"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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強襲

12:30 ゲヘナ自治区/作戦エリア

 

 

"バシュッ!!" "バシュッ!────ザッ"

 

風紀委員のエンブレムが刻まれた車両の前に降り立つ。

小さなブレーキ音を立てて停止した車両のドアが開き、風紀委員が一人降りてきた。

 

「ごきげんよう、風紀委員の方」

 

先んじて仰々しくお辞儀をすると、相対した風紀委員は困惑したような様子で口を開いた。

 

「……こんにちは、あの、なんの御用でしょう、先を急ぐのですが……」

 

「ああ───万魔殿の議長に、少し用があってな」

 

そう言いながら、おもむろにフードを脱いで見せる。

私の顔を認識した風紀委員は、驚いたように目を見開いた。

 

「天城、ルイ……!!」

 

「……今は"魔王"と名乗っている。そう呼んでくれると嬉しいがね」

 

「……では、"魔王"さん。我々は先を急ぐので、今退くなら追いません。退いてください」

 

動揺しつつも、風紀委員は淡々と答えた。

その手は震えていて、抱えた銃の引き金は今にも引かれそうだ。

 

「ああ……あの騒ぎなら私の仕業だ。ここに来る途中で不良に絡まれてしまってね」

「つまり……君の目標は私だ。これで、急ぐ理由はないだろう?」

 

どこか嘲るように言葉を紡ぐと、風紀委員は胸の無線機を操作した。

 

「……そうですか。それなら……拘束します!」

 

風紀委員がそう叫ぶと同時に、車両から3人、追加で風紀委員たちが降りてくる。

 

「……私は万魔殿に連絡を取れればそれでいいんだが?」

 

「それ以前に、これは風紀委員の管轄ですので」

「そうか、残念だ」

 

私が突撃剣を構えると、風紀委員たちも銃を構えた。

 

「撃っ────」 "ガァン!!"

先手必勝。初手で突撃剣による殴打を受け、一人吹き飛ばされる。

勢いよく地面を転がった少女のヘイローは消え、風紀委員たちは固まる。

 

「……本当に、残念だ」

 

一瞬動きを止めた他の風紀委員達は、私と目が合うと時が動き出したかのように叫んだ。

 

「……ッ!撃て!撃てぇ!」

"ダン!ダァン!ダァン!"

 

秩序ない乱射。動揺が滲む射撃は、あまりに単調。

銃口を読んで射撃を躱し、

   "ザッ!!" "ダァン!ダダダダァン!"

   「ぐあっ!」「う゛ッ……!」

 

車両を飛び越えて裏の風紀委員をショットガンで撃ち下ろす。

頭を撃たれた二人は地に伏せ、動かなくなった。

 

(これで3人……残るは……)

「……うおおおおおっ!!」

 

車両の影から突如現れた風紀委員が、私に体当たりを仕掛けてくる。

私はその場を微動だにせず──彼女の全体重を乗せたタックルは、"ゴン"と鈍い音を響かせるだけに終わった。

 

「……それは不意打ちか体格の勝っている相手にやるものだ」

 

激突の反動で仰向けに倒れた少女に、呆れた声をかける。

彼女は痛みや恐怖、そして羞恥が混ざった表情を浮かべながら、私を睨む。

 

「まあなんだ……相手が悪かったな」

 

制圧は完了した。

意識のある者が残ったのも、幸運だ。

 

目の前で転がっている風紀委員を見下ろし、“さて"と話し始める。

 

「……お前を気絶させない理由は、わかるな?」

 

「……私達では、万魔殿に連絡なんてできませんよ」

 

「知っている。委員長でも誰でもいい、連絡が付けられる上役を呼べ」

 

「……委員長が来たらあなたは終わりです、後悔しますよ」

 

「お気遣い痛み入るが、時間が惜しい」

ショットガンの銃口を突き付ける。

 

「……ッ!」

 

風紀委員は諦めたように脱力し、無線を取り出した。

「先ほどの件、指名手配犯……天城ルイの手によるものでした、応援願います」

 

"了解"と返事が帰ってきて、ぶつりと無線が切れる。

「……感謝する」

     "ズダァン!!"

 

無線が終わったことを確認し……私は引き金を引いた。

後頭部を地面に叩きつけられた少女は、動かなくなった。

 

「……悪いな、こうする他ないんだ」

 

踵を返し、近くの補給ポイントに移動を始め──。

 

────瞬間。

      "タァァン!""ガァン!"

「……!!」

 

────狙撃。

盾を展開し、車両の裏に身を隠す。

 

……初弾を防御できたのは幸運だった。

おかげで、方向が予測できる。

 

方向はここから南西。銃声から着弾まで一瞬のズレがあった。

一般的な狙撃銃によるものだとして……音から判ずるに距離およそ7、800メートルほど。

 

マップを開いて、条件に該当する狙撃ポイントを洗う。

すると、ひとつの建物が浮かび上がった。

 

……南西740メートル先、廃ビル。

おそらく、狙撃手の位置はここだ。

 

マップから座標を指定して、高空に待機させた監視ドローンによる映像を呼び出す。

ビルの屋上をクロースアップすると────確かに、こちらを向いた人影が見える。

 

位置は確定。しかし……場所が高すぎて迫撃砲による排除は難しい。

 

榴弾砲ならば爆撃できるが……あれは切り札だ。

空崎ヒナや撤退時の為に温存しておきたい。

 

(ならば、直接排除に行くしかないか……)

 

あの高さなら、安易に撤退の選択肢は取れないだろう。

方針を決め、突撃剣のシールドを展開する。

 

"ガシャンッ!!"

 

(……行くか)

 

車両の裏から飛び出すと、"タァァン!!" "ギィン!!"

即座に銃弾が飛んできた。

 

(……!!)

 

盾で弾丸は防がれたが、着弾部位に弾痕とヒビが入っている。

かなり貫徹能力の高い弾を使っているようだ。

 

(……長くは持たない、早期決着を狙うしかなさそうだ)

 

飛行ルートを計算し、手前のビルへとジップラインを撃ち込む。

"バシュッ!" "バシュッ!"

"タァァン!" "ヒュンッ"

 

飛んでくる弾を交わし、変則軌道を描きながら高速でビルへと接近する。

 

射撃の頻度から推察するに、相手はボルトアクションライフル。

精度や狙いを付ける速さからして、恐らく相手は────

(……銀鏡イオリ!)

 

"ダァァン!""ガァン!"

 

「……チッ!」

 

直撃弾を盾で防ぐ。

 

"バシュッ!!" "バシュッ!!" "バシュッ!!"

"タァァン!!" "──ガンッ!!"

 

ジップラインをとにかく撃ち続け、不規則な軌道で飛行する。

可能な限り射線に入らないよう、目の回るような軌道を描く。

 

それを何度も何度も繰り返し……ビルまでおよそ300mという所まで接近した。

 

……ここで、敵の攻撃に変化が生じる。

これまでは着弾とコッキングのタイミングを読んで軌道を変えることで弾を避け。防いでいた。

 

しかしイオリ側もそれを読み、発射タイミングをずらし始めた。

三次元機動にも慣れてきたのか、明らかに精度が上がってきている。

 

(これ以上の被弾は盾が破損しかねん……極力被弾は避けたい)

 

だが……どうする。

 

長引かせると応援が到着して挟撃を受ける。

作戦立案段階でこの状況を想定していなかった私のミスだ。

 

(……今からでも榴弾砲での爆撃に切り替えるか?)

 

……いや、ここまで近付いたのならやれるはずだ。

 

盾を変形させ、剣として構える。

遮蔽から飛び出し、ジップラインを使ってビルへと飛行する。

 

"ダァン!" "ギィン!"

 

剣先を使い、飛来する弾丸を弾く。

風圧に抑される剣は、普段の倍以上に重い。

肩にかかる負担は凄まじく、筋繊維の悲鳴が聞こえてくるかのよう。

 

しかし……間もなく敵の俯角限界に入る。

懐に入ってしまえば、狙撃手に負ける道理はない。

 

直線的な軌道を描き、イオリの元へと突進する。

 

────200メートル。

廃墟を盾に、屋上を駆ける。

ビルはもう目の前だ。

 

"ドン!!" "ヒュン"

 

耳元で風切り音が鳴る。

 

(──外れた。今だ!!)

 

"バシュッ!" "バシュッ!!" "バシュッ!!!"

 

変則機動を止め、最短距離を突っ切る。

 

100メートル。

もはや仰ぎ見なければビルの全体が見えない。

 

"ドン!!" "──ゥン!!"

 

(──狙いが逸れた。確実に精度が落ちている)

 

50メートル──射程内。

 

"バシュン!!!────ガチン!!"

 

ビルにジップラインが突き刺さる。

 

"ギュルルルル!!────ダアンッッ!!"

 

全速力でビルに突っ込み、外壁に着地する。

ここまでくれば、こちらのものだ。

 

「今行くぞ、銀鏡イオリ……!!」

 

ビルの外壁にジップラインを撃ち込み、屋上へと駆け上がる。

 

背を追う重力を振り切り、屋上まであと半分といったところで、一瞬。

 

視界の端に影が映った。

 

(人影────)

 

"ドオンッ!!" "ブツッ"

 

「──クソッ!!」

 

外壁に刺したジップライン、その鉤を撃ち抜かれた。

支えの片方を失った私は、重力に引き込まれるまま地上へと落ちていく。

 

冷える背筋に、落下の暴風が吹き付ける。

 

──いや、まだだ……まだ残っている。

 

"バシュッ!!"

 

残った右腰のジップラインを撃ち込む。

狙うは────。

 

"ギュルルルルル────"

「ッらあッ!!」

"ガシャァァンッ!!"

 

"ガラガラガラ……!!"

 

「ぐっ…!」

窓を破ってビル内部に侵入した私は、勢いを殺し切れず床を転がった。

 

「はッ!はあッ……!危なかった……」

 

息を整えながら、次の一手を考える。

 

(……ここで時間をかければ逃げられる)

 

三次元機動に対応された以上、逃がす訳にはいかない。

仕切り直されてしまえば、次は負ける。

 

「……もう一度だ」

 

ジップラインの鉤を予備のものと交換して、深呼吸する。

割れた窓から見える空が、私を待っている。

 

"────ダッ!!"

 

強く踏み込み、空へ飛び出す。

私を迎える重力に抗うように、ジップラインの引き金を引いた。

 

"バシュッ!""バシュッ!""バシュッ!""バシュッ!"

 

(鉤を狙撃してくるのなら弾の軌道は予測できる。それを弾くしかない)

その時、再び影が現れた。

 

(……!!)

 

"──はぁッ!!」

 

"ドンッ!" "ギィン!!"

振るった剣先が弾丸を砕き、火花を散らす。

 

(……今だ!!)

 

"バシュッ!" "バシュッ!" "バシュッ!"

 

更に速度を上げ、壁を昇っていく。

 

(───もう少し……!!)

 

"ドンッ!!""ガキィン!!"

 

「────届いたッ!!」

 

最後の弾丸を防いで壁を登り切り、屋上へと着地した。

 

私を待ち受けるように立つイオリと、支線が交差する。

 

「……銀鏡イオリ、お前の負けだ」

 

突撃剣を構える。

この距離なら負ける理由はない。

 

「その台詞、そっくりそのままお前に返してやる!大人しくしろ!」

 

イオリはこちらを睨みつけて、ライフルを構える。

 

私はその様子に、"はあ"と大げさにため息を吐いて見せた。

 

「ハハ、勘違いしないでほしいんだが……私は万魔殿と話をしにきただけだ」

「ただ……些細な行き違いがあったせいで、銃を抜かざるを得なかったがね」

 

「移動中、不良が襲ってきてね。言い訳をするのなら……正当防衛というやつだ」

「そうしたら君達の仲間が来て、問答無用で撃たれてしまった」

 

「こちらにも事情があるゆえ、反撃せざるを得なかったんだ……それについては謝罪しよう」

 

「え……そうなのか?」

 

私が話し終わるとイオリは僅かに銃口を下げ、"きょとん"とした表情を浮かべる。

 

「ああ……そうだ……」

 

(まずい。"搦め手に弱い"とは噂に聞いたが……ここまでか、銀鏡イオリ。)

 

言葉を弄し、印象付けを図る予定が……まさか裏読みされずに表を取られるとは思わなかった。

余計なことを喋ってしまった。ここで問答無用でイオリを撃てば、行動に矛盾が生まれる。

 

(なんとかして、相手から引き金を引かせたいが……)

 

「まあ、そういうわけで……羽沼議長に連絡を取ってもらうことはできるか?」

 

「君もトリニティが目障りなんだろう?共に叩き潰そうじゃないか」

「人質の百合園セイアを盾にすれば、一方的に────」

 

"ドオンッ!!"

私のすぐ横を、弾丸が通り抜ける。

遅れてやってきた風圧が、私を安堵させた。

 

「…………残念だ、銀鏡イオリ」

 

……イオリがまともな人間でよかった。

この提案すらも肯定されていたら、頭を抱えるところだった。

 

さあ、後は彼女を倒すだけだ。

 

 「……クズめ、覚悟しろ!」

 

"ズドォンッ!!"

「おっと」

 

見えすいた狙いの初弾を躱し。コッキングの隙を狙って突撃剣で殴りかかる。

 

"ブォン!!"

横薙ぎに振るった突撃剣を、イオリは跳躍で交わし──。

 

「……見え見えだ!」

"ザッ……ガンッ!!"

 

イオリは躱した突撃剣に蹴りを入れ、その反動で後方へ跳躍する。

  「終わりだっ!!」

   "ダァン!!──ダァン!!──ダァン!!"

「な……ッ!?」

 

ボルトアクションライフルの空中三連射。

余りにも洗練されたその三射は、私を貫く……ことはなかった。

 

"バスッ!!" "ギィンッ!!" "ガィンッ!!"

 

頭部を守るシールドに一発。脚部装甲に二発命中した。

しかしその全てが装甲に防がれ、私に傷を与えるには至らない。

 

「ッ……受け取れ!」"ブオンッ──!!"

イオリの着地点めがけ、突撃剣を投げ付ける。

 

  「しまっ──う゛ッ!?」"ガシャッ、ズザアッ!!"

 

投げ付けた突撃剣がイオリの体に直撃し、後方へと吹き飛ばした。

 

 「く、そっ……!!」

 

ゴロゴロと地面を転がったイオリは取り落した銃を拾うため、私から視線を外した。

───外してしまった。

  "バシュッ!!"

 

「───私の勝ちだ」

    「しまッ……!」

    "タタタタタァン!!"

 「が……ッ!」

 

"────ドサッ"

 

ハンドガンの連射を受け、イオリは崩れ落ちた。

銃声の残響が響き、冷たいビル風が体を撫でる。

 

「……はぁ……疲れた」

 

色々な意味で、強敵だった。

乱戦になる前に彼女を撃破できたのは僥倖だ。

 

「……予想以上に、時間を使ってしまったな」

 

大きく深呼吸をして、呼吸を整える。

 

──予定では、爆撃で即座に終わらせるつもりだった。

強襲するにしても、まさか三次元機動に対応してくるとは思っていなかった。

 

……それにしても、あの空中三連射……ほぼ絶え間ない射撃の上、狙いも正確。

 

頭部狙いの射撃が盾に防がれたのを確認して、両脚を的確に狙ってきた。

脚部装甲を貫徹されていれば、私は負けていただろう。

 

銀鏡イオリ……恐ろしい狙撃手だ。

 

彼女を侮っていた自分の愚かさには辟易とする。

"浅慮、直情、実力不足"。彼女を貶めるそんな言葉に踊らされるなど。

 

"風紀委員長" 空崎ヒナばかり警戒し、他の風紀委員を侮っていた。

このタイムロスは大きい。おかげで……状況は少し厳しくなったようだ。

 

ビルの屋上から周辺を見下ろす。

 

「まずいな……」

 

西からは大きな土煙と共に急速に接近する蒼い影が。

北からは風紀委員会の応援と思われる車両部隊の接近が確認できる。

 

「──フェーズ2、終了」

 

そして────。

 

「フェーズ3、開始だ」

 

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