早朝:ヴァルキューレ管轄区/ルイの拠点
「────っぐ……うっ!」
激痛で目が覚める。
「はあ……はぁ……ああ、そうか……」
起き上がる。
熱を持った体はずくん、ずくんと疼いて、血管の一本一本に至るまでが高まった血圧に悲鳴を上げているかのよう。
痛苦に苛まれる身体を無理やりに動かして、拠点内に用意していた保存食……缶詰を取り出す。
「………………」
スチールに包まれた缶詰と向き合って数秒。
動かない左腕にずきりと痛みが走る。
"────タァン!!"
「……不便だな」
銃弾に上面を吹き飛ばされた缶詰をゴミ箱に投げ入れ、ポーチから薬を取り出す。
……抗生物質、抗炎症剤、鎮痛薬に胃腸薬、栄養補助サプリまで。
手の上に山を作った薬剤たちを、次々に胃に押し込んでいく。
「……はあ」
ペットボトルの中身を飲み干したところで、時計へと目を遣る。
日付は変わり、午前3時過ぎ。陽が出るまでに出発してしまいたい時刻だ。
(正直、鎮痛剤が効くまで動きたくないが……仕方ない)
行きと比べてずいぶん軽くなった荷物を持ち、ガレージに隠してあったバイクに跨る。
「……よいしょ、と」
重心の感覚を掴みながら、肘でアクセルを捻り、クラッチレバーを握る。
すると、エンジンが唸りを上げた。
「……よし」
転倒しないように気を付けつつ、私はアクセルを捻った。
────30分後。
動き出したバイクを片手で運転するのはなかなか難しかったが、とはいえ慣れてしまえば何とかなるものだ。
(……さて、これからどうしたものか)
ヘッドライトのみが夜闇を照らす荒野を走りながら、思考する。
一応の目的は達成した。
しかし、被った損害を考えると間違っても手放しで喜べる成果ではない。
……当然、これから私に対する追跡はより厳しくなるだろう。
つまり、ブラックマーケットを利用するのも望ましくない。
(……武器は失った、兵器の在庫もそう多くはない)
ショットガンは予備があるからいいとして……問題は突撃剣だ。
一応、破壊された突撃剣の設計図は私が持っている。
作ろうと思えばもう一本作れるが……設備が無い上に、片腕では自分で作るにも限界がある。
(そもそも、左腕をどうするかだな……)
正直、もう使い物にならないと言って良いだろう。
ヒナの弾幕の盾となり、高所からの落下の際に下敷きになった。
……そして、時間も経ってしまった。
長年連れ添った身体だ、感覚で理解できる───これはもう無理だ。
万が一治癒するとしても、私の力では不可能だろう。
(義手でも用意できるのなら、さっさと切り落としてしまうんだが……)
壊死が始まる前に始末を付ける必要がある。決断は急ぐべきだ。
そう考えた所で……ふと思い当たる。
……エンジニア部、あそこを頼るのも悪くないかもしれない。
彼女達をこれ以上巻き込みたくはないが……状況が状況だ。
藁をも掴む、と言うのも悪くはないだろう。
彼女達と連絡が取れるのならば、事情を話してみるのも悪くないかもしれない。
……幸いなことに、ヒマリとの作戦で使用した専用の回線がある。
彼女との連絡は問題なく取れるだろうし、ヒマリなら逆探知をかけて即座に私を窮地に叩き込むようなこともしないだろう。
(……とはいえまずは、帰ってからだな)
セーフハウスに着くにはまだまだ時間がかかる。
朝焼けのなか、私は一人考えるのであった。