朝:特異現象捜査部/作業室
早朝、早起きした私とエンジニア部の3人は作業机の前に立っていた。
そこには義手のパーツが全て揃っており、組み立てられるのを待っている。
────お互いに目を見合わせて、頷く。
「……よし、始めようか」
「そうだね……」
「……はい!」
「うん、やろうか」
皆で手分けして、一つ一つ部品を組み立てていく。
複数人で組み立てていくと、5分もしないうちに私の義手は組み上がった。
「……よし、じゃあ着けてみて」
「ああ」
ウタハに手渡された義手を左肩に接続し、サポーターを巻く。
義手の電源を入れると、"ピッ"という電子音と共に、義手が動作し始めた。
"ウィン" "ウィィン"
小さな駆動音と共に、義手は私の思い通りに動く。
サムズアップしてみたり、Vサインをしてみたり。
"ブンッ" "ブォン!!" "ガシャッ……ガチンッ!!"
軽く振り回し、拳に仕込んだ散弾銃を空撃ちする。
「……ふむ、昨日のサンプル以上に扱いやすい、素晴らしい出来だ……」
感心しながら、私の新しい腕を眺める。
「……折角だ、儀礼上は礼節を欠く行いではあるが……もしよかったら、この義手で握手をしたい」
"左手で握手をする"、それは明確な敵意を示す行為。
……しかし、彼女たちエンジニア部の熱意を、想いを込めたこの義手で……彼女たちに最上の礼を、敬意を示したい。
その想いには、儀礼など無関係だ。
「ああ、もちろんだ」
ウタハはにこりと微笑んで、左手を差し出す。
"ウィン" "ぎゅっ"
出力を上げすぎないよう、ゆっくりと握手を交わす。
「ふふ、不思議なものだ……ただの金属のはずなのに、君の物だと思うと、どこか温かい」
「……私も、ウタハの熱が伝わってくるようだ」
人の感覚とは不思議なものだ。
本当に、ウタハの熱を感じるような気がする。
「……縁起でもない事を言うけれど……これ以上、こんな物を作らせないでね」
そう言って、ウタハは射貫くような眼差しで私と目を合わせた。
「……ああ、そうならないように、君達があらゆるリスクを顧みずに私に協力してくれたのは、よく理解している」
「……これ以上君達にこんな思いはさせないと、約束する」
「わかればいいよ、ルイ……気を付けてね」
そう言って、彼女はそっと手を離した。
そして、横でそれを見ていたコトリと目が合った。
「コトリ、いいか?」
「はい!勿論です……!」
少し緊張した様子でコトリが差し出した左手を取り、握手を交わす。
「……ルイさん、貴方が目的を果たせるよう、私……いえ、エンジニア部一同、願っています!」
「……ありがとう、コトリ」
「ですが、どうか、どうか無理はなさらぬよう!お願いします!!」
「ああ、わかっているよ」
「……信じてますから!」
コトリは手を離し、握手を終えた。
「……最後はヒビキだ、良いか?」
「うん、はい……」
ヒビキの差し出した左手を、ゆっくりと握る。
「……また、会おうね」
それだけ小さく呟いたヒビキに、私は握る力を少しだけ強める。
「……もちろんだ、全てが終わった後には必ず、また会える」
そう返すと、ヒビキは手を離した。
作業室に"ぱん!"と乾いた音が鳴り渡る。
「辛気臭くなっちゃったけど、夕方までは時間がある……完成を記念して、最後にパーティといこう!」
重い空気を打ち払うようにウタハが言うと、"おおーっ!"とコトリもその提案に乗った。
「ふふ、そうだね……今日が終われば、また会えなくなっちゃうし」
「……良い提案だ。正直、君達を別れるのは私としても寂しい、だから……ぱあっと祝おう」
「満場一致だね、じゃあ……大部屋に行こうか!」
意気揚々と、私たちはパーティをするための部屋へと向かった。
あれから数十分後、デリバリーされた数々の食事が並べられたテーブルを囲み、私たちはジュースの入ったグラスを持つ。
「完成を祝して!」
「別れを惜しむのではなく、来たる再会を祈って……!」
「ルイさんの未来に!」
「……皆の熱意の結晶に!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
私たちは各々の願いを叫び、最後のパーティが始まった。
「このピザ、見た目はアレだけど味はなかなか悪くないね……!」
「ハワイアンピザ、結構美味しい……」
「このピザ、凄く辛いけど美味しいです……!!」
「やはり私はイタリアンが……」
「ルイさん、せっかくなんですからイタリアンピザばっかり食べてないでこれも食べてみてください!結構美味しかったので」
「む、頂こう…………辛あっ!?」
「あっすいません……!辛いの大丈夫だと思って……!!」
「はあっはあっ……!いやいい……気にするな……!」
「確かに、これチャバスコと比べても結構辛いから……」
「……しかし、旨味が確かにある……辛味に慣れてしまえば、確かに美味いな……」
「そうでしょう!私もさっき食べて気に入ったんです!」
自分の好きな種類に加え、更に全種類のピザを四切れずつ注文するというなんとも勢い任せな注文をした私たちは、数々のピザを食べ比べ、思い思いな感想を述べて気に入ったものをお勧めしあう。
「────次はこれを!」
「これも中々────」
「ポテトを乗せるなんてどう?────」
「胡椒もかけてみようか────」
段々とヒートアップしてきたパーティは段々と、自分の考えた至高のピザを作る会に変貌を遂げていった。
「……結局、チャバスコに帰ってくるとはね……!」
最終的に、チャバスコを一振りするのが一番おいしくなる、という事に落ち着いた。
マヨネーズや胡椒、七味に山椒など、数々の調味料たちが熱い戦いを繰り広げたが……結局はチャバスコに帰ってきた。
そんな悪ふざけともいえるくだらない事が、パーティを盛り上げ、時間を一瞬で経過させた。
「…………ふう、そろそろ、お暇しないとね……」
「名残惜しいが、長く留まらせるのも悪いしな……」
ウタハ達は部屋を片付け、ミレニアム本校に帰る準備を始めていた。
「寂しくなりますが、またお会いしましょう!」
「じゃあ、"また"ね、ルイさん」
「ああ、また会おう」
口々に別れを告げ、エレベーターの前まで見送る。
「……私は1階まで下りる訳にはいかないから、見送りはここまでだ……」
私がそう言うと、ウタハは少し声色を落として言った。
「仕方ないよ、じゃあね、ルイさん」
「……エンジニア部はいつでも貴方を待って、想っているよ」
「……それを、忘れないでね」
そう言って、彼女は左手を差し出す。
「胸に刻むよ、ありがとう……では必ず、また」
その手をしっかりと握り、握手を返した。
……そして、"ポォン" と音を立ててエレベーターが到着した。
「ではまたー!!」
「元気でね……」
「怪我はしないようにね1」
三人はエレベーターに乗り込んで、手を振る。
「……ああ!皆も達者でな!」
私も義手を使って手を振り返す。
────ゆっくりとエレベーターが閉まり、私たちは別れた。
「……寂しくなるな」
思わずそう呟いた私は、寂寥を振り払うように拳を握る。
「……明日からは義手を使った訓練だ、なるべく早く仕上げて、"トリニティ"の天城ルイを消さなければ」
彼女達といる間は、昔の……"エデン条約事件"以前の"天城ルイ"に戻る事ができた、だが────私は"魔王"なのだ。
もっとも神の近くに居ながら、神を裏切り、天より堕とされた悪魔の王……それがトリニティの聖典に記された"魔王"だ。
私が"トリニティ"の生徒であるうちは、その名は偽りに過ぎない。
"天城ルイ"、この名は作戦の邪魔だ。
「待っていてくれ、セイア────長くは苦しませない」
私を信じると、そう言って戻った彼女の名を呟き、"魔王"へと成る覚悟を決めた。