朝:特異現象捜査部/サーバールーム
翌日。
朝食を終えた私は、ヒマリに呼ばれてサーバールームへと来ていた。
「さて、いくつかお話がありますが……まずは、義手の調整が終わりました」
ヒマリは作業机の上に置かれた義手を指す。
「ハード面とプログラム面、両方に些細な修正を行いました……小型のショックセンサを上腕内部に搭載し、強い衝撃を受けた際には自動的に接合部の感度を引き上げるようにしました、些か強引な対処ですが……悪くないアイデアだと思いませんか?」
かなり対症療法的だが、そもそも義手というものが戦闘向きではなく、接続部に対する衝撃には根本的に弱い以上、こうするのがベストだとヒマリは判断したのだろう……真の天才である彼女の判断を疑えるほど、私は賢くない。
「感謝する、ベストなアイデアだ……」
私がそう返すと、ヒマリは小さく頷き、続ける。
「感度上昇を解除するコマンドは貴方の翼に付いている制御装置で行えるようにしてあります、それなら問題ないでしょう?」
「ありがとう、問題ない」
私の要望を見透かしたかのように、欲しい機能を付けてくれている。
流石、と言うべきなのだろう。
「……それに加えて、私が遠隔で操作できるよう、私専用のバックドアを追加しました」
ヒマリはついでとばかりに、とんでもない事を言い出した。
「……待ってくれ」
「安心してください、この"全知"の名を冠する私が作った独自通信規格を使っていますし、ハッキングされることはあり得ません」
「そういう話では……私は君の事を心から信用しているが、それでも戦闘中にコントロールが失われるような事があれば致命的な事態に繋がりかねない、私としては……それは避けたい」
私の懸念を聞いて、ヒマリは口は開く。
「……安心してください、基本的には何もしませんし、命令の優先度は貴方が上です」
「……このバックドアを追加した理由は、貴方がどことも知れぬ荒野や廃墟の影で倒れ、その儚い命を散らさないようにするためです」
「接合部からは脈と現在位置がモニターされています、万が一の事があれば……私が、いえ……エイミが貴方を助けに行くでしょう」
よほど私の事が心配なのか、ヒマリはいつもの微笑みを湛えつつも、有無を言わせぬような圧力を纏い説明してきた。
彼女と関係を続けていくのなら、これを拒否するべきではないだろう。
「…………感謝する」
私の返事を聞いて、ヒマリは"ふぅ"と息を吐いた。
「……説明は以上です、それと……今日の早朝、エンジニア部から貴方宛の大荷物が届きました、エイミに頼んで作業室に運んでもらったので、確認してください」
「……ありがとう、ヒマリ」
「どういたしまして……もっと感謝してくださってもいいんですよ?」
私の感謝に、ヒマリはふふんと誇らしげに"どや顔"を返す。
彼女の言う通り、私は彼女にもっと感謝するべきなのだろう。
「本当に、感謝している……」
目を合わせてヒマリの手を取り、握手する。
ヒマリはびくり、と震えて、手を優しく握り返した。
「……わかればいいんです」
そう言ってゆっくりと目を背けたヒマリの手を離す。
「……届いた装備を確認してくる、また後で」
「ええ……また後で」
────そうして私は作業室に着き、エンジニア部より整備されて戻ってきた数々の装備を確認していた。
オーバーホールされて戻ってきた装備たちは、大まかに幾つかの部品に分けられ、その一つ一つが完璧に整備されていた。
ジップラインランチャーの使い込まれた砲口や脚部装甲の傷は新品同然に直され、鉄鉤やジップラインに至っては新品そのものに換装してくれたようだ。
分解された装備を組み立て直し、軽く動かしてみたが動作には全く問題なく、むしろ以前よりも動かしやすく感じる。
「エンジニア部には頭が上がらないな……」
そう呟きつつ、ひときわ大きな箱を開ける。
それにはシールドの接続されていない突撃剣の本体と、二対のバリスティックシールドが箱に収められていた。
それらを取り出す際に、はらりと落ちた紙を拾い上げる。
よく見てみると、それは手紙だった。
"ルイへ。
新しく作るにあたって、義手でも握りやすいよう持ち手部分の素材を少し変更した。
前回破壊された事を考えて、バリスティックシールドの装甲は少し厚めにしてある。
整備を怠らなければ長期戦にも耐えられるはずだ。
多少のマイナーチェンジは行ったが、重量や使用感は前まで使っていたものと大して変わらないように気を付けている、安心して使って欲しい。
君の計画の成功を祈っている。
エンジニア部:ウタハ ヒビキ コトリより"
変更点と、私へのメッセージと三人のサインが書かれた手紙を読み終わり、私はその文を噛み締めるように瞑目する。
……新しい突撃剣を作ってくれと頼んでから数日しか経っていないというのに、彼女たちは製造のみならず、義手に合わせた調整まで行ってくれたようだ。
彼女たちは自分たちの立場を顧みず、助けてくれた。
……私は、そんな彼女たちをこの無謀な計画に巻き込み、利用している。
大きな罪悪感が押し寄せ、私を吞み込まんとするが、握り潰す。
(……計画の成功、それが彼女達への一番の贖罪であり、謝意の表明になるだろう)
道具は揃った。
……停滞は終わり、私も動く時だろう。
ヒマリとの作戦会議のため、ヒマリへチャットを送る。
"構いませんよ、15分後など如何でしょう"
"ええ、お待ちしていますよ"
ヒマリとのチャットを終え、装備を一度片付ける。
「……よし、行くか。」