12:05:トリニティ南門/上空
"バシュッ!!" "バシュッ!!"
"ギュルルルル────バシュッ!!"
────トリニティ・スクエアへ向け、侵攻する。
眼下、避難せんと走る生徒たちは頭上を駆ける私に目もくれていない。
(これが強襲作戦なら、好都合なんだが……)
残念ながら、今回の目的は違う。
「……砲撃が裏目に出た。誰も私に気が付いていない」
「不服だが暫く地上を走行し、注目を誘う」
「危険があれば、再度ジップラインでの高速機動に戻る。」
「脅威に動きがあれば報告してくれ」
"了解した。気をつけてくれよ"
"……少し早いですが、情報を流しましょうか?"
報告し、群衆の隙間を狙ってジップラインを撃ち込む。
"……バシュッ!ギュウウウウ────!!"
「……この段階ではまだ早い。もう少し妨害を続けてく……れッ!」
"ギュルル──ダアンッ!!──ズザアアッッ!!"
滑り込むように着地し、衝撃を殺す。
"了解いたしました……くれぐれも、お気をつけて"
「ああ……」
小さく返事をして、周囲を見回す。
勢いよく着地した私に、周囲で混乱していた生徒たちが立ち止まり、一斉に目を向けていた。
(……今から私は"魔王"だ、振る舞いは考えなければ……)
すぅ、と息を吸い込み……意識を、振る舞いを正す。
「……ごきげんよう、学輩諸君……」
周囲で硬直する生徒たちに大仰なお辞儀をして、背負ったショットガンを構える。
「……恐怖しろ、愚か者共!」
"ダアンッ!" "ダアンッ!!" "ダアンッ!!"
装填されたゴム弾により逃げる背を撃たれ、一人また一人と倒れていく。
「ひ、い……っ!!」
「にっ、逃げなきゃ……っ」
私に目を向けていた生徒は一様にパニックに陥り、逃げ惑う。
「……こんなものか」
"カシャンッ────カラン"
ゴム弾の入ったマガジンを捨て、排莢する。
「……進行を再開する。」
"ダッ!!"
蜘蛛の子を散らすように逃げていく生徒たちを横目に、私は走り出した。
"銃声を聞いたマシロが図書館の屋上から移動を始めた、間もなく君を射程に収めるだろう"
「……予想通りだ。マシロの姿は確認できているな?」
"ああ"
「彼女が狙撃態勢に入ったら再度連絡してくれ。良い機会だ……ここで撃破する」
"わかった"
セイアの返事を聞いて、周囲の状況を確認する。
マシロやハスミ等、狙撃手に対抗する手段はいくつか用意したが……マシロ相手に爆撃は行いたくない。
あれは切り札だ、温存しておくべきだろう。
ならば、狙うは……。
再装填を完了したショットガンを背負いなおす。
"ダンッ!!────バシュッ!!"
地面を強く蹴って飛び上がり、目の前の建造物にジップラインを打ち込む。
「再び高速機動に入った。マシロの位置を報告し続けてくれ」
風を切り、飛行しつつ……通信の声に耳を傾ける。
"……了解。マシロは匍匐して銃を固定中。君は既に視認されているはずだ"
"位置は中央図書館屋上、南南東の外縁部だ。その高度なら見えるだろう"
南南東────いた。
「……こちらも視認した、引き続き報告を頼む」
"バシュッ!" "バシュッ!!"
マシロの位置を横目で確認しつつ……相手が狙いやすいよう、あえて視界の中心を飛ぶ。
(……マシロの銃は取り回しがすこぶる悪い、撃ってすぐに位置変更は出来ないはずだ)
私がマシロの位置を把握している事には気付いていないはず。
(反撃のチャンスは一度きりだ。集中を研がねば────)
"────来るぞ!"
「ッ!」
"ババシュッ!!" "ギュルルルッッ!!"
"────ズドォォン!!!!"
叫ぶようなセイアの報告と同時に、即座に反対方向に鉄鉤を打ち込み姿勢を反転、急停止する。
"ギュン────!!"
大質量の弾頭が、風切音を上げて私の目の前を飛んでいく──。
(────今だ)
背負ったケースのグリップを握り、展開する。
"ガチャガチャッ、カチャンッ!!"
即座に長方形のケースからバレルとストックが展開され、ボルトアクションライフルへと変形した。
────構える。
「……風向風速、距離!」
"南南西から北東、2.7、320!"
私の叫ぶような指示に、セイアは即座に求める答えを返す。
「……!」
"ドドシュッ!! ガチィン!!"
ジップラインと翼を使って逆方向に制動し、ほんの一瞬だけ、空中での静止時間を生み出す。
「──すぅ……」
息を止め、スコープの先で目を見開いているマシロを狙う。
その頭へ照準を合わせ……引き金を────引く。
"────ズダアンッ!!"
"バシュッ!!ギュルルルルル……ズザアアッ!!"
射撃の隙を突かれないよう、反動と落下の勢いを乗せて射線外へ滑り込んだ。
「はぁ……はぁ……マシロはどうなった?」
息を整えつつ、命中したか尋ねる。
"……上空からだと確認しづらいが……いや、気絶している"
「……そうか……ふぅ」
セイアの報告を受けて、大きく安堵の息を吐く。
"カシャン! キィン……"
排莢し、狙撃銃を畳んで再び背負いなおす。
神経をとがらせすぎたせいで過呼吸気味だ……少し、息を整えるべきか。
「……各種装備の再装填が完了次第、再びスクエアへと侵攻する」
そう伝え、私は壁に肩を着け……弾倉を交換の交換を進める。
"了解した、今のうちに報告しておこう"
"イチカはその場から動かず、避難誘導を行っている。"
"ミカは変わらず、テラスに居るね"
"サクラコはシスターフッドの……恐らく会議場に居る、まだ動く様子はない。"
"君がいま警戒するべきは……イチカ率いる部隊だ。このまま進めば衝突する事になる。"
セイアの報告はおおよそ想定通り、問題ないだろう。
「了解した、ヒマリ、情報はどうだ?」
情報封鎖の状況を尋ねると、ヒマリは明瞭に答える。
"……ツルギさん達のように、外部に居る生徒には伝わっていないはずです、トリニティ内の通信網は全て掌握していますから……"
"しかし、盗聴している機械が拾った音声によると、校内には"魔王"が現れた事が伝わり始めています。口に戸は立てられませんから、知れ渡るのも時間の問題でしょう"
「だろうな……とはいえ、この後すぐにイチカ達と戦う事になるだろう。それが済んだら情報封鎖を解いてくれ」
「……その後は予定通り校内放送を乗っ取る……タイミングは私が指示する。待機しておいてくれ」
"わかりました、それに加えて引き続き、校内のシステム監視を続けます……"
「ああ、頼んだ……」
"……少しいいか、割り込んですまない"
ヒマリとの会話中、唐突にセイアの通信がオンラインになった。
"……気のせいかもしれないが、ハスミとツルギが本校に戻ってくるような動きを始めた。……急いだほうがいいかもしれない"
セイアは焦ったような様子で報告する。
「……わかった、ちょうど再装填が終わったところだ。これより進行を再開する」
"了解した、気を付けてくれよ"
「ああ」
(対多数戦か……気は乗らないが、遠距離から削る時間はなさそうだ)
スクエア南門はすぐそこだ。
数百メートル先には、避難誘導を行っているイチカ部隊が見える。
……腰のポーチから擲弾ケースを取り出し、上着を捲ってカタパルトに装填する。
狙うは、避難誘導中のイチカ率いる部隊。
「……これより、イチカ部隊への攻撃を開始する」
指先を照星に狙いをつけ────放つ。
"ガチッ────ギュンッッ!!"
擲弾ケースが放たれ、目標へと飛んでいく。
"バシュッ!!" "バシュッ!!"
飛んでいく擲弾を追いかけるように、飛び出した。