"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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問題

 

 

夕方:特異現象捜査部/屋上

 

 

「はぁ、はぁ……エイミ、お疲れ様……」

 

「ふぅ……ルイさんも、おつかれ……」

 

私とエイミは、お互いに息を切らしながら、労いあっていた。

 

……結局、あれから近、中距離、攻防交代で合計4戦を行い、初戦の圧勝から反転。

最終的な戦績は1勝3敗、私の負けとなった。

 

「ふふ、私の勝ちだよ、ルイさん……」

 

「はは……流石だな」

 

汗を垂らしながらも、誇らしげに微笑んだエイミを称え……訓点内容を振り返る。

 


 

────1戦目。

 

中距離戦、攻撃は私。

 

警戒するエイミが一瞬視線を外したところを奇襲し、2発の射撃を回避、強襲。

 

不意打ちで放った蹴りを弾き返されるも、着地後、義手を盾にした突進で再度距離を詰め、射撃を防ぎエイミの銃を奪った。

 

私の勝利。

 

────2戦目。

 

近距離、攻撃はエイミ。

 

対峙し、正面から突進してきたエイミはショットガンを連射、回避しようとした私の移動先、足に向けてショットガンを投擲し……命中。

 

移動中の体勢を崩された私は、覆い被さろうとしてきたエイミを後方に蹴り飛ばさんと伏せたまま腕の反力で蹴り上げたが……それを回避したエイミにより足を掴まれて組み伏せられ、行動不能に追い込まれた。

 

エイミの勝利。

 

 

────3戦目。

 

中距離、攻撃はエイミ。

 

初手で背後から奇襲してきたエイミの射撃を回避し、遮蔽に隠れ、体勢を整えようとした私にエイミはグレネードを投擲。

 

それを回避せんと飛び出したところに先んじて回り込んだエイミにより、近距離での接射を受ける。

 

エイミの勝利。

 

 

────4戦目。

 

近距離、攻撃は私。

 

射撃を義手で防ぎながら突進し、正面から殴り合いの格闘戦になる。

開始直後は私が優勢で、エイミにマウントを取る事に成功。

 

義手内蔵の散弾により決着を着けようとしたところに不意打ちで放たれた接合部に対する殴打によって義手のコントロールが狂い、振り下ろした拳は見当はずれな方向へ放たれ不発。それによりバランスを崩した私は易々とマウントを取り返され、制圧された。

 

エイミの勝利。

 

……惨憺たるものだが、この結果からはいくつか学べることがあった。

 

 


 

「……うーん、確かにその義手は強力だし、最初は負けちゃったけど……やっぱり対処法を知ってれば、なんとかできちゃうね」

 

一戦目の不意打ち以降、特に何もできずに連敗を重ねた私はエイミの感想に耳を傾けていた。

 

「そうだな……私自身力が及ばなかったのもあるが、強みを生かせないように立ち回られると流石に厳しい物がある、2戦目など、全く手が出なかった……流石の対応力だ」

 

移動先に投擲されたショットガンに足を取られ、頭から転ばされた事を思い出す。

体勢を整え、とにかく制圧されまいと蹴り上げた足は易々と避けられ、制圧された。

 

「ありがと、義手だけなら使われないように動けばいいって思ってやったけど、結構上手く行っちゃった……やっぱり、抑えられるとどうしようもないの?」

 

「そうだな……手首を反転させて何とかできない事もないが、義手の手首に当たる場所を抑えられてしまうと厳しいな」

 

義手の手首に当たる部分は360度可動、と言う程ではないが、生身よりは可動域が広い。

とはいえ、今回のような状況ではあまり役には立たないだろうが。

 

「なるほど。制圧するときは普通手首抑えるし……あんまり期待できないかもね」

 

「ああ。しかしいくら翼式コントローラーに切り替えて咄嗟に操作できるとはいえ、発射直前に接合部を攻撃されると操作が追い付かないか……これは訓練でどうにかするしかないか」

 

エイミにマウントを取り、決着の一撃として振り下ろした拳は顔より数㎝左のコンクリートに直撃した。

その隙を逃すエイミではなく、あえなく私は組み伏せられたのだった。

 

「……咄嗟の判断だったけど、上手くいったから逆にびっくりしちゃった……でもそれって結構致命的な弱点じゃない?……何とかならないの?」

 

エイミの言う通り、これは致命的な弱点だ。

改善、対策は必須だろう。

 

「ああ……いくつか対策を検討しなければならないな」

 

お互いに頭をひねる。

 

「戦った感じ、やっぱり義手だけで戦うのは極力避けた方がいいかもね……切り札としての運用が一番いいと思う」

 

「今回の結果を踏まえるとやはりそうなるか……」

 

義手を使った戦闘が効果を望めるようなら、戦術として立ち回りに組み込んでもいいと思っていたが……やはり、そう上手くはいかないようだ。

 

「……実戦では他の装備もある、その補助的な運用をメインにするべきだな。」

 

「とはいえ……もう少し実践をしなければな。何度も使っていくうち、見える物もあるはずだ」

 

そう結論付け、区切り付けるようにスポーツドリンクを飲み干した。

 

「……ふう、今日はありがとう。おかげで良い訓練になった。」

 

「いいよ。時間がある時は付き合うから、また呼んでね」

 

そう言ってエイミは、目を合わせて笑う。

 

「ああ、是非お願いしたい」

 

「うん……じゃあもうお夕飯の時間だし、部長が寂しがる前に戻ろうか」

 

"ふふ"と笑ってエイミは立ち上がり、軽く体を捻った。

 

「……そうだな、片付けは私がやっておくからヒマリの元に行ってやってくれ、終わったら私も向かう」

 

「じゃあお任せしようかな……じゃ、また後で」

 

「ああ、また後で」

 

エレベーターに乗ったエイミを見送り、私は散らかった屋上の片付けを始めた。

 

 


 

────30分後

 

屋上の片付けを終えた私は、居住スペースのドアを開ける。

 

「……ただいま。」

 

「おかえりー」

 

「おかえりなさい、ルイさん」

 

「……待っていてくれたのか、ありがとう」

 

二人に軽く目礼し、椅子を引く。

 

「ルイさんの分も用意してあるよ、今用意するね」

 

そう言ってエイミはキッチンへ向かい、トレーに乗せられた食事を持ってきてくれた。

 

今日のメニューはヒマリに合わせたのか、素朴な味付けの物が多い。

 

「ありがとう。美味しそうだ……いただきます」

 

手を合わせ、食事に箸を伸ばす。

黙々と食べ進めていると、先に食事を終えたヒマリが口を開いた。

 

「ふふ……ルイさん、義手の調子はどうですか?」

 

そう尋ねたヒマリの声色はどこか誇らしげで、何か意図を感じさせる。

 

「……ああ、エイミとの訓練でいくつか懸念点は浮かび上がったが……それでも、素晴らしいものだ。」

 

「そうですか……よろしければ、後でお時間を頂けますか?」

 

「構わないが……どうしたんだ?」

 

「私も技術者ですから……専門外とはいえ、この私なら力になれるでしょう」

「エイミから聞きましたよ、少し問題があった、と。」

 

……なるほど。ヒマリが誇らしげにしていたのはこれが理由か。

どうやら、義手の調整を手伝ってくれるらしい。

 

ヒマリは自身を含め、誰もが認める正真正銘の天才だ。

 

……"全知"たる彼女の知見を借りれば、問題を解消できるかもしれない。

 

「……ありがとう。助かるよ……後で部屋に行けばいいか?」

 

願ってもない申し出に、感謝を述べると、ヒマリはにこりと笑った。

 

「ええ、では私は用意をしますので……お先に失礼します」

「エイミも、ご馳走様でした、美味しかったですよ」

 

「ん、お粗末様」

 

エイミの返事に頷いて、ヒマリは私に視線を向け直した。

 

「……では、部屋でお待ちしています。それでは、また後で」

 

「ああ、また後で。」

 

そう言って、ヒマリの背を……正確には、車椅子の背面を見送る。

扉が閉じてから、エイミがこちらをじっと見ていることに気付いた。

 

「……どうかしたか?」

 

「"良かったね"、って思って」

 

「"良かったね"とは言うが……ヒマリに話してくれたのは君だろう?」

 

「うん、部長なら何とかできるかと思って」

 

「……確かに、ヒマリならきっと何とかしてくれるだろう。いつもながら、君達には助けられてばかりだ────」

 

そんな事を話しているうち、私は夕食を完食した。

 

「……ふう、ご馳走様」

 

皿を片付けようと立ち上がると、対面に座っていたエイミも立ち上がった。

 

「お粗末様……部長と話があるなら、片付けは私がやっとくよ」

 

"ほら、早く行ってあげて"と続けて、エイミは手を差し出す。

 

……先日私にやらせてくれ、と言ったばかりで恐縮だが、今日は

 

「いいのか?助かるよ……」

 

私はエイミに感謝を告げて、食べ終わった食器を乗せたトレーを渡した。

 

「では、悪いが先に失礼する。美味しかったよ」

 

「うん……じゃあ、また明日」

 

エイミに小さく礼をして、私はヒマリの部屋へと向かった。

 

 


 

 

夜:特異現象捜査部/ヒマリの部屋

 

「……設計図はこれだ、それで……」

 

ヒマリに設計図を渡し、先ほどの実践訓練の内容を説明しながら、義手の問題点を説明した。

 

「……なるほど、接合部の耐衝撃性に関しては一旦置いておいて、そもそも銃も装備もなしで義手だけ戦闘をする、という前提から厳しいのでは……?」

 

至極もっともな意見に、苦笑する。

 

「……私の立場上、奇襲であったり何もない状態での戦闘も想定される。戦術の拡張も視野に入れての実践演習だ。」

 

「それに、私の装備はウタハ達に預けたままだしな」

 

私の言葉に、ヒマリは得心したように"なるほど"と呟いた。

 

「……ああ、その件でも一つあるんでした……先程エンジニア部の方たちから私宛に連絡を頂きまして……」

「"荷物"は明日には届けるとの事ですよ」

 

装備の調整が済んだのだろう。流石、仕事が早い。

 

「……そうか、私に代わって、礼を言っておいてくれ」

 

(……明日か、それまでに義手の動きを仕上げておけば、明後日にはトリニティへ向かえるだろう)

 

「ええ、もちろんです……それで、話を戻しますが……接合部に衝撃を受けると筋電位でのコントロールが狂う、でしたよね?」

 

「ああ、その対策として翼式コントロールに即座に切り替えられるようにはしていたが……咄嗟だと流石に追い付かない、今日の訓練ではエイミにそこを突かれて制圧されてしまった」

 

「ふむ……」

 

ヒマリは指を頬に当て、思考する仕草をする。

 

「……わかりました、この清楚系天才病弱美少女にお任せください」

 

何かいい案が思い付いたのか、ヒマリ本人が"どや"と称する誇らしげな笑みを向けてきた。

 

「その義手……明日まで私に預けてください、少し強引な方法を使いますが……必ず、何とかして見せましょう」

 

「……明日まで、と言うには時間が遅すぎないか?徹夜は体に堪えるだろう」

 

「ふふ、ご心配頂き感謝します……ですが、この"全知"の名を冠する明星ヒマリにかかればそう時間はかかりませんし……何より、貴方のためですから」

 

私の心配に、問題ないと微笑んで返答してくる。

 

「……そうか」

 

実際、早ければ早いほど助かるのは事実。

……申し訳ないが、ここはヒマリに甘えさせてもらおう。

 

「ありがとう……では、頼んだ」

 

義手を取り外して机の上に置く。

 

「ええ、頼まれました……」

 

ヒマリは車椅子へもたれかかり、その側面からコードを引っ張って義手に接続した。

 

「ここからは私一人で十分ですし、ルイさんは休んでください」

「訓練続きで疲れているでしょう?」

 

かたかたと手元の操作パネルを高速で操作しながら、ヒマリは言った。

 

……確かに、今ヒマリが行っている作業に私は必要ない。

彼女の言う通り、今日は休むべきなのだろう。

 

「……ああ、そうさせてもらうよ、ありがとう」

 

「ええ、それではおやすみなさい」

「ふふふっ、明日を楽しみにしていてくださいね?」

 

「はは、おやすみ……楽しみにしておくとするよ」

 

ヒマリに軽く手を振り、部屋を後にする。

 

────エンジニア部の三人に、ヒマリとエイミ。

 

彼女達には助けられてばかりだ。

 

私はいい友人を持った……。

私のような人間には、勿体ない友人たちだ。

 

幸福を噛み締めながら、私は床へと就いた。

 

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