朝:特異現象捜査部/ルイの部屋
「────ん……」
目を開ける。
むくりと起き上がり……微睡の中、昨日の事を思い出す。
……パーティは夜遅くまで続き、ヒマリ達も含めて揃いも揃って夜更かしをした。
目覚ましをかける事なく寝たせいで、時刻は8時。
いつもより遅い起床に、内心苦笑しつつ顔を洗う。
(……そういえば、昨日の会議を纏めた資料、作ってないな……)
一応内容は全て覚えている。今日の作業は口伝で支障ないだろう。
とはいえ……怠慢の反省はするべきだろう。
歯を磨いて、軽く朝食をと居住スペースへ向かうと、ちょうどウタハ達も朝食を食べていた。
「おはよう」
「おはよう、ルイさん」
「おはようございます!!」
「ああ、みんなおはよう」
私も同席し、トースターに食パンを入れる。
その間にウタハ達が淹れてくれていたコーヒーを頂いて……焼けたパンにジャムを塗る。
外勤任務や訓練が無い日なら、これさえあれば昼まで持つ。
「…………」
席について、エンジニア部たちと会話する。
「朝食中に仕事の話をするのは不躾だと承知しているが、一ついいだろうか」
「ん?構わないよ、どうしたんだい?」
事も無さげにウタハは返事をして、私の言葉を待つ。
「……すまない。昨日はパーティに夢中になっていたせいで会議を纏めた資料を作るのを忘れてしまった」
「だが、会議の内容は全て覚えている。今日の作業開始前に口頭で再確認を行い、不明な点があれば都度聞いてくれ」
私の言葉に各々頷き、話題は変遷する。
「それにしても、昨日は楽しかったね」
「そうですね!ヒマリ先輩が急に寝ちゃったときはどうなるかと思いましたが……!」
「……まさか、食べすぎたせいで気絶するとはな……私からも、あまり食べ過ぎないようにと注意しておく」
昨日、パーティでピザを食べ過ぎたヒマリは、途中でくらりと気絶するように眠ってしまった。
ヒマリが気を失ったと大慌てで私がヒマリを診察したが、"食べ過ぎて血糖値が上がったことで眠っただけ"という結論に落ち着いたときは膝から崩れ落ちるかと思った。
その後エイミはヒマリをベッドに運ぶついでに部屋に戻り、私達も解散の運びとなったのだ。
「ヒマリ先輩、思ったより食べるんだね」
「……私も最初は意外だった、本人曰く、"健啖美少女"だそうだ」
「ふふ、まあ元気そうで何よりだね」
「そうだな……本人は冗談めかしているが、ヒマリが病弱なのは事実だ……ああして元気そうにしているのなら、それが一番だろう」
談笑している内に、私も朝食を食べ終えた。
「ご馳走様……さて、そろそろ作業を始めるか?」
「そうだね、皆も準備大丈夫?」
「はい!いつでもいけます!」
「うん、私もいけるよ」
────そうして、私たちは作業室へと向かった。
朝:特異現象捜査部/作業室
到着した私たちは、まずは念のため昨日の会議で決まった内容を振り返ることにした。
「さて、まず設計だが……念のため、昨日の会議で出た結論を振り返りつつ、今日の予定を伝える。」
「まず拳の第一関節内部から手首にかけて、装填機構とチューブマガジンを搭載。
更に外部パーツとして、薬室とバレル、撃鉄等の発射機構を用意する。
外部パーツの射撃用バレルは同時発射を想定した水平二連式だ」
「これはヒビキに設計を頼みたい、頼めるか?」
「うん、任せて」
「そして、指に当たる部分に永久磁石を内蔵し、電磁モーターによって瞬間的に高い把持力を実装する……これはウタハに任せよう、この手の物は得意だろう?」
「ああ、任せてくれ」
「続いて、肩から上腕下部に、カタパルト式擲弾発射機を実装する。シリンダー式でセミオート発射を可能にする」
「……そして、擲弾用のケースだが……シリンダーに合わせて規格を統一する必要がある」
「これは入手性を重視したもので、可能な限り難しい加工をせずに高精度の射撃を実現したい」
「ケースの件は発案者のコトリに一任する。」
「擲弾発射機の本体機構は、最後に皆でじっくり詰めていこう」
「さて、最後は装甲と重量面だ……以前脚部装甲に使用している複合装甲で外部を固め、重量は60kgを最大としたいが……まあ、少しくらいならばオーバーしても構わない」
「各位担当パーツの想定重量を今日の終業1時間前に提出し、終業までに重量配分を議論しようと思う」
「さて……要件は概ねはこんなところだ、まあ、皆覚えていると思うがな」
皆を見回すと、当然だとばかりに頷いた。
「とはいえまずは、義手本体の設計だ、今日はそれを詰めよう」
そうして、私たちは義手の設計に取り掛かった。
「……とりあえず上腕部の動力から大体のサイズをざっくり出してみたけど、シリンダーも含めてこの大きさならどうかな?装弾数はケースの規格待ちではあるけどね」
私が翼式コントローラーのプログラムを作成していると、機嫌のよさそうなウタハがやってきて、上腕部のラフスケッチと図面を渡してきた。
「スケッチも用意してくれたのか、助かる……」
内容を確認する。
円錐状のシリンダーが上腕の内側面から飛び出し、そこにケースを装填する。
発射時は上腕上部へとシリンダーが一部飛び出し、カタパルトへと装填される機構だ。
機構自体は素晴らしい物だが、しかしこれだと────
「ふむ、この機構なら取り回しも問題なく動かせるだろう。……強いて言うなら、シリンダーが飛び出す時、もう少し胸から離せないか?」
「あー……確かに実際の環境だとアーマーとか着てるだろうしね……ごめん、失念してた」
ウタハはそう言って、写真と私を見比べる。
「いや、構わない……私も、肌着の写真だけしか用意していなかったのは配慮に欠けていた」
「大丈夫さ、この程度ならすぐに修正できるし、問題ないよ」
「……今からフル装備の写真を用意したいが……ウタハ、悪いが手伝ってくれないか?片手だとアーマー等を着るのに手間取るんだ」
「わかった、じゃあ一旦君の部屋に行こうか」
────20分ほどして、普段の装備を着た状態での写真撮影と寸法確認が終わった。
「よし、じゃあこれに合わせてもう少し余裕がある物を用意するよ」
「ああ、頼んだ……手伝ってくれてありがとう、それと、この写真はコトリとヒビキにも渡しておいてくれ」
「うん、何枚かコピーして持っていくよ」
「助かる」
────ウタハと別れた私は作業場に戻り、プログラム制作の続きにとりかかっていた。
半分ほど出来上がったところで、今度はコトリがやってきた。
「ルイさん!今少しお時間よろしいでしょうか!」
「ああ、問題ない。どうかしたか?」
スツールをくるりと回転させ、コトリの方を向くと、彼女は対面するように椅子を引っ張ってきて、そこにちょこんと座った。
「ケースの件です!仮設計で恐縮ですがこんな感じでどうでしょう!」
コトリは3Dプリンターで印刷されたであろう円筒状のケースを渡してきた。
「図面もありますが、とりあえずは実物を見た方が早いと思いまして!」
渡されたケースを持って眺めてみる。
「……底部に安定翼が付いているが……」
コスト面や、シリンダーに装填したりする際には、この手の突起は邪魔になる。
どういうことか、と眺めていると、コトリは誇らしげに鼻を鳴らし、説明を始めた。
「ふふふ、それでは図面をご覧ください!」
「ああ、わかった」
コトリに促され設計図を見ると、発射時の空気抵抗を受けて安定翼が展開、それによって回転を加える事で、軌道を安定させる構造だった。
「これは3Dプリンターで作った仮の形状なので、実際に動作はしませんが……この底面の横に空いた小さな穴から加えられた空気抵抗によって、飛翔中に小型の安定翼が展開、回転を加え、発生したジャイロ効果によって弾道を安定させる構造です!これなら規格を変えないまま、更に高精度、長射程を実現できますよ!」
「安定翼の機構はシンプルなので、3Dプリンターで印刷したものを規格ケースの底面部分にくっつけるだけでそのままの外径で使えます!良いアイデアだと思うのですが!」
コトリは1から10までをわかりやすく説明してくれた。
彼女の説明癖は鬱陶しがる者も少なくないが、開発者として全てを説明してくれるのは、情報共有の面でとても助かる。
……それに、私はコトリの話を聞くのが好きだ。
新しい知見を齎してくれるそれは、私にとって心地よい。
「完璧に理解できたよ、ありがとう……確かにこのサイズで、底面に着けるだけならば3D印刷で大量に作れるな……どれだけ安定して動作するかにもよるが、作れるのなら試してみる価値はある」
「そうでしょう!そして、ケースなんですが……この穴から安全ピンを引き抜くか、ワイヤーによって着弾時の衝撃で引き抜かれる、という設計で考えています!」
「先ほどの安定翼が無くても、底面は溶接したものでも十分に使えるようにしてあるんです!これなら、ルイさんの"どこでも入手、作成できる"という要件も問題ないですよね!」
「ああ、最悪安定翼なしでも使える、と言うのは重要だ、ありがとう……このまま進めてくれ」
「はいっ!」
コトリは元気よく返事をして、自分のデスクに戻っていった。
それから間もなく。
プログラム作成の続きをしていると、今度はヒビキからデータが送られてきた。
"図面作成ツールで外部パーツの方を仮設計したんだけど、確認してみて"
その文と共に送られたデータを確認する。
外観としては、手の甲の上に水平二連バレルが着いており、その上部にそれを覆うような板が着いていて、そこには"装甲"のタグが付けられている。
更に機構を確認していくと、セーフティを解除時、"殴打によって撃鉄が作動し、同時に発射される"、要望通りの機構が搭載され、上部に着けられた装甲板を手前にスライドさせることで排莢、チューブより弾薬を引き抜き、再装填される機構になっていた。
取り外す際もセーフティロックスライドを二つ外せば簡単に外れるようになっており、万一の故障にもすぐに対応できるようになっている。
私がそうチャットを送ると、少しして返事が返ってきた。
"ごめん、飲み物取りに行ってた"
"バレルを増やすのは内部機構によるけど
スペースがあれば簡単にできるよ"
"その分おっきくなっちゃうから、重量と内部のスペースに余裕があったら、追加で実装できるね"
そう返信して、ヒビキとのやり取りは終わった。
それからしばらくして、私は翼式コントローラーを義手に対応させるためのプログラムを書き終わった。
「……もう良い時間だ、一度休憩しよう」
時刻は昼過ぎと言うには少し遅い頃。
軽くストレッチをして体をほぐしながら、端末でウタハ達とのグループチャットを開く。
"しまった、忘れていた"
"忘れてた"
"もうこんな時間ですか!!"
私が言えたことではないが、案の定が過ぎる返事に苦笑する。
"ありがとう、楽しみにしてるよ"
"ありがとう……"
"ありがとうございます!!"
スマホをポケットにしまい、"ふぅ"と息を吐く。
「……よし、サンドイッチでも用意しようか」
そうして、私はキッチンに向かった。