13:20:ゲヘナ自治区/作戦エリア
"────ゴンッッ!!"
地面に叩き付けられる。
「……が、ああ……ッッ!」
衝撃で飛びそうになる意識を、痛みが繋ぎ留める。
「……ぐうう……ッ」
歯を食いしばり、何とか立ちあがって……這いずるように近くの廃墟に身を隠す。
(まずい、まずい……ッッ!!早く処置を、しなければ……ッ!)
「……ッ!」
受け身を取るのに使った左腕は、先程ヒナに撃たれた傷もあって穴の開いた肉塊と化し、完全に使い物にならなくなっていた。
「腕が……!! いや、いや……今はいい……考えるな、まずは、治療を……」
意識を繋ぎ留めるため、目的を口に出す。
首にかけていた医療バッグをなんとか開き、数も数えないまま鎮痛剤を呷り、抗気絶薬を打ち込む。
「ッ……ハァ、ハァ……!!」
右手で胸をなぞる。
先程狙撃を受けた場所には深く弾頭が突き刺さり、未だどくどくと血が溢れ出していた。
「……チッ、深い……!」
場所が悪い。ここで安易に弾丸を取り除けば出血性ショックのリスクが高まる。
そう判断して、弾頭はそのままに消毒液だけかけ流し、傷口を圧迫して強引に塞ぐ。
ぎりぎりと凄まじい痛みが私を襲うが……それこそが私を現実へと縛り付けてくれている。
(帰る、帰るんだ。まだ終わってはいない……!!)
歯を食いしばり、胸部に包帯を強く巻き付けた。
「次……腕、腕だ……」
被弾部位の裂傷からは未だ鮮血が溢れ、打撲と骨折により赤紫に変色している。
これはもう……元には戻らないだろう。
「……とにかく、止血をしなければ……」
ボロボロの左腕に消炎効果のある軟膏やら消毒液やらを手あたり次第に塗りたくり、裂傷部位をステープラーでバチバチと留める。
そのまま包帯とマガジンを合わせて簡易的なギプスを作り、首から紐で掛けて……腕の処置を終わらせた。
「……はあ、はあ……」
痛みに噴き出る汗を拭いながら、感覚に集中する。
……幸い、ヒナとの戦闘で受けた傷は盾にした左腕とアーマーに守られた腹部に集中しており、
臓器の損傷や、致命的なダメージには至っていないように見える。
「落ち着け……今すぐに死ぬような怪我じゃあない……」
深呼吸を繰り返しながら、バッグに入っていた抗炎症薬やら胃薬やら抗生剤やらを片っ端から胃に押し込んでいると、外から"ブロロロ"とエンジン音が近付いて来た。
「……!!」
(……今見つかるとまずい、どうする……!!)
足元を見ると、濃い血の跡が外まで続いている。
見つかるのも時間の問題だろう。
────しかしどうする?
ショットガンと突撃剣は失った。
迫撃砲は全て破壊されただろう。
そして、ジップラインランチャーで逃げようにも狙撃が命中すれば今度こそ終わり。
残されたのは携帯デバイスとハンドガン、榴弾砲とこの右腕だけ。
デバイスを起動し、何とか状況を把握できないかと監視ドローンとの通信を試みるが……応答がない。
「……"コール"・"W・Y・S"・"セレクト"」
"ピピ"と言う音と共に画面が切り替わり、どの地点のドローンを使用するか選択する画面に移行した。
試しに現在地とは正反対の補給ポイントを選択すると、
設置ポイントからゆっくりと上昇するドローンのカメラに切り替わった。
────そこから15秒ほどすると、"ズダァン!"という音が鳴り、上昇中だったドローンの映像が落下を始め……途切れた。
「……対空監視網は完成されたか……!!」
いくら何でも早すぎる。
短時間でここまでの監視網を完成させることは並大抵ではできない。
こんな芸当を為し得る存在。
脳裏に浮かぶのは────"先生"ただ一人。
想定する限り、最悪の状況。
ただ一人敵地のど真ん中、包囲を受けている。
……それに、私を撃墜したあのスナイパー。
空中機動中の私を撃墜するなど、イオリに並ぶ精度だ……ただ者ではない。
私の墜落地点と関係ないエリアですら感知、撃墜されるのなら……ジップラインで高高度を維持し、無理やり突破するのも不可能。
「クソ……ッ!」
────殆ど詰みと言って良い状況。
"キュルッ"
外で小さなブレーキ音がした。
血痕が見つかったのだろう、足音が近付いてくる。
「……チッ」
足を引きずりながらも、音を立てないように二階に上がり……私は身を隠した。