昼:特異現象捜査部/サーバールーム
「失礼する」
入室した私に対し、ヒマリは車椅子に深く座り……こちらを一瞥する。
その様子から、私が来た理由はおおよそ察しが付いているようだ。
「……お待ちしていましたよ」
「さて、トリニティの件で、お話があるとの事ですが……」
そう言って、ヒマリはいつになく真剣な表情で、私と目を合わせた。
私はゆっくりとヒマリに向かって歩み、彼女の目の前で膝を付き、彼女と目線を合わせる。
「……ああ、明日トリニティへ向かう、その為の作戦会議をしたい」
私がそう言うと、ヒマリは驚いたように一瞬目を開き、すぐに元の表情に戻った。
「……明日、ですか?……駄目です」
ヒマリはぴしゃりと私の提案を拒絶した。
「そう急がずに期を見て、万全を期してください。
エイミとの戦闘訓練も途中でしょう……?明日はいくら何でも早すぎます」
ヒマリのいう事はもっともだ、私がヒマリの立場なら、同じことを言うだろう。
「……ああ、確かにそうするべきだろう」
「でしたら────」
「だが」
片手でヒマリの言葉を遮り、続ける。
「ティーパーティの3人は現状、とても厳しい立場にあると推測される……その原因は、"私を退学させない"という判断によるものだ」
「……私はトリニティの中でも派閥に与せず、完全な中立という特殊な立場にあった……そのおかげで、ある程度現状の予想は付く」
「暴動にも似たデモ、"天城ルイ"……いや、"魔王"退学の名の元に派閥を拡大せんとする扇動者……」
「それは、私が想定し、計画に組み込んだものだ」
「拡大する悪意の螺旋を止めるには、私を退学にする必要があり、ティーパーティはそれ以外の選択肢は取れなくなると、とそう判断し……私は、それを利用することにした」
「だが……現状は少し違う、一つ、想定外の事が起きた」
「……どういう訳か、私は未だ退学にならず、トリニティの生徒であり続けている」
「当然、"魔王"を討てと叫ぶ者たちは……それを許さない。」
「今や、私を庇ったティーパーティの三人へと矛先は変わりつつある。それを利用せんとする者の手によって火種は烈焔となって、トリニティは今……動乱の渦にあるだろう」
「"動乱"……そう表面上取り繕えている内はまだ良い、少しのきっかけで、それは派閥間の戦争となって、扇動者によって舞台に立たされた者達は銃を取り、"魔王"を庇ったティーパーティを引きずり下ろさんと動くだろう」
「……私はそれを許容しない。」
「一刻も早く、その動乱を鎮めなければならない。敵は私一人だ。ティーパーティに……いいや、私以外に……矛先が向くような事はあってはならない」
話し終わり、ヒマリに向けて頭を下げる。
「皆のおかげで装備は揃った、義手もある……体調も万全だ」
「……私を助けてくれた皆には心の底から、感謝している」
「……皆は私を心配し、危険を冒して私に協力した……それは理解している」
「しかし今回の作戦目標はトリニティへの攻撃によって、"私自身の退学を成す事"だ……ゲヘナでの戦いのように、勝てない戦いをするようなリスクを冒す必要はない」
「…………そして何より……ヒマリ、君が協力してくれる」
ヒマリの手を取り、請う。
「……それらの判断材料から……私は明日、トリニティへ向かうと決めた」
ヒマリは悲し気に眉を下げながらも、黙って私の話を聞いている。
「……君は私がリスクを冒すことを許容しないだろう。それでも……私と、私の友人のために、私の我儘を聞いて欲しい」
「……約束は守る、私は必要最低限の行動を済ませ、即座に撤退する」
「可能な限り戦闘は避け、短時間で済ませよう」
「……許してくれ」
「………………」
私の言葉を聞いたヒマリは、ゆっくりと伏せた目を上げ、長い瞬きののち……小さく息を吐いて、答えた。
「はぁ…………貴方の想いは、わかりました」
「……良いでしょう。」
「この明星ヒマリが、貴方の友人として……貴方の作戦を成功へと導きます」
いつもの微笑みを取り戻し、彼女の物とは思えない程に強い力で、私の手を握り返す。
「……作戦会議を始めましょう……安心してください、私は誰もが認める"全知"ですから」
「文字通り、"全てを知る"……情報を制する者は……という言葉に則るのならば、貴方に、私たちに敗北はありません」
ヒマリは握った手を離し、腕を掲げた。
……同時に、背後の巨大なモニター群にグラフや映像、見知った建物など……トリニティに関する情報が一斉に表示される。
「……貴方が"トリニティへ攻撃を仕掛ける"と言ってから、私はトリニティのあらゆる情報を集めました」
「主戦力級生徒の現在置から末端のシフト、兵器のプログラムまで……全ての情報は私の手の中にあります」
「そして……トリニティの通信網を担ういくつかのシステムにバックドアを仕込みました」
「……つまり、今や殆ど全ての機械が私の手の中です……通信は阻害され、電子制御の兵器は貴方を傷付けることはできないでしょう」
「しかし、私は電子戦しかできません。結局、現地で動くのは貴方です」
「ですので……貴方の作戦を聞かせてください。この私が、完璧に補佐しましょう。」
「……貴方は私が守ります。誓って。」
そう言って、ヒマリは私に手を差し出す。
「…………ありがとう」
その手を強く握り、ヒマリと視線を交差させる。
「作戦内容は──────────」