"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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決闘

早朝:トリニティ自治区外縁/廃墟

 

 

「……」

 

トリニティ校内の自販機で買った紅茶を一口飲む。

ペットボトルとはいえ、紅茶に並々ならぬ熱情を持つトリニティ生のために作られた校内限定販売の紅茶だ。

それだけあって、なかなか悪くない味をしている。

 

「ふぅ……」

 

一息ついて、ペットボトルを地面に置く。

 

(暇だな……)

 

ミカを待っている間、正直暇だ。

左手の包帯は巻き直したし、痛み止めも塗った。

砲の配置は完了したし、武器のメンテナンスも完璧。

 

……つまり、やる事がない。

 

(退屈しのぎに、本の一冊でも持ってくるべきだったか……)

 

そんなことを考えながら、その辺りの壁にもたれかかる。

 

(……そういえば、ミレニアムの皆はどうしているだろうか)

 

突撃剣に付いた砂を払っていると、この剣の開発者たちの事を思い出した。

私の装備はほぼ全て、ミレニアムのエンジニア部と共同で設計、作成したものだ。

 

つまり、私が今その装備を使って不法行為を働いている以上……彼女らが共犯だと誹りを受ける可能性がある。

 

……流石に、そんな事を言う者は居ないと思いたいが。

しかし問題は、彼女らが自分を責めていないかだ。

 

今回の作戦目的にミレニアム……ひいては、エンジニア部の彼女らは関係ない。

これはゲヘナとトリニティ間の対立を緩和しようという作戦だ。

 

「流石に罪悪感があるな……余裕ができたら、謝罪の手紙でも送っておこうか」

 

口を衝いて出た独り言は、砂に消える事は無く────

 

「────へえ、誰かは知らないけど、それより先に謝った方がいい人がいると思うな☆」

 

────しまった。

 

"ヒュウ"と一瞬の風切り音と共に、天から隕石が降ってきた。

 

"ドゴォォォン!!"

 

地が割れるような衝撃と共に、砂煙が立ち上る。

 

────危なかった、なんとか防げたが……。

 

「まあ、今さら謝っても許さないけど☆」

 

砂塵を纏い、怒りを向ける彼女と対峙する。

 

「……久しぶりだな、ミカ。不意打ちとは酷いんじゃないか?」

「積もる話もある。すこし話す時間を取るつもりだったが」

 

「それって……別に今やる必要ないよね☆」

 

そう答えたミカは、荒野に堂々と立っている。

 

「ハハ、確かに……話はお前を拘束した後にするとしよう!!」

 

"バシュッ!"

 

ジップラインの鉄鉤が、ミカの頭を狙って撃ち込まれる。

 

「あはっ☆遅い遅い!!」

放たれた鉄鉤を、ミカは首を少し傾けただけで回避した。

 

(……読み通り!!)

 

"ガキンッ────ギュルルルルルッッッ!!!"

 

ミカの背後にジップラインの鉄鉤が突き刺さり、巻き取られ始める。

 

「……それ、もう見た事あるんだよね☆」

 

突撃剣を構え、高速で突っ込んでくるルイに対し、

ミカは深く腰を落とし、拳を構えた。

 

(カウンターする気か……?!)

 

(……逃がさない、よっ!)

 

"ガァァァン!!"

 

────振るわれた剣と、ミカの拳が激突する。

凄まじい衝撃と共に、二人は僅かに距離を取った。

 

「……相変わらず、頑強だな!」

 

「……へぇ、結構痛いじゃん☆」

 

"ぱっぱっ"、と手を払って、ミカは再び拳を構えた。

 

(……防御は不利。ならば……!)

 

カウンターを凌いだルイは、そのままミカに接近し、斬りかかる。

 

(とにかく数を打ち込む!!)

 

「魂胆見え見え、つまんない……よッ!☆」

 

"ガァン!" "タタァン!!" "ゴッ!" "ダァン!"

"ブオンッ!" "ダダダダァン!!" "ギィン!!"

 

斬り払い、ハンドガン、叩き付け、射撃、突き。ショットガン連射、ジップラインを利用した急速反転斬り。

ルイは振るう息も吐かせぬ連撃を、ミカは素手で防ぎ、避け、捌いていた。

 

「ハハハ!!どうした、ミカ……!!」

 

"ガンッ!!" "ブォン!!" "タタァン!!"

 

(うーん……このままじゃちょっとまずいかも)

 

ルイは挑発しながらも攻撃を続ける。

ミカは守りに徹しているが、その腕からは少量の出血が見られた。

 

(……ダメージは蓄積されている。このまま押し切れるか……!!)

 

"ダァンッ!!……ガンッ!!"

 

────射撃、足払い。

「いった……っ!」

 

防御の隙を突いた足払いが直撃し、ミカは僅かに体勢を崩した。

 

(……今だ!!)

 

"ザッ──ガンッ!!"

 

ルイはミカに突進し、飛び蹴りを見舞う。

直撃。その反作用で後ろに飛び────ジップラインを撃ち込む。

 

体勢を崩したミカに対して剣を垂直に構え────。

 

"バシュッ!!────ギャルルルル!!!!"

 

「貰ったッ!」

「────なーんて☆」

"────ギュン"

 

(────しまッ……!?)

"ズドォン!!"

 

まるで狙い澄ましたかのように、天より現れた隕石がルイに直撃する。

空中に居たルイに逃げ場はなく、地面に叩き付けられ────吹き飛ばされた。

 

"ガンッ!!ズザアアッ!!"

 

「が……ぁッ……!!」

「あはは、勝てる訳ないじゃん!」

"ダラララララララッ!!!"

 

地面に転がるルイに、ミカは容赦なくサブマシンガンを乱射する。

 

(まずい……ッ!!)

 

"ザッ!" "ガガガガァンッ!!" "バシュッ!!"

ルイは剣を支えに立ち上がり、シールドを展開してジップラインを発射。

一気に距離を取り────廃墟の陰へ滑り込んだ。

 

(ふぅーん……逃げるんだぁ……)

 

ルイは廃墟の陰で急いでリロードし、体勢を立て直す。

 

「チッ……タフすぎる───!」

「────あはっ!舌打ちなんて、おげひーん☆」

「なッ……!?」

         "ドガァン!!"

 

    完全な不意打ち。

 

ミカは隠れた廃墟の壁を殴り貫き、ルイは砕かれた壁ごと殴り飛ばされた。

 

リロードに際して置いていた突撃剣とショットガンは、ルイから離れた地面に投げ出される。

 

(まずい、突撃剣が……!)

「あはははっ☆今のはこの間のお返し!!」

「あれ、すっごく痛かったんだから☆」

 

ミカは仕返しだと言いながら、舌をぺろりと出してルイを挑発する。

戦場にあってなお愉快そうに浮かべられたその笑みは、圧倒的な強者を思わせた。

 

(……あの剣さえなければ、私が圧倒的に有利────このままあれを回収されないように立ち回れば……!!)

 

ミカはサブマシンガンを構える。

 

「そうか……!それは悪かったな!」

 

"バシュッ!"

 

ルイはジップラインを発射し、再びミカの元へ突撃する。

 

(この状況で突っ込んでくるんだ?……ばーか☆)

 

     "ダラララララララララッッ!!"

 

反射的にミカはサブマシンガンを乱射する。

 

(こうなれば、被弾覚悟で突破するしかない!)

(……撃ち落とす!)

"バシュッ!" "バシュッ!" "バシュッ!"

"ダララララララッ!!!"

 

ルイは両足のジップラインを交互に発射、解除し、不規則な軌道を描いて接近していく。

 

"ヒュン──ヒュッ──バスッ!!"

 

「ぐッ……!」

 

ルイは限界まで被弾を減らしている。

しかし全ては避けきれず、被弾は積み重なり、血が流れ出ていく。

 

(当たってはいる!! なら、減速した所を狙って……!)

"────ガチッ"

 

連射を続けたミカの銃から、乾いた音が鳴る。

 

(……弾切れ……!)

(……今だ!!)

"バシュッ!"

 

ミカの足元に、ジップラインが突き刺さる。

重い大剣を失った分、より速くなった突進に────ミカのリロードは間に合わない。

 

「遅い!!」

「しまっ…!」

"ギュルルルルルルル────ガァンッッ!!"

「きゃあっ……!!」

 

全重量と、最高速度を乗せた渾身の飛び蹴りが直撃し、ミカは後方へ吹き飛ばされる。

 

その衝撃で弾き飛ばされたミカのサブマシンガンは、ミカの後方へと落下した。

 

「────どうだ……ッ!!」

「……う、うっ……!」

 

ミカはフラフラとしながらも、地面に手を着いた。

 

(ここから突撃剣の回収は間に合わない。それなら……!!)

 

"バシュッ!"

 

ルイは起き上がらんとしているミカへ接近する。

────狙うは、顎。

 

「はあッ!!」

     "バスッ!"

「甘い……よッ☆」

「ッ!?」

     "ぐいっ……ゴンッ!!"

 

ルイが追撃に放ったソバットを、ミカは易々と受け止めた。

掴んだ足を左腕で力強く引き込み、引き寄せられたルイの顔面に右腕を打ち当てる。

 

「ぐはッ……!!」

「……捕まえ、たっ☆」

 

後頭部から勢いよく地面に倒れ込んだルイに、ミカは覆い被さらんと手を伸ばす。

 

「……舐めるなッ!!」

"ガスッ!!──ズザァッ!!"

「……っ!」

 

ルイは伸ばした足をミカの腹に撃ち込み、それを支柱として後方に投げ飛ばした。

 

ミカは素早く受け身を取って立ち上がり、構える。

その視線の先では、立ち上がったルイが睨んでいた。

 

「「………………」」

 

(力で劣ろうとも技術は私が上だ、来るなら来い……ミカ!)

(……純粋な殴り合いなら、ルイちゃんが勝てるわけない)

 

沈思の中、睨み合う。

 

「じゃあ……行くね☆」

 

────先に動いたのは、ミカ。

 

ミカは力任せに踏み込み、一瞬で距離が縮む。

理外の速度で放たれるは────斜め下から胸を打ち抜く右フック。

 

"────ギュン"

 

(ッ!!)

"ザッ、ブォン!!"

ルイは咄嗟に左に回転するように下がり、拳を回避しつつその隙を突かんと構えた。

ミカの拳は文字通りに空を切る。そして反撃の時────。

 

「────えいっ☆」

"ザッ!!────"

────しかし、ミカはそれを読んでいた。

右フックのために踏み出した右足をバネに変え、全体重を乗せた、捨て身の左ストレート。

 

(───しまっ)

(当たり☆)

        "……ゴンッッッ!!"

直撃。

 

「が……ッあ……!!」

 

大きくのけ反り、地に転がったルイへ止めを刺さんと、ミカが迫る。

 

(……落ち着け、まだ体は動く……!)

 

衝撃に揺れる視界の中、迫る桃色の髪。

次の攻撃が、来る。

 

「これで、終わりっ!!」

────飛び上がり、顔面狙いのストンピング。

 

ミカは大きく足を上げ───叩き付けた。

"バシュッ!!" "ダァァァァン!!"

 

地が揺れるかのような衝撃と、立ちのぼる土煙。

 

数瞬の後、土煙が落ちる。

 

そこにルイは居らず、ひび割れた地面がただそこに在った。

 

「……ふぅん、避けられちゃったかぁ」

「────まだ終わるには早い、そうだろう?」

"バスッ"、とジップラインの着弾音が鳴る。

(後ろ────!)

ミカは振り返らず、後ろ回し蹴りを放つ。

 

"ズザァッ!!──ギュン"

 

「────!!」  "ブォン!!"

「きゃぁっ!」

 

ルイは滑り込むようにしてそれを回避し、一本で身体を支えるミカの脚を蹴り払った。

支えを失ったミカは体勢を崩し、背中から倒れる。

 

「……もらったッ!!」

 

ルイは即座にミカにマウントを取る。

「……ッ!!」

 

左手でミカの腕を抑え────右腕を大きく振りかざす。

 

(うーん、しょうがないか……☆)

 

(恐らくここで────) "──ヒュウ"

(ルイちゃんごと、いっちゃおう☆)

 

────はるか上空で、風切り音が小さく鳴った。

 

(────予想通り!!)   "バシュッ!"

 

ルイは腰部のジップラインを真後ろに放ち、ミカから飛び退く。

 

「ッ!?」

掴み返そうとした腕は空を切り、相打ちを目論んでいたミカは驚愕の声を漏らす。

 

(……これ、ちょっとマズいかも───)

"ギュン────ドガァァァン!!"

 

天より来たる星の欠片は、その主へ無慈悲な破壊を齎した。

 

「……どうだ」

 

ミカは、動かない。

────その隙を逃さず、ルイは下がって、突撃剣を回収した。

 

────振り返る。

土煙の中、ミカは立っていた。

 

(まだ動けるのか……!?)

(痛ったいなあ、もう…!)

 

ルイはゆっくりと突撃剣を構え、ミカは足元に転がっていたサブマシンガンを拾い上げる。

 

(いくらミカといえど、限界が近いはずだ────あと1発、大きいダメージを与えれば……!)

 

(隕石に、打撃……射撃もいっぱい当たってる。今のルイちゃんは、動くだけでも苦しいはず……!!)

 

両者、満身創痍。

 

────睨み合う。

 

お互い血と砂塵塗れで硝煙を纏い、しかし笑みを浮かべ。

 

「決着を付けよう、ミカ……!!」

「うんっ☆そろそろ飽きてきたとこだから……」

 

          双方、深く構える。

 

「行くぞ、ミカ────"発射"ッ!!

「聴聞会での言い訳、考えといてね!!」

 

咆哮にも似た言葉がぶつかり合い、お互い動き出す。

 

ルイの全力。脚部装甲、ジップライン、突撃剣。

────そして、迫撃砲。その全動力を以って放たれる、超威力の物理エネルギー。

 

迎え撃つは、ミカの全力。

降り注ぐ隕石と弾丸に、その神秘を乗せた──銀河をも幻視せるような、圧倒的な神秘。

 

(全ては、この一撃のため────!)

(ルイちゃん。貴女のために……祈るね。)

 

"ギャルルルルルッッッッ!!!!ズドドドドォォン!!!!"

"ギュオオオオオ……ッッッ!!"

 

双方の全力が、激突する。

 

"ギュガアアアアアアアアアンッ!!!!!!"

 

 

周囲に爆音と衝撃波が響き渡り、反響の中────静寂が訪れた。

 

────がしゃん。

天より落ち、静寂を破ったのは圧倒的エネルギーに焼かれ、赤熱した突撃剣のシールド。

 

────砂埃が晴れる。

 

最後に立っていたのは──────ルイだった。

 

「ハハ、ハ……ミカ、私の勝ちだ……」

 

上辺だけとしか思えない空虚な笑い声を上げながら、

血塗れのルイは、ふらふらとミカに倒れ掛かる。

 

「フフ……ミカ……大人しくしてくれよ……」

 

ルイは朦朧としながらも、気絶しているミカの手足を拘束する。

勝利の感傷に浸る間もなく、ぽたぽたと何かが垂れ落ちる。

 

……自分の額から顎を伝い、ボタボタと垂れ落ちる血流に気付いた。

 

(……なにかが、刺さっているようだ……ここで抜くのはまずいか)

 

軽く触って、傷の具合を確かめる。

 

(出血は酷いが、致命的な傷ではない……輸血さえすれば、問題はないか)

 

わずかに残された力でミカを抱え上げ……ルイはその場を離れた。

 

 

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