 

「……ははっ、施設の制圧なら、私たちの得意分野っすね……!!」

 

ヴァルキューレの制帽を被った少女が不敵に笑うと、他の隊員たちも勇壮に笑った。

 

「……そういうことだ。各員、準備を進めてくれ」

「幸い、施設の位置は割れている。準備が完了次第、即座に行動を開始するぞ」

 

「「「「了解!!」」」

 

隊員たちは揃って了解を返し、素早く戦闘態勢を整えはじめる。

 

ユキノはその間に、外で車両の状態を確認していたドライバーに声を掛けた。

 

「……車両は動かせそうか?」

 

その問いに、ドライバーは"ええ"と頷いたが……不安げに周囲を見回した。

 

「……しかし、視界と足場が悪すぎます。不用意に動くのは危険かと……」

 

彼女の言う通り、我々が先ほどまで進んでいた道路は衝撃によって砕け、隆起し、陥没している。

この状況で車両を動かすことは、自殺行為であった。

 

「……わかっている。動くのならそれでいい」

 

「お前ともう一人はここに潜伏し、FOX-2の戦車や後方部隊の合流に備えていてくれ」

「我々は都市防衛システムを破壊しに行く」

 

「……了解しました。ご武運を」

 

そう言って小さく敬礼した少女に礼を返し、ユキノは戦闘準備を終えた隊員たちに向き直った。

彼女達は勇壮な面持ちで銃を携え、ユキノの指示を待っている。

 

「……準備はいいな。行くぞ」

「FOX-1小隊、行動開始!」

 

 


 

 

────崩落から2分。

 

03:55

side:RABBIT-2

 

「ぐ…………っは!ぜ、全員無事か!?」

 

崩落の余波が収まり、横転した装甲車の中にサキの声が反響する。

 

「ぅぐ……無事、だ……」

「ぅえ、なんとか……」

 

隊員たちは滅茶苦茶になった車内でひっくり返りながらも、無事だと答えた。

 

「よかった……とりあえず、外に出るぞ……」

 

サキは隊員たちと共に軋むバックドアを押し開けて、外へと飛び出る。

視界に映ったのは、立ち込める砂煙と、月に代わって燃え盛る高層ビルの残骸。

 

唐突に発された退避命令。あの直後になにが起きたのかは明らかだった。

 

「……クソッ、冗談だろ……」

 

銃のグリップを固く握って、思案する。

 

元の地点に戻って皆と合流しようにも、退避してきた道は瓦礫で塞がっている。

あの爆撃も考慮に入れるのなら……少なくともメインロードに戻る道はない。

 

(……どうする)

 

指揮系統は混乱している。車長は私だ。ここは私が決断しなければ。

 

(状況は未確定。車両を放棄し、歩きで他部隊との合流を優先するか?)

 

……フレアを上げ、救援を要請するという手もある。

だがそれは、敵に居場所を伝えるのと同義。

 

打ち上げた瞬間。即座に敵の包囲網が形成され始めるだろう。

フレアを上げるタイミングがあるとするのなら……それは他部隊がフレアを上げた時。

 

そして、敵の包囲網を打破するためには──少なくとも機銃の支援が必須。

 

結論は出た。大きく深呼吸をして、指示を待つ隊員たちに告げる。

 

「……まずは装甲車を起こすぞ!」

「そこの二人は支点に使えそうな瓦礫を集めてくれ!」

 

「運転手は支柱を探してウインチをセット、ジャッキの用意を!」

 

「私を含めた残りのメンバーは周囲を警戒しつつ、支点の形成を行う!」

「以上、行動開始!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

サキの一声で隊員たちは散開し、車両の復旧作業を始めた。

 


 

────崩落から5分。

 

03:58

side:RABBIT-1 & FOX-4

 

車列の中央に居たRABBIT-1とFOX-4は、突如発せられた退避命令に際して同じ方向へと退避していた。

ビルの崩落から間もなく合流した両部隊は、破損した自走砲の傍で対応を話し合っている。

 

「……どうしますか、FOX4」

 

深刻な表情を浮かべるミヤコの尋ねに、オトギは"うーん"と唸って見せる。

 

「地図と散開位置から考えて、距離はそこまで離れていないだろうし……」

「今は自走砲の修理を優先しつつ、ここで他の部隊が合流してくるのを待とうかなぁ」

 

「……対空火力は必須だし、他の部隊が無事なら、もう合流に動いてるだろうからね」

「まだフレア(救援要請)も上がってないし、今は下手に動かず合流に備えるべきだと思うよ!」

 

理路整然と考えを述べたオトギに、ミヤコはどこか恐縮したように頷いた。

 

「……なるほど、了解しました」

 

「あはは、そう固くならなくていいよ。今はチームだし、対等でしょ?」

「気楽に……ってわけにはいかない状況だけど、普通に接してよ!」

 

そう言って、オトギはミヤコの背を"ぱしん"と叩く。

このような状況にも関わらず気さくに話すオトギに、ミヤコは若干気圧されながらも、"わかりました"と返事をする。

 

それを聞いたオトギはにっこりと笑って、置いていたスナイパーライフルを担ぎ上げた。

 

「よし!じゃあ……とりあえず周囲を警戒しつつ、修理完了まで待機ってことで!」

 

「はい!」

 


 

 

────崩落から6分

 

03:59

side:RABBIT-3 & RABBIT-4

 

「……あっちゃ~……」

 

「ど、どうしよぉ……!!」

 

輸送車を任されていたRABBIT小隊の二人は、揃って頭を抱えていた。

後方に居た故、崩落に際して大きな被害は受けなかったものの……前に居た部隊とはぐれてしまった。

 

現在ここにいるのは、最後方で護衛を務めていた戦車1両と、荷物を満載した輸送車が2両。

戦力的には悪くないが、輸送車という急所を抱えた上で動き回ることはできない。

 

「「はぁ……」」

 

二人の白い溜め息が重なって、夜闇へと溶けていく。

 

「……このままここに隠れてても埒が明かないしぃ、これ、使っちゃう?」

 

くるくるとフレアガンを指先で弄びながら、モエは言う。

それを見たミユは、"うぅ"と小さく唸った。

 

「……やっぱり、そうするしかないのかなぁ……」

「でっ、でも、"本当に危ない時にだけ使え"って、ユキノさんが……」

 

二人が判断に困っていると、点検を進めていた戦車の車長がハッチから顔を出した。

 

「……虎丸に問題はありませんでした。行動するのでしたら、いつでも行けますよ」

 

もふもふとした長髪を暑そうにかきあげて、車長はハッチから飛び降りた。

その手には丸められた地図が握られている。

 

そして、車長はモエが握っているフレアガンを一瞥し……なにかを察したように口を開いた。

 

「……個人的な意見ですが、フレアを上げるのはまだ早いと思います」

 

「散開地点と地図を照らし合わせれば、現在の部隊の位置はおおよそ推測できます」

「我々は最後方ですので、こちらから動く方が連携もスムーズでしょう」

 

「……後退や停滞の結果、逆に分断が進む可能性もありますので」

 

そう言いながら、車長は握っていた地図を広げて見せた。

 

「点検の傍ら、合流のための移動経路を構想してみました」

 

「……まず、再び爆撃される恐れがあるので、メインロード周辺を通るのは避けます」

 

「なので、すこし細いですがこの道を通って……ここか、ここに抜けます」

「私の想定では、この辺りにRABBIT-1かRABBIT-2のどちらかが移動していると思われます」

 

「彼女達と合流できれば、迅速に体勢を立て直せるかと」

 

広げた地図を指差しながら、車長は言う。

彼女の言葉に、二人は顔を見合わせた。

 

「……で、でも……戦車と輸送車の機銃だけじゃ、対空しきれないんじゃ……?」

 

ミユの呈した疑問に、モエが続く。

 

「そゆこと。こっちは人員も少ないし、無理に動いてドローンの群れに突っ込まれたら終わり」

「輸送車が破壊されたら、わざわざここに来た意味もパア。動きたくても動けない感じ~」

 

その言葉に、車長は"その通りです"、と頷きを返した。

 

「……ですがつまり、"人員と、対空可能な小銃"があれば可能ということですね?」

「それなら、なんとかなるかもしれませんよ……」

 

車長はそう言って、戦車の側面によじ登る。

戦車のハッチに彼女が滑り込んで、十数秒後。

 

ガチャリとハッチが開いて、戦車の中から4人の生徒が下りてきた。

彼女達の手には、ライトマシンガンやドラムマガジン付きのサブマシンガンが握られている。

 

"どういうことか"、と二人が顔を見合わせているうち、車長が戦車のハッチから顔を出した。

 

「よいしょ……彼女達を随伴に回し、虎丸は私だけで操縦します」

「虎丸が先導しますので、皆さんは周囲を警戒しつつ、着いてきてください」

 

それだけ告げて、車長は再び戦車内へと引っ込んだ。

そして、戦車は車長の言葉を証明するようにぐるりと砲塔を回して見せる。

 

「えっ、ええ……!?」

「嘘でしょ……」

 

困惑する二人に、万魔殿の生徒が"ははは"と愉快そうに笑った。

 

「驚いたか?イロハ車長は虎丸を1人でも操縦できるんだ」

 

「単独でPMCの戦車中隊をぶっ潰したって話もあるんだぜ!」

 

誇らしげに笑う少女たちに、RABBIT小隊の二人は困惑する。

 

「……だ、大丈夫かなぁ……?」

「いや……マジ?」

 

「はっはは、マジマジ。大マジだ!」

「車長と一緒じゃなきゃ、あたし達もこんな危ないとこに来ないって!」

 

「さ、早く乗ってくれ!護衛は任せてくれよ!」

 

ばしばしと背中を叩く少女達に押され、RABBIT小隊の二人は輸送車の機銃席に就いた。

 

[……聞こえますか。こちら虎丸]

 

少しして、車長から通信が入る。

 

[こちらRABBIT3。音声は明瞭。行動可能だよ~]

[RABBIT4、同じく明瞭、行動可能です……]

 

[了解。時刻0405より、ポイントα(アルファ)へ向けて行動を開始します]

[前方は任せてください。代わりに後方や上空はお任せします、いいですか?]

 

[RABBIT4、了解しました……作戦開始を待機します]

[RABBIT3、同じく了解~]

 

二人の返事に、車長は [では、定刻まで待機します] と告げて、通信が切れた。

 

誰も口を開かず、ただその時を待っている。

その時、冷たい風がびゅうと吹き、頬を撫ぜた。

 

そして────

 

[……0405、行動開始!]

 

号令と共に、車列は移動を始めた。

前を進む戦車は"キャリキャリ"とキャタピラを軋ませ、荒れた道を乗り越えていく。

 

[……少し段差がありますが、行けそうですか?]

 

[これくらいなら大丈夫。続くねー]

 

瓦礫によって生まれた段差を乗り越え、車列は横道へと入り込む。

そのまま少し進むと、僅かに開けた道路に差し掛かった。

 

[……ここから先は開けています。先行して偵察しますので、待機していてください]

[支援が必要な場合は報告します。以上]

 

[RABBIT4、了解。待機します……]

[RABBIT3、同じく了解]

 

二人の応答を聞いて、戦車は道路へと飛び出した。

ミシミシとコンクリートの破片を踏み潰しながら、戦車は砲塔を回す。

 

そして────"ズドォォォン!!"

主砲が火を噴いた。 爆発音と共に、通信が入る。

 

[事後報告ですみませんが、敵の斥候を発見しました。排除済みです]

[すぐに移動しましょう]

 

[RABBIT3、了解]

[RABBIT4、了解、追従します……!!]

 

その言葉と共に、横道から2両の輸送車が飛び出した。

先行する戦車を前に、車列は道路を進行する。

 

[……発見されてしまいましたが、味方部隊も砲声に気付いたはずです]

[囲まれる前に、できるだけ前進しますよ……!!]

 

そう言いながら、戦車は再び火を噴いた。

砲弾はビルの壁を貫き、炸裂する。

 

[……RPGでこちらを狙っていたので撃ちました]

 

[……いや、どうやってんの……?]

 

[長年乗っていればできるようになりますよ……おっと]

 

そんなことを言いながら、戦車は主砲を放つ。

砲を撃ち込まれた路地は一瞬にして火の海と変わり、破壊されたオートマタの破片が飛び散った。

 

[……待ち伏せされていました。はあ、やはり分断を進めるつもりだったようですね]

[砲弾も無限ではありません。危険なターゲットを優先して攻撃しますので、残りは頼みますよ……!!]

 

[りょーかいッ!]

[はいぃ……っ!]

 

その言葉と同時に、横道や路地、ビルの窓際からオートマタとドローンの軍勢が飛び出してくる。

 

「ッ……ファイヤーーーッ!!」"ズドドドドドッッ!!!"

 

こちらを包囲するように展開を始めるそれらに、12.7mmの雨が降り注ぐ。

マズルフラッシュが夜を裂き、重低音が大地を揺らす。

 

「……地上と室内は機銃で応戦する!!歩兵は車両を盾にして対空に集中!!」

 

「「「「 了解ッ!! 」」」」

 

輸送車に随伴していた生徒達は携えた小銃を空に向け、飛来するドローンへ弾幕を張る。

 

一機、また一機と堕ちていく中、モエの頭上に一機のドローンが迫った。

赤く点滅するそれの下部には、爆弾が────

 

「……しまッ……!」

「あぶないっ!!」"ズドォン!!"

 

ミユの放った弾丸が、目の前に迫ったドローンを砕く。

眼前を通り抜ける衝撃波に、一瞬肝が冷えるが──すぐに、冷静さを引き戻した。

 

「……ッ、さんきゅーッ!!」

 

モエは再び制圧射撃を始め、回り込まんと展開するオートマタ達を薙ぎ払っていく。

射撃の応酬。無数の弾丸が飛び交う中、一発の銃弾がモエの頬を掠めた。

 

「……ああ、もうッ!!」"ズドドドドドドッッ!!!"

 

「……わああぁぁぁ……っ!!」"ズドォン!! ドドドドッ!! ドドドッ!!"

 

半ば悲鳴のような声を上げながらも、ミユはモエのそれとは対照的に一発、また一発と正確に弾をばら撒いている。

 

低空で突っ込んでくるドローンや、ビルの隙間からこちらを狙うオートマタ。

それらを正確に撃ち落とし、軍勢の中に道を作り出す。

 

「リローーード!!!」「カバー!!」

「8時クリア!!」「進め!進め!!!!」

 

車両と歩兵が一体となり、車列は前へと進んでいく。

押し寄せる敵の波を、もうわずかで切り抜けられる。そんな時────。

 

"────ガシャァァァン!!"

 

車列の行く手を塞ぐように、巨大な影が降ってきた。

煙に紛れたそれは────"ぷしゅう"と蒸気を吐き出しながら、ゆっくりと"頭"を上げる。

 

橙色の光が、こちらを捉えた。

 

[ッ……"ゴリアテ"です!!!]

 

車長がそう言った瞬間、戦車の主砲が火を噴いた。

それは"ゴリアテ"と呼ばれた大型ロボットの左腕を貫き、爆散させる。

 

しかし、黒煙の中のゴリアテは、いまだ健在。

それは一歩を踏み出し、地面を軋ませる。

 

[……どうするの!?]

 

[……後退は無理です!このまま倒すしかありません!!]

 

通信を送る車長の声には、強い焦りが滲んでいる。

 

……それも当然だった。

 

ゴリアテとは、ミレニアムが開発した最新鋭の"二足歩行型戦車"。

二足から成る機動性と走破性、両腕の機関砲と頭部の主砲からなる過剰とも言える火力は、都市防衛における切り札であり……デカグラマトン級と並ぶ最大クラスの脅威と目されていた。

 

それが、戦車と輸送車。たった三両の前に立ちはだかっている。

それは危機以外の何物でもなく、その場に居た全員が、背に冷たいものを感じていた。

 

[……ッ了解!!他の敵はこっちで掃除する!!そっちはゴリアテに集中して!!]

 

[ええ、任せましたよ……!!]

"ヴオォォォォォォン……!!"

 

猛々しく吼えたエンジンと共に、戦車はゴリアテへ向けて突進する。

輸送車の方を狙っていたゴリアテは、急速に接近する戦車へと腕の機関砲を向け────。

 

"キュィィィィ──ドドドドドド!!!!!!"

 

無数の弾頭が戦車の正面装甲に降り注ぐ。

火花と破片が飛び散り、装甲がミシミシと悲鳴を上げる。

 

それでも、戦車は止まらず猛進する。

機関砲の掃射を受け止めながら突き進む戦車は、

ついにゴリアテへと激突し────その体勢を崩した。

 

"──ズドォン!!"

 

至近距離で放たれた戦車の主砲が、ゴリアテの左脚部装甲を貫き──砕く。

金属が裂け、内部機構から漏れ出た黒い油が、血液のようにコンクリートに沁み込んでいく。

 

脚部の支えを失ったゴリアテは膝を着くように倒れるが────しかし、立ち上がる。

 

[……まだ、止まりませんか……!!]

 

"────ズドォン!!"

 

戦車はゴリアテが輸送車を狙えないように車体を擦りつけたまま、至近距離での主砲の撃ち合いを繰り返す。

 

その間にも、止まらずオートマタは湧き出ていた。

 

「……モエちゃん!!」

 

「わかってる!!」

 

二人はトリガーを引き続け、歩兵を狙って展開を進めるオートマタ達を鉄屑と変えていく。

 

「くッそお……!!」

 

一発、また一発と弾薬が機銃のチャンバーへと吞み込まれ、撃ち出される。

その度に、弾切れが近付いていく。

 

「……リローーード!!!」

「こっちもリロードする!!!弾切れが近い!!!」

 

「カバーする!!!」

 

対空を続ける生徒達も、限界が近い。

 

"────ズドォォォン!!!"

 

そんな中で、一際大きな砲声が轟いた。

響く爆発音。時が止まったかのような一瞬、なにかが視界の端を飛んでいった。

 

皆が視線をそこへと向ける。

 

「……ッ!!」

 

目に映ったのは、側面を貫かれ、燃え盛る戦車。

履帯は弾け飛び、後部からはごうごうと炎が噴き上がる。

 

ゴリアテは戦車にとどめを刺さんとばかりに、頭部の主砲を向け────。

 

「イロハ車長ーーーーッ!!!」

 

歩兵が叫び、咄嗟に戦車の元へと走り出したその時。

 

"────ギ、ギギ……!!"

 

金属が軋み、砲塔が回る。

それはまるで……最期の力を振り絞るように。

 

砲身は正確に、ゴリアテの頭部──主砲へと向けられた。

 

"──────ズドォォォン!!!"

 

放たれた最期の一撃は、ゴリアテの頭部を貫き──砲身共々、砕け散る。

後ろに倒れ込むように崩れ落ちたゴリアテと共に、戦車の砲塔は歪に軋んで……ついに、動きを止めた。

 

「……ッ!ゴリアテ、沈黙!!」

 

「今だ!!イロハ車長を救出しろ!!!行くぞ!!!」

 

モエの報告と同時に、随伴していた生徒達は戦車の元へと駆けだした。

────しかし、それを待っていたかのように、路地からオートマタが飛び出してくる。

 

「ちょ待っ……援護するよ!!!」

「はぃぃ……っ!」

 

モエは機銃を構え、引き金を引くが────"ガチン"。

撃鉄が、空を切った。

 

「……弾切れ!?」

 

「……っ!!か、カバーしきれません……!!」

 

「下がれーーッッ!!!」

 

モエの叫びは、銃声にかき消されて届かない。

暗がりから現れたオートマタ達が、無防備に走り出した隊員へと銃口を向ける。

 

その時だった。

 

"────バシュゥゥゥゥ!!"

 

甲高い噴出音が響く。

遠方より飛来したそれは、オートマタの潜伏していた路地に直撃──爆発した。

 

「……ッRPG!?」

 

RABBIT小隊の二人は、飛来した煙尾の先へと咄嗟に目を向ける。

その果て、数百メートル先のビル屋上には、仮面に秘された深紅の双眸が映った。

 

「えっ、あれ、って……!!」

 

双眼鏡を構えたミユが、その正体を口にしようとした瞬間。

 

"タァン!! タァン!! タァァァン!!"

遠方より何度も銃声が響き、背後でなにかが倒れた。

振り返ると、そこには頭部を貫かれたオートマタの残骸。

 

二人は一瞬で思考を整理、結論を導きだした。

 

「敵じゃない……味方だ!!みんな!!今のうちに救出急いで!!」

「リロードする!RABBIT3は続けて援護!!」

 

「はっ!はいぃ……!!」

 

「ドライバー!!戦車の正面に移動して!」

「RABBIT4!そっちは横付けして!!守るよ!!」

 

その号令で、輸送車は戦車を守るように移動をはじめた。

モエはリロードを済ませ、"ガチャン"とコッキングレバーを引く。

 

「おらぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」

 

再び吼えた機銃が、敵の軍勢を薙ぎ払っていく────。

 

 

 

────イロハ車長の救出作業が始まってから、数十秒ほどが経った。

 

繰り返されるオートマタの襲撃に晒されながらも、数人がかりで戦車のハッチをこじ開け……ようやく、車長が引き摺り出される。

 

彼女は気絶しているようで、焼け焦げた制服の間から見えた肌は血に塗れていた。

 

「ひどい火傷だ……!!早く治療を!!」

 

「……車内で治療してください!!キットがあるはずです……!!」

 

ミユは大きく手を振り、車長を背負った生徒を誘導する。

 

「了解!!治療に入る!!」

 

ばたん、と輸送車のバックドアが閉まったことを確認して、2両の輸送車はわずかに後退する。

 

「ワカ……狙撃手に支援要請をお願いしますっ!!」

「一気に進みましょう!!」

 

「わかった!!」

 

モエはビルの屋上で構えている彼女へ、大きく手を振って見せる。

双眼鏡越しに映る彼女はモエの合図を察したのか、了解を示したのち、「進んで、右へ」と指で示した。

 

「……了解取れた!!全員乗って!!一気に移動するよ!!」

 

モエの合図に従い、残っていた生徒達も輸送車の側面へ掴まる。

二人は視線を交わし、頷き合った。

 

「「……全速前進!!」」

 

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