"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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復調

 

朝:ミレニアム/特異現象捜査部

 

 

……あれから3日、ヒマリとエイミの熱心な"介護"を受け、私は見事に復調した。

 

初日、ヒマリの勧めで全身を検査された

……その結果、撃たれた胸の傷は回復しつつある事、額の隕石は癒着が進んでおり、除去するのは現状危険である事、腕の経過は悪くない事が判明した。

 

概ね経過は良好と言え、今後の治療プランも決まった。

 

 

……栄養のある食事に、柔らかいベッド。

エイミによる丁寧な傷の処置に、切断部のマッサージ。

 

私を手伝うと言って浴場に入ってきたエイミによって背中を流され、ついでに染めた髪と翼は元の色へと戻された。

 

……何故と問うと、ヒマリがそうしろと言ったらしい。

私を匿ってくれている彼女の意向なら、私に断る権利はない。

為されるがまま、私は元の姿へと戻った。

 

 

……それからはリハビリとしてヒマリの作業を手伝ったり、エイミの助けを借りて片腕に慣れるための練習を繰り返した。

 

おかげで私は片腕での生活にある程度慣れ始め、トリニティで生活していたころのようにトレーニングと読書も再開できる程になった。

 

────そうして、私は二人によって手厚い生活を送り、今となっては体の傷や失った腕の切断部の痛みはすっかりと和らいでいた。

 

 

……ヒマリ曰く、もう少しで義手を作るための設備も用意できるそうだ。

 

この3日間は、使命を忘れて過ごすことができた……とても、幸せだった。

 

────そろそろ戻るべきだろう、使命を忘れるべきではない。

 

「ルイさん?少しお話がありますので、私の元へ……」

 

スピーカーから聞こえたヒマリの呼び出しを受けて、私はヒマリの居るサーバールームへと向かった。

 


 

 

「……ルイさん、義手を作るための設備が整いました」

 

ヒマリはいつもの車椅子に座り、微笑みを見せる。

 

「……そして、勝手ながらエンジニア部の方に協力を要請しました。

彼女たちには義手を作るので協力してください……とだけ伝えてありますが、貴方の義手とは知りません」

 

「……そうか」

 

「超天才病弱美少女ハッカーとして忠言します、彼女たちと会って……ルイさん自身が頼むべきです」

 

「……そうだな、ウタハ達には随分悪い事をしてしまった」

 

「私も、彼女たちにはいずれ謝罪するべきだと思っていた……その上で直接頭を下げ、頼むとしよう」

 

「……そうしてください、彼女たちも、貴方を心配していましたから」

 

ヒマリはそう言って背後のモニターに向き直る。

モニターにはこのビルの間取りが表示されている。

 

「さて……このビルの4階が空いていたので、そこに機材を搬入しました」

 

「……良い機会です。しばらくここに在留するようですし、このビルの内装を教えておきましょう」

 

ヒマリによってこのビルの内装や設備の教示を受けた。

 

「……私が知っている部室から、随分大きくなったものだな」

 

私が暮らしていた仮眠室とは別に、そこそこの広さの生活スペースのあるフロアや物資置き場、私が検査を受けた医療設備等が揃っている。

 

先日エイミに聞いた内容から想像していたより、更に本格的な設備が揃っていた。

 

「今のところ資金には困っていませんし……何より、最近は色々と物騒ですから。規模を拡張するしかなかったのです」

 

そう言ったヒマリは、物憂げに溜め息を吐いた。

 

「……確かにな、ところで……ウタハ達はいつ頃来るんだ?」

 

「明日の昼までには来るそうです、今からでも彼女たちに頭を下げる練習をしておいたらどうでしょう、ふふふっ」

 

ヒマリは冗談めかして、笑いながら言った。

 

「ははは、そうしておくのも悪くないかもしれないな……とりあえず、先んじて設備の確認をしてくる」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

「重ねてになるが……ありがとう、ヒマリ」

 

「ふふ、もっと感謝して頂いて構いませんよ?」

 

どこか誇らしげな表情を浮かべるヒマリに小さく手を振り、私はエレベーターのボタンに手を伸ばす。

 

"ウィィン……"

 

……私が押す前に、独特の駆動音を立ててエレベーターの扉が開く。

 

「……!?」

 

咄嗟に身構えると、エレベーターの中には……メイド服を着た金髪の生徒が乗っていた。

 

「……おや、初めましてでしょうか。C&C、コールサインゼロフォー、飛鳥馬トキです。以後お見知りおきを」

 

驚いて構えた私に構わず、エレベーターを降りて自己紹介を始めた飛鳥馬トキと名乗る生徒は、私の顔を見つめる。

 

(……これが、たまに来ているとエイミが言っていたトキか。)

 

「……ああ、初めまして……」

 

「……?どこかでお会いした事がありますか?」

 

「……いえ、気のせいでしょう、お帰りなさい……トキ」

 

ヒマリは遮るようにトキを呼んで、彼女の気を引く。

 

「……トキとお話がありますので……外してくださいますか?」

 

ヒマリはしっしっと手を払うジェスチャーをした。

 

「ああ、失礼する……」

 

(ヒマリの協力者のようだし、とりあえずは警戒しなくてもいいだろう)

 

エレベーターに乗り込み、思考する。

考えても仕方ない、ヒマリなら上手くごまかしてくれるだろう。

 

少しして、"ポォン"という電子音と共に、エレベーターの扉が開いた。

 

エレベーターを降り、内装を一通り確認すると、フロア内のほぼ全てが作業部屋になっていた。

 

(ハイエンド3Dプリンターに、高精度マシニングセンタまであるのか……)

 

義手一つ作るのには明らかに過剰な設備に内心驚きつつ、設備を見て回る。

 

私の要望した、かつてウタハ達と共に作成した翼装着筋電位式コントローラーに使った設備は全て揃っている。

 

……それどころか、よりハイクラスの設備が用意されていた。

 

その他には、ウタハ達が要望したであろう機材たち。

義手に使うとはとても思えない資材も沢山ある。

 

(…………これほどの設備を、ここ3日で用意したのか?)

 

これだけの物をこの短期間で用意するのにいくらかかったのか、少し心配になる。

 

……資材や機材が足りなければ言ってくれ、とヒマリは言っていたが……その必要もなさそうだ。

これだけの機材があれば……面白いものが作れるだろう。

 

(……明日、ウタハ達と会うのが楽しみだ)

 

不謹慎ながらも、期待を膨らませながら私は設備の点検を終えた。

 

 


 

 

「思い出しました、あの方は天城……」

 

ハッと思い出したように、トキはルイの名前を言った。

 

……こうなっては誤魔化すのは逆効果。

 

「……ルイさんの事は他言無用でお願いします……色々、事情がありますから」

 

正直にそう伝えると、トキはいつも通りの表情で"仰せのままに"と言って、部屋を後にした。

 

「……はあ、タイミングが悪かったですね……」

 

ルイが私達以外と会わないように気を配っていたが……予定より早くトキが戻ってきてしまった。

 

機材の搬入をエイミ1人に任せるのは流石に憚られたので、トキに協力を要請したのだ。

 

(まあ……ああ見えて口は堅い方です、大丈夫でしょう)

 

そんな事を考えていると、トキと入れ替わるようにエレベーターが開いてルイが戻ってきた。

 

「おや、早かったですね?」

 

私がそう話しかけると、彼女は少し困ったような表情を浮かべていた。

 

「ああ、ただいま……」

「ヒマリ、あれだけの機材を用意してくれたのは感謝してもしきれないくらいなんだが……」

 

「どうかしたんですか?」

 

「あれだけを用意するのにいくらかかった?……可能ならすぐにでも代金を支払いたいんだが……現状、私の資産は分散させている上に、私が下手に動くことができない以上、すぐには資金を動かせない」

 

「それでももし、資金繰りに異常が出たなら何とかして用意するが……大丈夫か?」

 

……なるほど、ルイは設備を用意するのにかかった資金を心配していたようだ。

 

「いえ……それに関しては心配いりませんよ。私個人の資産で十分に支払えますので」

 

────ルイさんはいくつもの特許技術とその販売権を持っていて、放っておくだけでいくらでもお金が増えていく程の資産家だ。

 

曰く……総資産は把握しきる必要が無いから、わざわざ調べるまでもない。というほどに。

 

そんな彼女だからこそ、かえって心配なのだろう。

 

「……そういう訳には……とはいえ、すぐに金を動かすのは難しいのは事実だ。ここは、甘えさせてくれ」

 

金銭面で誰かに甘えるなんて、彼女は経験したことが無いのだろう。

心の底から申し訳なさそうに、ルイはそう言った。

 

「ええ、存分に甘えてくださって結構ですよ」

 

「……迷惑をかけてばかりだ、すまない」

 

「ふふ、今更ですね……」

 

彼女の手を取り、優しく撫でる。

冷え性の私と違って、じんわりと温かくごつごつとしたその手にゆっくりと力を込める。

 

彼女は無表情に交わした手を見つめて、背の翼をぱた、と小さく揺らした。

 

「……明日がありますから、ルイさんはゆっくり休んでください」

 

「……そうだな、ありがとう」

 

私が休むように促すと、ルイは交わした手を解き……私に小さく頭を下げて、部屋を後にした。

 

「……」

 

手のひらに残された彼女の熱を惜しむように、手を頬に当てる。

今の彼女を助けられるのは私だけ。その事実に、どこか昏い悦びを感じながら。

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