昼:アビドス近郊/ルイのセーフハウス
「はあ……」
大きくため息を吐く。
医療設備を使ってある程度自分の状態を確認したが、
少なくとも最悪ではない。だが、良いとも言えない。
撃たれた傷は深くない。防弾服とアーマーで防いだのもあって、中度の打撲程度で済んでいる。
ミカの拳や隕石による全身打撲及や内出血は軽くはないが……
しばらく大人しくしていれば治るだろうし、鎮痛剤を服用すれば行動を阻害するほどではない。
問題は……額に突き刺さった隕石の破片。
鋭利に尖ったその破片は頭蓋骨を傷付けたり、貫通しているわけではない。
しかし、突き刺さった傷口がかなり広く……内部で広がるような形をしている。
除去できない訳ではないが、頭部の傷には大量の出血が伴う。
そもそも、傷の場所が悪い。
除去から処置まで、一人でどうにかできるような手術ではない。
……つまるところ、除去は諦めて一旦このまま放置する他ない。
止血処置と抗生剤、そして痛み止めが現状取れるベストだ。
先延ばしは癒着を生み、結果として未来の私が苦しむだろうが……私には"今"しかない。
───この程度の傷で、計画を諦める訳にはいかない。
そう結論付けた私は、とにかく処置を進める。
縫った傷口を消毒して、包帯を頭に巻き付け、突き刺さった破片を固定し……処置は完了した。
この破片をどうするかは、追々考えるとしよう。
(さて、ミカはどうしているか……)
処置を終えて一息ついた私は、ふとミカのことを思い出す。
……音がしない辺り、暴れている様子はない。
(ここまで大人しくしてくれるなら、拘束を緩めておいてもよかったか……)
そんなことを思いながら、ミカの居る監禁部屋へと戻る。
"ガチャ"とドアを開けると、ミカはベッドですやすやと眠っていた。
「……寝ていたのか」
音をたてないようにこっそりとベッドに近付き、ミカの手を取る。
そっと拘束を緩めると、その途端にミカは手足を大きく広げ……リラックスしたような体勢に変わった。
……流石に、拘束されたまま寝るのは寝苦しかったようだ。
一度起こそうかとも思ったが……ぐっすり眠っている所だ。起こすのも忍びない。
"処置は済んだ、起きたら呼んでくれ"
とだけ書いた手紙をテーブルに乗せて、部屋を後にする。
ミカが起きるまでしばらくかかりそうだ、その間、使った武器を整備しておこう。
そう考えて、武器整備室へと足を運ぶ。
壁に立てかけてあった突撃剣を観察して……小さく息を吐く。
(……突撃剣のシールドは完全に破壊されてしまったか)
────想起するは、決着の瞬間。
シールドでミカの射撃を防ぎながら、周囲から発射した砲弾で、迫る隕石を砕く事に成功していなければ……私は負けていただろう。
結局のところ、読みと運が噛み合っただけだ。
とはいえ、砕けた隕石の破片は額に突き刺さるし。
対空崎ヒナ用だった装甲板は鉄屑と化すしと……代償は少なくなかったが。
(新しい装甲板を仕入れに行こうにも……ここでブラックマーケットに出入りして不確定要素を増やすのは避けたい)
一応、戦車用の装甲板に換装する前に付けていた専用のバリスティックプレートが残っている。
不本意ながら、ゲヘナでの作戦中はこれを使う事になりそうだ。
防弾性と軽重量を両立した頑丈なシールドではあるが、戦車用のそれと比較すると耐久性は劣る。
……まあ、無いものねだりをしても仕方ない。
"はぁ"とため息を吐きながら、突撃剣のシールドを交換する。
以前に比べてずいぶん軽くなった剣は、すこし頼りない気がした。