"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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激励

────時は僅かに戻り、ルイがミネやサオリ達と本隊へと戻ったころ。

 

3:27 ミレニアム地下浄水場

side:ルイ

 

「────戻ったぞ!」

 

連合部隊の臨時拠点──地下浄水場に、猛々しい声が響き渡る。

そこにいたほぼ全ての人員が、帰還を果たした一行へと目を向けた。

 

「「………………」」

 

一行に冷たく向けられる無数の目に交じり、二対の昏紅の瞳が煌めく。

なにか話していた様子の二人はゆっくりと立ち上がって、ルイの前へと歩み出た。

 

群衆の中から現れた二人と、ルイの視線が交わる。

 

「……久しぶりだな、ハスミ、ツルギ」

 

「ァァ…………」

 

「……お久しぶりです、ルイさ……!?」

 

どこか気まずそうな雰囲気を湛えていたハスミは、ルイの姿を一瞥した途端、目を見開いた。

 

中ほどから切断された右翼、肌に浮かぶ火傷に、貫かれたボディアーマーから覗く銃創。

 

宿った無数の傷は、過去の因縁を吹き飛ばすには十分だった。

 

「ッ、すぐに手当を──」

 

「いや、必要ない」

 

医療テントへ合図を送ろうと手を上げたハスミを制止して、ルイは続ける。

 

「見目は悪いが、処置は済んでいる」

「ミネも"問題ない"と言っていた、案ずる必要はな────」

 

「待ちなさい」

 

淡々と語るルイの肩を、背後から伸びたミネの手が掴んだ。

 

「……私は"問題ない"だなんて一言も言った覚えはありませんよ」

 

その言葉と共に、ルイの後ろに居たミネが二人の前に歩み出る。

そして、ミネと二人の視線が交わり……ハスミは驚いたように目を見開いた。

 

「……ミネ団長……」

 

"どうしてここに"と紡がれかけた言葉は、小さな溜息と消えた。

 

「……いえ、貴方のことを思えば、当然ですか」

 

謹慎中のミネがここに現れた理由なんて、考えるまでもない。

言葉なく意図は伝わり、ミネはそっと頷きを返した。

 

「"救護のあるべきところに救護の手を"、私はその信念に従っただけです」

 

「……ハスミさん。今はそれよりも話すべきことがあります」

 

ミネはそう言って、ルイの方へと視線を向ける。

ルイは小さく頷いて、"では"と口を開いた。

 

「……ミカから偵察中の話は聞いた」

「それを踏まえ、皆に話さなければならないことがある。主力部隊の者達はどこにいる?」

 

「…………」

 

その尋ねに対してツルギはなにも答えず、鋭い沈黙と共にルイを見つめ続ける。

敵意とも怒りともつかない感情が両者の間に満ちたころ、ミネがルイの肩を叩く。

 

「……率直すぎます。まずは謝罪と説明を──」

 

「そんな物は後からでもできる。なにより、軽易な謝罪は誠意を欠くだけだ」

「誠意や謝意を求めるのなら結果で示そう。とにかく今は案内してくれ、時間が惜しい」

 

ミネの忠言を遮って、ルイはただそう告げた。

呆れとも諦観ともつかない溜息と共に、ミネは手を降ろす。

 

「……ちょっと、そんな言い方──」

 

「……いや、いい」

感情的に口を開いたミカを、ツルギの掌が制止した。

ミカは振り上げた言葉を宙に浮かせて、複雑そうに口を結ぶ。

 

「……事情は、聞いている。……ついてこい」

 

ただそう告げて背を向け、ツルギはゆっくりと歩き出した。

 

数歩。その歩みをぴたりと止めて、

ゆっくりと振り返ったツルギはルイに鋭い視線を向けた。

 

「……終わったら、全て、説明してもらうぞ」

 

有無を言わせぬ威圧感が吹き抜ける。

誰もがぞわりと背を震わせるようなそれに、ルイは "わかった" と答えた。

 

「…………」

 

その返答に満足したのか、ツルギはそのまま視線を前へと戻し、再び歩き始めた。

 

 


 

 

「────失礼する」

 

テントのタープを "ばらり"と押し退けて入ってきた存在に一瞬、時が止まった。

 

「「「…………」」」

 

ヒナは小さく息を吐き、ネルは驚いたように目を開く。

イオリやアコを始めとした、その他の生徒達は明らかに不愉快そうに眉を顰めた。

 

「天城ルイ、帰還した」

「早速だが、今後の行動について話したいことがある」

 

「……よぉ、ずいぶんいい度胸してるじゃねえか?魔王さんよ」

 

唐突に話を始めたルイに対し、ネルは苛立ち混じりの言葉を向ける。

しかしルイは動じることもなく、淡々と言葉を返した。

 

「美甘ネル。伝え聞いていると思うが私は味方だ。敵対的な態度は改めてもらおう」

「我々は事態の収拾と人命救助のため、目的を同じくしているはずだ。違うか?」

 

「……チッ、よく言うぜ……」

 

嫌味っぽく舌打ちを鳴らしたネルを横目に、ルイは言葉を続ける。

 

「話を戻そう。物資輸送の成功及び現状打破のため、ひとつ案を持ってきた」

「上手くいけば、状況をひっくり返せるかもしれん」

 

ルイの言葉が終わると同時に、言葉もなく否定的な雰囲気が場に滲み始める。

それを察したのか、ハスミが小さく手を上げた。

 

「……皆さん、お気持ちはわかりますが……聞くだけ聞きましょう」

「少なくとも、正義実現委員会は彼女の言葉を信用に足ると判断しています」

 

「それなら、風紀委員会は魔王の言葉を信用に足らないと判断します!」

「そもそも魔王はトリニティの人間です。共謀している可能性だって────」

 

「アコ、やめなさい」

 

「ッですが委員長!証拠は決定的なものでは」

 

「黙って。」

 

ハスミに食って掛かったアコの言葉を制止して、ヒナはルイに視線を向ける。

 

「……続けて。従うかどうかはそれから決めるわ」

 

空崎ヒナの発言で否定的な動きは鎮静し、沈黙が宿る。

そうして一旦の傾聴が態度で示され……場が整った。

 

「感謝する。……では、作戦の内容だが……」

 

 

「私、ミネ、サオリ。ツルギかネルを連れて、ミレニアム禁足地の敵拠点に強襲を仕掛ける」

「攻撃目標は禁足地の地下、放棄された兵器工場──"球体"が確認された場所だ」

 

端的な説明に、確かな動揺が起こった。

 

ハスミはぴくりと翼を揺らし、ツルギは小さな唸りを漏らす。

ヒナやネルも沈黙を保つが、その眉間には皴が寄っていた。

 

今にも否定が叫ばれそうな場の雰囲気を察してなお意に介さず、ルイは言葉を続ける。

 

「……実は、"球体"を確認した際の調査隊には私も参加していた」

「"球体"が居た兵器工場から脱出した直後、私たちはケテルに襲撃されたんだ」

 

あれ(ケテル)は、明らかに兵器工場周辺エリアを守るように行動していた」

「その工場に侵入した私たちを抹殺せんと、襲撃を仕掛けてきたのだろう」

 

「つまり。あの球体及び、兵器工場は恐らく敵勢力の生産拠点か……それを司るなにかだという仮説は以前から立てていた」

 

「……そして今日。ケテルは禁足地付近に居たとミカから聞いている」

 

「あれだけの火力と機動力を誇る兵器を遊撃や殲滅に回さず、禁足地付近の護りに就かせていたあたり……この仮説には一定の根拠、正当性があると言えるだろう」

 

「つまり、急所である兵器工場を強襲されれば、敵勢力はヘリや戦車等の機動力のある兵器を強襲部隊の挟撃に回さざるを得ない」

 

「そうなれば、本隊や輸送隊は格段に動きやすくなるだろう」

「総じてリスクはあるが、齎されるリターンは相応に大きいと考えている」

 

「……どうだ?」

 

説明を終え、ルイは尋ねた。

皆が無言で思案する中で、ネルが腹立たしげに口を開く。

 

「"リスクはある"。ねえ……良く言ったもんじゃあねえか」

「この条件で敵拠点に強襲?リスクどころか死にに行くのと変わんねえだろ」

 

「そうだ。死にに行くつもりで着いて来てもらう」

 

ルイはぴしゃりと言い返し、周囲の生徒を一瞥した。

 

「例え命を落としたとしても、それで稼いだ時間はこの場に閉じ込められた全員を救うだろう」

「故に、個人でも長期戦に耐えられ、最悪欠けてもいい人員を指定している」

 

「ヒナの制圧射撃やミカの隕石は、決戦時の戦力として替えが効かないからな」

 

「「「「…………」」」」

 

ルイの発言が終わると、テントの中に重苦しい沈黙が漂う。

彼女の案が持つ合理性は、既に誰もが理解できていた。

 

だからこそ、非難も肯定もない人道的な沈黙が表出している。

そんな中、ミネがルイの肩を叩く。

 

「……ルイ、私は死にに行くつもりなんてありませんよ」

「もちろん、誰かを死なせるつもりもありません」

 

「私は貴方も含め、この場に居る全員を生かすためにこの作戦に同行するのです」

 

「訂正しなさい。これは、"皆で生きて帰るための作戦"だと」

 

ミネは皆に聞こえるように言って、ルイの答えを待つ。

ルイは言葉を選ぶような沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた。

 

「……悪いが、それはできん」

「しかし勘違いするな。私も死ぬつもりはないし、死なせる気もない」

「これは、"生還の保証はできない"という話だ」

 

 

「……なら、私が行こう」

 

 

低く、はっきりとした声が響く。

手を上げたのは、ツルギだった。

 

「……私が、適任だ。連れていけ」

 

その短い言葉には、強い覚悟が宿っている。

 

「ありがとう、ツルギ。では早速──」 「待てよ」

 

ネルが言葉を遮った。

 

「……なんだ」

 

意図を尋ねたルイに、ネルはニヒルな笑みを浮かべて"ふん"と鼻を鳴らす。

 

「……ちょっと話しただけでわかったぜ。お前が、リオ(あいつ)の同類だってな」

「合理を盾につらつら喋るとこなんてそっくりだ。平気で命を天秤にかけるところもな」

 

「……なにが言いたい?」

 

「まあ聞けよ。お前、"特異現象捜査部の調査隊に参加してた"って言ったよな」

「ってことはだ……ヒマリも、お前に協力してるんだな?」

 

ネルはそう言って、ルイの瞳を睨みつけた。

数瞬、視線が交わる。

 

「……詮索は止せ。この場でミレニアムに余計な疑いを掛けて、何の得がある?」

 

「……はん、この問いに意味はねえよ」

「あの二人が手を貸すような奴だってんなら……お前を信用するには十分ってことだ」

 

不敵に口角を上げ、ネルは座っていた椅子から立ち上がった。

その手には2丁のサブマシンガン。鎖で繋がったそれが、ジャラリと音を立てる。

 

「……付き合ってやるよ魔王サマ。あたしの力が必要だってんならな」

 

「ただ、ひとつ覚えとけ。あたしは死なねえし、誰も死なせねえ。お前も含めてな」

「生きて帰って、お前らには全部説明してもらうから……そのつもりでいやがれ」

 

「……感謝する、美甘ネル」

 

ルイはそう言って、小さく礼を送った。

そしてゆっくりと頭を上げて、ルイは背負っていた鞄を机に置く。

 

「では、輸送隊の行動開始時刻まで間もない。早速、出立の準備を始めよう」

「10分で出るぞ、参加メンバーは準備を進めてくれ、以上」

 

その言葉と同時に、全員が慌ただしく動き始めるのだった。

 


 

side:サオリ

 

 

出立の準備を進めるよう言われたサオリは、一度テントを後にして "スクワッド" のメンバーと話していた。

 

「────は?本気?」

 

「……リーダー、し、死んじゃうんですか……!?」

 

「…………」

 

"死地に向かう"と告げたサオリに対して、三者三様の反応が返る。

 

「……死ぬつもりはないが、それだけの覚悟はしている」

「姫、私が戻らなかった時には──」

 

「────やめて」

 

サオリの言葉を、アツコが遮った。

マスク越しの表情は伺い知れないが、その声色には強い悲色が滲む。

 

「……アツコの言う通り。そこまでするほどの義理じゃない!」

 

「そ、そうです!今からでも断って……!」

 

アツコの言葉に続く二人に、アツコが首を振った。

 

「……違うの。」

 

「サッちゃん。"必ず帰ってくる"って、約束して」

「みんなには……私には、サッちゃんが必要なの」

 

「だから……"戻らなかった時"の話なんて、しないで。」

 

か細い言葉と共に、アツコはサオリの手をそっと握る。

コンバットグローブ越しの手の感触は、確かに暖かさを感じた。

 

……わずかな沈黙ののち、サオリは "ふっ" と口角を上げた。

 

「……わかった。必ず戻る。約束だ」

 

その言葉と共に、サオリとアツコは固い握手を交わす。

 

サオリはそのまま周りのメンバーを見据えて、力強い頷きを送った。

 

「……悪意によって育まれた力を、いま助けを必要とする誰かのために使いたい」

「これは罪滅ぼしや恩返しではなく、私自身の意志で決めたことだ」

 

「だから……行ってくる」

 

そう言って笑ったサオリは、立てかけていたアサルトライフルを持ち上げた。

その表情からは、かつて彼女が纏っていた過去の暗闇は消え失せている。

 

そんな彼女を、誰が止められようか。

ミサキも、ヒヨリも、アツコも。

 

視線が重なった全員が、サオリに激励の頷きを送った。

 

「……行ってらっしゃい、リーダー」

 

「必ず、帰ってきてくださいね……!」

 

「……サッちゃん。また後で」

 

「ああ、また後で会おう。みんな」

 

「では……行ってくる」

 

"スクワッド"の言葉を背に、サオリは作戦メンバ―の待つ場所へと歩き始めた。

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