ミレニアム/???
特殊な信号を使って伝えられた連絡を受け、明星ヒマリは思案に耽る。
覚えのあるパターンで送られてきた信号を解読すると、
"取引がしたい"という数文字と、電子署名が復元された。
……そこに記された名前。
ヒマリはその名を知っている。
ここ数日、その名を聞かなかった日はない。
現状、ゲヘナ・トリニティ・シャーレ・ヴァルキューレの連名で指名手配を受けている、
世界的なテロリストであり……愛しい友人。天城ルイからの信号だった。
「困りましたね……この件に介入する気は無かったのですが……」
「まあ、あちら側から求めてくるというのなら、仕方ありませんね……?」
ヒマリはそうひとりごちて、眼前のモニター群から手元のホログラフに目を移す。
すると、背後で"ガチャリ"と金属音がなった。
「……部長、何してるの?」
ノックもせず入室してきたエイミは、ぱたぱたと手で体を扇ぎながら尋ねた。
「そうですね……ある知人が、急に連絡を取ってきたのです」
ヒマリがそう答えると、エイミは"ふうん"と相槌を返す。
「部長の知り合いかぁ……なら、あんまりマトモそうじゃないね」
エイミの言葉に、ヒマリは"ふふ"と笑った。
「この天才病弱美少女ハッカーに向かって失礼な……と言いたいところですが……」
「実際、少し困った方ではあります。それでも、会ってみるだけの価値はあるでしょう」
「そう……で、何をすればいいの?」
匂わせるようなヒマリの言葉に対し、エイミは興味薄そうに聞き返す。
すると、ヒマリは"待ってました"とばかりに頷いて、口を開いた。
「ええ。明日の12時から14時までの間、指定のミレニアム地下入り口周辺からここに至るまでの警備の妨害……そして、今から渡すカードのセキュリティ権限を一時的に復活させてほしいのです」
「……おっけー、部長は?」
「私はここに座って、監視カメラやセキュリティを妨害しようかと……この"全知"の名を戴く明星ヒマリにとっては、片手でも事足りるような事ですが……」
再び始まったヒマリの口上に、エイミは "はあ"とため息をついた。
「……で、結局誰がくるの?無駄に勿体ぶるのは好きじゃないよ」
「風情がないですね……会ってみればわかりますよ」
「貴方は指定した時間に彼女と現地で落ち合う事になっていますので……お願いしますね?」
「……わかった、じゃあ……明日ね」
有無を言わせない様子で告げたヒマリに対して、エイミは呆れたように返答する。
ヒマリが差し出したセキュリティ管理用のカードを受け取ると、そこには"外交官用"とだけ書かれていた。
(うわ……また面倒ごとが増えるんだろうなあ……)
エイミは内心で呟きながら、渡されたカードを懐にしまった。
夜:アビドス近郊/ルイのセーフハウス
「……ヒマリなら、話くらいは聞いてくれるだろう」
ヒマリ宛に信号を送信した私は、交渉材料を纏めたファイルをバックパックに詰めていた。
……ここから持ち出せる荷物は多くない。
必要最低限の物資と医療品は用意した。
あとは、ヒマリの協力を得られるかどうか。
(……一応、容姿もある程度変えておくほうがいいか)
付け焼刃程度に容姿を変えるメリットは薄いが、一見を誤魔化せるだけでも効果はある。
人の目の多いエリアを通るなら尚のことだ。
……私の髪色は少々悪目立ちするだろう。
ミレニアムに合わせるのなら……黒だな。
黒ならば多少の色落ちも問題ない。
そう結論付け、私は髪と翼を黒く染めることに決め、準備を進めるのだった。