夕方:トリニティ本校/ティーパーティのテラス
side:セイア
ゲヘナ側との会議を終え、端末の画面を消す。
すると、ナギサが心配そうに口を開いた。
「……セイアさん、大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。心配をかけてすまない」
罪悪感を飲み込みながら、ナギサの隣を離れて自分の椅子に戻った。
座り慣れた椅子に背を預けながら、私は思案を進める。
(……これから、ルイはどうするつもりなんだ?)
(報告を聞く限り、かなりの深手を負ったようだが……)
冷えてしまった紅茶を片手に、現状に思考を巡らせる。
ゲヘナ側の、ハスミの報告が確かなら……ルイはしばらく動けないはずだ。
あのルイなら大丈夫だろう。という信頼と不安が……ちょうど半分。
(…………)
……しかし、先日の事もある。やはり、心配だ────。
「───イ──ん?─セイアさん!!」
思案に耽る私を、ナギサの声が呼び戻した。
「うん……?ああ、すまない……考え事をしていた。どうかしたかい?」
聞き返すと、ナギサは僅かに目を泳がせて……意を決したように、私と視線を合わせた。
「……その、セイアさん。大変失礼な事を聞くかもしれません」
「……なんだい?」
「……私たちに、なにか……いえ、単刀直入に申しましょう」
「……ああ」
押し黙って、ナギサの言葉を待つ。
ナギサは"すぅ"と息を吸って、話し始めた。
「セイアさんの話を聞いていると、状況を私達とは違う視点から解釈しているように思えます……」
「……先程の会議で、それとなく主導権を握って協定の提案をしたでしょう?」
「ゲヘナ側に易々と協定を持ちかけるのは、失礼ながら、セイアさんらしくないというか……」
「その、なにか、私達に隠していることがあるのではありませんか……?」
彼女は不安を隠さず、どこか縋るように尋ねた。
「……………………」
呆気に取られる。
(しまった。気取られないように振る舞っているつもりだったが……)
「……セイアさん、何か……知っているんですね?」
沈黙した私に、ナギサは悲しそうに目を伏せながら言った。
「…………ナギサ……」
たっぷりと考え、言葉を絞り出す。
ナギサは私の思考を邪魔しないよう、静かに見守っている。
(仕方ないか……)
「……ああ、確かに、君たちには秘密にしていた事がある」
「というよりは……言えない、と言うべきだろうね」
そう言葉を濁して、続く言葉を練る。
「……知れば、危険が降り掛かる」
「故に、安易には口にできないんだ。……お互いのためにね」
「だが、それでも……私は君たちの敵ではないと、誓わせてくれ」
「……すまない」
「そう、なんですね……」
ナギサは搾り出すように答え、沈黙した。
翼を下げ、肩を落とした失意隠せぬその様子に、ずきりと胸が痛む。
「……ただ、話せる事だけを言うのなら」
「ルイが私たちの敵となってしまったことは間違いない」
「可能な限り早く彼女を止めて、安穏たる日常を取り戻す必要がある」
「だが……私達は脅威を退けるだけでなく、その真実を理解せねばならない」
「……ルイがああなってしまった、その理由と真実をね」
そう言い切って、答えを待つ。
ナギサは瞑目して思考を巡らせ……しばらくして。
吐息と共に、その目を開いた。
「……わかりました、セイアさん。……貴方を信じます」
ナギサは言い終えてと、もう一度私に向き直る。
「……時が来たら、あなたの知る全てを教えてください」
「私たちは、協力し、信じる事の大切さを知っているはずです」
「……ああ、わかっているさ」
「……信じていますよ」
ただ頷きを返した私に、ナギサは悲しげにそう言って、そっと席を立った。
「……それでは、正義実現委員会との会議がありますので、私はここで」
その言葉と共に、ナギサはテラスを後にする。
(……すまない)
テラスに1人残された私は、内心の言葉を吐き出せる訳もなく、無言でナギサの背を見送ることしかできなかった。