昼:ミレニアム/特異現象捜査部
用意された機材と資材の説明を終え、
私とエンジニア部の三人は、机を囲んで顔を突き合わせていた。
「……とりあえず、要望から聞こうかな」
ウタハはそう言って、傾聴の姿勢を見せる。
「何でもおっしゃってください!設備も資材もありますので、どんなご要望にもお応えできますよ!!」
コトリが続いて、私を元気付けるように言った。
「……ありがとう。とりあえず私からの要望を纏めた資料を用意してある、目を通しながら聞いてほしい」
私がリモコンを操作すると、壁に掛けられたスクリーンへと映像が投影された。
「まず第一に、制御方法は筋電位式で頼む」
「……しかし、今回作ってもらう義手は戦闘に使用するもので、私のスタイルは格闘戦を重視したものだ、激しい動きや衝撃が想定される……その結果、動作に遅延や障害が生じては困る」
「つまり、緊急時は翼式コントローラーでの制御にも切り替えられるようにしてほしい」
私の要望を聞いて、エンジニア部の面々は小さく頷いた。
「うん、私達も筋電位式を想定していたからそれは問題ないよ、翼式にも対応できるように作るとしよう、プログラムの作成は任せてもいいかい?」
「わかった、それは私が対応しよう。片腕ではそれくらいしかできないからな」
「オーケー、じゃあ次の要望を聞こうか」
私は資料を次のページへと進めた。
「では次だ、装甲だが……前回開発した脚部装甲に使用した複合装甲で外装を固めて欲しい」
「あの装甲は重量が大きいが……機能上、高い防弾性能を持つ装甲は必須だと考えている」
「……多少なら重くなっても問題ない、私の想定なら義手全体で最大60から65kgまでなら無理なく扱いきれる、ジップラインランチャーの最大荷重にはまだ余裕があるからな」
「わかりました!お任せください!!」
「ああ、頼んだ」
コトリの溌溂とした言葉に返事をして、話を進める。
「重量のついでにサイズの話もさせてくれ」
資料のページを進め、私の写真にラフスケッチで書き込まれた仮の義手が映る。
「この図のような大きさで重心は上腕部に、肩から負荷を全体に分散させたい……この図のように肩全体を覆うタイプの固定具を使用するのが好ましいと判断したが……これは一意見として留めておいてくれ」
「把握したよ」
皆の返事を確認して、続ける。
「よし……次だ」
「戦闘時、相手の武器を奪い、無力化するために強い把持力が必要だ。
可能ならおよそ200kgをキープできる出力が欲しい」
「……使用目的から考えるに、素早く最高出力まで移行する必要があるよね……」
「そうなるとその機構だけでかなりの内部スペースが割かれてしまいますね……!」
ヒビキとコトリは悩ましげに唸っている。
少しして、静かに思考していたウタハが口を開く。
「電磁モーターを仕込んでおいて、必要になったら高電圧をかけて電気エネルギーを把持力に変換するのはどうだろう」
「電力の供給元、容量とかの問題はあるけど……省スペースかつ瞬間的に高い出力を望むならそれがいいと思う」
ウタハの言葉に、私達は再度思考する。
「……良い案だ、翼式コントロールでの制御にすれば咄嗟の操作も効くだろう、把持力は一旦それで考えるとしようか」
あまり一つのことを考えすぎるのも良くない、把持力の要件は一旦これで結論とし、次の要件に移る。
「拳に当たる部分にバックショットの発射機構を内蔵したい。機構部分の設計は以前私が作ったものを流用した図を参考に用意した」
「これについて皆の意見を聞きたい、どうだ?」
スクリーンには私の設計した内蔵ショットガンの設計図が映し出された。
「設計図を見るにチューブ式のポンプアクションだよね?……バレルと撃鉄が複数あるけど、同時に発射するの?」
「ああ、同時発射を想定している……が、あまり連射するような状況にはならないだろう、チューブはそう大容量でなくて構わない」
「うーん、装填機構を単一で済ませれば十分実装できると思うのですが……そうなると弾詰まり時にその場で対応できるか怪しいですね……」
「私も、発射ガスの排出や内部での衝撃による義手自体のダメージが気になるところかな」
皆の意見を聞く限り、懸念点はいくつかあるようだ。
クライアントが私である以上……ある程度の妥協であったり、方向性は私が決めるべきだろう。
そこまで彼女達に任せてしまうのは、クライアントとして失格だ。
「ふむ……それなら内蔵ではなく外装、追加パーツとしての実装の方がいいか?そうすれば内部のスペースも取らない」
「うん、そうすれば整備性も上がるし、衝撃による内部のダメージも段違いに低減できる。……可能なら、そうするべきかも」
ヒビキの言葉を聞いて、コトリが手を上げて発言する。
「それなら、チューブと装填機構は内蔵にして発射機構は外付けにするのはどうでしょう!その二つだけならあまり内部のスペースは取りませんし、発射機構が破損しても交換できます!」
「なるほど……ウタハはどう思う?」
ウタハに意見を聞くと、彼女は小さく頷いた。
「発射機構だけ外付けにするなら、内部に衝撃は伝わらないし、内蔵チューブに装填なら破損交換しても即座に撃ち返せる……良いアイデアだね」
ウタハの言葉で会議は纏まり、概ねの設計が決まった。
「よし、それでは撃鉄と薬室、バレル等の発射機構は外部パーツに、マガジンチューブとスライド装填機構は内蔵にする……という事で決まりだな」
「外部パーツの設計はヒビキに頼むとして……内部機構は他の機能とも相談しつつ考えるべきか」
「そうだね……じゃあ、次の要件を聞かせて欲しいな」
「わかった」
今出た結論をメモに記して、リモコンを取り出す。
「これが最後の要件だ」
壁に映った資料が次のページに移る。
「グレネードランチャー……と言うよりは、カタパルト式で投射物を発射できる擲弾発射機が欲しい」
「希望する実装位置は肩から上腕下部まで、最大規格はゲヘナ製のフラググレネードが発射できればそれでいい」
「……こういうと失礼かもしれないけど、面白そうなアイデアだね」
「はは、そうだろう?」
「あえてカタパルト式、という所が面白いですね……!」
少し話が逸れ、雑談に興じてしまったが、話を戻す。
「さて、話を戻そうか……これにはランチャーのような精度や射程は求めていない、きちんと狙えば50m先のターゲットに大体当たる程度でいい」
「カタパルト式を要望したのは省スペースかつ動力に必要なエネルギーも少なく、かつ消音性に優れているからだ」
「義手の形状や使用方法から考えるに……上腕部に主な動力を入れる事になるだろうしな」
そう言って資料のラフスケッチをレーザーポインターで示す。
「そして、事前に擲弾を装填、保持できる弾倉が欲しい、これには1発入ればそれでいい……咄嗟に撃てるようにしたいからな」
「常に発射可能ならそれがベストだが、構造上暴発のリスクが取り払えないならセーフティ等でワンアクション挟んでも構わない……要望は以上だ、何かあるか?」
要望を言い終わり、尋ねると……早速、コトリが手を挙げた。
「先ほどルイさんは精度はあまり重視していないと仰いましたが……擲弾発射機としての運用を考えるなら、やはり100mは狙えた方がいいのでは!」
「擲弾用のケースを用意して、それに入れて発射するようにすればいくつもあるグレネードの規格にカタパルト側を対応させるよりも高精度な照準が可能ですし、カタパルト自体の誤動作防止や消耗の減少にも繋がりますよ!」
「そして、着弾即爆発を狙うなら発射前に安全ピンとレバーを抜けるようにケースに小さな穴を開ければ飛翔時間を計算して即爆も可能ですし、発煙弾の煙もそこから排出できます!!
更に、遠距離を狙うなら着弾時の衝撃で勝手に抜けるようにワイヤーを付ければ使い分けも完璧です!どうでしょう!!」
捲し立てるようなアイデアの波に気圧されるが、その全ては実用的なもので、素晴らしいアイデアだった。
コトリのアイデアを整理し、軽く箇条書きにしてから返答する。
「確かにな、精度は高いに越したことはない……更に、誤作動防止になるのならそうしない手はないだろう、ケース側に規格を統一するのはいいアイデアだ」
「……しかし、ケースの材質から数を用意するまでの問題がある。私は下手に表へ出るわけにはいかないからな……ケースを作るなら、君たちの力を借りずとも入手できるようなものが好ましい」
懸念点を述べると、それを聞いたヒビキが小さく手を挙げた。
「内容物をグレネードだと想定するなら、その時点で重量や形状がある程度担保されてるし、ケース自体はそれまで頑丈であったり重くなくてもいいと思う……なんなら、市販品の樹脂パイプとかイレクターの内径が大きい奴でもいいかもね」
「それを輪切りにして、端材か適当な板で底を軽く溶接しちゃえばそれだけで十分使えると思う。ホームセンターにでも行けばいっぱい手に入るしね」
「なるほど……試してみない事にはわからないが、それが可能なら入手性の問題はクリアだな」
ヒビキは頷いて、続ける。
「最初のルイさんの言い方を聞くに、多分グレネード以外の物も発射する事を想定してるでしょ?」
「ああ、応用幅はあった方がいいと思ってな、現場で何が必要になるかわからないからな……」
「塩ビとかイレクターだと内容物によっては空気抵抗に負けちゃうけど、外径さえ同じならニッケルとか重めの素材のやつ使えば行けると思う。これなら問題なさそうだけど……どう?」
ヒビキが言い終えると、ウタハが手を挙げた。
「追加で私からもいいかい?そうして規格を統一するのなら、ついでにセミオートで連射できるようにするのはどうだろう」
「連射か……願ってもないが、カタパルト式で可能なのか?」
「まだ実際に設計してみたわけじゃないけど、可能だと思う。
上腕の内側は被弾しにくいだろうし、君が最初に言ってた1発保持の弾倉の代わりに、3~4発装填のシリンダーを内蔵させる事を想定してる……装弾数は上腕内部の容量とか装甲圧と相談だけどね」
「なるほど、内蔵のシリンダーに複数発保持できるのなら、実質的な残弾数の増加にも繋がる……願ったり叶ったりだ、その機能はぜひ検討したい」
「ふふ、良いアイデアだろう?ただ、さっきヒビキの言ってくれた金属製ケースには厚みの違い等で対応できないかもしれないから、その時は手動になるけどね……」
「問題ない、どうせ金属製ケースの中身は現地で詰める事になるだろうしな、手間にはならないだろう」
擲弾発射機の話は纏まったかに思えたが、ウタハが思い出したかのように口を開いた。
「言い忘れてた、一応、動力の話なんだけどね……把持力のための電力を少し回すだけでも連射は出来ると思う、カタパルト式だし、そんなにエネルギーは使わないからね」
「当然、手動で発射できるようにもしておくよ、手動でも一定の精度を持つのがカタパルト式の良いところだ」
「助かる。私が要望する機能面は一旦これで全部だが……皆の意見も都度取り入れていきたい、何かあったら言ってくれ」
────ちらりと時計を見る。
時刻は18時前、5時間も会議をしていたらしい。
良い時間だ、今日はここまでにしよう。
「よし、それでは設計に移りたいが……今日はもう遅い、今日は一旦ここで終わっておこう」
「そうだね、少し構想を練る時間も必要だし、一旦ここまでにしようか」
「そうですね!!」
「じゃ、いったん解散?」
「ああ、今回の会議の内容は明日までに纏めておく、ゆっくり休んでくれ」
そこで、一つ忘れていた事を思い出す。
「……説明し忘れていた、このビルには居住スペースもある……ヒマリの許可は取ってあるから、そこで過ごしてくれても構わない、もちろん、自宅に帰ってもいい」
「ふむ……それなら、しばらくここに居ようかな、没頭できる環境は重要だしね」
「部長が残るなら私も!」
「じゃあ、私もここに残るよ」
満場一致で皆の在留が決まった。
「助かる……ああそうだ、ここに残るのならこれを渡しておこう」
「私の……いや、実際はヒマリから預かっているクレジットカードだ、資材の発注等で7桁以上の金を動かす時以外は、好きに使ってくれて構わない」
「特異現象捜査部名義で領収書を取ってくれれば、後々私がヒマリに支払おう」
「ちなみに……デリバリーは好きに取ってくれ、食べたい物があれば注文すると良い、領収書を忘れずにな」
「それと……もしピザパーティをする時は、私も呼んでくれると嬉しい、久しぶりに君たちと会ったら、食べたくなってしまった」
……彼女たちと別れてから数か月経つ、ミレニアムではよくピザを食べていた……それを思い出す。
「太っ腹だね……なら、今日はピザパーティと行こうか」
「良いですね!!決起会も兼ねて、パーッとやりましょう!!」
「いいね、じゃ、ルイさんも何注文するか決めて。あれからピザの種類も結構増えたから、見てみると良いよ」
「ふふ、それは楽しみだ」
「今日くらいは景気よく行こう、コーラとポテトも着けて、パーティだ!」
「おーっ!」
ウタハが宣言し、ピザパーティの開催が決まった。
────そうして、私たちは居住スペースの大部屋に集まった。
大きなテーブルには数々のピザが並べられ、皆で談笑しながらピザを頬張る。
「……このピザ、美味いな」
「ふふ、良いでしょ……最初は期間限定メニューだったんだけど、人気が出て定番になったんだ」
ヒビキは嬉しそうに眼を細め、ピザの説明をしてくれる。
「ほら、これもどうだい?」
ウタハが真っ黒なピザを差し出す。
「これは……刺激の強い見た目だな、何のピザだ?」
「ご説明しましょう!!!これはシーフードイカスミピザと言いまして、散りばめられたイカリングとチーズが────」
勢いよくコトリの解説が始まった。
気分がいいのかいつもよりも熱が入ったコトリは、イカの原産地や豆知識、さらには使用されているチーズの話まで始めた。
「最初は何だと思ったが……なかなか美味いな、ああそうだ、チャバスコを取ってくれ……」
ウタハが差し出したチャバスコを受け取り、ピザにかける。
「先ほど薦められたピザも良いが……やはり私はイタリアンだな……!大量に乗ったトマトとチーズ、それにチャバスコ……最高の組み合わせだ」
「ルイさん、ミレニアムに居た時はそればっかり食べてたよね……」
「調子に乗って食べてたら、体重がかなり増えたって青ざめてたね」
「ははは、そんな事もあったな……」
懐かしい話だ、トリニティの味付けに慣れていた私には、ミレニアムのピザが齎す暴力的な味にまんまと魅了され、つい食べ過ぎてしまったのだ。
「……ちなみに、その話には続きがある、聞きたいか?」
「面白そうだ、是非聞かせて欲しいな」
「では話そう、今の私の体重は70kg……あの時より更に増えた」
私の言葉に、三人は手を止めて私の体をじっと見つめる。
「全然気づかなかったけど……確かに、言われてみればちょっと太くなったような……」
「鍛えたんでしょ、足とか結構太くなってるし」
「確かにあれだけの装備を運用するのなら、全身の、特に足の筋肉は必須ですからね!!」
「ははは……オチを見破るのが早いな、実はトリニティに帰った後、あの味を忘れられなくてしばらくはピザを自分で作って食べていた、そのせいで体重が増えた……という話だったんだ、今度振るまわせてくれ……」
そんな事を話していると、"ガチャ"と音を立ててドアが開く。
「……パーティをするのなら、この私を呼んで頂かなくては困りますね……!」
「やっほー、混ざりに来たよ」
ヒマリとエイミが入室し、ピザパーティへと参戦した。
「ヒマリさん、久しぶりだね」
「ええ、お久しぶりですね、ウタハさん……」
「今回は要請に応じてくださってありがとうございます、ですが……今はピザに集中しましょう、ハワイアンピザはありますか?」
「多分ないと思うよ……注文するから、来るまで待っててね。追加注文とかはある?」
エイミは皆にピザの追加注文があるかを尋ね、皆思い思いの物を注文した。
「そんな……では、このテリヤキピザを頂きながら、待つとしましょうか」
ヒマリは大げさにショックを受けながらすぐそこにあったピザを取り、口に運ぶ。
「ヒマリ、服が汚れるぞ」
ヒマリの膝にシートをかけると、ヒマリは微笑んで礼を言った。
「おや、助かります……ですがこの健啖美少女は食べ方すら芸術のように美しいので、落としたりなんてしませんよ」
そう言いながらも、膝にはピザの耳の欠片が落ちており、私がそれを指摘すると、ヒマリは少しむっとしていた。
しばらく皆と談笑していると、エイミがピザの配達が来たと部屋を出て行き、戻ってきた。
「ピザ来たよ、じゃあ続きといこっか────」
そうして全員参加の決起会を兼ねたピザパーティは、夜遅くまで続いた。