"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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事前準備と日常回①

午後:トリニティ本校/ティーパーティのテラス

 

 

あれからいくつかの書類仕事を片付け、時刻は15時半過ぎ。

私は少し遅れて、ティーパーティのテラスへと到着した。

 

「すまない、ナギサ……少し遅れてしまった」

 

「いえ、丁度今始まったところですから、お気になさらず」

 

軽く頭を下げた私に、ナギサは微笑みを返す。

そんな中、私に気が付いたのであろうミカが手を振った。

 

「あっ!ルイちゃ~ん!」

 

「やあ、ルイ……久しぶりだね」

 

「ごきげんよう、みんな」

 

セイアは小さく手を挙げ、ふりふりと袖を振った。

私も2人に手を振り返しつつ、ポットから紅茶を淹れて……用意した自分の椅子に座る。

 

「ふう……こうして皆と揃って話すのも久しぶりだな」

「ミカ、ボランティアは順調か?」

 

「ルイちゃーん?最初に聞くのがそれ~?……大丈夫だよ、ちゃんと頑張ってるから」

 

私の問いに、ミカは少しむくれた様子で返答した。

 

「ふふ……そうか。まあ、何かあったら私に相談してくれ」

 

「あはは、ルイちゃんそれ何回言うの~?」

 

ミカは呆れたような、どこか気だるげな返事を返す。

 

ミカの反応から察せる通り、この話は会うたびにしている。

彼女に対する卑劣な行為もあると聞く。ひとりで抱え込みがちな彼女のことが心配だ。

 

「ふふ……それだけ君を心配しているんだよ。酌んであげたらどうだい?」

 

セイアが助け船……というよりは、ミカをからかう意図で言うとミカは"うぅ"と小さく唸る。

 

「もーっ! セイアちゃんまで! 私のことなんだと思ってるの!? ナギちゃんは私の味方だよねー!」

 

「ふふふっ……ミカさんは少し向こう見ずなところがありますから」

 

微笑みながら援護要請を拒否したナギサに、ミカは撃沈した。

 

「みんなして私をいじめるの。よくないと思うなぁ……!」

 

そう言いながらロールケーキを口に運んだミカはなんともいじらしく、微笑ましく思えた。

 

「ははは、悪かった。君をいじめる意図は無かったんだ」

「……それで、セイアは最近どうだ? 体調は?」

 

「ルイ……ミカだけでなく、私にも毎度毎度同じ質問をするのはどうなんだい?」

 

セイアは呆れたような声色でそう言って、紅茶を一口飲む。

そして、ゆっくりと吐き出すようにセイアは続けた。

 

「まあ、以前に比べて随分楽になったよ……最近は一人でその辺りを歩き回ったりしても平気さ」

「いずれ、旅行にでも行こうかと考えているくらいさ」

 

そう喜色を滲ませた言葉は、それが強がりでないことを示していた。

彼女の体調が改善されたのなら、これほど嬉しいこともない。

にこりと微笑んで、共の快調を祝福する。

 

「ふふ、そうか。それは良かった」

「それでも、無理は禁物だ。もし何かあればいつでも呼んでくれ。君の為ならいつでも駆け付けよう」

 

そう伝えると、セイアは微かに口角を上げた。

 

「ああ、わかっているよ……必要になったら、君を頼るさ」

 

……彼女とも、似たやり取りを繰り返している。

ナギサも含め、私の友人たちは一人で抱え込む傾向がある。

 

特にセイアは、快方に向かいつつあるとはいえ未だ体が弱い。

主治医の一人として、彼女の身になにかあればすぐに駆け付けられるようにしている。

 

……皆に何かあった時、"私が傍に居れば絶対に助けられる"。

そう在れるよう、私は努力を積み重ねてきた。

 

彼女の、彼女たちの助けになれるのならば……私はどんな知恵や労力も惜しまないつもりだ。

 

 

"エデン条約事件"のようなことは二度と起こさせない。そのつもりで。

 

 

……それから暫く話していると、話題は私の近況へと移り変わった。

 

 

「……そういえば、最近忙しそうだが……なにかあったのかい?」

 

「そうだよ~ルイちゃんがお茶会に来るのも結構久しぶりだし……」

 

ミカとセイアは揃って私に尋ねる。

先ほど私に"相談"してきたナギサはというと、微笑みを湛えたまま何も言わない。

 

「……そうだな。近頃依頼が……仕事が多くてね」

「まあ大したことじゃない。私のことは心配しなくて大丈夫だ」

 

そう伝えると、皆一様に妙な目線を私に向け、"はあ"と溜め息を一つ吐き、セイアが口を開いた。

 

「……君は私達のことを散々心配するくせに、自分のことになると"心配するな"と言うのかい?」

 

「そうそう!! 自分だけ格好つけようとするのずるいよ!!」

 

セイアの言葉に、そうだそうだと言わんばかりに向けられた皆の視線に苦笑する。

 

「……はは、それを言われると弱いが……業務上な」

 

そう誤魔化すと、セイアは呆れたように再び息を吐き出した。

 

「はあ……守秘に逃げるのなら、これ以上の追及はしないけどね」

「それでも、私達だって君を心配していることは、ゆめゆめ忘れないでおくれよ」

 

「……ああ、覚えておくよ」

 

「ちゃんと覚えといてよね!」

 

セイアの助け舟もあり、ミカも納得した様子で引き下がった。

 

実際、私が室長を務める"相談室"の業務は秘密厳守。

プライバシー配慮もあるが、先程の"相談"のように表立って行えないような仕事もしている。

 

つまり、仕事が忙しくなるにつれて、この場で話せることは少なくなる。

それを隠れ蓑にしている、というのは否定できないが。

 

 

「ところで、最近────」

 

 

更に話題は変遷し……他愛のない会話をしているうちに、時間は矢の如く過ぎ去った。

 

 

気付けば、時刻は16時半。

……残念ながら、17時から用事がある。

 

「さて、悪いが私はここでお暇するとしよう……来客の予定があってね」

 

すくと立ち上がってそう告げると、談笑していた3人はこちらに視線を向けた。

 

「おや、そうですか……名残惜しいですが、仕方ありませんね」

 

「いってらっしゃーい!!」

 

「いってらっしゃい……またね」

 

「楽しい時間だったよ、ありがとう。では、また」

 

口々に別れを告げる三人に手を振り返し、私はテラスの扉を押し開けた。

 

扉がカチャリと閉まってしまえば、彼女達の声はもう聞こえない。

 

(正直、名残惜しい……が、まだやるべきことが残っている。それだけ片付けるとしよう)

 

 

……相談室へと戻った私は、予定の時刻を待つことにした。

 

 


 

 

────予定時刻から少しして、"コンコン"と扉がノックされる。

 

「どうぞ」

 

そう返すと、がちゃりと相談室の扉が開いた。

 

「……失礼します……その、初めまして……こんにちは……」

 

扉を押し開けて入ってきたのは、顔に馴染みのない小柄な生徒。

そわそわと落ち着かず、目線をあちらこちらへ動かす様子には緊張が滲んでいる。

 

(……制服を見る限り、正義実現委員会の生徒か。風貌や態度から察するに、1年生のようだ)

 

それなら、まずは緊張を解いてもらう方が優先だろう。

私はそれなりに怖がられる風貌なので、初対面の相手の警戒を解くことは慣れたものだ。

 

努めて優しい声色で、緊張している彼女に威圧感を与えないよう話しかける。

 

「はじめまして。……その制服を見るに、正義実現委員会の子かな?」

「そう緊張しなくていい、時間は沢山あるから、ゆっくり話そう」

 

「はっ、はい……」

 

彼女はそう答えて、大きく息を吸って吐き……多少の落ち着きを得たようだった。

 

「まあ、座ってくれ。君は紅茶と珈琲、どちらが好みかな?」

 

茶葉の箱とコーヒーの瓶を見せると、彼女は少しだけ迷って、紅茶の箱を指差した。

 

「あっその……じゃあ、紅茶で……」

 

彼女はそう答えてぺこりとお辞儀をし、ソファに腰掛けた。

 

「わかった、すぐに淹れよう。それまで、ゆっくりくつろいでくれ」

 

キッチンへと向かい、紅茶の支度を進めつつ……鏡越しに彼女へと目を向ける。

彼女はすこし俯いて、指を交差させながらもじもじと考えごとをしている。

 

……もう少しだけ、ひとりにしてあげた方がよさそうか。

電気ケトルの出力を落として、3分ばかり時間を作ることにした。

 

 

────数分後。

 

淹れ上がった紅茶を、ソーサーに置いて差し出す。

 

「……どうぞ。少し熱いから、ゆっくり飲むといい」

 

「ありがとうございます……ごちそうになってしまって、申し訳ないです」

 

「ははは、気にしなくていい。客人にお茶のひとつも出せなくては、私が怒られてしまう」

 

笑いながらそう伝えると、彼女は"あはは"と笑みを返してくれた。

いい傾向だ。愛想笑いだとしても、笑いというものは緊張を解いてくれる。

 

「さあ、私もいただこうかな」

「なにを隠そう、客人に振る舞うという名目で紅茶を嗜むのが私の楽しみでね」

 

そう言って紅茶を一口飲むと、彼女も続くようにカップを口元に運ぶ。

彼女は "こくり" と紅茶を嚥下し…… "ふぅ" と温かい息を吐いた。

 

「……美味しいです……」

 

緊張した力が抜けたのか、彼女の顔に笑みが浮かぶ。

……どうやら、落ち着いたようだ。

 

「ふふ、それは良かった」

「さあ、時間はたっぷりあるから、ゆっくり話そう」

 

軽く切り出してみると、彼女は決意したように前傾した。

 

「はい!……それでその、相談内容なんですが……」

 

「ああ、聞かせてくれ」

 

そうして、彼女はたどたどしく話し始めた。

 

 

「……その、私……同級生の子たちの中でも、射撃とか、訓練とか……」

「あんまり、上手くできなくて。どうすればみんなみたいに、上手くできるのかなって……」

 

「……先輩たちは"ゆっくりでいいよ"って優しくしてくれるんですが……」

「でも、やっぱりいつまでも甘えてちゃいけないと思うんです」

 

(……ふむ、1年生によくある悩みだな)

 

よくある。とは言ってもその実情は千差万別。

詳細を言語化してもらうためにも、大雑把に切り込んでみるか。

 

「なるほど。……つまり、訓練をうまくやりたいと……」

「いや、より嚙み砕くのなら、"強くなりたい"ということでいいか?」

 

そう聞き返すと、彼女は手をぶんぶんと振って否定した。

 

「そっそんな大したことでは……!!」

「でも、皆と同じくらいには、誰かを守れるくらいにはなりたいかな……って」

 

「それで、ルイさんなら相談に乗ってくれるって……先輩が……」

 

"先輩"。……おそらく、ハスミかツルギあたりだろう。

私の元には定期的に、こうして悩みを抱えた正義実現委員会の生徒が二人の紹介で尋ねてくる。

 

みな三者三様の悩みと問題があり……それらを解決、支援するのはやりがいのある仕事だ。

 

「……わかった。いい方法を教えよう。……と、言いたい所だが……そうだな」

「特に、"何が苦手"などはあるか?」

 

そう尋ねると、彼女は"うーん……"と唸って、少ししてから話し始めた。

 

「射撃が特に……反動を制御しきれなくて、全然当たらないんです」

 

(射撃。彼女の身体を見るに、想定される原因としては……)

 

まず目に付いたのは、彼女の風貌。

 

「わかった。まず聞きたいんだが……いま君に支給されているのは、アサルトライフルでいいかな?」

 

「はい、標準モデルのやつです……」

 

こくりと頷いた彼女に応じるように、私はゆっくりと立ち上がった。

 

「なるほど……少し私の前に立ってみてくれ」

 

「えっ?はい、わかりました……」

 

彼女は恐る恐る立ち上がり、私の前に直立する。

 

「手を前に伸ばして……前ならえ。そう、そのまま維持してくれ」

 

前後左右、彼女の姿をじっくりと観察する。

 

……なるほど、大体の原因は把握できた。

ふうと小さく息を吐き出して、彼女の正面へと立ち、ゆっくりと目を合わせる。

 

「まず……そうだな。厳しく聞こえるかもしれないが……」

「君の体躯に、トリニティ標準のアサルトライフルは向いていない」

 

観察した限り、彼女は標準より体高が低く、伴って腕も少し短い。

トリニティ標準モデルのアサルトライフルでは、構えた際に腕が伸びすぎ……その結果、反動の制御を難化させている。

 

きっと、渡されたアサルトライフルで頑張ろうと努力してきたのだろう。

彼女の構えからはそれが伝わるし、それを否定するのは心が痛むが……ここで事実を告げないことこそ、なによりの不誠実だろう。

 

「向いてない……んですね」

 

そんなことを考えている間に、がっくりと肩を落としていた彼女へ慌てて補足する。

 

「ああいや、君が落ち込む必要はないんだ」

 

「例えば……バスケットボールでは高身長が有利だ。他方で、体操では身長が低い方が有利なように、なにごとにも向き不向きというものがある」

「まずは体にあった銃を使って、視野を広げたほうがいい、という話さ」

 

「……特に、君のように小柄な子は強襲作戦や潜入調査、室内での制圧戦などに高い適性がある。活躍の方向性にこだわりがないのであれば、それに適した銃を使ってみるのもいいと思うが……どうだ?」

 

慌ててそう伝えると、彼女は小さく"ううん"と唸った。

 

「……なら、その、たとえばどんな銃がおすすめでしょうか!」

 

その問いに"ふむ"と呟き、彼女の身体や腕の長さを目視で測る。

 

「……まず第一に、"君の体躯に合う"、という点で考えると……」

 

「そうだな。取り回しの良いサブマシンガン、あるいは軽量で扱いやすいピストルや、反動をあまり気にしなくていいカービンライフルなんかもいいだろう」

「各種、アサルトライフルに劣る面は大なり小なり存在するが……他方で、勝る面も多い」

 

「例えば、パテルの長である聖園ミカの使っているサブマシンガン。あれはアサルトライフルに比べてかなり軽量で、取り回しがいい。あまりおすすめはしないが、片手で扱う者もいるくらいだ」

 

「"ピストルは弱い"という先入観はよくあるが……あれに勝る機動力、取り回しを持つ銃はない。室内の遭遇戦などではライフルなんかよりよほど頼りになる」

 

「……とはいえ、こればっかりは感覚だ。全てに触れ、自分に合う銃を見つける方がいいだろう」

 

説明を終えた所で、もう一つの道を提示する。

 

「一応、どうしてもアサルトライフルがいい。と言うなら、フレームやグリップを換装するか、他校で使われている銃を取り寄せたりするという手もあるが……どうかな?」

 

そう尋ねると、彼女は数秒の思考の後、"ばっ"と顔を上げた。

 

「……いえ!色々試してみたいです!」

 

元気よくそう答えた彼女は、最初の悩ましげな表情から一転。ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、いい返事だ。さて……少し遅いが、まだ時間はあるか?」

「君の時間が許すのなら、武器選びを手伝わせてほしい」

 

「いいんですか!?ありがとうございますっ!」

 

満面の笑みで即答した彼女に、私の気分もつられて高揚する。

 

「わかった。射撃訓練場の使用許可を取るから、少し待っていてくれ」

 

(……向上心のある、いい子だな)

 

と、胸に喜色を抱きながらデスクに開かれたままのラップトップを操作し……"相談室長"の権限で、射撃演習場の使用許可を取った。

 

「……よし、許可が下りた。さ、行こうか」

 

「はいっ!」

 

────そうして、私達は射撃演習場へと移動した。

 

 


 

夕方:トリニティ本校/射撃演習場

 

 

「……さて、門限までは2時間ほどある」

「多少遅れたとしても寮長に私の名前を出せば許してもらえるだろうから、存分に試すといい」

 

テーブルにトリニティ制式モデルの銃を全て並べ、その中からサブマシンガンを差し出す。

 

「これが、先に言った聖園ミカが使用しているモデルだ」

 

「発射速度は標準モデルのアサルトライフルと同じか、少し遅い程度だが……軽量で反動が少なく、扱いやすい。アサルトライフルとは勝手が違うが、すぐに慣れるだろう」

 

「はい!」

 

元気よく返事をした彼女は、受け取ったサブマシンガンを眺めたり、構えたりして感覚を掴もうとしている。

 

様子を観察するが……腕の長さには合っているようだ。

 

「問題なさそうだな、実際に撃ってみるといい」

「帳簿は私がつけておくから、好きなだけ撃っていいぞ」

 

「ありがとうございますっ!! では、行きます……!!」

 

"ダダダダダダッ!!" "ダダダダダダダダッ!!!"

 

真剣な表情で彼女は何度かサブマシンガンを試射し、結果を見せてくる。

 

「どうでしょう!」

 

ターゲットを確認すると……最初の数発の狙いは良いが、それ以降は反動を制御しきれていないようで、着弾点がずれている。

 

「ふむ……悪くないな。少し教本からは逸れるが……構え方を変えてみよう。少し触れても?」

 

「あっ……お願い、します……」

 

「よし」

 

後ろからぴたりとついて、彼女の手首を握り……構えさせる。

少し屈んで彼女と体高を合わせ、身体を支えるようにして構えを実践させる。

 

「前傾して重心を前に、足を前後に開いて……そう、後ろ側の足から地面に。この態勢で、肩から伝わる衝撃を流すんだ」

 

「見た限り、君は初弾の狙いが精確だ。それならあまり長く撃ち続けずに、数発撃ったら一旦射撃を止めて、素早く狙い直す。下手にバラまくよりもこちらの方が君に合っているだろう」

 

「一応、これはアサルトライフルの運用に近いが……結局のところ、弾をバラまくこと自体を目的としていない限り、当たるのならそれが一番だ」

 

私の説明に、彼女は"はい、はい!"と真摯に返事をする。

言葉から彼女の熱量が伝わってくるようで、私としても教えがいがある。

 

「まあ、今できるアドバイスとしてはこんなものだ」

 

「残念ながらこの銃にはバースト射撃が搭載されていないから、感覚で行うことになるが……君にならできるはずだ。練習してみるといい」

 

密着させた身体を離すと、彼女はその姿勢を維持したまま。

照星を覗き、離し、構え直す。……その動作を、何度も繰り返していた。

 

「……ずいぶん様になった、君は呑み込みが早いな。もう実射しても問題ないだろう」

 

そう伝えると、彼女はぱっと構えを解いてこちらに向き直り、ぺこりとお辞儀した。

 

「ありがとうございます! では、やってみます……!」

 

そうして、彼女は演習用の的へと銃を構え────。

 

"ダダダッ!!" "ダダッ!!" "ダダダダッ!!"

 

何度も射撃して弾倉内の弾を撃ちきり、彼女は銃を下ろす。

 

「……! かなり良くなりました……!」

 

そう言って、彼女は嬉しそうにスコアを見せてきた。

 

(最初と比べて段違いに命中率が良くなっている。どうやら、適正があるようだ)

 

「……予想以上だ、素晴らしい」

 

「やった……!ありがとうございます……!!」

 

彼女は心底嬉しそうにぴょんと跳ね、手元のサブマシンガンを見遣る。

 

「気に入ったのなら、しばらくはそれを使い続けるといいだろう。他の銃を試してみるのもいい」

「時間はまだあるから、好きに選んでくれ。ある程度は指南できるだろう」

 

「それと、見たところ君は狙いをつける速度と精度が優れているから……アサルトカービンなんかも向いているかもしれない。セミオート式だから構えさえ覚えてしまえばすぐに扱えるはずだ」

 

「……はいっ!」

 

 

 

────その後、様々な銃を試射したが……彼女はやはり、サブマシンガンが性に合ったようだった。

 

 

銃選びを終え、時刻は20時前。

射撃演習場を出て、彼女を寮へと送っていく道すがら私達は話していた。

 

「ありがとうございました……おかげで、先輩たちみたいになれる気がしてきました!!」

「弾があんなに当たったのは初めてで、自信が付いたというか……!!」

 

興奮冷めやらぬ彼女に、"ははは"と笑って、小さく首を振る。

 

「いいや、そこまで感謝されるほど私の功績は大きくないさ。ただ少し、軌道を修正しただけだ」

 

「射撃の精度は日々の努力の結実だ。アサルトライフルの運用基礎に寄せた途端、命中精度が大きく改善されたところを見るに……君は相当に、努力していたと見える」

 

「普通は、"新しい武器を持って、新しい構えをして"……なんて、そんな状況で弾を当てるのは至難の業だ」

 

「そ、そうですかね……!?」

 

照れと興奮がないまぜになったのか、彼女はわたわたと慌てだした。

 

「ふふ……そうだ。私が認めよう」

 

「えっ、えへへ……!!」

 

 

そんなことを話しているうち、気付けば彼女の寮の近くまで来ていた。

 

「おっと、そろそろ寮に着くな。……送るのはここまででいいだろう」

「夜遅くなってしまったが、夜更かしはしないようにな。おやすみ」

 

「おやすみなさい!……あの、今日は本当にありがとうございました!」

「明日からは、皆と肩を並べられるよう、精一杯頑張ります!!」

 

「ああ、どういたしまして……応援しているよ」

 

深々とお辞儀をした彼女に手を振って、その場を後にした。

 


 

────本校へと戻る道を、私は駆ける。

 

(遅くなってしまった……!! 急がないと物資の受け渡し時間に遅れる。早く出発しなければ)

 

彼女と過ごした時間は非常に有意義だったが……それはそれとして、私には目的があり、それを疎かにするわけにはいかない。

 

一度荷物を取りに帰って、私は"業者"との受け渡し場所へと急いだ。

 

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