"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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逆襲

デカグラマトンの拠点に対して強襲を仕掛け、

救援物資輸送作戦の脅威となる兵器を陽動することを決断した5人は、夜闇の中を走り続けた。

 

都市を抜け、無人の関所を超えて。

やがて東の空は白み、廃墟の輪郭が朝焼けに浮かび上がる。

 

そしてついに、私たちはミレニアム廃墟区画────禁足地へと到達した。

 


 

04:30 | ミレニアム禁足地

side:ルイ

 

先行して進行ルートの偵察を行っている私は、廃墟の屋上から状況を伺っていた。

 

夜明け前の薄闇に浮かび上がる、橙のライトの群れ。

その特徴的な光は、デカグラマトン勢力の機体に共通するもの。

 

(……やはり、ここが敵の本拠地で間違いない)

 

都市部の中では色鮮やかだった光も、ここでは橙一色。

進むにつれ、待ち伏せや追撃も増え、ヘリやパワーローダー等の兵器も投入されてきた。

 

敵は、我々を確かな脅威と認識しているようだ。

 

……状況を実感しながら、進行方向へと視線を向ける。

 

廃墟の影には、我々を待ち伏せているオートマタ部隊。

私に見られているとも気付かず、地上を進むミネたちを待ち構えている。

 

「──すぅ」

 

呼吸を止め、カービンライフルを構える。

照準を滑らせ────引き金を引く。

 

"ズドォン!"

 

撃発された弾丸が、オートマタの油圧シリンダーを貫いた。

血飛沫が如くオイルを散らしたオートマタは、前のめりに崩れ落ちる。

 

"──!!"

 

地上を警戒していたオートマタ達は、一斉に私の方へとヘッドカメラと銃を向けた。

 

再び、引き金を引く。

 

もう一体のオートマタの脚部に穴が開き……倒れる。

残ったオートマタ達は一瞬の硬直の後、慌てたように路地から飛び出した。

 


 

side:ミネ

 

"────ズドォン!!"

 

銃声が轟く。ルイのライフルの音だ。

数秒の間を置いて、再び銃声が鳴り響く。

 

ほぼ同時に、少し前方の廃墟から数体のオートマタが飛び出してきた。

それらはこちらを認識していたようで、即座に銃を向けてくる。

 

「──こちらで倒す!盾に隠れて走れ!」

 

遠くからルイの声が響いた──が、その時既に、眼前のオートマタ達は崩れ落ちていた。

 

「……ハッ!言うのが遅ぇな!」

 

一瞬で敵を殲滅した張本人は、空に向けて笑う。

返事は無く、ルイは前方の廃墟へと飛び移り、ただ進行経路を示した。

 

それに続くように、私たちは再び走り出す。

 

「……ネル、弾は温存しろと言われていただろう」

 

「ああ?10発も使ってねえよ。安いもんだろ?」

 

咎めるサオリに対して不敵に笑って、ネルは正面へと視線を戻した。

 

「もう少しで目的地らしいじゃねえか。……なら、出し惜しみしてる暇はねえ」

「ただでさえ挟撃くらう前提なんだ。さっさと片付けねえと、帰れなくなっちまう。だろ?」

 

「……そうだな、すまなかった」

 

そんな二人の会話を遮るように、ルイの声が轟いた。

 

「全員聞け──ケテルが現れた!!」

 

一瞬、空気が凍った。

 

"──! ……!! ……!!!"

 

その空気を砕くように、遠方から地響きが鳴る。

"地獄の釜の蓋が開く"。まさにそのような雰囲気が漂い……悪寒が背を伝う。

 

「……チッ、まずいな」

 

ネルが舌を打ったころ、"バシュッ!"という噴出音と共に、ルイが私たちの元へ戻ってきた。

瓦礫の上に着地し、こちらへ歩いてきた彼女の表情には、強い焦燥が滲んでいる。

 

「……やはり、ケテルは複数機いたようだ」

「敵には既に認識されている。間もなく交戦することになるだろう」

 

ルイはそう言って、私の隣へと視線を向けた。

 

「ネル、ツルギ。先ほどケテルを倒したという君達に、意見を乞いたい」

「ここで奴と戦うべきか。あるいは交戦を避け、兵器工場へと進行するか。」

 

「はん、そんなの決まってんだろ。あいつはここでぶっ潰す」

「逃げたところで挟み撃ちだ。生きて帰りてえなら、それ以外ねえ」

 

投げ掛けられた問いに対して、ネルは即座に答えた。

ネルの言葉に続き、ツルギも "あァ" と声を漏らす。

 

「……同意見だ。あれがここを離れ、本隊に攻撃を仕掛ける可能性もある」

「……我々なら、勝てるはずだ。やるぞ」

 

ツルギは至極冷静と言った様子で答え、ぎろり、とルイに鋭い視線を向けた。

追従して、皆の視線がルイに集まり……彼女は小さく、"わかった"と頷く。

 

「……では、これより我々はケテルの無力化、及び、撃破を作戦目標とする」

「各位、自分の命を最優先に行動しろ」

 

その言葉と共に、ルイは地響きの鳴る方向へと目を向けた。

 

"ガラガラ……!!"。

廃墟が崩れる音が近付いてくる。

 

────朝焼けの向こう。

視界の果てに、大きな天輪(ヘイロー)を戴く影が映る。

 

その影は動きを止めたかと思うと、その身体を揺らし────跳躍した。

 

「……来るぞ!」

 

飛び上がった影は、みるみるうちに巨影と化す。

 

 

「ッ────回避!」

 

反射的に地面を蹴った。次の瞬間。

 

"────!!! ギャリギャリギャリッッッ!!!"

さっきまで私たちが立っていた場所を、轟音を伴って現れた四脚の巨体が轢き潰した。

 

吹き飛ばされた廃墟の残骸が頭上を掠めて、遅れて土煙が吹き荒れる。

 

降り注ぐ瓦礫がガラガラと音を立て……土煙が晴れていく。

そこに聳え立っていたのは────私たちの知るケテルではなかった。

 

「……!?」

 

四脚に支えられているのは、機関砲やミサイルポッドではなく────巨大な装置だった。

瞳のように明滅する4つの光の傍らで、二つの塔が回転しながら開閉を繰り返す。

 

「……今までの機体とは違うタイプだ! 電磁パルスか!?」

 

「とにかく一旦後退し、相手の出方を────」

 

ルイが叫ぶ。その間に、ケテルは"電磁パルス"と呼ばれた部分を天に向けた。

瓦礫の山の中をビリビリと光が奔り始め、ケテルへと吸い込まれていく。

 

「……おいおい……まずいんじゃねえか!?」

 

一度、二度、三度。

脈打つように迸る光が強まっていき、周囲を橙に染め上げる。

 

「……影に身を隠せ!!光を直視するな!!」

 

反射的に遮蔽物に飛び込み、盾に身を隠した瞬間。

"ふわり"。浮き上がるような感覚があった。

 

"────────!!!"

 

閃光が瞬く。

 

「ぐ……ッ!!」

 

灼けるような熱と痺れが体を突き抜け、"きいん" と耳鳴りが(つんざ)く。

くらくらと揺れる意識をどうにか抑え、盾を支えに立ち上がると……視界の端で、小さな影が動き始めた。

 

「……?」

 

現れたのは、膝ほどもない大きさをした正方形のロボット。

まるで子供のおもちゃのようなそれは、"とことこ"と情けない足取りで近付いて、私の足元で止まる。

 

"……ジジッ"

小さなノイズと共に、赤いランプが点滅した。

 

「……え?」

 

「────ッ!!」

 

"ドガァァァン!!"

閃光と共に、ロボットが爆発した。

 

くぼんだ地面にパチパチと拡がる炎が、衝撃の残滓を遺す。

 

(自爆ロボット……!)

 

じんじんと痛む手を軽く降って、逸れた盾を構え直す。

焦りと共に周囲を伺ってみれば、そこら中に自爆ロボットが徘徊していた。

 

(いったい、どこから……)

 

視線を巡らせる。

行き当たったのは……瓦礫の山。

 

そこからはまるで蘇ったかのように、薄汚れたロボットやオートマタが這い出してきていた。

 

「……!!」

 

ぞわりと震えた背筋に冷やされ、耳鳴りと痺れが収まっていく。

まず最初に聞こえたのは、ライフルの銃声。

 

「……雑魚は私が相手する!!ケテルはそちらで対処してくれ!!」

 

続き、サオリの声が聞こえた。

 

彼女は姿勢低く瓦礫のあいだを駆けながら、接近する自爆ロボットの一体を撃ち抜く。

その爆発に巻き込まれたオートマタが吹き飛んだのを確認して、サオリは再び走り出した。

 

「……すぅ……」

 

ひとつ、大きく息を吸って、動揺を押し込めるように息を吐く。

 

硝煙と炎の臭いが鼻腔を抜け、肺を満たしていく。

荒れかけた思考を押さえ込み、状況を整理する。

 

……息を吐くころには、冷静さは完全に戻っていた。

 

「皆さん、無事ですか!?」

 

声を上げる。

 

「……天城ルイ、無事だ!」

 

「こっちは問題ねえ!」

 

「こちらも、無事だ……!!」

 

次々と返る無事の声に、安堵する。

煙の中から集まった皆と共に、私は再びケテルへと向き直った。

 

"…………"

 

ケテルはゆっくりと砲を下ろし、私たちを見据えるようにライトを点滅させる。

 

「……パルスキャノンの内部を狙え!そこまで頑丈な作りじゃないはずだ!」

 

言葉と共に、ルイはケテルの足元へと疾駆する。

ケテルはそれを待っていたとばかりに、ルイに向けてパルスキャノンを広げ────"ヴォンッ!!"

 

閃光と共にパルスが放たれ、火傷にも似た痺れが全身を硬直させた。

瞬間。閃光の中に消えたルイのことが頭によぎる。

 

「……ルイっ!!」

 

叫ぶ。

しかし、彼女は止まっていなかった。

 

「……はああっ!!」

 

青白く光る地面を駆け抜け、ルイはケテルの脚を踏み台に飛び上がる。

その勢いのままに振り抜かれた剣閃が、パルスキャノンの装甲を砕き──破片が散った。

 

ルイはその衝撃の反作用で後ろに飛び、着地と共に盾を掲げる。

 

「……全員聞け!私の盾ならパルスを遮蔽できる!」

「ネルは私と共に来い!ツルギは機を見て、ケテルの退路を断ってくれ!」

 

彼女はそう告げ、私と視線を交わす。

 

「ミネ!君の盾(ポリカーボネート)は電磁波を防げない!」

「私たちがパルスキャノンを破壊するまで、サオリと共に周囲の掃討を頼む!」

「全方位照射には巻き込まれるなよ!」

 

「……了解しました!」

 

私は即座に盾を構え、サオリが戦っている方向へと走り出した。

 


 

side:ルイ

 

ミネがサオリの元へと駆けて行ったのを横目で見送り、眼前の巨躯と相対する。

威嚇するように四脚をガシャガシャと鳴らしたケテルは、再びパルスキャノンを天高く掲げた。

 

────大きな駆動音が鳴り始めると同時に、蒼い稲妻が地面を走り、収縮を始める。

 

「……ネル!」

 

「ああ?……うおぉっ!?」

 

近くにいたネルの手首を引き込み、彼女を盾と体のあいだに挟み込む。

 

「おまっ、なにしやがる!?」

「パルスを防御した後、一気に叩きこむ! いいな!?」

 

「……わーった、任せとけ!」

 

ネルの返事と同時にジップラインを撃ち込み、今にもパルスを放たんとするケテルに迫る。

足元に迫るロボットを踏み潰し、ドローンの放つ銃弾を防いで。

 

その大きな足を踏み台に、私たちはケテルの真上へと飛び上がった。

 

瞬間。目下でバチバチと青い光を漏らしたケテルは、巨大な増幅器を展開し────。

 

"────!!!"

 

 空気がひずみ、極光が嘶く。

 

押し寄せる熱と閃光の波を、盾が遮った。

余波に痺れる体表を無理やり動かし、盾を変形させる。

 

「……行け!」 「おうッ!」

 

ネルは私の脚を蹴り、ケテルの頭部へと飛び移る。

抜き放たれた双龍(ツイン・ドラゴン)が、獲物を喰らわんとその(アギト)を剥く。

 

「くたばり、やがれ!!」

"ダラララララララッッッ!!!!"

 

丸出しになった内部機関に、弾幕が叩き込まれる。

火花が散り、装甲片が弾け飛ぶ。

 

増幅器の内部にはいくつもの風穴が開いて、ガリガリと悲鳴のような音を鳴らした。

 

「──へっ、ポンコツが」

 

ネルがマガジン内の弾を全て撃ち切って、一瞬。

増幅器の下部から、吹き上げるように火花が散り────爆ぜた。

 

 

"────!!"

 

 

爆発は連鎖し、砕けた装甲が割れ、崩れ落ちていく。

 

 

そして、何度目かの爆発が起きた時。

もはや残骸と化した増幅器は土台を外れ……地面に転がり落ちた。

 

衝撃で巻き上がった砂埃が落ち切り、私は小さく息を吐く。

 

額を伝う汗が、視界の端へと落ちた。

指先には、先ほどの痺れがまだ残っている。

 

(……まだまだ、動ける……)

 

強く拳を握って、解く。

乱れ始めた呼吸を制して、顔を上げる。

 

その時、私の腰が叩かれた。

 

「……へっ、案外ちょろかったな?」

 

爆発で吹き飛ばされたはずのネルは、いつの間にか私の傍に立っていた。

勇壮に笑う彼女に、私も"ふっ"と笑いを返す。

 

「ああ、楽に片付いてよかった」

「だが気を抜くな。包囲されているのに変わりはない」

 

「わーってるよ」

 

互いに銃を構え直し、周囲のオートマタとの交戦を開始する。

飛び交う銃弾を防ぎながら、私は声を上げる。

 

「……全員傾聴!ケテルは無力化した!!」

「これより包囲を突破し、目的地へと侵攻────」

 

"ギ、ギギギ……!!"

 

背後で、金属が軋む。

言葉は止まり──振り返った。

 

「な……っ」

 

頭部を──増幅器を失ったはずのケテルは、その足のみで立ち上がっていた。

 

「……おいおい、マジかよ」

 

「……土台部分が本体だったか」

 

ケテルはボロボロの体躯を軋ませながら、後脚を立てた。

"ぷしゅう"という排気音と共に、装甲に守られた機動装置が展開する。

 

その内部には、鋼鉄の杭がいくつも装填されており────。

 

「ッ……逃がすな!!」

 

咄嗟に銃を向けるが、しかし間に合わない。

杭が朝焼けに放たれ、尾を引くワイヤーが空に橋を架けた────その時。

 

「───逃ィィィが、さんッッッ!!」

 

"ゴッ、ガアアァァン!!"

 

突如現れた黒影がケテルへと飛び掛かり、その前脚を打ち上げた。

押し飛ばされた巨躯は大きくのけ反って、後方の廃墟へと激突する。

 

衝突の反動で張り詰めていたワイヤーはたゆみ、地面へと垂れ落ちた。

 

「……ツルギ!!」

 

名を呼ぶと、ツルギは大きな呼吸音と共に、こちらへ歩いてきた。

 

「フゥゥゥ……はァ……間に合っ、た……」

 

唸るように言って、ツルギはぐるりと周囲を見回す。

 

「ルイ……まだ、戦うか、進むか……選べ」

 

「はァ……相当な数の敵が、集まってきている……」

「完全に包囲されるまで……時間がない、ぞ……」

 

ツルギは動かなくなったケテルに視線を向けながら、冷静にそう告げる。

 

「…………」

 

答える前に、私は周囲の音へと意識を向けた。

 

鳴り響く無数の銃声。機械の駆動音に爆発音。

ズシンズシンという地響きに、微かなヘリのローター音も混じる。

 

(敵はあまりに多い。だが……敵主力の陽動という最大目標を忘れることはできん)

 

私自身、疲労は滲むが、全体的な損耗は至って軽微。

弾薬も余裕があり、敵拠点への侵攻を考慮してもまだまだ戦える。

 

それならば、下すべき決断はひとつ。

 

「……戦いながら進む。リスクはあるが、全体的にはそれが最良だろう」

 

答えると、ツルギは小さく頷いた。

 

「……わかった」

「だが、引き際は見極めろ」

 

「ああ、わかっている」

 

そう答えて、私は深く息を吸った。

 

「ミネ!サオリ!こちらへ集合してくれ!!」

「体勢を立て直すぞ!」

 

 


 

 

04:45 | ミレニアムタワー

side:セイア

 

「…………」

 

重い瞼を開く。

隣で眠っているエイミとヒマリを起こさないようにそっと身を起こして、ポケットからスマホを取り出した。

 

……相変わらず "圏外"の文字が躍るスマホが示した時刻は4時45分。

そろそろ、陽の出てくる時刻だ。

 

携帯を片手にそんなことを考えていると、"ぶるり"、と体が震えた。

 

「……寒い……」

 

襲い来る寒気に抗うよう尻尾を首に巻き、意を決して立ち上がる。

 

「……みんな、起きてくれ。そろそろ朝だ」

 

帽子を顔に被せて寝ているマコトの肩を叩き、ジャケットに包まっているユウカを揺する。

 

「……なんだ……もう朝か……」

 

「んぅ……おはようございます……」

 

二人が目を覚まして、大きく伸びをする。

それに続いて、エイミとヒマリも目を覚ました。

 

「……おはよう、セイアさん」

 

「ふあぁ……おはようございます……」

「……寒いですね。エイミ、もう少しだけ隣に居てください」

 

「やだ。暑苦しい」

 

要請を拒否して、エイミは着ていたジャケットをヒマリへ押し付けた。

ヒマリは渋々といった様子でそれに袖を通し……"おほん"と咳払いをした。

 

「……皆さん、おはようございます」

 

挨拶と共に皆を一瞥したヒマリに、視線が集まる。

 

「……先ほど話した通り、これよりミレニアムタワーからの脱出を開始します」

「その前に、把握している状況を再確認しましょう」

 

そう言って、ヒマリは車椅子に備え付けられた小さなモニターをこちらに向けた。

その画面にはよくわからない文字列が並んでおり、かろうじて読み取れたのは"Access Denial(アクセス拒否)"の文字だけ。

 

私のそれとは対照的に、ユウカは"なるほど……"と小さな相槌を打っている。

 

「まず、このミレニアムタワーは完全には乗っ取られていません」

「人間で例えるのなら、"眠らされている"ような状態です。ハードウェアの破壊やオーバーライド(書き換え)処理を受けた様子はありませんから」

 

「ですので……権限さえ奪取すれば、再び権限が剥奪されるまでのあいだ、タワー内の制御システムを動作させることができます」

 

そこまで言って、ヒマリは "しかし"、と声色を下げた。

 

「……ひとつ、問題点があります」

「ここのシステムを"眠らせて"いるのはおそらく、高度な学習ルーチンを組まれたAIです」

「制御権の取り合いを重ねる内、セキュリティはより強固に、複雑になるでしょう」

 

「いくらこの私が天賦の超天才ハッカーと言えど……肉体的な、時間的な限界は存在します」

「つまり、ここを出た後、再び隔壁を開けるような……端的に言うと、"後戻りはできない"と考えてください」

 

ヒマリの説明が緊張感を生み、私の隣では誰かが小さく息を呑んだ。

その中でも、マコトは黄金色のライフルを抱え、不敵に笑っていた。

 

「……なるほど、理解した」

 

「ずいぶん足手纏いが多いが、仕方あるまい」

「この私が何とかしてやろう。全員、私の指示に従うといい」

 

マコトはその余裕を崩さず、自信満々に言い切って……ふと視線を上げる。

 

「……で。脱出した後はどこへ向かう?」

「ミレニアムの地理など、いちいち把握してないからな!キキキッ」

 

力強い言葉から一転。

気の抜けた言葉を発したマコトは、ヒマリに言葉を求めた。

 

「それは、実際に外の状況を見て判断せざるを得ないでしょう」

「ここで外の情報を得られるものは、地響きくらいしかありませんので」

 

どこか調子を崩すようなマコトの言葉にも、ヒマリは動じずに答えた。

ヒマリの答えに、マコトは"フン"と鼻を鳴らした。

 

「それもそうか……つまりは、ノープランということだな?」

「まあいいだろう……目標は漠然としているよりも、単純な方が動きやすい……」

 

思索を感じさせるゆっくりとした沈黙ののち、マコトはヒマリの隣に視線を定めた。

 

「……露出きょ」 「エイミ。」

 

遮るような訂正に、マコトは"そうだった"とでも言わんばかりに笑う。

 

「……エイミ、貴様と早瀬ユウカが前に出ろ。このマコト様が支援してやる」

「この私の支援を受けられるのだ。大船に……いや、飛空艇に乗ったつもりでいるといい」

 

マコトは尊大に告げて、今度は私とヒマリに視線を向けた。

 

「そして、足手纏い諸君!」

「お前達は大人しく守られておけ。下手に怪我をされても困る」

「この私がいくら強かろうとも、自分から弾に当たりに行く阿呆(アホウ)を救うことはできんからな」

 

語調は強いものの、思ったよりはまともな指示を下す。

私たちはこっそりと顔を見合わせ──小さく頷く。

 

……少なくとも、今ここで異論を唱える理由はなかった。

 

「わかった、君に従おう」

「正直、私が足手纏いであることは否定できないしね」

 

「ヒマリ。君もそれでいいだろう?」

 

そう視線を送ると、ヒマリは"ええ"、と答えた。

エイミとユウカも僅かな不安を滲ませながらも、頷きを返す。

 

「ハッ、それでいい!! では……始めるとしよう」

 

マコトはそう笑って、ジャケットを"ばさり"と払った。

 

「────さあ、道を開けろ!反撃の時だ!!」

 

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