ミレニアム/???
特殊な信号を使って伝えられた短い連絡を受けて、明星ヒマリは思案していた。
覚えのあるパターンで唐突に送られてきた信号を解読すると、"取引がしたい"という数文字と、"A.LUI"という電子署名が現れた。
……私はその名を知っている。
ここ数日、その名を聞かなかった日は無い。
現状、ゲヘナ・トリニティ・シャーレ・ヴァルキューレの連名で指名手配を受けている、キヴォトスにおいても最悪クラスのテロリストであり……私の友人。天城ルイからの信号だった。
「困りましたね……この件に介入する気は無かったんですが……」
「まあ、あちら側から来るのなら、仕方ありませんね……」
ヒマリはモニター群から目を落とし、手元のホログラフに目を移す。
"ガチャ……"
「部長、何してるの?」
「そうですね……ある知人が、急に連絡を取ってきたのです」
入室してきたエイミに返答する。
「ふうん、部長の知り合い……ならあんまりマトモそうじゃないね」
「この天才病弱美少女ハッカーに向かって失礼な……と言いたいところですが……実際、少し困った方ではあります……ですが、会ってみるだけの価値はあるでしょう」
「そう……で、何をすればいいの?」
匂わせるようなヒマリの言葉に対し、エイミは興味薄そうに問いかけた。
「ええ、明日の12時から14時までの間、指定のミレニアム地下入り口周辺からここに至るまでの警備の妨害……そして、今から渡すカードのセキュリティ権限を一時的に復活させてほしいのです」
「……わかったよ、部長は?」
「私はここに座って、監視カメラやセキュリティを妨害しようかと……この"全知"の名を戴く明星ヒマリにとっては、片手でも事足りるような事ですが……」
「そう……ある人物って?無駄に勿体ぶるのは好きじゃないよ」
「風情がないですね……会ってみればわかりますよ。貴方は指定した時間に彼女と現地で落ち合う事になっています……お願いしますね?」
「……わかった、じゃあ……明日ね」
有無を言わせない様子で告げたヒマリに対して、エイミは呆れたように返答する。
ヒマリが差し出したセキュリティ管理用のカードを受け取ると、そこには"外交官用"とだけ書かれていた。
(うわ……また面倒ごとが増えるんだろうなあ……)
エイミはそう内心でため息を吐きながら、渡されたカードを懐にしまった。
夜:アビドス近郊/ルイのセーフハウス
「……ヒマリなら、話くらいは聞いてくれるだろう」
共に調査をした際に使用した暗号化パターンでヒマリ宛に信号を送信し終わった私は、交渉材料を纏めたファイルをバックパックに詰めていた。
ここから持ち出せる荷物は多くない、必要最低限の物資と医療品は用意した。
(……容姿もある程度変える必要があるか)
付け焼刃程度に容姿を変えるメリットは薄いが、一見を誤魔化せるだけでもかなり効果はある。
それが人の目の多いエリア内なら尚の事だ。
私の髪色は少々悪目立ちするだろう。
ミレニアムに合わせるのなら……黒だ。
黒ならば多少の色落ちも問題ない。
そう結論付け、私は髪と翼を黒く染める事にした。
……姿見で自分の姿を確認する。
「……問題ないな。黒い翼は目立つが……黒い翼を持つ生徒は少なくない……元のままよりはマシだろう」
色が定着するまでの間に、食事やその他の準備を済ませた。
「……明日は早い、早めに寝ておこう」
ミカより早く発ち、ミレニアムに昼までに到着しなければいけない以上……睡眠時間は長めに取っておく必要がある。
まだ日が沈み始めた頃だが、私は一足早くベッドに横になった。