朝:アビドス自治区/ルイのセーフハウス
目覚めた時にはもう、ルイちゃんは居なかった。
部屋の扉は開け放たれ、ベッド傍のテーブルには地図と私のスマホが置かれていた。
スマホを持ち上げると、その下にあった置手紙には、"この拠点は放棄した。心配をかける前にナギサ達に連絡する事"とだけ書いてあった。
(……昨日のルイちゃん、ちょっとおかしかったけど大丈夫かな)
そんな事を考えながら、洗濯されて置かれていたティーパーティーの制服に着替える。
(……うーん、ルイちゃんの目的がはっきりしないなあ……手紙でそう約束したからって、私を簡単に開放した理由もわかんないし……)
ルイちゃんは"ナギサとセイアに聞け"……って言ってたから、帰ったら真っ先に聞きに行こう。
準備を終えて、モモトークでナギちゃんに電話を掛ける。
ぷるる、という発信音が鳴る前に、即座に応答された。
"ミカさん!?"
同時に、ナギちゃんの大声が聞こえてくる。
「ナギちゃんうるさい☆ルイちゃんがもう帰っていいって言うから、今から帰るね」
"帰っていい……!?本当に、そう言われたんですか?"
「うん、本当は送っていきたいけど怪我が酷くて出来ないから、徒歩か迎えに来て貰えって」
"……そう、ですか……良かった……それでミカさん、今どこに居るんですか?ルイさんは……一緒に居るんですか?場所がわかるなら迎えを送りますが……"
ナギちゃんが混乱しているのが通話越しに伝わってくる。
「ごめんね、ルイちゃんはどこかに行っちゃったみたい、今居る拠点は放棄するって」
"そうですか……"
「一応、私の場所はアビドス自治区内っぽいかな」
「……この後モモトークに座標を送るから、そこに送って☆」
"……わかりました、何か必要な物はありますか?"
「うーん、特には無いかな!じゃ、また後でね☆」
"はい……では、連絡をお待ちしております"
それで通話は終わった。
ナギちゃん、私の事をとっても心配してたみたい。
アビドス近郊の大通りの座標をナギちゃんに送ると、即座に"確認しました、迎えを送ります"と返事が来た。
それを確認して、私は合流ポイントへ歩みを進めた。
「思ったより早く着いちゃったな……」
合流ポイント近くで待っていると、ぴろりとスマホに通知が来た。
「通知……セイアちゃんからだ」
────────
"やあ"
"無事で何よりだ"
"ルイに捕まっている間、何ともなかったかい?"
"そうか、良かった"
"ミカ、悪いがそれは直接でないと話せない内容だ"
"君が帰ってきたら、ナギサも交えて3人で話そう"
"私からも聞きたい事がある、それも話したい"
"わかった、気を付けるんだよ"
────────
(直接じゃないと話せない……なんて、よっぽどの事なんだ)
「……あっ、ここだよー☆」
迎えの車に向かって手を振ると、正義実現委員会の制服を着た子たちが降りて来た。
「ミカ様、ご無事で何よりです……さあ乗ってください」
言われるがままに私は後部座席に座り、車はトリニティに向けて出発した。
昼:トリニティ本校/正門前
しばらくして、車はトリニティ本校の正門前へと到着した。
「着きましたよ、ミカ様」
その言葉と共に後部座席の扉が開くと、校門前で待っていたであろうナギちゃんが走り寄って、私に抱き着いてきた。
「ミカさん!無事でよかった……」
「もー、心配性なんだから☆」
腕を軽く広げ、無事をアピールする。
「……ミカ、おかえり……ナギサ」
ナギちゃんの後ろからセイアちゃんがやってきて、ナギちゃんに小さく囁いた。
「ええ────ミカさん、早速で申し訳ないですが……聴取と……それが終わったら、セイアさんも含めて三人で話があります」
「うん、セイアちゃんから聞いてるよ☆」
「そうだったんですね……なら、行きましょうか」
聴取を受けるために私たちは校内へと向かった。
────事情聴取が終わった。
内容はつまらないもので、ルイちゃんに呼び出された時はどうだったか、とか監禁中特に変な事はなかったか、とか。
ミネ団長が乗り込んできた時はどうなるかと思ったが、経緯をあらかた説明し終わった後は、そんなに時間もかからなかった。
「さて……ミカ、この後、いつものテラスで話がある」
取調室を出た後、セイアちゃんがそう言うと、ナギちゃんも軽く頷いて、私たちはいつものテラスに行ってテーブルを囲んだ。
人払いを済ませて、ナギちゃんは紅茶を一口飲む。
「……さて、どこから話しましょうか……」
ナギちゃんがそう言うと、セイアちゃんが口を開いた。
「……順序立てて行こう、まず、君が気にしていた"ルイがゲヘナに行った理由"だが……」
「ルイ曰く……"トリニティを潰す"のが目的で、それに協力するよう、万魔殿の議長、羽沼マコトに支援を求めに行った……と、ルイが風紀委員会との通信でそう口にしていた」
「……えっ!?何で……?」
ルイちゃんがそんな事をするわけがないし、ゲヘナの力を借りる……なんて出来る訳がない。
意味が分からない、といった様子で困惑する私に、ナギちゃんが補足する。
「当然、私たちはこれを虚偽、あるいはフェイクだと判断し……別の目的があるものと想定しています……そして、その見解は実際の通信及び戦闘の当事者である風紀委員会も同じです」
ナギちゃんの補足を受けて、セイアちゃんはこくりと頷く。
「全体の経緯を話しておこう────」
「ゲヘナ領内に"魔王"と名乗る天城ルイが現れた。という報告を受けて私たちは"シャーレ"名義で正義実現委員会のハスミを送り、一時的な共同作戦を行った」
「それとは別に、報告を受けて無許可でゲヘナ領内に侵入……ルイ確保のため参戦した蒼森ミネと風紀委員長、空崎ヒナが現地で協力し……戦闘となったルイを追い詰めたが────」
「結果として、ルイの撤退を許してしまった……その後、途中から共同作戦に参加していた先生も交えて会議をしたんだ」
「非公式の会談故に、議事録は残っていないが……結果から言うとルイの捕縛のため、"シャーレ"を介したゲヘナ風紀委員会と、正義実現委員会……実質的には私達ティーパーティーの情報共有協定が締結された……あくまで、非公式ではあるがね」
「……ここまでが、君がいない間に起きたことだ、何か疑問はあるかい?」
……私の居ない間に、凄い事が起こっていたらしい。
「……万魔殿の角付き共は、どうするつもりなの?」
「敵対心があるのは理解するが……あまりそのような表現を用いるべきではないよ……そして、万魔殿に対して、この情報は届いていないはずさ」
「ええ、風紀委員長殿曰く、ルイの目的が議長に漏れた場合、事態は確実に悪化するという事で……対外的な情報をある程度統制し、議長へは伏せると仰っていました」
「そのための非公式の協定さ────さて、本題に入ってもいいかい?」
セイアちゃんは少し間を開けて、ナギちゃんに目配せをする。
「はい……現状、ティーパーティーメンバーからは外れているミカさんにこの話をした理由は、今から話す議題について意見を頂きたいからなのです」
「……うん、聞くよ」
いつになく張り詰めた空気を前に、私はそう返事をして耳を傾ける。
「────"天城ルイの退学処分"です」