────セイア拉致より12時間後。
トリニティ公式声明/桐藤ナギサの演説
桐藤ナギサは、堂々とした様子で公演台の上に立っている。
緊急会見、と題されたこの映像は、クロノススクールやインターネットを通じてキヴォトス内で大々的に報じられたものだ。
映像開始から数秒ほどしてナギサは一度瞑目し、ひとつ息を吸って。
マイクに向かい、覚悟を決めたような強い語気で話し始めた。
「────皆さん、私たちは新たな脅威に晒されています」
「本日早朝、サンクトゥス分派寮が襲撃され、サンクトゥス分派代表……百合園セイアさんが拉致されました」
一拍置いて、続ける。
「この襲撃事件により、21名の警備に当たっていた正義実現委員会の生徒が負傷、当時護衛に当たっていた元ティーパーティー、聖園ミカさんが負傷しました」
言い切った後、沈痛な面持ちを浮かべたナギサは3秒ほど顔を伏せ、顔を上げると凛とした表情に戻っている。
「これは格式ある私たちトリニティ校に対する、重大な挑戦です。」
「……このような非道な事件を起こした者を許容する事は、絶対に出来ません!!」
ナギサは会場に集まった観衆を一瞥し、軽く頷くような動作をした。
「……実行犯は特定されています」
そうナギサが言い終えると、背後の大きなスクリーンに天城ルイの顔写真と全身の写真、名前、所属が映し出される。
下部には彼女の使用する銃の写真と名前が載っており、上部には"サンクトゥス分派寮襲撃事件および百合園セイア拉致事件 実行犯"と大きく書かれている。
スクリーンに映像が映し出されて数秒後。
「ご覧いただいているように、実行犯の名は、天城ルイ……」
「彼女はトリニティの二年生であり、所属はティーパーティー下部組織・"相談室"の室長でした」
言い終えてからナギサは会場全体を見回して、発言を続ける。
「お気付きの方や、ご存じの方も多いでしょう。……天城ルイはかつて、我々の友人でした」
「しかし、彼女は我々を裏切りました……このような蛮行を、許す事はできません!!」
ナギサは声量と語気を強め、右手で空を払う。
「……既に、シャーレ・ヴァルキューレ・トリニティ連名で捜査連携、及び指名手配を発布しています」
正面のカメラに映像が切り替わり、ナギサが中心に大きく映る。
ナギサはカメラに強い目線を向けており、この映像を見ている者に対して語りかけるような印象を与える。
「この映像を見た方、聞いた方に、お願いがあります」
ナギサは少し語気を弱め、請うような声色に変わった。
「どのような情報でも構いません」
「天城ルイ、百合園セイアさんに関する情報を提供していただきたいのです」
「何かご存じの方は、ヴァルキューレかトリニティまでご一報ください」
「情報の内容によっては、謝礼もございます」
映像の下部に連絡先が表示される。
「24時間、いつでも受け付けておりますので……どうか、ご協力ください」
「……以上、ティーパーティー"ホスト代理"桐藤ナギサでした」
ナギサが頭を下げると、映像は終了した。
正午:トリニティ演説ホール/廊下
(───どうして、こんな事になってしまったのでしょう)
演説の後、フィリウス分派の執務室に戻る道中、ナギサの気分は深く沈んでいた。
襲撃の報を受けて気絶した後……私は駆け付けた救護騎士団のメンバーによって医務室に運ばれたらしい。
目覚めた私に改めて告げられた事件の詳細は、あの時聞いたものと相違なく……夢であって欲しいと願う私の淡い願いを容易く打ち砕いた。
"どうして"と聞くことも叶わない。
心の支えである大切な友人を二人、同時に失った。
私の知る"天城ルイ"は、このようなことをするような人物ではない。
彼女を深く知る全員が、この事件に対して疑心を抱いているはずだ。
烈火の如く怒り狂い、飛び出していった救護騎士団長の事を思う。
彼女ははティーパーティーの会議室に乗り込んできたかと思えば
「知っている事を全て話しなさい」なんて怒鳴り散らし、最後には "あなた達は信用なりません"と怒りのまま飛び出していった。
……彼女も、受け入れられていないのでしょう。
(ミカさんはあれから塞ぎこんで部屋に閉じこもっていますし……先生がミカさんのケアをしてくださらなければ、今頃ミカさんは自責で潰れていたかもしれません)
私もそうだ……しかし、"裏切られた"という証拠と事実だけがそこにあり、信じたくないと拒否する心を折る。
監視カメラの映像も、ミカさんの証言も────その全てが、天城ルイの裏切りを示している。
(……許されるなら、泣き叫びたいような気分です)
(しかし────残された私には、役目があります。)
友人を糾弾し、倒すべき敵として周囲を纏め、その討伐を指揮するという役目が。
「う゛っ……」
……胃からこみ上げた吐瀉物を無理やり飲み下す。
喉を焼く酸を薄めるため、ペットボトルを乱雑に開け、ゴクゴクと音を立て下品に飲み干した。
「っは……!はあ……」
「ナギサ様!?大丈夫ですか……?顔色が……」
隣を歩いていた生徒が駆け寄って、心配の声をかけてくれる。
「……いえ、問題ありませんよ……恥ずかしい所を、お見せしてしまいましたね」
取り繕わなくては、今は私しか居ないのだから。
微笑みを崩さず、背筋を伸ばし、堂々と。
"真実を明らかにする"という使命感、その一本の背骨だけで、今の私は立っている。
それが折れてしまえば、二度とは立ち上がる事はできないだろう。
(ルイさん、あなたが何を考えているのかはわかりません、ですが……)
────貴方を止めて、全てを説明させるその時まで……私は立ち続けましょう。
誰にも見せないように拳を強く握り、また歩み始めた。