05:00 | ミレニアムタワー / サーバールーム
side:セイア
ゆっくりと上がっていった隔壁を潜り、私たちは十数時間ぶりに管制室の外へと出た。
びゅうと吹き込んだサーバールームの冷気と共に私たちを出迎えたのは、暗闇の中で星のように輝くランプたち。
その明滅からは、壁一面に並んだ演算機たちが慌ただしくその使命を遂行していることが読み取れた。
静かに回るファンの駆動音の中で息を潜め、私たちは先行する二人の帰りを待つ。
「……ずいぶん、静かだね」
「ええ……」
不穏な空気に、私とヒマリは小さな言葉を交わす。
……それから2、3分ほどして。
先行偵察を終えたユウカとエイミが戻ってきた。
「ただいま。少なくとも、サーバールームには入り込まれてなさそう」
淡々としたエイミの報告に続いて、ユウカが小さく手を上げた。
「……ヒマリ部長。ひとつ判断を仰ぎたいのですが……」
「ここの演算リソースが敵に利用されているのなら、いっそ破壊してしまった方がいいのでは?」
ユウカはどこか不安げに、壁一面で稼働する演算機たちに視線を送った。
彼女の問いにヒマリは少し沈黙し、そっと首を振る。
「……可能ならそうするべきでしょうが、時間がありません」
「心残りにはなりますが、今は脱出を優先しましょう」
「……了解しました」
歩きながら会話を済ませ、サーバールームを抜ける。
突き当りのエレベーターは当然ながら動作せず、私たちは非常階段へと足を向けた。
「「「「…………」」」」
非常階段を前にして、動きが止まる。
皆の視線が、ヒマリへと集まった。
ヒマリはその視線に気が付いたのか、穏やかな微笑みを浮かべる。
「ええ、ええ……皆さんの考えは察せますとも」
「この私の車椅子は、果たして階段を降りられるのか……」
「その疑問には、ノーと答えざるをえません」
「…………チッ」
マコトの舌打ちが響き、大きくため息を吐いた。
「……普段ならその車椅子を階段から投げ落としてやるところだが、今回は仕方あるまい」
「車椅子はこの私が持ってやる。貴様は誰かに運んでもらえ」
車椅子の背もたれに手を掛け、マコトは他のメンバーを一瞥する。
次の議題は、誰がヒマリを運ぶのか。
前衛の二人に運ばせるのはかえって危険。つまり……
「それなら……私が運ぼう」
私が手を上げると、その場の全員が驚いたような視線を向けてきた。
「……なんだい、その目は」
「私だってそれなりに鍛えている。ヒマリひとりくらいなら、問題なく運べるさ」
そう言ってちからこぶを作って見せるも、疑念の視線は消えない。
それなりの時間を共にしたはずのエイミとヒマリですら、じっとりとした視線を向けている。
「それなら、実際に見せるとしよう……さあ、ヒマリ」
差し出した手を、ヒマリは"ええ……"と恐る恐る握った。
その手を引き込み、腰に手を回して……そっと彼女を抱きかかえる。
"きゃっ"とヒマリが漏らした小さな声は、静かに消えていった。
「……どうだい?」
腕の中のヒマリと視線を交わすと、彼女は意外そうな表情を浮かべていた。
その他のメンバーにしても、同様だ。
「……ふふ、私の"か弱い"イメージは払拭できたようだね?」
「さあ、行こうじゃないか」
「……おっけー。じゃあ、私が先に行くね」
私の言葉を皮切りに、エイミとユウカが階段を降りていく。
警戒。進行。警戒。それを十何回か繰り返し……辿り着いたのは、13階。
「……ここで止まってください」
ヒマリの指示で、全員が行動を停止する。
「この階は常駐エンジニアや、作業員向けの食堂が入っています」
「テラスから周囲を一望できますので、状況を伺うのに最適でしょう」
「了解しました。……ここに待機してもらうのも危険ですし、皆で行きましょうか」
「……じゃあ、私が先に出るね。ユウカさんはみんなをお願い」
エイミはゆっくりと非常扉を押し開き……廊下へと歩み出た。
他の階とは違い、周囲がガラス張りの食堂には登り始めた朝日が差し込んでいて、清掃の行き届いた床材にきらきらと反射している。
「……気配はしないね。行ってくる」
姿勢低く廊下を進んで、エイミは食堂へと侵入する。
エイミは2、3分ほど食堂の中を索敵して……こちらに手招きをした。
「クリア。ここも誰も居ない」
「それと……部長、襲撃してきた敵の正体がわかったよ」
「あれ……どう思う?」
エイミに促されるまま、私たちは窓際へと近寄る。
進むにつれ、タワー周囲の状況が明らかになっていく。
崩落したビル。
広場を裂く巨大な地割れ。
その周辺を蠢く、オートマタの群れ。
そして……その中央でゆっくりとうねる白い触腕。
触腕は地中へと伸び、街中のケーブルを根のように抱え込んでいる。
その中心に鎮座していたのは──タコのような姿をした、巨大な機械だった。
「……そんな」
ユウカの震えた声が、静かな食堂に響く。
「……
続き、ヒマリが苦しげな声を漏らす。
「ハブ?……知っているのかい?」
尋ねると、二人はそっと頷いた。
「……ハブは、その名の通りミレニアム地下に張り巡らされたケーブル類の敷設や、接続を担う通信ユニットAIです」
「ええ……ミレニアムの根幹を担う、最大級のインフラ設備なのですが……」
「…………それが、あれなのかい?」
眼下に映る、白い巨体。
白い触腕を揺らしながら、ハブと呼ばれた機械はタワーの足元を守るように鎮座している。
「フン。そんなことはどうでもいい。あのタコにはどんな武装がある?」
漂っていた剣吞な雰囲気をマコトが立ち切る。
どかりと椅子に腰掛けて脚を組んだマコトは、ユウカとヒマリに視線を向けた。
「あれに出口を固められていては邪魔でかなわん」
「お前達が作った機械だと言うのなら……当然知っているのだろうな?」
いつの間にか持っていたチョコレートバーをかじりつつ、マコトは尋ねた。
「ハブの設備で、攻撃に転用できそうなものですか……」
ユウカも椅子に腰掛け、想起するように頭をひねる。
「……レーザータレットと、パルス放射装置。あとは、作業用アームの物理攻撃も想定するべきでしょうか」
「搭載されている装置は全て工業用の水準ですから……人がまともに受けてしまえば、致命的な事態もありえますね」
「…………チッ。面倒なものを作ってくれたな……」
マコトは苛立ちを隠さず、天を仰ぎ────"ガシャァン!!"
「……痛ッたあッ!?」
椅子が倒れた。
ひっくり返ったマコトは勢いよく身を起こし、ばんばんと上着を払う。
「チイッ……なんだこの椅子は……!!」
不満そうに悪態をつき、マコトは再び椅子にどかりと腰掛ける。
「……とにかく、どうにかせねばならん」
「周囲を広場に囲まれている以上、最低でも十数秒はあれを止められる方法が必要だ」
「それができないのなら、ここから出るべきではない」
食べ終わったチョコレートバーの袋をゴミ箱へと投げ捨て、マコトは足を組んだ。
「訳のわからんレーザーだのパルスだのでくたばるなど笑えん話だ」
「かといって、これ以上救援を待ったところで、状況は悪化の一途だろう」
「ハァ……なにか案はないのか?明星ヒマリ」
投げやりな言葉に、ヒマリは僅かに目を伏せた。
「……ひとつだけ、あります」
「ミレニアムタワーの防衛設備の制御を奪い、それを全てハブにぶつければ……ハブのセンサーを飽和させられるかもしれません」
ヒマリは窓の外を見つめながら、静かに続ける。
「……ただし、制御権の奪取から目標の設定、発射までを可能な限り迅速に行う都合上、攻撃の精度は高くできません」
「つまり……我々は脱出時、爆撃の中を走り抜けることになります」
「加えて、周囲の敵をこちらに呼び寄せることにもなるでしょう」
その言葉に、マコトは"フン"と鼻を鳴らした。
「他に手段が無いのなら、そうする他にないだろう」
「あのタコを止められるのなら、多少のリスクは呑むしかあるまい」
「……そうですね。ここは割り切るしかありません」
マコトに続き、ユウカも頷く。
「……わかった。腹を決めるとしよう」
私も肯定すると、ヒマリはエイミと視線を交わし……頷き合った。
「……わかりました」
ヒマリは深く呼吸をして、顔を上げた。
「……では、1階へと向かいましょう」
彼女の言葉と共に、皆は次々に立ち上がった。
05:27 | ミレニアムタワー / 1階
階段を降りきった私たちは、外へと通じる出口の前に立っていた。
「……皆さん、いいですか?」
ヒマリは車椅子の端末に指をかけて、尋ねる。
私たちは意志を確認するように、お互いの顔を見合わせ……頷きあった。
「……では、始めます」
「私が合図をしたら……全力で、走ってください」
言葉を終えたヒマリは、深呼吸と共に端末のキーボードを展開した。
"タタタタタタタ……!!"
指先の残像しか見えない程の速度で、ヒマリは端末を操作する。
彼女の顔に反射した光はチカチカと何度も点滅するが、しかしヒマリは瞬きひとつしない。
……時間にして、たった数秒。
ヒマリは"すぅ"と息を吸って、力強くタッチパネルに触れた。
「……今です!!」
彼女の号令と同時に、私たちは外へと駆け出した。
エイミとユウカが体当たりで自動扉を押し破り、外への道を開く。
それに続き、私たちも外へと飛び出る。
"バシュゥゥゥゥゥ……!!"
爽やかな朝の空気にそぐわぬ、物騒な噴出音が空気を揺らす。
タワーの壁面から現れた何十もの機関砲が火を噴き、榴弾の炸裂音が幾重にも響き始めた。
……頭上を確認する勇気はなかった。
今、私たちに必要なのは……前だけだ。
"────!!!"
およそ100メートルほど左方に鎮座しているハブは、その触手でタワーの壁面を薙ぎ払った。
バリバリと壁が崩れる轟音と共に、数十階分のガラスが朝日に煌めきながら降り注ぐ。
瓦礫と砲撃が地面を揺らし、メキメキと地面が割れる。
まるで世界の終わり。
それは、かつて夢に見た恐怖が顕現したように思えた。
「……はあ、はあ……!!」
とにかく脚に力を入れ、前へ前へと踏み出す。
……その最中、目の前の地面が割れ、巨大な触手が私たちの前に現れた。
私たちとエイミたちの間を分断するように現れた触手は、今にも薙ぎ払わんとしなり始め────
"ダダダダダダァン!!!"
後方から、銃声が響く。
瞬間。立ち塞がっていたはずの触手の関節部は貫かれていて……"ガシャン"、と地面に垂れ落ちた。
「止まるな!!私が居るぞ!!」
マコトの声が響く。
「……ああ!助かった!!」
彼女の声に応えるように、私たちは走り続ける。
"──!! !! !!"
対地砲が着弾したのか、周囲では何度も爆発が起きて、弾き飛ばされた無数の石礫が飛んでくる。
いつ降ってくるともわからない死の気配が、背筋に迫り────瞬間。脳裏が痺れた。
(────ッ!!)
直感的に、私のするべきことがわかった。
走るべき道も、飛び込むべき場所も。
「……ヒマリ!!」
「えっ────きゃあっ!?」
並走していたヒマリの手を引っ張り、車椅子から引き離す。
そのまま全体重を前方へと投げ出し、私たちは地面へと転がった。
"────ドガァァァァン!!"
背後で大きな爆発が起こる。
巻き上げられた熱い土砂が背中にばたばたと打ち付ける中、腕の中のヒマリに目を向ける。
「……無事かい!?」
「えっ、ええ……!!」
返事を聞いて、素早く立ち上がる。
背後を確認すると……ヒマリの車椅子は爆砕され、瓦礫の一部となっていた。
「……ッ!!」
繋いだままの手が、びくりと震えたのがわかった。
彼女の恐怖が、ありありと伝わってくる。
「……ヒマリ、私を信じて、掴まっていてくれ」
手を引き、ヒマリを抱え上げる。
腕の中の重みが、踏み出す一歩に圧し掛かった。
「……私は君を見捨てない。絶対にだ」
全力を振り絞り、駆け出す。
「私とヒマリは無事だ!!援護を頼む!!」
「……こっちです!こちらへ!!」
……ユウカの声を追い、私たちは路地へ飛び込んだ。
壁にもたれ、ようやく息をつく。
「……はぁ、はぁ……」
息を切らす。
後方ではようやく爆発音が止み、最後に合流したマコトが"ふう"と息を吐いた。
焼損した外套を脱ぎ捨て、マコトはライフルの弾倉を引き抜く。
「あのタコに捕まらずに済んだのは僥倖だが……」
言葉の半ばで、マコトは壁に寄り掛かっているヒマリに目を向ける。
「……本当の意味で、足手纏いになってしまいましたね」
マコトの視線に気付いたのか、ヒマリが自嘲気味に笑った。
「フン。足手纏いが大足手纏いになったところで、大して変わらん」
「こうして無事ならそれだけで充分だろう。時間が惜しい、追撃が来る前に移動するぞ」
リロードを終え、ライフルを抱え直したマコトは路地の外を伺う。
その間、エイミがこちらに近付いてきた。
「……セイアさん。部長のことお願いできる?」
「もし苦しいなら、私が……」
「……いや、大丈夫さ」
「ヒマリのことは任せてくれていい」
「……わかった。じゃあ、何かあったら言ってね、交代するよ」
エイミは申し訳なさそうに小さく頭を下げて、ユウカと共に路地の外へと向かった。
「さあ、行こう」
伸ばした手をヒマリが握り、そっと彼女を背負う。
「……すみません、セイアさん」
背後から聞こえるか弱い声に、歩きながら答える。
「謝らないでくれ。むしろ私はいま……嬉しいんだ」
「誰かの負担になってばかりの人生で、ようやく誰かの助けになれる」
「……ふふ、こう言うと、少し不謹慎かもしれないがね」
そう伝えると、ヒマリはくすりと笑った。
「……なんというか……似てきましたね、ルイさんに」
「ふふっ、そうかもしれないね」
小声で言葉を交わしつつ、私たちはユウカ達の元へ向かった。
同時刻 | 都市防衛施設/1階
side:輸送隊
屋上を爆破され、ごうごうと黒煙を上げるビルの下で、
本隊への物資輸送を担うFOX小隊とRABBIT小隊が合流を果たしていた。
無限に思えた敵の攻勢も今ではぱたりと落ち着き、全体の状況確認を急ぐ中。
装甲車から降りたミヤコと、部隊の再編を進めていたユキノが、互いに敬礼を交わす。
「……無事で何よりです、FOX-1」
「そちらもな、RABBIT小隊。よく輸送車を守り抜いてくれた」
「……ではまず互いの損耗を確認し、部隊を再編。のち、再び本隊との合流へ動くとしよう」
言葉と共にユキノは周囲を一瞥し、淡々と続けた。
「……
「そちらはどうだ、RABBIT-1」
報告を終え、ユキノは尋ねる。
「……こちらは戦車一両が大破。その戦車長が重傷です」
「それを含め、負傷者は11名。いずれも命の危険はありません」
「戦車長は第二輸送車の中で治療中。その他の負傷者は、治療を終えて部隊に復帰しています」
説明しながら、ミヤコは輸送車に視線を送る。
車内で治療を受けている戦車長に向けられたのであろうその視線は、強い心配を感じさせた。
「……そうか」
「本来ならすぐに後方で治療させてやりたいところだが、そうもできない状況だ」
「我々も、なるべく気を配ろう」
無表情ながらどこかやるせなく言ったユキノが振り返る。
その時、周囲警戒に当たっていた隊員が声を上げた。
「……5時方向より車両が接近中です!」
響く言葉に、場にいた全員が即座に戦闘態勢に入って……数秒。
「……待ってください!人です!人が乗っています!」
続く声に、ユキノは遮蔽から顔を出す。
その目に映ったのは、朝焼けに照らされた銀髪。
キヴォトスの生徒なら、誰もが知る存在。
バイクを運転していたのは、ゲヘナの風紀委員長──空崎ヒナだった。
「……ヒナが来た!!」
その一声に歓声が上がり、喜色が全体へと伝播する。
小さな影はどんどんと近付いてきて、ヒナの後ろにも誰かが乗っていることに気が付く。
ヒナよりも一回り背が高く、桃色の髪をたなびかせる少女は、こちらに向けて片手を大きく振っていた。
「……ミカさん!」
「ミヤコちゃーん!!遅れてごめーん!!きたよーっ!!」
これまで冷静を保っていたミヤコが、ぱあっと歓声を上げた。
数にしてみれば、たった二人の援軍。
それなのに、その場の誰もが安堵と高揚を得る。
視界を奪う夜が明け、最強の援軍が合流した。
"勝利"。胸に浮かんだその言葉が、背筋へと沁み込んでいく。
冬の夜明け。その冷たい空気は一瞬にして消え、熱い空気が場を満たした。
「…………」
部隊の前方にオートバイを停車させたヒナは、周囲を一瞥する。
それを"指揮官を探しているのだろう"と判断したユキノは、ヒナの前に歩み出た。
「……私が輸送隊の指揮官だ。空崎ヒナ殿」
「ヒナでいいわ。救援が遅れてごめんなさい」
「本隊に襲撃があって、その対処に時間がかかってしまったの」
「……被害状況は?」
「安心して。襲撃自体は大規模だったけれど、被害は軽微と言えるわ」
「……ただ、負傷者はかなり増えてしまった。今は可及的速やかに物資を届けてほしい状況よ」
淡々と状況を伝えて、ヒナは二両の輸送車へと視線を向けた。
「……今は敵の攻勢が小康化している。今のうちに一気に移動したい」
「そちらの準備さえ良ければ、今すぐにでも出発したいところね」
ヒナが言葉を終えると、ユキノは"こくり"と頷き……大きく息を吸った。
「……全隊傾聴!!現時刻を以て、我々は直ちに本隊への移動を開始する!」
「警戒中の人員は即座に撤収を開始し、所属部隊の車両へと戻れ!」
「補給中の者は1分以内に補給を済ませ、持ち場へ戻るように!」
「なお、現在治療中の者はFOX-2の車両内で引き続き治療する!行動不能者はRABBIT-2の車両へ入るように!以上!」
ユキノが張り上げた号令が終わると同時に、周囲の隊員たちは即座に行動を開始する。
慌ただしく動く隊員たちを横目に、ヒナはどこか遠くを見ていた。
その視線の先には、小さな……小さな人影。
数百メートル先、ビルの上からこちらを監視するその狐面を認識したヒナは、無言でそれを注視し……視線を外した。
同時刻
side:狐坂ワカモ
空崎ヒナは背を向けて去っていった。
交わった視線の意図はわからないが、少なくとも、そこに敵意は無かった。
「……あえて推察するのなら、"後は任せろ"。とでも言った所でしょうか」
"びゅう"と吹いたビル風が尻尾を撫でる。
冷たいその空気が運んできた硝煙と炎の臭いが、ずきりと鼻腔に沁みた。
「……さて、どうしましょうか……」
……空崎ヒナが合流したのなら、輸送作戦は成功したと思っていいだろう。
先生の願い……"ミレニアムに向かうみんなを助けてほしい"。
その願いは無事、果たされた。
総合的に見れば、私が次に取るべき行動は、"先生に状況を報告しに行く"ことだろう。
────否。"だった"と言うべきか。
視線の先。都市の中枢。
ミレニアムタワーが、燃えていた。