13:40:ゲヘナ自治区/作戦エリア・大通り
────全速力で大通りを走行する。
「……来たぞ!!」
道沿いから武装した風紀委員達が現れる。
それと同時に横道から複数の装甲車が飛び出し、道を封鎖する障壁を作り始めた。
「──ッ!」
"ギキイッ!!"
ブレーキを踏み、デバイスで迅速に目標を指定する。
「道を開けてもらおう……!!」"ピピッ!"
"────ドドドドドドガァン!!!!!!!!!"
十数秒後。音も無く飛来した榴弾の雨が装甲車の壁を薙ぎ払った。
飛散した石や土がフロントガラスに叩き付けられてバタバタと音を立てる。
「いいぞ……!」
今の内だ。
"ブオンッ!!"
アクセルを踏み、横転した車両の間を通り抜けて先を急ぐ。
地上部隊の総数はこんなものではないはずだ、今のは第一波に過ぎないだろう。
"再装填完了"とデバイスにポップアップが表示される。
良いだろう。
この調子なら、突破できるはずだ。
更にアクセルを踏み込む。
「……発射用意っ!!」
「───ッ!」
路地からロケットランチャーを向けている風紀委員が視界に映った。
"ギギイッッ!"
"ドシュウ!!────ドガアン!!"
爆音と共に、車が揺れる。
咄嗟にハンドルを切って回避したが、周囲には未だ複数の風紀委員が見える。
「チッ……!」
"ズドォン!!"
「う゛っ……!!」
拝借したライフルを窓から構え、ロケットランチャーを構えた風紀委員を射撃する。
狙い通りに命中し、風紀委員はこちらに向けていたロケットランチャーを取り落とした。
「クソッ、キツいな……!」
左手が使えない以上、反動をそのまま右手と体で受け止める事になる。
それでも、撃ち続ける他に選択肢はない。
"ズドォン!!" "ズドォン!!" "ズドォン!!"
ロケットランチャーを持った生徒だけを狙って倒し、アクセルを踏み直す。
"────ブオオオン!!"
「チッ、予定外の時間を食った……!」
とにかくアクセルを踏み込む。
この包囲網を抜ければそのまま離脱できる。
横目で地図を確認していると、視界の端にキラリと光るものがあった。
(────ッ!!)
"ギャリギャリッ────ズダァン!!"
フロントガラスを銃弾が貫通し、ヒビで視界が埋まる。
────咄嗟にハンドルを切ったのが功を奏し、運よく外れたようだ。
「……ふっ!」 "ガシャアン!!"
右手でフロントガラスを叩き割り、視界を確保する。
「……今日は助けられてばかりだな……!」
ハスミ程の狙撃手が易々と反射光を晒すはずがない。
背後に輝く太陽が、私に味方しているようだ。
一度車両をドリフトさせ、ハスミから射線を切る。
(ハスミの居た建造物は、この建物だ……)
デバイスを使用して建造物を指定し、榴弾砲による砲撃を要請する。
「先ほどの礼だ……受け取れ、ハスミ……!!」
誰にも届かないとわかっていて、声を上げる。
"ドォン……!!ドォォォォォォン……!"
遠くの建物から胸を打つような爆発音が何度も鳴り響く。
着弾から十数秒もすれば、ハスミの居る建物は爆撃によって抉られたように吹き飛ばされ、崩れ落ちた。
「はぁ、はあ……」
────正直、先程撃たれた胸の傷はかなり痛む。
鎮痛剤が効いている現状ですら、呼吸するたびに張り裂けそうな痛みなのだ。
それ無しでは今すぐに卒倒するかもしれない……と冗談抜きで言えるほどには。
……その礼だ、悪いが痛い目を見て貰おう。
再びハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
(あそこ以外ではここを狙撃できる場所は限られる、実質的に自分の位置が把握されている状況で狙撃はしてこないだろう)
ここを狙撃できそうなもう一つの建物に砲撃を要請し、破壊する。
ハスミがまだ動ける、あるいは他の狙撃手が居るとして……これでもう、狙撃する気は起きないはずだ。
──その後数度の襲撃をいなし、最後に待ち伏せが出来そうなポイントに差し掛かった。
「この先だ……」
ヒナは今の所、姿を見せていない。
私との戦闘で負った傷を治療中……なんて、甘い考えは出来ない。
恐らくヒナはほぼ無傷だ……──ここで確実に出てくる。
……出し惜しみは無しだ。
「"コール" "W・Y・S" "ライズ"」
補給ポイントに隠された全ての監視ドローンが起動し、監視ポイントまで上昇を始めた。
8つのカメラ映像が並列に表示され、地上を映す。
一つまた一つと撃墜され映像が途絶えていくが───残った最後の一機が、この先の検問所をカメラ内に捉えた。
(……検問所の屋根上に複数の風紀委員、装甲車に……機銃か)
そして、検問所手前の小さい建物の屋上に、空崎ヒナと思われる大きな羽を持った小さな人影が見えた───と同時にドローンが破壊されたのか、映像が途絶える。
「……いいぞ、運が良い」
映った兵器や車両の位置を指定し、1分後に砲撃を開始するように設定をして……車両を降りる。
ジップラインランチャー用の高圧ガスを交換し、爆撃に備える。
「……30秒」
ヒナを車両で振り切るのは不可能だ。
振りきる以前に、車両が破壊される。
「……20」
ジップラインランチャーの最高速度なら、的の小ささで抜けられる。
さしものヒナと言えど、爆撃の雨の中を高速で突っ切るターゲットを撃墜する事は出来ないだろう。
「……10」
これが最後の、最大のチャンスだ。
「……5」
目を瞑る。
「4」
深く息を吸い込む。
「3」
大きく息を吐きだす。
「2」
拳を握る。
「1」
目を開く。
「……0」
────覚悟を決めろ。
砲撃開始のカウントダウンを終え、"ピピピピピピ!!!"とアラートが鳴り響く。
同時に、ジップラインを発射する。
"バシュッ!!"
飛行する────過集中状態に入ったのか、視界が狭窄し、目の前がクリアに見える。
"────ヒュウ"
"ドドドドドドドドォォォォォンン!!"
着弾までのタイムラグは計算通り。
私が遮蔽物を越え、相手がこちらを認識する直前に爆撃が降り注いだ。
辺りは黒煙と火花、巻き上がった土砂と耳をつんざくような爆発音にまみれ、とても目を開けていられるような状況ではない。
"バシュッ!!" "バシュッ!!" "バシュッ!!"
とにかくジップラインを連射し、最高速度で黒煙の中を突っ切る。
足元では爆撃を想定していたであろう風紀委員たちが一斉に防御姿勢を取り、一部は機銃にしがみついたまま、道路側を向いている。
「一度使用されれば爆撃はしばらく来ない!!急ぎ防御を再構築しろ!!」
風紀委員たちは私が車で突っ込んでくると踏んでいるのか、未だに道路を固めている。
(いいぞ、このまま抜けろ……!!)
"バシュッ!!" "バシュッ!!" "バシュッ!!"
無心でジップラインを撃ち込んでいる間に、気付けばゲヘナ領を抜け……少し離れたヴァルキューレ管轄エリアに着いていた。
私の賭けは、どうやら私の勝利に終わったようだ。
「……はあ……」
安堵か、疲労か……深いため息を吐く。
「ここからセーフハウスまで、しばらくかかるな……」
アドレナリンが私の意識を支えているうちに、拠点に帰ってしまいたい。
(予備の車両がある近くの拠点までは暫くかかる、面倒だな……)
ゲヘナ領内に置いてきてしまった装甲車に思いを馳せながら、私は帰路に着く……はずだった。
「────動かないで」
私の背後から声がした。