"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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事前準備と日常回③

 

 

午後:トリニティ本校/正義実現委員会の会議室

 

 

"コン、コン"

扉をノックし、ゆっくりと押し開ける。

 

「……失礼する」

 

会議室に入ると、ハスミはすでに席に着いていて……机には、紅茶まで用意されていた。

 

「待たせてしまってすまない。……紅茶まで用意してくれたようで、恐れ入る」

 

謝意を伝えて、私も席に着く。

 

「構いませんよ。ほぼ時間通りですし……私もつい先ほど来たところですから」

「それより、紅茶はちょうど今淹れたものですので。冷めないうちにどうぞ」

 

にこりと微笑んでカップを差し出したハスミに小さく頭を下げ、カップを低く掲ぐ。

 

「では、ありがたくいただこう」

「……それで、議題は今日の演習の件でいいか?」

 

尋ねると、ハスミはこくりと頷きを返した。

 

「わかった。昨日確認した内容としては、"複数人のテロリストを相手取る" ことを想定した実践形式の訓練だったな」

「……それで、私は具体的には何をすればいい?」

 

その問いに答えるように、ハスミは"はい"と机から資料を取り出した。

 

「今回の訓練で、ルイさんは教官や監督ではなく……テロリストチームの指揮を執って頂きます」

「内容としては、"建物を占拠され、人質を取られた"。という状況を想定した中規模訓練ですね」

 

ハスミは軽く説明しつつ、資料を私に手渡した。

 

「ふむ……」

 

紅茶を楽しみつつ、受け取った資料に軽く目を通す。

アッサムのコク深い甘みと共に、大体の内容は飲み込めた。

 

「なるほど、寮での訓練か」

 

「はい。今回の目的は室内戦闘及び侵入、制圧の訓練ですので……実際の寮を使用します」

 

「……では、我々のチームは要人警護、あるいは室内での防衛訓練ということか」

 

私の言葉を首肯し、ハスミは続けた。

 

「はい。少人数で多数を相手取るのは厳しいでしょうが……ルイさんが参加するなら、ちょうどいい訓練になるかと」

 

「はは、確かにな……」

 

 

ハスミが今言ったように、私は"ちょうどいい"相手として訓練に参加することがある。

 

私個人に、ツルギやハスミのような突出した戦闘能力はない。

それどころか、一面的にはごく一般的な生徒にすら劣る可能性がある。

 

私の身体は……単純に、脆い。

ひとたび撃ち合いになれば数発の被弾で気絶するし……頭に当たろうものなら、当然卒倒する。

 

それを補うため、私はミネに教えを乞うて彼女の戦闘スタイルを受け継ぎ、SRTや百鬼夜行で使われている体術や格闘術を学び……各校で運用されている戦術を分析して、頭に叩き込んだ。

 

そういうわけで、私は "撃てば倒せるがそこそこ強く、作戦立案能力もある" 人間として、今回のように "倒されたら負け" の指揮官役や、実技教官として訓練にお呼ばれすることがそれなりに多いのだ。

 

 

 

「……よし。訓練内容は承知した」

 

読み終わった書類をぱたりと閉じて、ハスミの方に向き直る。

ここからは、内容を詰めていく時間だ。

 

「それで、こちらのチームの人数は何人ほどだ?」

「そちらの数は……実戦形式なら伏せておくべきか。聞かないでおこう」

 

メモを片手に尋ねると、ハスミは携帯を取り出して名簿を見せる。

そこには5名の生徒が記載されていた。

 

「そちらのチームは貴方を含めて6名に、人質役の人形が1体を予定しています」

「もちろん、作戦会議の時間もありますのでご安心を」

 

「わかった。それで……使用する装備の制約は?」

 

「建物内という性質上、グレネード以上の被害規模を持つ爆発物は使用禁止。銃火器の規模は分隊支援火器までです」

 

「使用する弾薬は合法の物なら基本問題ありませんが、あくまで訓練のため、ホローポイント*1やスラグ弾*2のように、傷が残る恐れのある弾薬は控えてください」

 

伝えられた内容を手帳にメモして、ぱたりと閉じた。

 

「ふむ……確認した。訓練の開始時間に変更はないな?」

 

「はい。予定通り、15:40分から開始の予定です。ブリーフィングはそれまでにお願いします」

「訓練の開始後は、どちらかのチームが全滅、あるいは一定時間の経過で終了とする予定ですが……質問や、提案はありますか?」

 

ハスミの問いに小さく首を振り、大丈夫だと示す。

 

「いや、問題ない」

「こちらも準備を進めておこう。……では、1時間後に現地で」

 

そう伝えて、椅子を立つ。

すると、ハスミはこくりと頷いて、小さく手を振った。

 

「では、また現地でお会いしましょう。」

 

「ああ、それと……紅茶、ご馳走様。美味しかったよ」

 

ハスミに小さく会釈をして、会議室を出る。

時計を確認すると、会議がスムーズに進んだおかげで思ったより時間が余っていた。

 

今から手紙を出してきたとしても、30分は時間がある。

……暇つぶしがてら、銃の整備をしておくとしよう。

 

 


 

 

それからしばらく。

使用する銃の整備を終えて、身体をほぐすついでとばかりに校舎をぶらりと歩いていると……窓の外で草むしりに励んでいるミカの姿が目に入った。

 

(…………ふむ)

 

腕時計を確認する限り、だいたい15分は余裕がある。

 

(……彼女達と友でいられる時間も、長くはないだろう)

 

未練がましいだろうが、残された時間は大切にしたい。

気付けば、私の脚はミカの元へと向けて歩き出していた。

 

 

「────こんにちは、ミカ。精が出るな」

 

後ろから声をかけると、ミカは"ばっ"と振り返って屈託のない笑顔を浮かべた。

 

「あっルイちゃん!……ふふん。見ての通り、ちゃんとボランティアやってるよ☆」

 

ミカは抜いたばかりの草を見せつけるようにして掲げて見せる。

彼女の腕力で根こそぎ引き抜かれたのであろう雑草たちは、まるで蜘蛛の巣のような根を哀れに垂らしていた。

 

ミカを園芸部に紹介すれば、彼女は一躍ヒーローとして称えられるだろうな。

とそんなことを考えながら、誇らしげな笑みを浮かべるミカへ笑みを返す。

 

「はは……先日のあれは、要らぬ心配だったようだ」

 

ミカの隣にしゃがみ込んで、予備であろう軍手を拾いあげる。

 

「次の予定まで、時間を持て余していてな」

「準備運動がてら手伝わせてくれ。軍手を借りても?」

 

「え~?別にいいけど……時間で決まってるから、手伝ってくれてもあんまり意味ないよ?」

 

満更でもなさそうな表情で返事をするミカに、"はは"と笑って、私は軍手を嵌めた。

 

「それでもいいさ。こういった作業は一人でやると飽きるだろう? 話し相手くらいにはならせてくれ」

 

「しょうがないなぁ……いいよ☆」

 

「ふふ……では、ありがたくご一緒しよう」

 

そうして、目に付いた雑草を引き抜きながら……話しかける。

 

「……ミカ、最近どうだ?」

 

「あはは、話し相手になる、って言いながら話すことがそれ?」

「お母さんじゃないんだから……ルイちゃんこそ、最近どうなの?」

 

問いを返され、苦笑を返す。

 

「ははは、それこそ昨日も話したからな……最近忙しくてね」

「守秘もあって特に話せることも少ないんだが……」

 

私の言葉に少し不満そうにむくれながら、ミカは更に尋ねた。

 

「じゃあさ、なにか面白い話でもない?」

 

「ふむ、面白い話か……」

 

ミカのリクエストに応えるため、何かないかと手元を見ると……ちょうど今引き抜いた雑草、猫じゃらしがあった。

 

「では……いま私達が引き抜いているこの雑草、もっぱら猫じゃらしと呼ばれる草だが……」

「正式な名前を"エノコログサ"と言ってな。その名前の由来は、犬の尻尾に見えるから"いぬころ草"、転じて"エノコログサ"なんだ」

「そして、別の言語では、"子狐の尾"とも呼ばれる」

 

「つまり、このエノコログサは猫に犬、そして狐……どこに行っても動物と関連付けられる」

「どこの人間も、皆考えることは同じ。ということだな。……どうだ、面白い話だろう?」

 

私が語り終えると、ミカは少し困ったような様子で"あはは"と苦笑した。

 

「たしかに面白いけど……ちょっと期待してた方向と違うかも☆」

 

……しまった、困らせてしまったようだ。

 

「ははは、確かに、面白い話というよりは、ただの雑学だったな」

「正直、今の私に面白い話をしろと言われても、短く済むのはこんなものだな……」

 

「そうだ、ミカは何かないか?」

 

逆に尋ねると、ミカは待ってましたとばかりに"ふふん"と笑った。

 

「え~? じゃあ……ナギちゃんが小さい頃の話したげよっか」

 

「……それは面白そうだ、是非聞かせてくれ」

 

「いいよ☆じゃあね──────」

 

 

私と違って、ミカは話が上手い。

楽しくミカの話を聞いている間に、すっかり時間は経っていた。

 

 

「────ね!ナギちゃんたら昔は結構おてんばで……」

 

「ふふ、今のナギサからは想像出来ないな……」

 

談笑していると、"ピピピ"と端末からアラームが鳴る。

……名残惜しいが、時間が来てしまった。

 

「おや……残念ながら時間のようだ」

「私はここで失礼しよう……楽しかったよ」

 

「え~?もう行っちゃうの?ま、用事ならしょうがないか……またね~☆」

 

「……ああ、また!」

 

大きく手を振るミカに、私も手を振り返す。

楽しく、穏やかな時間だった。

 

願わくば、もっと長く話していたかったが……。

 

(……この穏やかな時間を過ごせるのも、もう少しの間だけか)

 

「……はあ」

 

表出した後ろ暗い気持ちを振り切るように、私は小走りで訓練会場へと向かった。

 

 

*1
着弾後に炸裂することで体内に深い傷を負わせ、ターゲットの身体を破壊ないし行動を阻害する弾薬。

*2
主にショットガンで使われる弾薬。散弾ではなく巨大な鉛玉が一発のみ飛んでいく。その性質上、人体や動物に対して甚大なダメージを与える。

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