03:46 ミレニアム/地下浄水場
side:ルイ
出撃準備を終えた面々が、出口へと通じる廊下の前に集う。
ショットガンを携え、静かに目を閉じているツルギ。
キャップを深く被り、壁にもたれてその時を待つサオリ。
段差に腰掛け、二丁のサブマシンガンを気だるげに持ったネル。
両足で堂々と立ち、ライオットシールドとショットガンを構えたミネ。
地面に突き立てた突撃剣のグリップを握り、他の面々の様子を伺うルイ。
廊下から吹く冷たい風が引き立てる重苦しい沈黙の中。
定刻を確認したルイが、そっと左手を上げた。
「……各位、準備は済んだようだな」
「では出発するが、その前に簡単なブリーフィングをしておく」
話し始めたルイに対して皆は黙って視線を送り、
複雑な心境を態度に馴染ませながらも、傾聴を示している。
「先に話した通り、目的は敵拠点の強襲。それによる敵主力兵器の誘導を目標としている」
「作戦上、敵の気を引くのは重要だが……最も重視すべきは、速度だ」
「我々の進行速度が早ければ早いほど、敵は対応に割くリソースを選べなくなる」
「よって、強行軍を行う予定だ」
「後方や側面の敵は基本的に無視し、進行の障害となる敵だけを排除する。それを頭に入れておけ」
「……あとは、怪我をしたら無理をせず、即座に私かミネに言うように。すぐに治療する」
「説明は以上だ。質問は?」
淡々と作戦と伝え、ルイは皆の顔を見回す。
なにか言いたげな表情を浮かべている者は数名いるが、しかしなにも言ってこないため……ルイは小さく息を吐いた。
「少なくとも、文句はないということでいいな?」
「では────」
"行くぞ"。ルイがそう言って皆に背を向けた瞬間。
ミネがその背へとショットガンを向け───"ズドォン!!"
突如響いた銃声とマズルフラッシュに、その場にいた皆が目を眩ませた。
銃声の残響が収まり、パラパラとコンクリートの破片が地に落ちる。
「────何のつもりだ、ミネ」
硝煙立ち上る銃口を、ルイの義手が掴んでいた。
ぎろり、と怒りを宿した視線がミネヘと向けられる。
その視線に、ミネは悲痛に眉を下げた。
「……申し訳ありません。……これは、私のエゴです」
「貴方を、これ以上戦わせるのが……どうしても耐えられなくて」
「……これで倒れてくれれば……よかったのですが」
ぽつぽつと苦しげに心中を吐き出したミネは、その翼をすくめる。
「……諦めはついたか?」
ルイは呆れたような、納得したようなどこか優しい声色で尋ねた。
ミネはその問いに、"はい"と小さく頷きを返す。
「……ならいい。今回は許すが、現場では血迷うなよ」
その言葉と同時に、銃口を握る手が離され……ミネはゆっくりとショットガンを下ろした。
「騒がせたな。出発しよう」
再び皆に背を向けて、ルイは出口へと歩み出した。
4:39/都市防衛施設
side:FOX-1小隊
「────」
バリスティックシールドを構えて先行するCorsacが、後ろ手に "クリア" とサインを送る。
そのサインを受け取ったユキノは、後ろで階下を警戒する隊員たちへ "集合" と伝えた。
隊員たちがユキノの元へと集い、顔を突き合わせる。
「……この先だ」
ユキノが視線を送った先には、鋼鉄の扉。
"M.C.D.S"というロゴが刻印されたそれは、この先に目的の施設があることを示している。
「……でもこれ、どうします?」
「見た感じ5センチはありそうっすから……トーチでも持ってこないと突破できないっすよ」
困ったような表情を浮かべたVulpesが、"とんとん"と扉をノックしてみせる。
眼前の扉を開く鍵。IDリーダーや指紋認証を始めとしたハイテクなセキュリティシステムは、当然ながら沈黙していた。
「……案ずるな。それについては心当たりがある」
ユキノは静かにそう言って、扉付近の壁に手を触れた。
「ここはあの調月リオが建設した施設だ。彼女はデカグラマトンのことを警戒していたと聞く」
「ならば、このような状況を想定して何かしら物理的な抜け道が用意されているはずだ。そしてそれは……」
"カチャン"
小さな音が鳴って、壁の一部が外れた。
「……構造上、扉の近くにある」
壁の中には、小さなクランクが埋まっていた。
その下部には"電力遮断時のみ使用可能。触るな"と記されている。
「……まさか、この一点読みだったんですか?」
驚いたような声色で言ったZerdaに、ユキノは小さく頷いた。
「……そうだ。以前、ミレニアム出身の諜報部が言っていた」
「"
ユキノがそう言いながらクランクを回すと、鋼鉄の扉がゆっくりと開いていく。
その向こうに広がった暗闇を前に、ユキノはそっとライフルを構え直した。
「……突入するぞ。Corsac、前へ」
「了解」
Corsacが再びバリスティックシールドを構え、扉の先へと進行する。
残りの隊員もその背に続き、施設内へと侵入した。
04:42
「…………」
フラッシュライトに照らされるのは、窓ガラスもない殺風景な部屋。
動かないはずの機器類が不気味に点滅を繰り返し、歪な雰囲気を醸し出している。
「……この機械壊したら止まりますかね?」
部屋の中を探りつつ小声で尋ねるVeloxに、ユキノは"いや"と首を振った。
「……ミレニアムタワーを一瞬で落とせるような相手だ。機器ではなく、砲自体を破壊するのが確実だろう」
「幸い、ここは敵に侵入されていないようだ。……手早く済ませよう」
そう言ってユキノはバックパックを下ろし、中から爆薬を取り出した。
────その時……外から"バラバラ"とローターの微かな駆動音が聞こえた。
「……まずいな。音からして攻撃ヘリだぞ」
ぴくり、と耳を揺らしたユキノは、爆薬をバックパックに戻す。
「……どうします、隊長」
話しているうちにも、駆動音が近付いてくる。
明らかにこちらに向かってくるそれは、確かな危機感を感じさせた。
「……対空できる装備がない。手持ちの銃で落とすのは現実的じゃないな」
焦りの滲む言葉に、Veloxが重苦しく頷く。
「……とはいえ逃げ場がありませんし、待っていても上がってきた敵に擦り潰されかねません」
「手を打つなら、早いほうがいいかと」
「そうだな……」
「……階下におびき寄せて、スタビライザーかテイルローターにグレネードを投げつけるってのはどうすか?」
「博打がすぎる。映画じゃないんだぞ」
ため息混じりにVulpesの案を却下したユキノは、困ったように眉を寄せて思考に耽る。
その時、Corsacが部屋の隅から駆け寄ってきた。
「……隊長。施設のマニュアルを見つけました」
「これによると、屋上に対空機銃が配備されているようです」
その手には"緊急対応マニュアル"と題された冊子が握られている。
開かれたページ。"施設の設備について"と見出しの付いたページには、確かに"防空設備"の項があった。
「これを使えば、ヘリを落とせるかもしれません」
「鹵獲に付随するリスクはありますが、どうでしょう」
「確認させてくれ」
ユキノはCorsacからマニュアルを受け取り、ぱらぱらとページをめくる。
マニュアルを十数秒ほど読み込んで……ユキノは "ぱたん"と冊子を閉じた。
「……よし、これで行こう。作戦を組むぞ」
04:47
「……いつでも行けます」
屋上へと通じる扉を前に、シールドを構えたCorsacが背中で語る。
扉越しに聞こえる"バラバラ"という駆動音は、私たちを待ち受けているかのように動かない。
「では、行くぞ……3、2、1────」
"ガチャン!!"
鈍重な扉を体当たりで押し開け、Corsacが屋上へと飛び出た。
「ふっ、ふっ……!!」
ドタドタと足音を立てながら、Corsacは全速力で砲台の間を駆ける。
目指すのは、屋上の端に設置された固定型の対空機銃。
"────!!"
同時にローターの駆動音が高速で移動を始め、攻撃ヘリがCorsacの頭上に現れた。
その下部に付いたカメラが、Corsacの姿を捉え……。
「……!!」
"ドドドドドドドド!!!"
機関砲の掃射が始まる。
放たれる榴弾の雨がCorsacに迫り──その先の機銃を貫いた。
「……ッ!?」
眼前で爆散した機銃を前に、Corsacは疾駆を緩める。
その機関砲の銃口が、その背に狙いを定め────。
「────行け!!」
ユキノが叫んだ。
号令と共に、残りの隊員たちが屋上へと飛び出す。
Corsacの背を追うヘリの背を追う形で、隊員たちはヘリのテイルローターめがけ一斉射撃を開始する。
"────!!"
瞬間。ヘリは機体を豪快に傾けて射撃を回避し────ビルの俯角へと飛び込んだ。
「クソッ!人が乗ってないからってやりたい放題するっすね……!!」
羽音だけを残して視界から消えたヘリに、隊員たちは動揺する。
「……落ち着け!機銃はまだ────」
Corsacの言葉が終わる前に、ヘリが夜闇から浮かび上がって──屋上全体を見下ろせる位置についた。
「…………!!」
沈みかけた月を背に、ヘリはFOX-1小隊を見下ろす。
側部に下がったミサイルポッドが、キラリと月光に反射した。
「ッ散開!!」
ユキノが叫ぶ。
同時に駆けだした隊員たちは、屋上に立ち並ぶ砲台の後ろへと飛び込んだ。
"──バシュゥゥゥ!!"
それを追うように、ミサイルが発射され──砲台を貫き、爆ぜた。
"────!!!"
繰り返し響く爆発音。
一人残らず殲滅せんと放たれるミサイルの雨。
炸裂する業火の中で、FOX-1小隊の隊員たちは耐えていた。
砕け散る残骸がその肌を裂き、炎が体を炙る。
「っ、ぐ────ッ‼︎」
全身に痛苦が満ちる。
今にも意識が飛びそうな中。それでも、希望を──仲間を信じていた。
「────Corsac!!」
爆風の中、誰かが叫ぶ。
────託した希望を、呼び覚ますように。
「────うおおおおッッ!!」
炎に紛れて現れたのは、武骨な鉄塊。
爆発にひしゃげた銃身は折られ、給弾ベルトには欠けが目立つ。
それでも……それは確かに、"銃"だった。
盾を捨てたCorsacは、それを天高く掲げる。
「────くたばり、やがれッ!!」
光炎の中に立つ彼女は、AIの眼には映らない。
"ズドドドドドドドドド!!!!"
12.7mmの鋼雨が、空に驕ったヘリを襲う。
それは外装を削り、コックピットを割り、スタビライザーを貫いた。
"────‼︎"
貫通した弾丸が燃料に引火したのか、突如黒煙を噴き出したヘリはぐるりぐるりと回転を始め────夜の闇へと、堕ちていった。
一陣のビル風が炎を揺らし……数秒。
はるか下方で爆発音が響き、戦いは決着した。
「…………はあ、はあ……」
隊員たちは、皆一様に息を切らしていた。
滲み出た達成感はしかしまだ過程で、ここからが本番であると思い直す。
「……全員集合!!点呼の後、爆薬を仕掛ける!次が来る前に済ませるぞ!」
「「「「了解ッ!!」」」」
04:49
side:RABBIT-2.3.4
"ドドドドドドドド……‼︎"
機銃の力強い銃声がいくつも交差し、迫る敵を粉砕する中。
RABBIT小隊の面々はその表情に焦りを滲ませていた。
「くそっ、他の部隊はまだか……!?」
ここで防戦を開始してから、既に10分以上経過している。
周辺の敵はあらかた倒したのか、攻勢には綻びが見え始めた。
────だというのに、他の部隊との合流が進んでいない。
弾薬も底が見えてきた。これ以上の継戦は厳しい。
隣にいたミヤコ達や、前にいたFOX小隊の先輩たちは何をしているのか?
……そもそも、無事なのか?
引き金にかかる指に、悪い予感がよぎる。
(……いや、考えるな……今はただ、目の前のことに集中しなければ)
迷いを振り切り、引き金を引いた────その時。
"ドガァァァン!!"
爆音と共に、夜空に光炎が迸る。
咄嗟に目を向けると──遠くのビルが火を噴いていた。
それは何度も繰り返され、空を揺らす。
「……なんだ?」
よく見ると、攻撃ヘリがビルの屋上周辺を旋回している。
爆発の頻度からして、爆発はあのヘリによるものだと見るべきか。
「隊長!!」
思考を巡らせていると、私の部隊員が大きな声を上げながら走り寄ってきた。
彼女は双眼鏡を構えながら、焦ったような声色で叫ぶ。
「あのビル……都市防衛システムの対地砲がある建物です!!」
「煙で良く見えませんが、味方が交戦中のようで……いえ、FOX-1が交戦しています!!」
「……本当か!?」
口を衝いて出た言葉に、彼女は大きく頷いた。
「はい!部隊の腕章を確認しましたので間違いないかと!」
「……FOX-1は対地砲の破壊に向かったのか……!!」
サキは一瞬で状況を組み立てる。
対地砲に護られたあのビルにFOX-1が居るということは、少なくとも徒歩で移動したのは間違いない。
……つまり、最前に居た戦車と装甲車は爆撃と崩落で破壊されたのか?
状況の全貌が見えてきた。
「……あっ、ヘリが……撃墜されました!!」
双眼鏡を構えた隊員が叫ぶ。
視界の先ではヘリが地面へと吸い込まれ──直後、閃光が夜を裂いた。
────サキは決断する。
「……よし!FOX-1小隊と合流し、部隊を再編するぞ!」
「都市防衛システムは無力化されたはずだ!今なら進行を────」
このエリアに居る全員に聞こえるよう、サキは声を張り上げた。
「────ちょっと待って!!車両が接近中!!」
しかしその声は、モエの報告に断ち切られる。
有線でドローンを飛ばし、周辺を警戒しているモエが焦り声を上げてから数秒。再び声が響いた。
「……RABBIT-1とFOX-4だ!!」
一転して明るくなった声色が響き……その場に居た皆が"わあっ"と湧き立つ。
「よし、よし……!!」
無意識に、拳を握っていた。
ミヤコも、オトギ先輩も無事。
装甲車も、自走砲も。
ようやく、雌伏の時を超えた。
────反撃の時だ。