"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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寂寥

 

夕方:特異現象捜査部/作業室

 

 

あれから私たちは順調に作業を進め、完成した外部パーツや内部機構を元に概ねの外装を設計し終えた。

 

「……こんなものだろう」

 

そう言って作業に区切りをつけた私に、ウタハが頷きを送る。

 

「うん。一旦これで作ってみて、実際の使用感から問題点を洗い出していこうか」

 

「そうですね!ルイさん自身が使ってみないとわからないこともあるでしょうし……」

 

皆の言葉に"そうだな"、と首肯して、できあがった設計書に目を向ける。

 

ヒマリの用意してくれた3Dプリンターはハイエンドモデルで、こういった精密な機構をも作れる優れものだが……とはいえ当然、時間はかかる。

 

「あとは一度印刷して、実際の使用感を試す他ないな」

「印刷には時間がかかる事だし、今日はここまでにしよう」

 

そう伝えると、エンジニア部の皆は揃って頷いた。

 

「……よし。じゃあ、また明日だね」

 

「うん、朝からずっとここに居たし……流石に疲れちゃった」

 

「私も、ちょっと腰が……っ!」

 

そう言って三人は立ち上がり、軽く伸びをした。

体を伸ばし終えたウタハは、作業用のカバンを持ち上げて私へ視線を向ける。

 

「ああ、そうだ。私たちは今日一旦ミレニアムに帰るよ」

「連日滞在しているからね。一応、連絡はしてあるけど……メンテナンスしないと危ない機械もあるから」

 

ウタハはそう言い終えると、ふと思い出したように顔を上げた。

 

「ところで……折角だから君の装備を整備してこようか?」

「メンテナンスだけなら、そんなに時間もかからないだろうからね」

 

……確かに、脚部装甲やジップラインランチャーはここしばらく完全な整備ができていない。

 

設備はあっても、整備用の資材が全て揃っている訳ではないため、

内蔵機構のオーバーホールまでは行えていなかったのだ。

 

渡りに船、とはまさにこの事だろう。

 

「願ってもない申し出だ、ありがとう。頼んでもいいか?」

 

軽く頭を下げてそう伝えると、ウタハは朗らかに笑った。

 

「もちろん。頼まれたよ」

「じゃ、一旦そのまま持って行こうかな」

 

ウタハはそう言って、作業室の隅に置いてあったジップラインランチャーと脚部装甲に目を向ける。

 

「ふむ……」

 

ウタハは装備の前で屈んで、外観を観察する。

 

「……装甲も結構傷付いちゃってるね。一応、これも何とかしてみるよ」

 

「そういえば、突撃剣はどうしたのかな?今ここにあるなら、こっちで整備しておくけど……」

 

ウタハの申し出に、私は小さく首を振った。

 

「ああ、言い忘れていたな……突撃剣なんだが、あれは破壊されてしまった」

「せっかく作ってもらった物を壊してしまってすまない」

「だが……あれのおかげで、私はまだここに居られる。感謝しているよ」

 

そう伝えると、ウタハは優しく笑った。

 

「謝らなくていい。君の力になれたのなら、突撃剣も本望だっただろうさ。だけど、そうか……ふむ……」

 

ウタハは顎に手を当て、悩ましげな声を出して……数秒程。

決意したように口を開いた。

 

「……よし、新しい突撃剣を作ろう」

「あれは君の主力装備だろう?あの剣がないと困るだろうしね」

 

「設計図自体はこっちにスペアがあるから、後日……そうだね、怪しまれないように、パーツを分けてここに送るよ」

 

そう言って、ウタハは私に微笑みを向けた。

 

「……いいのか?」

 

「もちろん。義手開発に携わった時点で、私たちは共犯さ」

 

「……すまない、恩に着る」

 

頭を下げると、ウタハは優しく私の肩を叩いた。

 

「気にしなくていいよ、私と君の仲だろう?」

「ああでも、どうしても恩を返したいなら……今度、私たちの発明に付き合ってね」

 

「ふふ、もちろんだ。……約束するよ」

 

そう伝えるとウタハは満足げに頷いて、私の装備を台車へと乗せた。

 

「……よし、じゃあ整備もあるし……私たちは一旦帰るよ。またね」

 

小さく手を振りながら、ウタハはエレベーターの前で待っていたコトリとヒビキと合流する。

 

「また明日の朝来ますので!」

 

「また明日ね、ルイさん」

 

「ああ……では、また明日」

 

挨拶が終わるのを待っていたようにエレベーターが到着し、三人を乗せて去っていった。

 

見送りを終えた私は、作業室に一人残される。

 

「……ふう」

 

小さくため息を吐いて、静かになった作業室を見回す。

 

(……皆が居ない、というのは久しぶりな気がするな……)

 

この計画を実行した日から何日も経った。

その間に、一人には慣れたつもりだったが……。

 

静寂に僅かばかりの寂寥感を覚えた私は、ヒマリの居るサーバールームへと向かった。

 

 


 

 

カードキーを差し込み、サーバールームの扉を開錠する。

 

「……ヒマリ、入るぞ」

 

そう声をかけるも、返事がない。

 

「────?」

 

静寂を訝しんで部屋の中を見回すと、モニターの前で彼女の車椅子がこちらへ背を向けていた。

 

「……ヒマリ?」

 

早歩きで正面に回ると、ヒマリは車椅子に座ったまま目を閉じており……どうやら、眠っているようだった。

 

(……寝ていたのか)

 

念のため首に触れ、脈を取ったが異常はない。

呼吸にも乱れはなく、本当に眠っているだけのようだ。

 

「…………」

 

安堵のため息と共に、携帯を見る。

 

エイミに連絡し、部屋に連れて行ってもらおうかとも考えたが……あいにく、エイミは本校に戻っているため不在。

 

(しかし、ヒマリをここに放っておくのもまずいか……)

 

ヒマリはブランケットを被っているが、サーバールームは冷房が効いていて冷える。

 

彼女の体に障るような事があっては良くない。

 

……仕方ないが、部屋まで連れて行こう。

起こさないようにそっと車椅子を押して、彼女の部屋まで運ぶ事にした。

 

 


 

 

(……しまった)

 

エレベーターを降りて彼女の部屋の前へと到着したとき。

私にはヒマリの部屋のロックを開錠できないことに気が付いた。

 

(エイミならともかく、私のカードでは開錠出来ないだろうしな……)

 

"起こすしかないか"、とそう思いつつ、一応カードキーをスキャンしてみると……意外にも、扉はあっさりと開いた。

 

「…………」

 

内心驚きつつも、ゆっくりと車椅子を押して部屋の中へ入る。

ベッドの隣に車椅子を寄せて、すうすうと寝息を立てているヒマリをそっと抱き上げ、ベッドへと横たえる。

 

"何かあったら私に連絡してくれ"と書いたメモを車椅子に貼って、私は役目を終えた。

 

(よし。これで大丈夫だろう。……部屋に戻って、私も寝ようか)

 

そう思って、部屋の外へと歩み出したその時。

 

「……行ってしまうんですか……?」

 

背後から、小さな声が私を呼び止めた。

 

「……起こしてしまったか、すまない」

 

振り返り、眠たげな表情で目をこするヒマリと視線を重ねる。

すると、ヒマリはゆっくりとベッドサイドへと身を起こした。

 

「いえ……構いませんよ……んぅ……」

 

小さく伸びをしたヒマリは、"ふぅ"と小さく息を吐いて、私と向き直った。

 

「勝手に部屋に入ってしまってすまない。あのままだと風邪をひいてしまうかと思ってな」

 

私の弁明に、ヒマリはいつものたおやかな笑みを向ける。

 

「ええ、構いませんよ……貴方のカードにこの部屋を開錠出来る権限を与えたのは、この私ですから」 

 

意図深く、どこか妖しげに語るヒマリ。

……これは彼女が"悪戯"を目論んでいるときによくする表情だ。

なにか企んでいるな、と経験が告げる。

 

「……そうか。何かあったら助けになれるだろう」

「今日はエイミも不在だ。困ったことがあれば、また連絡してくれ」

 

「……待ってください」

 

再び部屋を後にしようとした私を、ヒマリは呼び止める。

振り返ると、彼女の瞳はわずかにとろりと緩んでいた。

 

「……エンジニア部の方々は本校に帰ったのでしょう?」

「つまり、このビルには私と貴方の二人きり……。そんな中で、この病弱な明星ヒマリを一人置いて行くんですか?」

 

どこかわざとらしい声色で言ったヒマリに、私は少しの逡巡を挟んで……ゆっくりと、言葉を吐き出した。

 

「……そうだな」

 

たしかに、彼女を一人にするよりも……一緒にいた方が安全だ。

自分をそう納得させて、彼女の方へと歩み寄る。

 

「では、こちらに……」

 

そう言って、ゆっくりと手招きをしたヒマリの隣に座る。

すると、彼女は囁くように口を開いた。

 

「……ルイさん」

 

「……どうかしたか?」

 

「気持ちに変わりは……ありませんか?」

 

ヒマリは小さく、そう尋ねてきた。

 

……"計画を諦める気になったか"、と聞いているのだろう。

 

「……変わらないな」

 

「……そうですか」

 

そう悲しげに呟いたヒマリは隣に座ったまま、ゆっくりと距離を近付ける。

 

「……その、少しだけ、甘えてもいいでしょうか」

 

「……ああ」

 

そう答えると、ヒマリはゆっくりと私にもたれかかって……膝に頭を乗せた。

俗に言う膝枕のような姿勢で、私たちは視線を交わす。

 

「……私には少し……高すぎますね」

 

仰向けに少しむくれて、そう言ったヒマリに微笑みを返す。

 

「……はは、すまないな。もう少し……柔らかければよかったんだが」

 

「それでも、嫌いではありませんよ……」

 

「ふふ、そうか……」

 

私の膝で寝転ぶヒマリにそっと手を伸ばし、綺麗な白銀の髪を指で優しく梳くと、彼女はゆっくりと目を開いて、ふふと笑った。

 

「……この明星ヒマリの髪を撫でられるなんて、幸せ者ですね」

 

「……そうだな。いつもありがとう、ヒマリ」

 

そう返すと、彼女は白磁の肌を僅かに朱に染め、照れ隠しのように小さく"ええ"、と呟いた。

 

そんな心地よい沈黙が続くうちに、彼女はとろりと瞳を揺らし……ゆっくりと瞼を閉じる。

 

「……眠るのなら、きちんと枕を使ってくれ。首を痛めるぞ」

 

小声でそう伝えると……ヒマリは再び目を開けて、私の膝からころんとベッドに転がり、ぎゅうと枕を抱いた。

 

「……ルイ、隣で寝てください」

「私を一人にするのは……貴方も心配でしょう?」

 

照れ隠しなのか、抱いた枕に顔半分を隠した彼女のなんといじらしいことか。

そんな天使のような悪魔の誘いに、私はこくりと頷きを返した。

 

「……そうだな、君が良いのなら……そうしよう」

 

その返事を聞いて、そっと枕を並べたヒマリは、私の右手を優しく握り……ベッドへと引き込んだ。

 

私たちは、ぽすん、とベッドに身を沈める。

同じ布団を被り、並ぶように横になって……向かい合う。

 

ヒマリは可憐に笑って、握ったままの私の手を胸に抱いた。

 

「電気、消しますね?……おやすみなさい、ルイ」

 

「……ああ、おやすみ、ヒマリ」

 

ゆっくりと照明が落ちると、安息に向けてなだらかに体温が下がっていく。

 

暗闇と静寂の中、ヒマリの安らかな呼吸音や、彼女の使っているヘアオイルのほのかに甘い香りが私を微睡へと誘う。

 

握られたままの手が彼女の体温と完全に混ざる頃。

幸福と安心感に包まれながら、二人は眠りに落ちた。

 

 

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