朝:特異現象捜査部/ルイの部屋
「……ふう」
昨日の不健康的な目覚めとは対照的に、きっちり朝7時に目が覚めた。
いつも通りに、顔を洗って歯を磨く。
────調整の余地は残されているが、昨日でおおむねの内部機構や外部パーツ、擲弾用ケースの設計が終わった。
あとはそれらを内蔵する義手本体の設計を完成させてしまえば、後は組み上げるだけだ。
(……あまり開発期間を長引かせて、私を退学させまいと堪えているティーパーティの皆を苦しめる訳にはいかない……開発は急ぐべきだな)
居てもたってもいられずに、私は一足早く作業室へと向かった。
「……随分と、朝早いな」
「おや、君も来たんだね」
「おはよう、ルイさん」
「おはようございます!!」
「おはよう、皆……」
かなり早めに来たというのに、作業室にはエンジニア部の3人が揃っていた。
「……ところで、朝食は食べたのか?私はデリバリーしたものを食べながら作業しようと思っていたが……」
私がそう尋ねると、3人はそろって首を横に振った。
「……わかった、ついでに注文するから何を食べるか決めてくれ」
そう言って皆の要望を聞き、朝食を注文する。
「朝から食べるピザ、背徳です……!」
ピザを注文したコトリは見るからに浮足立っている。
「ふふ、朝の作業とくれば、ハンバーガーだろう」
「気分的に、私はカレーにしようかな」
「では、私もピザにしよう」
そうして注文が完了し、到着するまでの数十分間は会議、という運びになった。
「……さて、皆のおかげで、外部パーツを含む諸々の機構の設計はおおよそ組み上がった」
「というわけで……今日は全員で義手の外装を設計する、それでいいな?」
「構わないよ、設計していくうえで、内蔵機構やパーツ面で問題が出たら都度修正で問題ないかい?」
「ああ、それでいい。」
────そうして、義手本体の設計が始まった。
「……まずは動力を収める上腕部の設計から始めよう、ウタハ、頼めるか?」
シリンダーやカタパルト、動力部を任せていたウタハに話を振ると、ウタハは立ち上がって、言った。
「ああ、実は上腕部は昨日で概ねの設計を済ませているんだ、シリンダーとカタパルト、それに必要な動力を内蔵する必要があったから、仮ではあるけど、大体こんなものでどうだろう」
ウタハは白衣のポケットからメモリを取り出してラップトップに差し込み、スクリーンに図面を投影した。
「まず、動力はこの高電圧発生器を使おうと思う、これは市販品の物を分解して、中身を義手に入るように纏めただけのものだけど……ルイさんの要望を考えるなら、簡単に交換可能な物がいいだろうと思ってね」
「とりあえず、この高電圧発生器とシリンダー、カタパルトの機構が収まるような大きさの物を組んでみた」
「これをベースに装甲を付けていこうと思うんだが、どうだい?」
「ありがとう……私としては、これでいいと思う。整備性やパーツの交換にも配慮してくれたようだ、この時点では非の打ち所がない」
「そうだね、動力部の設計がある程度できている方がやりやすいし」
「はい!私もそれでいいかと!」
「……よし、では前腕部の設計に移ろう……ヒビキ、いいか?」
まずは前腕部の外部パーツを担当していたヒビキに話を振ると、ヒビキは頷く。
「うん、わかったよ」
「ルイさんには昨日見せたんだけど、外部パーツおよびその接合部、内部装填機構と自体の設計は完了してる」
ヒビキは昨日私に見せてくれた図面作成ツールの画面を投影した。
「水平二連バレルの上面に装甲板、それを引いて排莢、装填するポンプアクション式だね」
「構造としてはシンプル」
「装甲板はともかく、発射機構自体はその辺りで売ってるショットガンと大して変わらないからそれを改造すれば簡単に自作もできるよ……装填機構自体は内蔵だから給弾ポートだけくっつけないといけないけどね。」
「一応、今は二連バレルだけど、ルイさんは増やしたいみたいだから……内蔵チューブを増設できるスペースが余ったらバレルは増やそうと思ってる」
言い終わって、ヒビキは"ふぅ"と息を吐いて、用意されたお茶を一口飲んだ。
「……それじゃ、内蔵パーツの話に移るね」
「チューブの装填方法だけど、前腕内側に開けたポートから一発ずつ装填する方式にするのを想定してる……スペース取らないし、整備が楽だしね」
「ポンプ式だから機構としてはそれだけかな……バレル1本あたりの必要スペースも出しておいたから、参考にしてね」
ヒビキは"ふぅ"と一息ついて、椅子に座りなおした。
「……ありがとう、ヒビキが言ってくれたが、可能ならバレルを増設したいと思っている、重量が許すなら考慮したいが……それを前提に、他部位の重量を切り詰める必要はない。あくまで"可能なら"という所だ」
「ああ、留めておくよ」
「はいっ!」
「とりあえず、前腕に積むのはこれだけかな……装甲も厚くしないといけないし」
「そうだな……では最後に、手に当たる部分だが……」
そう話し始めたところで、頼んでいた朝食が届いたとスマホに通知が来た。
「……後に回すとしよう、一旦休憩がてら、朝食だ……行儀は悪いが、話しながら食べようか」
「ちょうど小腹も空いてきたところだったんだ、そうしようか」
「では私が受け取ってきますので、テーブルと椅子の用意だけお願いします!」
そう言ってコトリはエレベーターに向かって走っていった。
「ん……そういえば、何も食べてなかったんだった……すっかり忘れてた」
ヒビキは軽く伸びをして、私と二人で椅子とテーブルを並べる。
ウタハはラップトップとプロジェクターを移動させ、用意された椅子に座った。
「お待たせしましたーっ!」
エレベーターの扉が開くと、カレーやピザの香ばしい香りと共に、快活な声を上げて降りてきたコトリが袋をテーブルに並べる。
────そうして、私たちは食事を摂りつつ義手の詳細な仕様を詰めはじめた。
「ああ……そういえば把持機構の話を忘れてたね、動力のついでにしようと思ってたんだけど」
ウタハはハンバーガーを片手に、話し始めた。
「今回発生する高電圧発生器なら、200kg維持は余裕を持って可能だよ……結構な高出力も出せるから、やろうと思えば瞬間的に400くらいは出せる」
「それは助かるな……だが、言い方からすると、維持は難しいようだ」
「うん、最高出力の維持には膨大な電力を使っちゃうから、把持の信号を受けた5秒くらいを限界にして、その後は徐々に減圧するシステムを本体側に搭載するつもりだけど……構わないかい?」
「構わないが……折角の出力だ、リミッター解除のコマンドを用意していいか?」
「それなら、解除じゃなくて一時的に減圧までの時間を延長、という形にするべきかな……元々この発生器の最大出力は他の電源に接続されてる事を前提とされたものだからね」
「そうか……では、そうするとしよう」
ピザを一口食べて、手元のメモ用紙に今の会話をメモする。
「そういえば、昨日の夜にケースに着ける安定翼のサンプルがいくつか印刷できたので、実際に使ってみたんですが……問題なく使用できそうです!」
「随分早いな……信頼性はどうだった?」
擲弾ケースの開発は想定よりかなり早く進んでいるようだ。
「ウタハ先輩やヒビキさんに何度か試してもらったんですが、試験した10発全てが正常に動作しました!」
「うん、あの安定翼はかなりいいアイデアだったよ……普通のグレネードランチャーよりも遠くを狙えるかもね」
「ああ、カタパルトの現物が無かったから簡単なピッチングマシンのようなもので試したんだけど、綺麗に飛んだよ」
擲弾ケースの試験に参加したらしい二人は、口々に安定翼システムを褒めた。
「しかし、風を受けるための小穴に砂等の汚れが詰まってしまった物には展開に失敗したものもありました!が……!シンプルな機構で動いているので、穴の中に入った汚れを軽く払えば正常に動作しますよ!試験サンプルはまだ少ないですが、実用には耐えうるかと!」
「素晴らしいな……ちなみに、正確に狙える射程の推定はどの程度だ?」
「現地の風やカタパルト自体の出力にもよりますが……無風かつ安定翼ありなら300m、無しなら120m程度なら正確に飛ばせると思います!」
「ふむ……ありがとう、そこまで届くのなら照準器も欲しくなってくる射程だな……とはいえ、想定状況を考えるに照星でもあれば十分か」
「はい!まだまだテストは必要ですが、なかなかいい物が出来ました!」
そんな事を話している間に、皆朝食を食べ終わっていた。
「……さて、皆食べ終わったことだし、そろそろいいか?義手の設計に戻るとしよう」
「そうだね、じゃ、ご馳走様でした……」
「「「ご馳走様でした」!」」
食事を終え、私たちは設計に戻るのだった。