"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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再会

 

深夜:トリニティ/寮区画

 

 

「────今日は少し冷えるね……」

 

私……百合園セイアは、寮区画の中でも郊外、小さな森林保護区の中にあるベンチに座って、来るかもわからない待ち人を待っていた。

 

月明かりを遮る木の葉に、すり抜けたわずかな光が地面をくすぐる。

 

彼女の声が聞こえた気がして、はっと顔を上げても……たまに吹く風が草木を揺らすばかりで、無音のまま……何物も現れない。

 

(……見間違いだったのかもしれない、私は……何をやっているんだ)

 

想起する。

 

今日の昼……些細なトラブルが原因で偶然、一人になった。

その時、教室のモニターが光って……瞬きの間、その一瞬だけ、私にメッセージを伝えた。

 

"今日の深夜、寮区画の森で"

 

ただそれだけ、たったそれだけの些細なメッセージに応じて、私はサンクトゥスの寮をこっそりと抜け出し、たった一人でここに居る。

 

直観だ。そう信じるしか、縋るしかなかった。

これは、ルイからの連絡だと。

 

……限界だった、日々、"魔王"を討てと叫ぶ声が校内に響き渡り、ティーパーティのテラスには数多の銃弾が撃ち込まれた。

 

実行犯は捕まったが、私達は脅やかされ続けている。

 

────ルイを信じるという選択を、私たちは後悔していない。

それでも……精神は限界だった。

 

気丈に振る舞っているように見えるナギサの目は常に虚ろで、"どうして"と顔を伏せて彼女が呟いた声を、私の大きな耳は聞き逃さなかった。

 

連絡員やティーパーティの部下を見るナギサの眼は怖い程に冷たく……"あの時"のような疑心に呑まれかけているのは明らかだった。

 

……ミカはルイに敗れた事を悔やみ続け、全ては自分のせいだ、という妄想に囚われつつあった。

────先生が宥め、抑えてくれなければ……ミカは再び"魔女"となって、全ての罪を背負わんとしただろう。

 

私だって、いつ起こるとも知れない襲撃に怯える日々、二人に真実を離せない苦痛……それらに苛まれ、体調を崩すことが増えた。

 

……ミネは未だ、ルイを捜し続けている。

私を診察してくれている救護騎士団の生徒が言うには、帰ってこない日が徐々に増え……最近は三日に一度帰るか帰らないからしい。

 

……無理もない、ミネはルイの事をとても気に入っていたし、ルイもミネの事を慕っていた。

 

"ルイが本当に裏切る、という事はありえません。そうだとして、道を誤った者を正さずして何が救護か。本人不在での退学など責任の放棄、逃避に過ぎません"

 

私たちへ情報を強請りに来たはずの彼女は、テラスに押し寄せていたデモ隊をそう一喝し、飛び去って行った。

 

……彼女はあまり話を聞いてはくれないが、その言葉には救われた。

 

ルイを信じる者たちは少ないが、確かに存在している。

 

────願わくば、私たちの心が折れる前に────

 

「……ルイ、帰ってきてくれ────」

 

願うように小さく呟いた言葉は、誰にも届かない。

 

 

────────はずだった。

 

 

"ひゅう"と風が吹き、微かな足音を運んでくる。

月明りを遮り、大きな影が俯いたままの私を覆った。

 

「────久しぶりだな、セイア」

 

その声は、随分と懐かしかった。

 

 

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