正午前:ゲヘナ自治区郊外/ルイの拠点
────作戦、当日。
"ピピ"、という目覚ましの音で目が覚めた。
「…………すぅ、はぁ」
ソファからそっと身を起こし、水の入ったペットボトルを手に取る。
ボトルキャップをひねり、ぬるい水をこくこくと流し込めば……だんだんと目が覚めてきた。
ルーティーン通りに立ち上がって軽く体を伸ばせば、私の意識は完全に覚醒した。
(……ついに実行だ、最終確認をして出発しよう)
持ってきたケースから銃や武装を取り出し、アーマーや脚部装甲を着用する。
(……問題ない)
携行用の監視ドローンにバッテリーを込め、通信状況が万全であることを確認して鞄に戻す。
(携行品の準備、良し)
筋電式コントローラーを翼に装着し、ジップラインランチャーの操作を試す。
"ギュイン" "ギュイン"
「……良し」
諸々の準備を終えて防弾コートを羽織れば、出発準備が整った。
時計を見れば、時刻は午前11時。作戦エリアに着く頃はちょうど正午ごろだろう。
「……行くか」
全ての装備を背負い、私は拠点の外へと踏み出した。
正午:ゲヘナ自治区/作戦エリア
───時間通り、作戦エリアへ到着した。
フェーズ1 "風紀委員を誘い出す"。
不良との戦闘で風紀委員の目を引き、このエリアに誘い出す。
それが目的。そして今、私の目の前にある廃墟が不良グループの拠点だ。
双眼鏡越しに、敵の拠点を観察する。
元は4階建てのアパートだったのであろう廃墟はところどころ崩落しており、そこから中の様子が伺える。
ボロボロのマットレスの上に寝転がってスマホを弄っている者。
入り口付近で銃を構え、周辺を警戒している者。
何人かで集まり、ボードゲームで遊んでいる者達。
ここからざっと数えただけでも、10人は下らない人数がたむろしている。
(……悪いが、呼び水となって貰おう)
フードを深く被って、ゆっくりと廃墟に向けて歩いていく。
「…………」
ある程度接近すると、入り口付近に居た不良たちの一人がこちらに向かって近付いてくる。
「誰だ?……随分ゴッツい装備だね……」
「ここが虎穴組のシマだと知って────」
踏み込む。
"ダァンッ!!"
顔面を殴り飛ばす。
不良生徒は吹き飛び、背後に居た不良たちの足元に転がった。
「なッ……」
呆気にとられた不良たちを前に、羽織った防弾コートの前を開ける。
「────これより、ゲヘナ侵攻作戦を開始する」
誰にも聞こえないような小さい声で宣言し────背負った突撃剣を構えた。
「ごきげんよう!私は────"魔王"だ!!」
私に出せる最大の声量で宣言する。
(今から私は……"魔王"だ。折角の"仇名"、ありがたく使わせて貰おう)
「なンだァ……!?テメェ……!?ぶっ潰すぞォ!」
不良の一人が声を上げると、拠点内部からもわらわらと不良たちが現れた。
その中の一人が、驚いたように私を指差す。
「……こいつシャーレから手配されてる手配犯だ!!」
「マジ!?ヤバいじゃん!!」
「ハッハ!!魔王だってよ!!この中二病野郎を捕まえりゃあいい金になる!やっちまえ!!」
その言葉と共に、不良たちは一斉にこちらに銃を向ける。
"ズダダダダダダダダダ!!!!!!"
────瞬間、一斉射撃が始まった。
(……そう来るだろうな)
"ドシュッ!!"
突撃剣のシールドを展開したまま、廃墟の最上階へとジップラインで突っ込む。
「……は!?飛んで……うわあッ!!!」
"ギュルルルル────ガアンッ!!"
着地ついでに、屋上でこちらを狙っていた不良の一人を勢い任せに蹴り飛ばす。
蹴りが直撃した不良はそのまま勢いよく屋上を転がり……落下していった。
(……まずは一人)
屋上にはまだ数人の不良が残っている。
「屋上だ!!囲めえっ!!」
不良の一人が声を上げると。周囲の不良たちが私を囲いこむように展開を始めた。
(ただのごろつきと侮っていたが、なかなか油断できない相手だな……!!)
"ドン!" "ドォン!!"
"ガン!ガァン!"
側面から放たれた射撃を、シールドで遮る。
まさか防がれるとは思っていなかったようで、私を撃った不良は慌てて次弾の狙いを付ける。
「遅い」 "タァン!" 「うっ……!」
その隙を逃さず、ハンドガンで頭を撃ち抜く。
不良がどさりと地に伏せた瞬間、"カンカン"と力強く鉄を踏みつける音が響いた。
(──上か!)
音を見上げ、目に映るのは給水塔。
機銃に乗った不良と、視線が交差する。
「ッ!!」
「──死ねッ!」
"ズダダダダダダダダダ!!!"
12.7mmの鋼雨が降る。
"ダッ……ズザアッ!!"
……その直前。俯角の外に滑り込んで射線を切る。
「よそ見してんじゃねえッ!!」
"キンッ……!"
上を警戒する私に、別の場所に居た不良が手榴弾のピンを抜いた。
不良の手を離れた手榴弾は、私の足元に転がり────。
「遅い。」
"──バシュッ!!……ガチンッ!!"
不良の服を貫き、ジップラインが鉤を張る。
「な……ッ!??」
"ギュルルルル!!"
「ッうわぁぁぁっ!!」
「……捕まえたぞ」
こちらに引き摺られてきた不良の襟首を掴み、手榴弾に被せるように叩きつける。
「うぐッ!?…ぁっ、やめっ」
"──ドォォン!!!"
手榴弾が爆発し、ヘイローが消えた。
その時、背後で何かが動いた。
「────くたばりなァ!!」
"ダァン!"
「おっと」
背後からの射撃を躱し、強く踏み込む。
突進を回避しようと横に逸れた不良の首に、ラリアットの要領で腕をかける。
「ぐッ────?!」
喉首にかかった衝撃と遠心力で不良の重心を崩し──"ギュルッ……ゴンッ!!"
顔面を勢いよく地面に叩き付けた。
即座に受け身を取り、突撃剣を構え直す。
給水塔を見上げると、不良の一人が機銃のコッキングレバーをガチャリと引き、再装填を終わらせていた。
「……よくもやってくれたなァ!」
"ドドドドドドドドド!!!"
降り注ぐのは、固定機銃からの制圧射撃。
盾から伝わる衝撃を堪えながら、遮蔽物へと滑り込む。
(さて……)
"上だ!急げ!"
(下階の足音が近い。外に居た連中も集まったか……これなら、一網打尽にできる)
盾に隠れたまま、デバイスから地図を開いて座標を指定する。
「────"発射"」
ただ一言、呟いた。
"ボッ!" "ドォン!" "ポン!" "ドン!"
遠く四方から破裂音が響く。
────直後、ヒュウという風切り音が鳴る。
「……なんだ!?」
その場にいた不良たちは天を見上げる。
燦然と地を照らす太陽を覆い隠す、数多の黒影が降ってくる。
「逃げ────ッ!!」
"ドォン!ドン!バゴオオオオン!!!!"
幾度もの爆発が起こり、悲鳴をかき消していく。
爆音、地響き、巻き上がる土砂と粉塵。
そのドス黒い煙が晴れた時──不良グループの拠点だった廃墟は、完全に破壊されていた。
「……ふう」
瓦礫の山と化した廃墟に、ぱたぱたと砲弾で耕された土の雨が降る。
(……流石に全滅しただろう)
肩に着いた泥を払いながら、無残な姿になった廃墟を上空のドローン視点で確認すると、未だ立ち続けている不良たちもいる。
……土煙の中、混乱しているようだ。
(まあ、大多数は気絶したはずだ。後は自分で何とかするとしよう)
立ち込める土煙を切り裂き、廃墟の跡へ踏み込む。
────混乱する不良たちは烏合の衆同然で、一瞬で片が付いた。
「……終わったな」
(銃弾の消費はほぼ無し、使用した迫撃砲も4門で抑えた。位置を把握されていない砲の数はあと12……風紀委員を相手取るには十分だろう)
瓦礫に埋もれた不良たちを引きずり出し、スマホを奪う。
セキュリティをクラッキングし、ロックを解除する。
幸いなことに、ホーム画面にはSNSのアイコンがあった。
あとは"指名手配犯を見つけたと"SNSに私の写真を上げれば、トリニティが感知するはずだ。
(自分で撮る……のはわざとらしすぎるか)
「……」
周囲を見回し、比較的軽傷な不良を探す……居た。
「起きろ」
"ガンッ!" 「うぐゥッ!!」
「ごきげんよう」
文字通り叩き起こされた不良は、目を白黒させながら私と目を合わせた。
「えッ!?……ひッ!やめてくれっ!?」
パニックを起こしている、当然か。
「私の写真を撮れ、そうすれば助けてやる」
そう言ってカメラを起動したスマホを投げ渡す。
「はっ……はいッ……!!」
"ピピッ"
不良は慌てながらスマホを拾いあげ、震える指でシャッターを切った。
「感謝する」
スマホを奪い取り、撮影した画像を添付して "指名手配犯、天城ルイ、ゲヘナにて発見" と入力する。
(……投稿完了)
「……間もなく風紀委員会なり、救急医学部なりが来るだろう、それまで待つんだな」
「それと、私が写真を頼んだ件は、くれぐれも内密に……いいな?」
「……はいっ!!わかってます!!」
「よろしい」
"タァン!!"
震える不良にそれだけ伝えて、引き金を引いた。
「……ふう」
廃墟から少し離れたエリアにある補給ポイントに移動し、身を隠す。
(……フェーズ1は問題なく完了した、間もなく風紀委員の斥候部隊が来るだろう)
それまで、休憩と補給だ。
(戦闘内容に問題はない、予定通りに風紀委員会は動くだろう)
配置されたケースからハンドガンのマガジンを取り出し、交換する。
(先の戦闘では弾薬をほぼ使わなかった分、長く情報収集に時間を割ける……経過は良好)
空撮ドローンからの映像を確認しながら、用意していたコーヒーを注ぐ。
(まだ部隊は到着していないようだが……)
コーヒーを口元に運ぶと、先程奪ったスマホが"ぶるぶる"と振動した。
確認すると、先程の投稿に返信が付いていた。
"トリニティの正義実現委員会です。すぐ確保に向かいますので、現在地をお教えください"
……釣れたようだ。
先ほどの廃墟の座標を返信し、"救急隊も呼んでください"と添える。
すると、十秒も経たぬうちに返信が来た。
"わかりました、情報提供に感謝します"
「……」
携帯の電源を切る。
モニターに目を戻すと、風紀委員会のエンブレムが入った車両がこちらに接近してくるのが映った。
コーヒーを飲み干して、立ち上がる。
「……早かったな」
────フェーズ2、開始。