早朝:特異現象捜査部/ヒマリの部屋
「────イさん、……きて」
……揺り起こされる。
私の名を呼ぶ声に目を開くと、目の前にはエイミが居て……私をじっとりと見つめていた。
「ん……おはよう……どうかしたか?」
未だ朦朧とする意識のなか、エイミに返答する。
「どうかしたかって……ここ、部長の部屋だけど」
小さな声でそう告げられ、昨日の事を思い出した。
────しまった。
焦り、弁解する。
「…………サーバールームで居眠りをしていたヒマリを案じて部屋に運んだら、成り行きでこうなったんだ……疚しい事はない、信じてくれ」
生暖かい目で私を見るエイミに対して、横で眠っているヒマリを起こさないように小声で弁明する。
「ふうん、まあいいけど……とりあえず、出よっか」
エイミはヒマリを起こさないようにと、人差し指を口元で立てた。
「……ああ、そうだな……」
そうして私とエイミはヒマリの部屋を出て、居住スペースのキッチンまで移動した。
「────部長がちゃんと部屋で寝てるか見に行ったら二人で寝てたから、びっくりしちゃった」
「ヒマリの体を考えるのなら、あそこでそのまま寝かせておくわけにはいかなくてな……」
必死に弁解している内にすっかり誤解は解け、ヒマリが起きてくるまでに軽い朝食を用意しつつ、私たちは雑談に興じていた。
「それにしても、部長の部屋にどうやって入ったの?私と部長の持ってるカードキーでしか開かないと思ってたけど……もしかして、部長のカードキー勝手に使った?」
お湯に味噌を溶かしていると、隣で具を切ってくれていたエイミはそう尋ねてきた。
「駄目元で私のカードキーをスキャンしたら開いたんだ、不正な方法で解錠したわけではない」
私がそう言うと、エイミはわざとらしく両手を口元にもっていって、"驚いた"というポーズをとった。
「……わお、部長って思ってる以上にルイさんのこと気に入ってるみたい……ふふ」
「こんな私を信頼してくれたのは嬉しいが……少し不用心ではないかと心配になるな」
「……まあ、部長の判断だし……私も、間違ってないと思うよ」
「……そうか、ありがとう」
私が味噌を溶かしている間に、エイミは切った具を鍋へと投入した。
「後は煮て混ぜるだけだから、ルイさんは座ってていいよ」
「ああ、ありがとう」
私は皿を用意して椅子へと座り、完成を待つ。
そうしていると、"カチャ"とキッチンの扉が開いた。
「おはようございます……おや」
「…………おはよう、ヒマリ」
「あ、部長、おはよう……それとただいま」
「ええ、おかえりなさい……」
ちらちらとこちらを見ながら、ヒマリは車椅子を私の隣に移動させた。
とんとんと肩を叩かれ、ヒマリは耳を貸して、というジェスチャーをした。
ヒマリに耳を寄せると、こちらに背を向けているエイミに聞こえないように、ヒマリは耳打ちしてくる。
「その、ルイさん……昨日の事は、エイミには秘密でお願いします……」
そう言って目配せをしたヒマリに、"既に見られた"と告げたらどうなるのだろうか。
「ヒマリ……その件なんだが」
「部長、ルイさんとは何も無かったの?」
「……なっ!?」
私が事実を告げようと口を開いた直後、エイミが事もなさげに尋ねたことによってヒマリは素っ頓狂な声を上げた。
「……ヒマリ、実は見られてしまったんだ」
「……そ、そうですか……いえ、少し驚きましたが……決してそんな、疚しい事などありませんでしたよ……?」
「うん、ルイさんから聞いた」
珍しく慌てているヒマリに、エイミは微笑みながらそう言った。
「……誤解は解けている、からかうような形になってすまなかった」
「様子を見に行ったらルイさんと一緒に寝てるから、びっくりしちゃった」
エイミの言葉に、ヒマリは冷静を装いつつ弁明する。
「昨日は一日中一人で過ごしたせいで少し、その……人恋しくなってしまいまして……寝起きにルイさんを……寝惚けていたのでしょう、ええ……この話は、ここまでにしましょう」
取り繕うのも逆に怪しまれると判じたのか、ヒマリは無理やり話を終わらせた。
「はいはい……スープできたよ、並べるの手伝って」
「ああ、わかった……」
朝食が盛り付けられた皿をテーブルに並べ、3人でテーブルを囲む。
「「「いただきます」」」
そうして、私たちは朝食を食べ始めた。
「────ご馳走様、美味しかったよ」
「ええ、今日も美味しかったですよ」
朝食を食べ終わった私たちはエイミに対する感謝を告げ、食洗器に皿を片付ける。
時刻は8時過ぎ、9時頃に来るとウタハ達から連絡があったので、そろそろ作業室で準備をしておくべきだろう。
「では、私は作業室に行くとしよう……また後で」
「ええ、また……」
「うん、またね」
ヒマリ達と別れ、私は作業室へと向かった。
昨日3Dプリンターで印刷しておいた義手のサンプル部品を全て用意して、試験に必要な内蔵パーツを作業机に並べる。
いくらか先んじてテストしたいこともあるが、皆が揃うまで余計な事はしない方がいいだろう。
────試験に使う道具や材料、機材を準備している間に、気付けば9時を回っていた。
"ポォン"
エレベーターの到着音と共に、エンジニア部の3人が降りてくる。
「やあ、おはよう」
「おはようございます!」
「おはよう……」
「ああ、おはよう。試験スペースは用意してある、さっそく始めようか」
「準備してくれてたんだね……ありがとう」
「時間が余ったからな。義手とその他のサンプルパーツは全て印刷が完了している、後は試すだけだ」
「おお……実際に見てみると、かなりいい感じですね……!」
コトリは義手のサンプルを眺めながら、興奮した様子でメモを取っている。
「……さて、早速始めたいが、いいか?」
私がそう言うと、皆小さく頷いた。
「よし、では早速組み立てるとしよう、とりあえず、私一人でやらせてくれ……」
そう言って、私は義手を組み立て始めた。
義手の本体下部から内蔵機構や動力を挿入、固定し、外れないようロックする。
それが終わり。次は装甲を接続する。
鎧のように重ねられた複数の装甲板を、一つ一つ接続していく。
……構造上時間はかかったが、全て問題なく組み上がった。
私が片腕でも組み立てられるように、と配慮されたそれらは、想像以上に簡単に組み立てられた。
「……これは助かるな、とても組み立てやすい」
「よかった。結構、気を使ったところだから」
私が組み立てる所を見ていた3人は、安心したとばかりにそう言った。
「うん、見た感じ、問題なさそうだね……本題は、きちんと動くかだけど……チェック始めちゃおうか」
「そうだな……まずは筋電位から試すか」
全身に負荷を分散させるためのサポーターを着て、義手を固定する。
「これで問題なく接続できているか?」
信号をモニターしてくれているヒビキに尋ねると、小さく頷いた。
「接続は問題なくできてる、動かしてみて」
言われるがまま、左肩に力を籠めると、"ヴインッ!!"と勢いよく腕が動いた。
「ッ……、少し驚いたが……問題なく動くようだ」
勢い良く動いた義手にバランスを崩しかけたが、何とか持ちこたえる。
「良いですね!ではこれを!」
コトリはスプーンを差し出し、食器に盛られたコーンフレークをテーブルに乗せた。
「なるほど、やってみよう……」
"ギュイイン!!" "ミ゛ギッ!!"
「ひゃあっ!!」
差し出されたスプーンを握ろうと力を籠めると、勢いよく拳が閉じ、スプーンを握り潰した。
「……すまない……慣れが必要なようだ」
"カラン"、と音を立てて落下したスプーンを横目に、飛びのいたせいで尻もちを衝いたコトリに右手を差し出す。
「いっいえ!……お見苦しいところを……!」
コトリは私の手を取り、立ち上がった。
「……うーん、多分今のは高感度すぎただけだと思う、今から把持用のプログラムを修正するから、後でまたやってみよう」
ヒビキはそう言って、カタカタとキーボードを叩き始めた。
「……そうか、では後に回すとしよう」
「じゃあ次は、耐用試験だね」
そう言ってウタハは資材として用意された鋼塊を台車に乗せて持ってきた。
「じゃあ、これを殴打してみようか……サンプルが壊れないように、あんまり強くはしないでね」
「わかった……」
閉じられたままの拳を構え、腰を落とす。
「では、いくぞ……」
「はっ!」
"ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!"
軽いジャブを数度放つ。
音と勢い良く散る火花を見る限り、威力は相当に高いと推察できる。
重量を近付けるための重い素材とはいえ、サンプルでこの威力なら実物はとても頼りになるだろう。
「────うん、問題なさそうだ」
それから数十度の殴打試験と、最後に最大速度のストレートを放っても、義手は故障もなく、問題なく動作した。
サンドバッグ代わりに使った鋼塊は、所々傷付き、場所によっては割れている場所もある。
「これは随分、頼りになりそうだな……」
「剛性と耐久性は十二分だね……じゃあ、装甲も試してみようか」
「話の途中にごめん、ちょっと動作チェックもしたいから、装甲の耐久テストをするなら義手は一旦置いて行ってほしいな」
そう言って、ヒビキは義手を受け取りに来た。
「わかった……では、置いていくことになってすまないが、頼んだ」
「うん、任せて」
ヒビキに義手を渡して、私はウタハの方へ向き直った。
「よし……じゃあ、安全な所に行こうか」
「そうだな、ヒマリに許可を取って屋上で行うとしよう」
私がチャットで"屋上で装甲の耐久試験をしていいか?"と聞くと、ヒマリは二つ返事で許可を出してくれた。
「……よし、許可は取れた、向かうとしよう」
そうして、作業室に残ったヒビキを除いた私たち三人は屋上へと移動した。
「よし、じゃあこれを持っていて欲しい」
ウタハは複数枚ある装甲板を重ねた盾のような板を私に差し出す。
「実際の義手に着けた物とは傾斜とかが違うけど、面的な負荷にはこれで十分試験できると思う……」
「今から私がその装甲に3マガジン打ち込むから、そのまま構えていてもらっていいかい?」
ウタハはサブマシンガンを取り出し、構えた。
「ああ、任せてくれ」
盾を受け取り、右手で構える。
「────よし、いつでも行ける」
ウタハに合図を送る。
「じゃあ、行くよ……!」
"ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!"
"ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!"
射撃はリロードを挟んで3度に渡り、合計100発近い弾丸が盾に打ち込まれた。
「……撃ちきったよ!」
ウタハのその言葉を聞いて、盾を下ろす。
一度床に置いて皆で傷や破損を確認するが、小さな傷等はあるものの、割れたり貫通している装甲板はなかった。
小さく切り出した複合装甲板を鎧のように何枚も重ねている構造上、一つの装甲板の破損が他の装甲に影響を及ぼすことは少ない────防弾性能だけなら、突撃剣と並ぶ性能だろう。
「……完璧な防弾性能だ……だが折角だ、マシンガンの防御も試してみたい……コトリ、銃は持ってきているか?」
「えっ!?プロフェッサーKの事ですか?一応、持ってきてはいますが……あれで試すのは危ないのでは?」
コトリの使用するマシンガンは回転式多銃身機関銃……要するにミニガンだ。
「せっかくの装甲サンプルだ、壊すつもりで試すのも悪くないだろう……限界は知っておくべきだろうしな」
私がそう言うと、コトリはぴんと背を張って、答えた。
「……そうですね!やってみましょう!!」
コトリは意気揚々とエレベーターに乗り込み、数分後ミニガンを担いで戻ってきた。
「よし!いつでもいけますよ!」
そうして、彼女は壁に立てかけた装甲板に向けてミニガンを構える。
「何発撃ちこみましょうか!」
「そうだな……撃てる弾丸全て撃ち込んでくれ、ウタハが使用した物も含め、弾薬費はヒマリか特異現象捜査部宛に領収証を送ってくれればいい……後で私が支払う、景気よく行こう」
「わっかりましたぁ!」
"ギュイイイイイイイ……!!!!"
コトリのミニガンがスピンアップを始め、機関部が唸りを上げる。
「いっきますよぉ────!!」
"ギュイイッッ──!!ドゥルヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴウヴウヴヴッッッ!!!!!!!!!"
至近距離で聞くともはや何も聞こえないくらいの爆音と風圧とともに、恐ろしい速度で弾が撃ち込まれる。
分間数千発というその連射速度は、装甲板を火花で何も見えないほどに覆い隠した。
"ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!────ヴンッ……キュルル……"
十数秒ほどしてミニガンの射撃が止まり、コトリはミニガンを下ろす。
「ふう……!!どうでしょう!!」
ウタハは赤熱した装甲板を持ってきて、作業机の上に乗せた。
見るも無残、と言うほどではないが、所々破損し、割れ砕けていた────が、貫通した弾は10発に満たないようだった。
「……鎧のように重ねる、というのは中々悪くないアイデアだったようだね……!」
「これは、凄いですね……!!」
「そうだな……実際は義手に合わせて円形の傾斜もかかる、跳弾を含めると、更に防御性能は上がるだろう」
予想以上の結果に、興奮しながら口々に驚愕の言葉を紡ぎ、耐久テストは終了した。
作業室に戻ってきた私たちを、プログラムの修正作業を終わらせたヒビキが出迎えた。
「おかえり……こっちの修正は終わったけど……どうだった?」
「……想像以上だった、これを改良していけば装甲という概念に革命が起きるかもしれない」
「……そんなに?」
興奮冷めやらぬ私たちの雰囲気を感じたのか、興味深そうにヒビキは聞いてきた。
「そんなに、だったよ……!コトリのミニガンによる射撃を弾帯およそ2本分撃ち込まれて、明確に貫通したのは10発にも満たなかった」
「……凄いね」
「はい、凄かったです……!」
「後でデータ見せてね、すごく気になる」
「もちろんだ、これは今後の開発に────!」
「とりあえず、把持システムの調整結果だけ見たいから、ルイさん、お願いしていい?」
喧々諤々と試験結果を話し合う私たちを、ヒビキが一度制止した。
「……これで、上手く動くと思うから試してみて」
「わかった、書き換えは済んでいるか?」
「うん、アップデートはもう完了してる、準備できたら着けてみて」
「では、着けてみよう……」
アップデートを済ませた義手を受け取り、改めて装着する。
"ウィンッ!ギュッ!"
軽く手を握る動作をさせてみるが、先ほどと比べて格段に思い通りに、正確になっていた。
「……それでは、これをどうぞ!」
改めてコトリの差し出したスプーンを受け取る。
今度は問題なく握る事ができた。
「ん……」
"キューン……ウィンッ"
コーンフレークを掬い、口元に運ぶ。
その様子をじっと見守る三人は、わくわくとした感情が顔からにじみ出ていた。
"ウィンッ、ギュイッ"
数分後、私は器に盛られたコーンフレークを綺麗に食べ終わった。
「この程度の動作なら、問題なさそうだ」
「うん、いい感じだね」
「では次はこれを!」
コトリが次に渡してきたのは箸。
差し出された器を見ると、枝豆が大量に盛られていた。
「なるほど、良い訓練と試験になりそうだ────」
そうして、箸の次はフォークとスパゲティ、その次はピザを素手で、その次はネジ締めやはんだ付けなど────いくつかの試験を問題なく突破した。
「……精密動作も問題なさそうですね!」
「ああ、これなら以前と変わらない動きができる……ありがとう、ヒビキ」
修正プログラムを用意してくれたヒビキに感謝して、次の試験項目に移る。
「じゃあ次は……把持力の出力試験だけど、これは計算で概ねの数値が出せたから、必要ないかな」
そう言ってウタハは計算データの資料を渡してきた。
共に確認すると、最大432kgと算出されており、出力は十分であることを表していた。
「……要件が200だった事を考えると、随分高出力に仕上げてくれたな……ありがとう」
「はは、あくまで最大出力だけどね……喜んでくれたなら、嬉しいよ」
「よし、次はカタパルトだが……」
「その件も私とコトリが既に調べておいた、君は外を出歩けないだろう?だからミレニアムの実験場でデータを取ってきた」
「はい!それと、擲弾ケースの試験もついでに済んでいます!」
「それは助かる、ありがとう」
コトリは用意していたカタパルト用の擲弾ケースを十数個取り出して、テーブルに並べた。
「これが実物です!中にはゲヘナ製からレッドウィンターまで、全て違う種類のグレネードが入っています!」
「なるほど……」
手に取ってみるが、コンパクトかつ適度な重量でシンプルな構造をしており、触っただけで信頼性が伝わってくる。
弾頭を下に向け強く振ってみると、"パチッ"という音と共に、安定翼が展開した。
「実験に使用したものは爆発しないように細工していますが……飛翔距離を測るだけなので問題はありません!……これらを使って算出したのがこちらの資料に書いてありますので、確認してください!」
コトリが差し出した資料を受け取る。
「ふむ……」
読み進めていくと、安定翼展開時は先日の報告にあった最大射程より少し伸びた350mという結果だった。
安定翼無しだとおよそ140mが正確に狙える限界、という結果になっており、私としてはとても満足のいく結果だ。
「昨日の報告より最大射程が多少伸びているが……カタパルト自体の出力で射程が伸びた、と見ていいのか?」
「そうですね!ウタハ先輩が用意してくれたカタパルトのサンプルを使ったんですが、これは実際に使う際と同じ出力で撃ちだす物との事なので、殆ど同じと思ってもらって構わないかと!」
「ふむ……これは大いに役立つだろう、ありがとう」
私が礼を言うと、コトリは"はいっ!!"と大きく返事をした。
その様子を見たウタハは軽く頷き、口を開いた。
「試験方法は先程コトリが言ってくれた通りだ、次はカタパルト本体の話になるんだけど、これも資料を用意したから、見て欲しいな」
続けて渡された資料を受け取り、目を通す。
────凄まじい内容に、驚愕より感嘆が勝る。
端的にまとめると、擲弾を弾速200km/hで安定発射可能で省エネルギーに省スペース、カタパルト式ゆえに消音声に優れ、汚れにも強く4発装填のシリンダー式で連射が効く……と非の打ちどころのない結果だった。
「……これは……すごいな」
素直な感想が出る。
流石はウタハ、と感じる程に美しい機構に、整備性等のユーザビリティーに配慮した設計。
コトリの設計した擲弾ケースの安定翼も加われば、その辺りで使われている携行可能なグレネードランチャーよりもよほど正確に標的を狙える。
「……素晴らしい設計だ、この条件で、これ以上の物は作れないだろう……感謝する」
「ふふ、そこまで言われると照れくさいね」
そう言ってウタハは微笑んだ。
「コトリも、ありがとう……発射方式がカタパルト故に、精度は捨てるつもりでいたが……やはりあるとないとでは天地の差だ、感謝する」
彼女の開発した擲弾ケースと安定翼機構は、高精度かつ長射程の達成は難しい、というカタパルト式の弱点を見事に打ち破った。
「いえいえ!!"頼まれた以上の物を"、というのは、エンジニア部のモットーですから!」
「……そうだったな」
資料を纏めて、ファイルにしまった。
「……さて、では次で最後の試験だ……」
残る最後の試験、拳式散弾銃の試験に移る。
「……すまないがヒビキ、拳式散弾を取ってくれ」
「おっけー……はい」
ヒビキは外部パーツの拳式散弾銃を取って、渡してくれた。
「ありがとう」
"ガチッ……ガチャン!!"
手首のスライドに拳式散弾銃をセットし、接合する。
"カチャッ、カチャッ"
給弾ポートへ弾薬を込める。
"ジャキッ!!" "ガシャッ!!"
上部の装甲板を前腕側にスライドさせると、小気味いい音と共に薬室へショットシェルが装填された。
「装填機構問題なし、では行くぞ……」
「はあっ!!」
"バガアンッ!!"
先ほど使用した複合装甲板の残りに向かって、全力の殴打を放つ。
"ガチッ……ドドドガアンッ!!!!"
拳が当たった衝撃で内部の引き金が引かれ、撃鉄が雷管を叩き、散弾が発射された。
「発射は問題なし、続けていくぞ」
"ガシャッ!!バガアンッ!!ドドドガアンッ!!"
再装填、殴打、発射。
────それを合計5度繰り返し、内蔵チューブの弾切れを確認した。
「凄まじい威力だね……」
「もともとの打撃の威力が凄いですからね……!」
「あれは、喰らいたくないなあ……」
各人様々な感想を述べながら、試射のデータを取る。
内部機構や外部のバレルを一度分解し、損耗を確認しても問題は見つからなかった。
「よし……後は内蔵パーツの点検をして、終わりかな」
「そうだな────」
私たちは最終点検を始めた。
詳細な点検を終えた頃には、時刻は既に夕を超え、既に日は落ちていた。
「ふう……概ね、問題なかったね……」
ウタハの言った通り、点検で大きな問題は確認されず、私の義手はこれで完成、と言ってもいいほどだった。
「そうですね!!4人で頑張ったかいのあった渾身の出来です!!」
「うん……久しぶりにルイさんも一緒に発明が出来たから、張り切っちゃった」
汗をぬぐい、満足げに語り合う皆の前に立つ。
「……皆、改めて感謝させて欲しい」
頭を深く下げ、礼を示す。
「この短時間でこれほどの物が完成したのは、皆のおかげだ」
「……下手に関わる事すら危険な立場の私を手伝って……いや、助けてくれて、本当にありがとう、この恩は忘れない」
「……頭を上げて、ルイ」
ゆっくりと頭を上げると、ウタハは私の手を両手で包み込むように握った。
「……恩なんか感じなくていい、だけど、一つお願いがあるんだ」
ウタハはじっと目を合わせた。
「……何でも言ってくれ」
「全てが終わった後、たまにでいいから……また私たちと共に活動して欲しい」
「……もちろんだ、また共に発明を……ピザパーティをできる日を、楽しみにしている」
「私も、楽しみにしていますからね!!」
「ルイさん、またいつか、一緒に活動しようね」
「ああ、その日を楽しみにしているよ」
私の手を包むウタハの両手の上から、ヒビキとコトリがその手のひらを重ねる。
「……ありがとう」
再度感謝を示した私の手を握る皆の手は、とても暖かかった。
「とはいえ……まだ全部終わったわけじゃないからね、お別れには、まだ早いよ」
「ああ、そうだな……最後の仕上げだ、張り切っていこう」
残った作業は明日、サンプル通りに実物を組み上げるだけだ。
……その作業は明日1日あれば十分に終わるだろう。
資材も設備もあるのだ、滞る理由などない。
そう思うと、名残惜しさが私を包む。
(……今日は共に居て欲しい)
言葉にするのは憚れる子供の我儘のようなそれを、私は直接口に出すことにした。
「……その、今日はここに泊っていってほしい……これは私の我儘だが、君たちと過ごしたいんだ」
「ふふ、もちろん、そのつもりだよ」
「実質的な完成パーティですからね!またパーッとやりましょう!」
「うん、全力で楽しもう」
「ははは、そうだな……」
そうして私の義手は、実質的な完成を迎えた。