07:50 | ミレニアム自治区 / メインロード
"────────"
何両もの戦闘車両と輸送車が奏でる重厚な駆動音の中、撤退作戦は遂行されていた。
朝陽が照らす青々とした晴天の中、車列はミレニアムの外へ向けて進んでいく。
先頭を進む装甲車のルーフに立つヒナは、周囲を一瞥して、"はあ"と溜息を吐いた。
同時刻 | 最前衛 / 機動装甲車
side:ヒナ
「……酷いわね」
崩壊したビル、瓦礫が突き刺さり、砕けたコンクリート。
道路中に転がるオートマタの残骸からは煙が漂って、足元に
都市に刻まれた傷跡が、朝陽に照らし出されていた。
「……ミレニアム全域がどうかはわからないが、我々が見る限りどこもこのような状況だった」
「被害の全容を把握するには、相当な時間がかかるだろうな」
機銃席に座ったユキノはぽつりと言って、腕時計をちらりと見遣る。
彼女はそっと腕を下ろして、足元に置いてある通信機を手に取った。
「定時連絡。こちらFOX-1、視界に敵影はなく、異常は認められない」
「引き続き進行する。送れ」
"──こちらFOX-2。同じく異常なし、送れ"
"同じくFOX-3異常なし、送れ"
"FOX-4異常なし、送れ"
「FOX-1。全部隊通信明瞭、以上。」
何度目かの定時報告は素早く終了し、ユキノは再びこちらに視線を向ける。
「……空崎委員長。少しいいか」
「……なにかしら」
尋ね返すと、ユキノはじっと視線を合わせ……ふと逸らした。
「……いや、なんでもない」
「作戦中に聞く話ではなかった、忘れてくれ」
「……なら、後で聞くわ」
「ああ、感謝する」
ぽつりぽつりとした会話を終え、数秒。
私の体が、小さな振動を感じ取った。
地面の下から伝わる、規則的な振動。
「……何か来るわ。多分、地下」
スリングで下げていた
「車列を停めて。戦闘態勢に入るわ」
ただそう告げてルーフから飛び降り、全速力で疾駆する。
道に転がった鉄パイプを拾い上げ、勢いのまま、地面に突き立て────
「──ふッ!!」 "カァァァァン!!!"
甲高い衝突音と共に、反動で空中へと飛び出す。
上昇の勢いのまま広げた翼を全力で振るえば、小さなアパートの屋上へと手が届く。
屋上に滑り込み、機関銃を構える。
「……よし」
……来たる脅威を迎え撃つ用意はできた。
あとは……。
「……全隊、戦闘態勢!!」
眼下でユキノが叫ぶ。
……地面が、バキバキと悲鳴を上げ始めた。
同時刻
side:ミカ
"……全隊、戦闘態勢!!"
"地下から敵が接近している!!"
「ッ!」
狭い車内にユキノちゃんの声が響く。
壁に掛けてあった短機関銃をひったくるように抱えて、私はすくと立ち上がった。
「……ごめん!行ってくるっ!」
「おっけー!!気を付けて!!」
オトギちゃんの声を背に
地面に足が触れた瞬間にもわかる、強い地鳴りが迫ってきていた。
(……ぜったい、あの
揺らぐ足元に一歩一歩を踏みしめ、全力で走り出す。
目指すは前方、地響きの根源。
"ゴゴ、ゴ……!!!"
地響きが近付くにつれ、ビキ、ビキとコンクリートにヒビが入り、砂埃が舞い上がる。
そして────。
"────────!!!!"
轟音を伴い、数百メートルほど先の地面がめくれあがった。
噴火をも思わせるような勢いで、瓦礫と土砂が噴煙となって空へ舞い上がる。
「……っ……!!」
立っていられないような衝撃の中。
その中心から、巨大な何かが姿を現した。
煙の中。橙色の閃光が奔る。
大地そのものを押し退けるようにして、巨大な触腕が地面を貫いて。
現れた白い巨体は……私たちの前に立ちはだかっていた。
「…………」
打ち上がったコンクリートの雨が周囲へと降り注ぐ中、私はそっとサブマシンガンに両手を添える。
銃口を天に向け────星に願う。
(……主が、汝の罪を戒めんことを────)
同時刻 | 最後衛 / 兵員輸送車
side:ワカモ
「…………来ましたか」
輸送車のルーフに立ち、砂煙の中にそびえる巨躯を睨む。
足元では、わたわたと慌てている金髪の狐。
「……ケーブルがやられた!!他の車両と連絡が取れない!!」
「まあ、そうでしょうね」
「そうでしょうねってあんた……!!」
明らかに動揺しているクルミに目もくれず、ぴょんと車両を飛び降りる。
「すこし外します。あなたがたは作戦通りに隠れていなさい」
「
地面を蹴りつけ、飛び上がる。
建物の窓際に手を掛け、壁を蹴り、屋上まで昇りつめる。
「……まあ、綺麗。」
目に映るのは、雲を割り、天より来たる星。
虹のような光尾を引いたそれは、一直線に巨影へと突き刺さった。
"ガァァァァン!!!"
装甲が砕け、巨体が揺れる。
衝撃波が舞い上がった砂煙を払い、照準が敵の全容を捉えた。
「……歯向かうのなら、限界までいたぶってさしあげましょう!」
すぅ、と息を吸って、引き金を引く。
花弁のようなマズルフラッシュが瞬き、触腕の一本を貫いた。
"カコッ……カシャン"
排莢、装填、照準────発射。
再び放たれた銃弾が、触腕を貫く。
「……うふふ……!!」
口端は破壊衝動に歪み、指先は殺意に踊る。
引き金を引くたび放たれる銃弾が、眼前の獲物を壊していく────
side:ヒナ
"────タァァァン!!"
ライフルの銃声が聞こえるたびに、私に迫る触腕が一つ破壊される。
隕石によって歪められた頭部が、忌々しげに此方を睨む。
本体の行動はほとんど抑制できている。
そんな状況でも、安堵はできなかった。
「…………」
明星ヒマリから聞いている。
この機械の、最も危険な武器は────。
"ゴオオオオ────!!!"
突如、轟音が響く。
ロケットの噴出音にも似たそれと共に、いくつもの煙柱が上がった。
「……来たわね」
ミサイル、あるいは、インベイドピラー。
どちらでもいい、私には関係ない。
全て、撃ち落とすだけ。
「……信じるわ、FOX小隊」
頭上より来たる無数の脅威に向けて、引き金を引いた。
同時刻:最前衛 / 機動装甲車
side:ユキノ
"ズダラララララララッッッッ!!!!"
"シュゴォォォォ────!! ドガァァァァン!!!"
ヒナの機関銃と対空ミサイルの爆発が奏でる轟音が響く中、
私の乗る装甲車はハブの元へと移動していた。
「……上はヒナとSPAAGが対処している!!怯まず行け!!」
「わかってます!!」
頭上ではミサイルがミサイルを撃ち落とし、地上では無数の触腕が我々に迫る。
しかし、それもワカモとイオリの狙撃によって次々に破壊されていく。
戦況だけを見るのなら、こちらが優勢。
だが────このままでは、勝ち目がない。
"個人戦力だけでハブを破壊しきることは難しい。"
"聖園ミカや空崎ヒナといった特異戦力を作戦に組み込んだとしても、地盤崩落にも耐えうる装甲を持つハブの逃亡を咎めるだけの火力はなく、撃退が関の山。"
"しかし────あれを破壊しない限り、我々に安全な退路はなく、被害は拡大し続ける。"
事前ミーティングで出た結論に従い、我々は策を講じた。
要を担う、我々FOX-1部隊の作戦目標は……"ハブの下部機動装置の破壊"。
それさえ破壊すれば、ハブの機動力は格段に落ちる。
そのために────。
"……カチッ"
手元の端末を、握る。
「……セーフティ解除!
「ッ……了解!!」
乗員たちが次々と車外へ飛び降り、車内には私たちが残された。
つまり、我々の作戦は────自爆。
"────!!"
ハブは我々の作戦に気が付いたのか、勢いよく触腕を振り上げ────
"タァァァン!!"
振り上げられた触腕が貫かれ、垂れ落ちる。
動揺したかのように天輪を揺らしたハブは、その頭部に光を収斂し始めた。
"────ギュン!! ズガァァァァァァン!!!"
しかし、天より降る星が頭部に直撃し、狙いを逸らす。
レーザーが我々の後方を掠め、コンクリートを焼いた。
「……いいぞ、目の前だ!!」
ハブが立つクレーターが目前へと迫る。
"────バギバギバギッ……!!"
突如地面が割れ、触腕と共にバリケードを築き上げる。
「ッ……!!」
このままでは激突する。しかし。
"ダラララララララッ────!!!"
降り注ぐ紫光の雨が目の前のバリケードを粉々に吹き飛ばし、道を拓いた。
砕け散った残骸を踏み潰し、ガタガタと車体が揺れる。
(……頃合いだろう)
「────脱出しろ!!」
「……了解!!」
運転席のドアが開き、Corsacが車外へ飛び降りる。
ドライバーを失った装甲車は止まることなく、崖下の奈落へと猛進する。
「……まだだ」
握った起爆装置に力を込める。
爆薬とは、有線で接続されている。
限界まで引き付けない限り、破断による不発のリスクは消えない。
「────隊長!!早く降りて!!!」
確実に成功させるなら────。
「……まだだ!!」
奈落は寸前。
土煙の中にそびえる、白い巨影を見上げる。
空をも覆ってしまいそうなそれは、私を見下ろしているように見えた。
「覚えておけ。……我々は、正義は、屈しない!!」
銃座を蹴り飛ばし、地面に転がる。
視線の先には、崖を超え、重力のままに落下していく装甲車。
────我々に用意できる、最大火力。
約80キログラムもの爆薬が満載された装甲車が、ハブの足元へと堕ちていく。
「……死ねッ!!」
指先に、力を込めた。
「っ、ぅぅ……」
(ここ、は……)
きいん、と震えた頭を奮い立たせ、視界を取り戻す。
地に伏せた腕にはいくつもの爆片が刺さり、だくだくと血が流れている。
(ああ……なんとか、生きのこった、か……)
しかし、身体がぴくりとも動かない。
瓦礫に体を挟まれているようだ。
「……ひゅう」
溜め息の一つでも吐き出そうとするも、掠れた呼気が漏れ出すだけ。
(…………)
動かない体から力を抜いて、ふと、視線を崖の方に向ける。
陥没した道路の奥からはもくもくと黒煙が立ち昇り、その中に忌々しい光輪は見当たらない。
我々は、きっと……勝ったのだろう。
「………──」
意識が、途絶えた。