「…………」
私の感情が落ち着くまで、しばしの時間を要した。
まずは深呼吸をして、セイアから離れて────既に冷めてしまった紅茶を飲み干した。
ゆっくりと顔を上げると、セイアは小さく頷き、私の目をじっと見つめる。
「……私の目的は────君の言った通りだ」
「ゲヘナとトリニティの和解……それによる"黙示録"の回避、あるいは超克」
「私は────友人を……皆を失いたくない」
「……ついさっき、君を排除しようとした私の言うことなど、信じて貰えないかもしれない」
「……それでも、信じて欲しい」
セイアは沈黙したまま、私の手を握ってくれた。
「……ありがとう」
────全て話した。
私がトリニティ・ゲヘナ間共通の敵となり……それによる両校の連帯が目的だという事。
「"先生"が指揮した戦闘のデータを見て気付いた、私たちは組織であったり、派閥であったり……何かしらのしがらみによって視野狭窄に陥り……本来の力を出し切れていない……だからこそ────」
トリニティ内部の腐敗を正すため、全派閥共通の敵が必要だという事。
「故に、協力のために"敵"が必要だと……そう判断した」
「"黙示録"に対抗するために、すこしでも対立を和らげなければならない」
ゲヘナ内の権力構造に因するゲヘナ全体戦力の著しい弱体化、連携不全の予測。
「そして"先生"」
「彼は脆すぎる……簡単に斃れるような存在に、私たちは頼るべきではない」
「せめて、彼が居なければ動かないようなシステムは……是正せねばならない」
────余りにも脆い"先生"に依る、現状の脆弱性。
私の話を聞いている間、セイアは、"うん"──とか、"ああ"、と小さく相槌を返しながら、私の手を握ってくれていた。
「……怖いんだ。聖典にあるように黙示録が訪れ、全てが破滅するその時が」
「……あの予言の通りの事象を辿り、キヴォトスは今も破滅への道を歩んでいる」
「今にでもその時が来るのではないかと思うと……恐ろしい」
「あの日、大聖堂にミサイルが打ち込まれた日から、私は"黙示録"に対抗する事だけを考えてきたんだ……」
弱音すら吐ききった私の手を握る力を強め、セイアは赤子に嚙んで含めるように、優しく語った。
「……君の気持ちは、理解できるよ────私の"予知"の事は知っているだろう?」
「……ああ、知っている」
未来を知る事のできる予知夢、それはセイアを象徴する力────だったものだ。
「私も、君の恐れる"黙示録"とは違うかもしれないが……私は予知夢で、色々な未来を視たんだ」
そう語るセイアはどこか寂しげで、悲壮を纏っていた。
……なんとも恐ろしい話だ。
私の恐怖など所詮は"杞憂だ"、と恐怖を抑える事も多少はできた。
しかしセイアのそれは────いずれ来たる"未来"なのだ。
「それに比べれば、私の恐怖など……塵のようだな」
ハハ、と自嘲が漏れる。
「いいや───それでも、君は君なりに解決策を考え、諦めずに動いている」
「かつて絶望に呑まれ、抗う気力すら失っていた私には……君が眩く見えるよ」
そう言ってセイアは握っていた私の手を放し、息をひとつ吐き出す。
彼女は目の前に自分の椅子を持ってきて、対面するように座った。
「……さて、ここからは現実的な話をしよう。ルイ」
セイアは背もたれに寄り掛かかるが、視線は常に私の目に向いている。
「わかった。だがその前に……紅茶を用意させてほしい」
私が情けない姿を晒している間に、紅茶はすっかり冷えてしまった。
「ふふ、そうだね────確かに、"お茶会"には紅茶が必要だ」
そう微笑みを浮かべたセイアに目礼し、私は紅茶を用意するため……部屋を出た。