深夜:トリニティ自治区/ルイのセーフハウス
────あの怪我から3日が経った。
怪我もある程度回復し、支障なく動けるようになったところで、私は作戦で使用する装備の最終テストのためにセーフハウスへと来ていた。
「……ふッ!!」 "ブォン!"
大きな音を立て、1メートル半はあろう巨大な鋼塊が空気を割る。
「……はッ!!」 "ヴォン!!"
更に勢いをつけ、横薙ぎに振る。
押し出された空気が部屋を揺らし、ぱたりと写真立てが倒れた。
「……よし」
思い切り振ったが、違和感なく扱えている。
傷は完治したと言っていいだろう。
────この大剣は、"突撃用大盾剣"。
開発者である私とエンジニア部の生徒達は、"突撃剣"と略称している。
単独での災害救助や、護衛作戦を想定した "障害物を破砕、突破する大剣" と "高い防御性能を持つ大盾"を融合させた、特注の武器だ。
刃を持たないこの剣は……その性質上、非常に重い。
それ故に、振るった際の物理エネルギーは銃弾を遥かに凌ぐ。
……そして、"大盾"の名の通り。
剣腹にあるグリップを握ることで両サイドの刃が展開し、この剣は全身を覆う盾となる。
展開中は二人程度なら全身を隠せる程の面積をカバーでき、ライフル弾の掃射程度ならほぼ無傷で凌ぎ切れるほどに頑丈なこの盾は、私が用いる戦術の基幹を担っている。
私にはツルギやミカのような強力な神秘であったり、治癒能力は備わっていない。
つまり、それら"異常値"ともいえる相手と戦闘になれば、私は絶対に勝てないだろう。
なにより私は、彼女たちのように何十発もの弾丸を受けて立ち続けることはできない。
よって、真正面の撃ち合いなど論外だ。
私の武器は膂力と技術。
それを最大限生かすため、この盾と剣が融合した突撃剣を作りだした。
「……よし、問題ない」
チェックを終え、突撃剣を壁に立てかけた。
"────バシュッ!!" "ガキンッ!!"
破裂音と共にジップライン弾が発射され……的を貫き、私との間に橋を掛ける。
"バシュッ!!" "バシュッ!!"
同じ的に向けて何度か発射して、狙いにズレが無いかを確かめる。
「……よし。」
────問題ない、完璧だ。
これは、"ジップラインランチャー"。
私がミレニアムに外交官として駐在していた時に、明星ヒマリ……特異現象捜査部の調査を手伝った過程で確認された "多脚戦車" が移動に使用していた機動装置から着想を得て作った……言ってしまえば"模造品"のような代物だ。
腰の左右に配置された二対三門の砲口は、翼に装着された筋電位式コントローラーによるフリーハンドでの射撃管制を可能にしており……地形条件さえそろえば、文字通り"空を飛ぶ"ような動きも可能だ。
……そして、それを扱うにあたって生まれた"脚部及び体全体にかかる負担を軽減する装置"。
略称として、そのまま"脚部装甲"と私は呼称している。
ジップラインランチャーと合わせて脚部を完全に覆うこの外骨格装置は、膝裏に疑似的な逆関節二本、内部に複数のコイル型緩衝装置とショックアブソーバーを備え……高所からの着地や、重い装備による負担から体を守ってくれる。
さらに。並みの銃弾では欠けることすらない多層複合装甲を備えており、相当に貫徹能力の高い弾薬でもなければ、この装甲を貫くことはできない。
制動用パイルドライバーから
重心を足に固定するついでに機能を盛りに盛ったそれは、私の第二の心臓と言っても大袈裟ではない。
……これら3種の装備を着けるだけで、総重量は400kgを超え……他に携行する武器や兵器を考えると、更に伸びる。
────"個が群に勝つことは出来ない"。
ミカやツルギのような一部の特記戦力級を除き、それは戦場の鉄則だが……個と群ではなく、"個と個の戦いが何度も続く"、という考え方ならやりようはある。
これが、私が導き出した結論だ。
その結論に基づき、一撃離脱戦法や一対一での格闘戦に特化した構成が、この武装一式。
究極的には、例え誰が相手だろうとも……
"私に有利な地形で"、"私に事前準備の余裕があり"、"1対1"。
この条件が揃えば、勝てる。
────そうなるように設計した。
「……ふっ!」 "ガシャアン!!"
動作確認のために回し蹴りを振るって、射撃用の的を蹴り倒す。
軽く飛び跳ねてみても、悲鳴を上げるのは床ばかりで脚への負担は殆どない。
緩衝装置は正常。問題ない。
脚部装甲とジップラインランチャーを取り外し、武装ラックへと戻した。
「……さて」
……銃器も含め、これで全ての点検が終わった。
これで、今からでも計画を実行に移せる。
"ふう"と息を吐き、部屋の隅に転がっていたスツールに腰掛ける。
(……さて、後は決行日だが……)
(第一に、"予知夢"による妨害、露見だけは避けたい。ならばやはり……)
発動条件を考えるなら、可能な限り早い方がいい。
つまり……決行は明日の夜。初手でセイアを、"予知夢"を封じる。
(────決めた。
これ以上考えても、意味はない。準備を整え、休息をとろう)
セイアを傷付ける訳ではない。ただ、確保するだけだ。
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと立ち上がった。
そうして私は、大量の武装を積載した車両の運転席へと乗り込んだ。
ジップラインランチャーはケテルが撤退するときに使うアレです。
描写や運用的には進撃の巨人の立体機動装置っぽいのをイメージした方がわかりやすいかも。
もう少し詳細な背景は設定資料に書いてあるのでお楽しみに。