"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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切断

昼:アビドス砂漠/ルイのセーフハウス

 

「…………」

 

捜索の目を逃れるために迂回したせいで、帰るまでに随分時間がかかってしまった。

バイクをガレージに隠しながら、拠点周囲の状況を伺う。

 

(幸い……ミカは大人しくしていてくれたようだ)

 

未だ変わらない様子の拠点を前に、安堵の息を吐く。

 

そのまま片手でパネルを操作して、地下室への扉を開く。

内部を見回しても特に異常はなく、懸念のひとつは消えていった。

 

(変わりない……ならとりあえずは、傷の処置からだな)

 

脚部装甲をなんとか外し、ガタンと音を立てて倒れた装甲に目もくれず、医療設備のある部屋に直行する。

 

「ルイちゃーーーーん!?おかえり~~!!!」

 

(……流石に気付かれるか)

 

先の物音のせいか、私の帰還に気付いたミカの声が聞こえてくる。

 

(……今の姿を見られるのはマズい、確実に面倒なことになる)

 

「……すまない!! 今は忙しいから……後にしてくれ!!」

 

無理して上げた大声が喉を震わせ、頭痛を引き起こす。

 

「……ねえ、声がヘンだけど大丈夫!?」

「ここ開けて!! ねえっ!! ルイちゃん!!」

 

扉越しに、ミカの声が響く。

彼女の透き通った声は、今の私にとってはノイズでしかなかった。

 

「……黙ってくれ!!」

「今は……手が離せないんだ!!」

 

自分の物とは思えない、怒号にも似た言葉が部屋に轟き……ぞわりと体を寒気が走った。

ミカの答えは返ってこない。私の望んだとおり、ただ悲痛な静寂のみが場を支配していた。

 

「…………」

 

ずきりとした痛みが胸を裂く。だが、自責に使う時間など無かった。

 

キンキンと痛む頭痛を抑え込んで、私はよろよろとベッドへと歩み寄る。

 

「……はあ……っ」

 

装備を固定するパーツに指をかけ、服を脱いでいく。

いつもなら1分もかからずに脱ぎ捨てられる服を全て脱ぎ去るのに、何倍もの時間を要した。

 

そうして裸になった私は、ベッドに横になり……天井に備え付けられた鏡を使って自身の状態を確認する。

 

(────銃創が複数、打撲多数に……)

 

……悪くはない、全体的に打撲や傷、疲労や衝撃からくるむくみや腫れはあるものの……放っておけば治る、そこは大きな問題ではない。

 

(……次だ)

 

────ゆっくりと、胸に巻いた包帯を外す。

 

突き刺さった弾頭は未だ残り、傷も大きいが……私なら問題なく摘出、縫合等の適切な処置ができる。

見た目ほどは深刻ではない。

 

(……次)

 

問題は左腕だ。

 

ゆっくりと簡易ギプスを外すと、左腕は私の意思に反して、だらりと垂れ下がった。

 

(…………)

 

ぺりぺりと体液の染みた包帯を剥がすと、左腕は最後に見た状態から更に悪化しており、二の腕の半ばまでほぼ紫色に変色していた。

 

ステープラーで無理やり止めた傷跡は乾いた血で真っ黒に染まり、触るとひやりと冷たくなっている。

 

(────覚悟はしていたが、やはりか)

 

血流は完全に途絶えている。

不可逆的なダメージを受けていることは、明らかだった。

 

……再建手術に必要な設備も人員もここにはない。

これ以上放置すれば壊死が進行し、全身がやられる。

 

長く世話になったこの左腕とも、別れの時がやってきた……ということだろう。

 

「…………はぁ」

 

諦観が募り、ため息を一つ吐いた。

 

(……切り落とすしかない。急ぎ、処置の準備をしなければ)

 

止血帯を左腕の上部にきつく巻き付け、べたべたと経皮麻酔剤を塗る。

 

キヴォトス外の人間に対して、我々の体はかなり頑丈だ……その中でも、とりわけ内部は頑強。

しかしそれ故に、こういった"処理"を行う場合は……メスやハサミのような、シンプルな刃物とは違った特殊な機材が必要になる。

 

むくりと起き上がって、ありったけの包帯とガーゼを部屋から持ち出した。

 

重い足取りで、部屋を移動する。

一歩、また一歩。進むたびに、視界が揺れる。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

壁に手を着きながら、なんとか辿り着いたのは……"工作室"。

 

電気のスイッチを押すと、寒色の光が無骨な機械達を照らし出す。

 

その中のひとつ……油圧プレスのスライドを剪断用の物に取り換えて、機材と周りの床にカバーを敷いた。

 

「………………」

 

使い道としては間違っているが、こうでもしないと切断できない。

他の傷の処置を進めながら、左腕の血が止まるのを待つことにした。

 


 

……止血帯をしてから、そろそろ30分が経つ。

もう、充分だろう。

 

「…………」

 

マウスピース代わりに布を嚙み締め、深呼吸を繰り返す。

 

プレス機の台座に腕を乗せ、制御盤を操作すると……駆動音とアラートと共に、スライドが降り始めた。

 

(………………!)

 

「ッ……ぐっ……!」

 

覚悟を決め、目を瞑って歯を食いしばる。

 

骨から伝わる、"ミシミシ"という嫌な振動とは裏腹に、痛みは殆ど無い。

……麻酔が効いているようだ。

 

それから、数秒ほどして。

"ごとり"という音と共に、プレス機が停止した。

 

そっと目を開くと、床に転がる私の腕と、部屋に飛び散った少量の血が目に入る。

 

(────終わったか)

 

そっと台座から腕を外し、ガーゼを断面に押し付け、包帯で巻き付ける。

血が垂れないように傷口を保護し、私は医療設備のある部屋に戻った。

 

 


 

 

────用意しておいた道具を使い、血管を閉じて代用皮膚を切断面に縫い付け、出血を抑える。

止血帯を少しだけ緩めると、当然ながら血が溢れ出てくるが……じきに止まる。

 

そのまま肩まで覆うように包帯を固く巻き付け、滲出液や血液を排出するための管を差し込み……切断処置は終了した。

 

「…………少なくとも、しばらくは動けなさそうだ」

 

痕が塞がったように見えても、内部は変わらず傷付いている。

しばらくは身動きが取れないだろう。

 

点滴スタンドを引っ張り出し、輸血パックを下げて輸血用の管を右手首に刺す。

 

これで、一通り処置は終わった。

 

"ふう"、と息を吐き出すと……くらりと視界が揺れる。

 

極度の疲労が眠気となって押し寄せてきたのだろう。

抗いがたい眩暈と脱力感が、私を襲う。

 

(……ミカには悪いが、かなり疲れた……諸々の話は、起きてからにしよう)

 

揺れる意識のまま、ベッドに横になって目を閉じると……私の意識は即座に闇へと沈んでいった。

 

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