夜:アビドス近郊/ルイのセーフハウス
side:ルイ
拉致されていた百合園セイアの帰還。
それは、キヴォトス中に大々的に伝えられた。
演説台に立った3人は、画面越しでも分かる程に清々しい顔をしていた。
……結果から言うと、セイアという抑止力を失った私に対する追跡は、より苛烈になりそうだ。
セイアの身を案じてか、"情報募集"という形になっていた私に対する指名手配は、身柄そのものを指定するように変更された。
おかげで、顔を見られるだけで一攫千金狙いの不良や賞金稼ぎとの戦闘になりかねない。
……それでも、セイアを帰したのは正解だった。
セイアからの聴取を終えた後に行われたであろう、手配情報の再編に関する公示の動画。
それを見るに……"トリニティは私に最大限の注視を払い、見つけ次第潰しに行く"。
そう言わんばかりの姿勢を見せた。
"ティーパーティー全員と、全派閥の重役の連名で可決された"。
という報道を見るに……セイア無しでもゲヘナでの作戦には影響はないだろう。
聴取でセイアが何を言ったかは知らないが、よほどの事を言ったようだ。
……これも、いずれ帰った時に何と言ったか聞くとしよう───楽しみだ。
まあ、なんにせよ……これでミカとナギサの心労や、身体的な負担は解消されたと言えるだろう。
友人達の元気そうな姿を見ていると、私もモチベーションが上がってきた。
(────そろそろ、滞っていた兵器の輸送と配置を再開するとしよう)
昼:ゲヘナ自治区/ルイの拠点
────それから、6日経った。
ゲヘナ領内の作戦エリアには合計16門の、遠隔操作及び自動装弾を可能にした迫撃砲を設置し、
作戦エリア外の高所には4基の榴弾砲を配置。
さらに複数の構造物内に補給ポイントを作成し、ドローンによる監視網も確立した。
これで、エリア内に複数のキルポイントが生まれ……長期戦になっても弾切れの心配はない。
作戦エリアは、死角無く私の支配下となった。
……現在は補給ポイント作成を終えて、一度ゲヘナ領内の隠れ家に戻ったところ。
ここはアビドスの拠点と比べるとかなり粗雑だが……隠匿性に問題はない。
「…………」
ボロボロのソファに腰掛けて、ペットボトルの紅茶を飲む。
そして……ミカを誘い出す場所が決まった。
トリニティ自治区外縁より、少し離れたエリア。
そこは廃墟などの障害物も多く、起伏の多い私が有利な地形のうえ……万が一の際は、撤退の判断も取りやすい。
そこでなら、ミカと戦っても勝ち目はそれなりにあるだろう。
(さて、問題はどうやって呼び出すかだが……)
セイアを送り出す時には強がって"なんとかする"、とは言ったものの。
正直、セイアというカード無しでは厳しいものがある。
先日のように不良からモモトークを拝借して脅迫文を送りつけてみるのも悪くはないが、
その程度ではミカは他の生徒に知らせるだろう。そこのリスクは避けたい。
「はぁ……」
ひとつ、息を吐く。
────たまには、強引な手を使うのも悪くはないだろう。
決心し、私は出立の準備を始めた。
深夜:トリニティ本校/寮区画
side:ルイ
現在時刻は、草木も眠る午前2時。
首を垂れる街頭に照らされながら、誰も居ない道を進む。
ミカを誘い出すには、冷静になられる前に動かすのが最善。
……つまり、直接出向いて誘き出すことにしたのだ。
(……懐かしいな)
トリニティ校区内を歩くのは久しぶりだ。
見慣れたはずの景観も、立場が変わった今は違って見える。
(……おっと)
監視カメラがこちらを向く前に、その死角へと飛び上がる。
結局、郷愁に浸ることはできなさそうだ。
そのまま屋根伝いに10分ほど移動して、ミカが住んでいるパテル分派寮に到着した。
(……よし、ここか)
ミカの部屋は屋根裏。外部から侵入する事は容易い。
ジップラインを使って、屋根の上に乗る。
窓から中を伺うと、ベッドにはふくらみができて、規則的に上下している。
眠っているようだ。
これなら、侵入しても問題ないだろう。
ポーチからバーナーを取り出して窓ガラスを炙り、
冷却スプレーで急速に冷却すると……"ぴし"、とヒビが入って、静かにガラスが割れた。
その穴から錠を外して……足音を立てないよう、そっと部屋に侵入する。
(……よし)
テーブルの上に手紙を一つ置いて、小さく息を吐く。
この手紙でミカがどう出るかはわからないが……彼女の性格を考えるなら、問題ないだろう。
「……少し寒いかもしれないが、許してくれよ」
聞こえないよう、小さくそう呟いて……窓から身を乗り出す。
────後は待つのみだ、彼女を待ち受けるとしよう。
早朝:トリニティ/パテル分派寮:ミカの部屋
side:ミカ
"チュンチュン"、と鳴く小鳥のさえずりと、朝の冷たい風で目が覚めた。
「んぅ……よくねたぁ……」
ごろりとスマホを取り出し、通知やニュース、モモッターを流し見して、目が冴えるのを待つ。
(……ちょっと寒いなぁ)
ここは屋根裏部屋。
ちょっとの隙間風はいつもの事だが……今日はいつにもまして風が入ってきて肌寒い。
カーディガンを着ようと身体を起こして周りを見ると、窓が割れ……床にはガラス片が散乱していた。
「……っ!?」
急いで部屋の中を見回す。
とくに物が盗まれたりはしていないようだ。
目立った異常は見つからない──テーブルの上に残された黒い便箋を除いて。
急いで便箋を破り開け、中の手紙を開き、内容を読む。
[私の愛しい友人、ミカへ]
[ごきげんよう、ミカ]
[君の親友、天城ルイだ]
(ルイちゃん……!? なんのつもり……?)
[まずは、君が手紙を破り捨てなかった事に感謝しよう]
(……いちいち嫌味を書くあたり、よっぽど私を怒らせたいみたいだね……☆)
今すぐにこの紙切れを破り捨てたいけど、これは重要な情報になるはず。
そう考え、怒りを抑えて読み進める。
[単刀直入に言うと、君と決闘がしたい]
(……はぁ?……意味わかんない)
[本当はセイアを使って誘い出す予定だったが、些細なトラブルでセイアを失った今、君を誘い出す方法が無くなってしまった]
[とはいえ、君の知り合いを使って脅迫するような真似はしたくない。だからこうして直接赴いた]
[フェアに行こう。君が勝てば私は大人しく捕まると約束する]
[そして、君が負けたとしても私は特に害を与えたりはしないし、きちんとした食事や寝床だって用意しよう]
[私の元で、3.4日ほど大人しくしてもらうだけだ]
[わかっていると思うが、君が他の誰かを伴ったり、君ではない誰かが来たら私は即座に撤退するし……その後、トリニティ本校に爆撃を行うつもりだ]
[砲弾は、君が最も後悔するような場所を狙うだろう]
[それを頭に留めてくれると、お互いに損をせずに済む]
[では、座標は二枚目に乗せてある。そこで待っているよ]
[君の親友、天城ルイより]
文の下には、見慣れた筆跡で"天城ルイ"とサインが書かれている。
これは悪い冗談じゃない。本物だ。
……本当に、ルイちゃんはここに来て手紙を置いていったんだ。
(へぇ……☆)
かなり、イラっときた。
こんな雑な脅しと、下手な挑発を仕掛けてくるのにも、ルイちゃんが私に勝てる気でいるのにも。
(……面白いじゃん────あの日の仕返し、いっぱいしちゃおうかな☆)
燃え立つような感情と共に、座標を確認すると……そこはトリニティから少し外れたエリア。
(ふぅん……あの辺りかぁ……)
拳を握る。
モチベーションが全身から溢れるような気分。
今の私が、負けるわけがない。
ここでルイちゃんを捕まえれば、全部おしまい。
だから、これは最大のチャンスだ。
(────二度とそんな生意気な事言えないようにしてあげる☆)
サブマシンガンを片手に、部屋を飛び出した。