"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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追憶

 

……仮眠室で眠っているルイさんの姿をカメラで確認して、少しだけ安心した。

 

(……あんなに追い詰められている彼女を見るのは、初めてです)

 

"黙示録"。

 

……たかが書の一節。

そう言ってしまうのは、無粋でしょうか。

 

トリニティのデータベースをハッキングして手に入れた"聖典"の内容を読み終えた感想は、そんな味気ないものだった。

 

遥か昔に書かれた、終末の予言。

 

私が読んだところで特に何か思い当たる事がある訳でも無く……"神"なる存在を畏怖させ、人々を導くために作られたのだろうと読んでしまった。

 

"聖典"のデータを閉じ、再度思考する。

 

(ルイの目的は、あくまで破滅への対抗。黙示録は本質ではないのかもしれませんね……)

 

しかし、彼女が黙示録を恐れているのは真実だろう。

今日の話に、嘘を吐いている様子はなかった。

 

……彼女は間違いなく,本心から私を頼っていた。

 

私に半端な嘘は通用しない。

嘘を吐いて、わざわざ無駄なリスクを負う理由は彼女にないだろう。

 

なら……私は彼女を助けてあげたい。

 

彼女は大切な友人を護るために、あそこまで追い詰められている。

 

今の彼女を一人にしておくべきではない、誰かが傍に居ないと、彼女は苦難の道をどこまででも突き進んでしまうだろう。

 

……自らが破滅すると、理解しながら。

 


 

 

彼女と初めて会ったのは数か月前。

 

異常な行動をし、不明な技術で作られた機械群が徘徊しているという情報を追って、放棄された立ち入り禁止区画の調査をしていた時に……彼女は現れた。

 

『……誰だ?』

 

私の操作するドローンを認識するや否や銃撃してきた彼女に対して、ドローン越しに対話を試みると……彼女は大人しく対話に応じた。

 

『……なるほど、異常機械群か……目的は同じのようだ』

 

"異常な機械群"の調査に来た、と伝えると、彼女は惜しむことなく自分の持っていた情報を渡してきた。

 

『私の名前は"天城ルイ"」

 

「トリニティの二年生で……現在はミレニアムの外交官として駐在している」

「ここに居るのは、ミレニアム内で噂になっていた"存在しない技術を使って作られた巨大な兵器"、その独自調査だ……恐らく目的は同じ。君が良いのなら、共に調査しないか?』

 

不法侵入をしているというのに、彼女は名前と立場、目的を隠す必要もないとばかりに開示し、共に調査しようと持ち掛けてきた。

 

……本来なら、断るべきだったのだろう。

 

そうしなかったのは、彼女が渡してきた情報の中にヘイローを持つ"多脚戦車"の映像が含まれていて、彼女の発言に一切の嘘が無かったから。

 

見せられた外交官のカードは本物で、ミレニアムのデータベースには確かに彼女の名前があった。

 

彼女は信頼に値する、そう裏付けるには十二分だった。

 

エイミの代わり、と言うのは失礼だが……ドローンだけでは調査できる範囲に限界があり、現地に居る彼女は都合がよかった。

 

『……君を何と呼べばいい?』

 

協力の申し出を受けた私に、彼女は呼び名を尋ねてきた。

 

"全知の名を冠する、ミレニアムに咲く清廉なる一凛の花……明星ヒマリ"と呼んでください、と言うと、ルイは不意を突かれたように笑った。

 

『ふふ。"全知"の明星ヒマリか。話は聞いている……協力できて光栄だ』

 

彼女はミレニアムの内情にも明るく、聞けば外交官の傍らエンジニア部と共に発明をしたりしているのだと言う。

 

……面白い人だと思った。

 

調査を進めながら、彼女との会話に花を咲かせる。

 

彼女との会話は長く付き合った友人と話しているように話しやすく、心地よいものだった。

 

────そして時間は矢のように過ぎ去り、解散する頃には私と彼女はすっかり仲良くなっていた。

 

最後に彼女と別れるのが名残惜しくなった私は、彼女に部室の場所を教える事にした。

 

『……わかった、私も君とこれきりというのは寂しいと思っていた……近いうち、必ず行く』

 

……そうして、私は彼女と別れた。

これが、天城ルイとの出会い。

 

それから何度も行動を共にし、すぐにエイミとも仲良くなったルイさんは、特異現象捜査部にとって大切な仲間になっていった。

 

気付けば彼女が居るのが当たり前だと思うようになり、このままこの関係が続くものだと思っていた。

 

……"エデン条約事件"、あの事件が起こるまでは。

 

"大聖堂にミサイルが撃ち込まれた"と速報が流れたあの日、全てが変わった。

 

ルイは何も言わずにミレニアムから姿を消し、私達には数日後に送られてきた退任の通知書だけが残った。

 

……彼女はトリニティでの事をたまに話してくれる。

その話からは"友人"に対する深い友愛を伺わせ、彼女の優しさを感じさせた。

 

……きっと、心配だったのだろう。

 

彼女と再び連絡が取れたのはそれから暫くしてからだった。

 

送った手紙の返信には、何も言わず出て行ったことに対する謝罪と、外交官に戻ることはもうないだろう、という事が書いてあった。

 

何とかして彼女をミレニアムに引き戻せないか、とも画策したが……彼女はそれを望まないだろうと思って、やめた。

 

それでもと続けた手紙のやり取りは、私の楽しみになっていた。

 

そして、つい数週間前に届いた手紙の返信には"近いうちに休暇を取ってミレニアムに遊びに行く"と書いてあり……"君にまた会えるのを楽しみにしている"という一文には、心が躍った。

 

────その直後、彼女はトリニティから離反した。

 

彼女がトリニティを……友人を裏切る訳がない。

何かの間違いか、ルイさんの事だから他に目的があるのだろうと思って、静観していた。

 

……そして、次に私の目の前に現れた彼女は一目では誰かわからないほどにボロボロな姿で、腕を失っていた。

 

────あの時、彼女をミレニアムに引き戻すべきだった。

深い後悔を感じながらルイの話を聞くと、彼女は酷く追い詰められた様子で、しかしそれを感じさせないほど冷静に私を頼る彼女は直視に堪えず……正気だとは思えなかった。

 

死すら厭わない、と語ったルイを後ろで見ていたエイミの表情は、今まで見たなかでも恐ろしいものだった。

 

拘束され、仮眠室で目覚めたルイに、何度も"無謀な計画は止めて、私と共に特異現象捜査部として活動してくれ"と言ったが……彼女は揺らがず、首を振り続けた。

 

情けなく抱き着いて、縋りつく私の姿はエイミには、彼女にはどう見えたのだろう。

 

……本当は、両腕で抱きしめて欲しかった。

 

その願いはもう叶わない。そう思うと……涙が溢れた。

 

それでも、彼女は私に約束してくれた。

私と常に連絡を取れるようにすると、命を懸けるようなことは事はしないと。

 

……私はその言葉を信じることにした。

 

彼女の計画はあまりにも無謀だ、それでも……不可能ではない。

私が傍に居る限り、ルイは無茶なことはしないだろう。

 

────それなら、私は天城ルイの傍に居続けよう。

 

そう決意して、私は彼女の義手を用意するための準備を始めた。

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